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第5章・ゴブリン・デスマーチ
妻VS愛人
しおりを挟む「ジュニアス様……」
声をかけてきたのは、ジュニアスの正妻であるナディアだった。
大人しい彼女は異世界からジュンが召喚されてから、自分に与えられた宮で過ごしており、滅多にジュニアスの前に姿を見せなかったため、ジュニアスも彼女の顔を見たのは久しぶりだった。
ナディアの後ろには、彼女の侍女であるアニーが控えている。
「珍しいな、どうかしたか?」
「あの……宣言式のときに、魔人が現れたと聞きました……。ジュニアス様がご無事かどうか、心配で……」
「心配? お前が?」
はい、と小さな声で言い、俯くナディア。
ジュニアスは彼女に近づくと、乱暴に細い顎を掴み上げた。
「ジュニアス様! ナディア様に乱暴は止めてください!」
ナディアの後ろに控えていた侍女のアニーが非難の声を上げたが、
「この女は俺の妻だぞ? 夫の俺が触れて何の問題があるのだ! 侍女風情が、口出しをするな!」
とジュニアスが声を荒げると、アニーは黙り込み俯いた。
ジュニアスはそんなアニーを笑いながら見て、ナディアの唇を乱暴に塞ぐ。
「そう、です……。わたくしは、あなたの妻、なのです……。だから、あなたのことが心配なのです……。ジュニアス様、お怪我はありませんでしたか?」
そう問うたナディアの声は、少し震えていた。
自分を心配し、目にうっすらと涙まで浮かべている姿を見ると、彼女を愛しい女だと錯覚してしまいそうになる。
「ナディア、最近ソフィアと仲良くしていると聞いたが、ソフィアはどうしている?」
「ソフィア様ですか?」
ナディアは首を傾げ、後ろに控えるアニーを振り返る。
「ソフィア様は、以前はよくナディア様の元に来られていましたが、最近はお姿を見ておりません」
「ほう、そうか……」
一体どういうことだろう。
部屋に引きこもっているだけか、それともどこかに消えたか。
普通に考えれば、一国の王の側室がたった一人で王宮から出ることなどできないはずだ。
だが、ソフィアは元平民。今は亡きユリアナの母の侍女だった彼女なら、メイド服でも着れば、誰にも気づかれずに王宮から抜け出せるのかもしれない。
それにしても王宮から消えても騒ぎになっていないのは、どういうことなのか。
この王宮でソフィアの立場はどれだけ低いのかと思うと、ジュニアスは笑ってしまった。
「まぁ、あんな女、居ても居なくてもどうでもいい……」
ジュニアスはエミリオが死んだと思っていた。
だからエミリオが居ない今、ソフィアには何の利用価値もないため、どうでもよく、行方を探そうとは思わなかった。
「あの、ジュニアス様、これからゴブリンたちと戦われるのですか? ご出陣されるのですか?」
目を潤ませながら言ったナディアに、そうだとジュニアスは頷いた。
「ご無事を、お祈りしております。ご武運を……」
「無事を祈るだと? 何を言っているのだ! 俺が負けるはずがないだろう!」
大笑いしたジュニアスに、「そうね」と言ったのは、今ジュニアスの目の前に居る女とは別の女だった。
「まぁ、あなたは祈ることしかできないものね!」
現れたのは、矛の聖女であるジュンだった。
ナディアの体がびくりと震え、ジュンの視線から逃れるように彼女は俯いた。
ジュンはナディアを見下すように笑い、ジュニアスはそんなジュンを見て唇の端を釣り上げて笑った。
相変わらずジュンは、ナディアを敵視しているらしい。
ジュンはナディアの代わりにジュニアスの妻になろうとしており、毎日のようにジュニアスの寝所に現れてはジュニアスを独占し、隙あればナディアを殺そうとしていた。
ナディアを最後に抱いたのはいつだったろう?
ジュンがこの場に登場してから、黙り込み俯いてしまったナディアを眺めながらそんなことを考えていると、兵士から何か報告を受けたノートンがジュニアスに、準備が整った、と伝えた。
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