大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした

明衣令央

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9.リカルド・フレルデント

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「ねぇ、アリア……あなた、昨日の事は、どのあたりまで覚えているの?」

 食事が終わった後、アリアはサリーナの部屋で、食後のお茶をいただいていた。
 そこで尋ねられ、アリアは少し考えてノートにペンを走らせた。
 アリアが覚えている事は、気づいたら馬車が停車していて、サリーナの夫であるステファンが迎えに来てくれた事と、そこにフレルデントの王太子であるリカルドの姿があった事。

「それだけ?」

 アリアはまた少し考えて、ノートにペンを走らせた。
 あれは自分の気のせいかもしれない……そうも思ったが、実際に目にしたような気もするのだ。

『ドラゴンが、いた?』
 
 アリアがノートにそう書いてサリーナに見せると、彼女はこくりと頷いた。

「居たわよ、ドラゴン。グリーンドラゴンね。あなたはあのドラゴンを見て、驚いて気を失ってしまったのだけど、おかげでひとっ飛びでこの屋敷に運んでもらえたのよ」

 ドラゴンという生物が存在している事はアリアも知ってはいたが、実際に目にしたのは初めてだった。
 まぁ、目にした瞬間、意識を失ってしまったのだけれど。

『この国は、ドラゴンを飼っているのね。あのドラゴンは、ダーフィル公爵家のドラゴンなの?』

「いいえ、違うわ。あのグリーンドラゴンは王家のもの……ううん、リカルド王子のお友達らしいわ」

 アリアは驚いた。
 ドラゴンがリカルドの友達だという事にももちろん驚いたのだが、それ以上に、あのドラゴンと共にリカルドがあの場に居たという事は、リカルド自らが、アリアたちを迎えに来るために、あのドラゴンを連れてきたという事になる。

『ステファン様が、リカルド王子にお願いされたのかしら?』

 ノートに書いてサリーナに尋ねると、サリーナは苦笑して首を横に振った。

「違うわ。リカルド王子が、自らドラゴンを駆って、私たちを迎えに行くと言われたのよ」

 それは、何故なのだろう?
 アリアが首を傾げると、「多分、もうすぐわかるわよ」とサリーナはアリアを優しく見つめ、言った。
 その「もうすぐ」は、すぐにきた。

「サリーナ、今、戻ったよ」

 ドアが軽くノックされ、ステファンが顔を覗かせた。

「お帰りなさい、ステファン」

 サリーナは立ち上がり、ドアのところまで夫であるステファンを迎えに行った。
 アリアも彼を迎えようと立ち上がろうとして、ステファンの奥から、ちらりとリカルドが顔を覗かせたのに気付き、慌てて姿勢を正した。

「アリア、気分はどうかな? 大丈夫かい?」

 そう言ったリカルドに、アリアは緊張しながら頷いた。
 それからテーブルに置いていた筆談用のノートとペンを取ると、声が出ない事以外は大丈夫だという事と、昨日彼の目の前で気絶してしまった事を詫びる。

「いや、構わないよ。というか、こちらの方こそ驚かせて申し訳なかった。ステファンからもサリーナからも、アリアはドラゴンなんか見た事ないのだから、驚いて気絶してしまうかもしれないと言われてはいたのだが、馬車で何日も揺られての移動が、君の体にさわるのではと思うと、迎えに行かずにはいられなかったんだ」

 リカルドはそう言うと、優しく明るい緑の目を細めて笑った。

「ところで、君の体調と都合が悪くないのなら、連れて行きたい場所があるのだけれど、構わないかな?」

 リカルドの申し出にアリアは驚いたが、ちらりと見た姉が優しく笑って頷いたので、緊張してぎこちなくではあったが笑顔を浮かべ、頷いた。
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