コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす

明衣令央

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第三章:それぞれの思惑

60・王都に住まう者

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「ギルベルトさん、酒場に傭兵たちがたくさんいるからおかしいと思っていたら、あんたたち、この国から手を引くらしいじゃないか。一体どういう事なんだい?」

 そう言った宿の女将の後ろには、酒場の店主や定食屋の主人など、この王都オフレンドで商売をしている者たちが続いていた。

「どうと言われても……その通りなのだが」

 ギルベルトが答えると、

「あんたたちは、この国、いや、私らを殺す気かい?」

 と女将は言った。
 やはり商売人は勘が鋭いと、この場に居た傭兵たちは思う。

「女将……私たちは、この国に雇われたただの傭兵だ。今回の事は、王が私との約束を守らなかったから、手を引く事にした。西の森の方は、契約期間が切れてしまっていたらしい。こちらには、あなたたちを殺すつもりなどない……が、結果的にはそうなってしまうかもしれないな」

「王様との約束って、娘さんの事かい? コールド伯爵の息子と暮らしていた女は、あんたの娘の偽物だったらしいね。酒場で飲んでる傭兵たちが全部話してくれたよ。全く、なんて事だ……。あの能天気な坊ちゃんにも、オウンドーラ王にも、呆れて物が言えないよ……」

 女将は深い息をついた。心底呆れているようだった。

「ねぇ、ギルベルトさん。最後にもう一度だけ聞かせておくれ。あんたたちは本当に、この国から手を引くのかい? 考え直すつもりはないのかい?」

「あぁ」

 ギルベルトは深く頷いた。

「私は、もうこの国の王が信じられない。いくら金を積まれようと、信用できない相手のために、命をかける事はできない。これは、我々の総意だと思ってもらって構わない」

「そうかい、参ったね」

「すまない、女将……」

「いや、そっちの言い分もわかるからね。仕方がない事なんだろうよ。今までこの国は、あんたたちに頼り過ぎていたんだ……」

 女将はそう言ったが、その後は難しい顔をして黙り込んでしまった。
 彼女と共に押しかけた他の者たちも黙り込む中、一番奥に居た一人の男が声を上げた。

「あのう、ギルベルトさんたちは、いつこの国を出られるんですか?」

 その男は他の者たちをかき分け、前に出てきた。

「そうだな。このまま女将が宿に泊まらせてくれるというのなら、明日旅立つ用意をして、明後日には王都オフレンドを出る予定をしている」

「そうですか。あの、私は旅の商人なのですが、この国を出られる時に、ご一緒させてもらえないでしょうか? 他にも知り合いの旅の商人が居ますので、全員で十人ほどになりますが……」

「いいですよ。一緒に行きましょう」

 旅の商人の問いに、ギルベルトに代って答えたのは、チェスターだった。
 チェスターはギルベルトたちをちらりと見、彼らが頷くのを確認して続ける。

「俺たちは、二日後の朝九時に、この王都オフレンドを出発する事にします。その時にオフレンドから出たい人が居るなら、魔の森を出るまで俺たちで護衛します。いいですか、二日後の、朝九時です。間違えないでください」

 このチェスターの言葉に、女将たちは無言で頷いた。
 今の生活を捨て、この王都オフレンドを出ていくか、このままここに残るか……国民たちは選択しなければならなかった。
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