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第5話:王宮の扉が開くとき
しおりを挟む王宮へ続く大通りに馬車が入ると、空気がひんやりと張りつめた。
王宮の白い塔が近づくにつれ、胸の奥の鼓動がひとつ、またひとつと強くなる。
やがて馬車が止まり、扉が開かれた。
外には、王宮の衛兵たちが整列し、重々しい視線を向けている。
「エレノア様、足元にお気をつけて」
ウイリアム殿下が手を差し出し、わたくしはその手を借りて馬車を降りた。
王宮の石畳は冷たく、まるでこれからの審問の厳しさを告げているようだった。
父と母、兄も続いて降り立つ。
衛兵が深く頭を下げ、案内役の侍従が歩み寄ってきた。
「クロノ公爵家の皆さま、事情聴取の間へご案内いたします」
わたくしたちは侍従の後ろについて歩き出す。
高い天井、赤い絨毯、壁に並ぶ歴代王の肖像画。
そのどれもが、わたくしの喉をきゅっと締めつける。
やがて、重厚な扉の前にたどり着いた。
「こちらでございます。すでに他の方々はお揃いです」
侍従が扉を押し開けると、冷たい空気が流れ出した。
部屋の奥には王宮の重臣が席に座り、その隣にはウイリアム殿下の席が用意されている。
そして――右側の席には、ダロウ男爵とリリアナ嬢が並んでいた。
リリアナ嬢は不安げに俯き、ダロウ男爵はわたくしたちを睨むように見つめている。
さらに、その後ろには三人の証人が控えていた。
一人目の証人は、南棟の階段でリリアナ嬢を見たという学園の清掃係・ミーナ。
二人目の証人は、中庭で濡れたリリアナ嬢を見たという商人・ラドック。
三人目の証人は、東廊下で侮辱の言葉を聞いたという同級生・カミラ。
彼らは皆、どこか落ち着かない様子で、視線を泳がせていた。
わたくしの胸がぎゅっと縮む。
こんなにも多くの人が、わたくしを『加害者』とするためにこの場にいるのだ。
「クロノ公爵家の皆さま、お席へ」
侍従に促され、わたくしたちは左側の席に座った。
父は背筋を伸ばし、母は静かにわたくしの手を握る。
兄は前を見据え、わずかに眉を寄せていた。
ウイリアム殿下が席につき、重臣が立ち上がる。
「これより、リリアナ・ダロウ嬢が訴える、エレノア・クロノ嬢による『嫌がらせ行為』について、事情聴取を開始する。なお、第一王子アレクシス殿下は、参考人として別室にて待機しておられる。必要が生じた際にお呼びすることとなっている」
その声は、石壁に反響して重く響いた。
わたくしは息をのみ、膝の上に乗せた手帳を、ぎゅっと握りしめる。
その瞬間――。
握りしめた手帳から、また温かさを感じたような気がした。
手帳が『大丈夫だ』と励まそうとしているのかもしれない、とわたくしは思った。
この手帳は、わたくしにとって盾であり、剣でもある。
わたくしの真実が、全てここに記されているのだ。
わたくしには、家族とウイリアム殿下の他に、あなたという強い味方がいるのよね。
わたくしは深呼吸し、ただ前を見つめた。
わたくしの不名誉な冤罪を晴らす真実を、胸を張って語るために――。
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