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40.ウクブレストの王女
しおりを挟む「ウクブレストの事を教えて、か。ウクブレストは君の国だ。僕たちよりも、君の方が詳しいはずだろう?」
そう言ったリカルドに、確かに、とターニアは頷いた。
「ですが、私は長い間国を離れ、他国に留学をしていました。そして留学していた間、私は一度もウクブレストに戻らなかったのです。だから、私は今のウクブレストについて、何も知らないのです」
「なるほど、そう言われれば、そうかもしれないね。だけどターニア、どうして僕らに今のウクブレストの聞こうと思ったんだい? 何か理由があるんじゃないのか?」
「それは……留学先で、ウクブレストが他国に攻め入ろうとしているという噂を聞いたからです」
ターニアは、フレルデントとは反対側に位置する、ウクブレストの近隣の国に留学していた。
彼女が学んでいたのは、歴史と魔法。
その理由は、ウクブレスト王家に魔力を持つ者が生まれにくくなっているからだった。
「ウクブレストは、近代化の進んだ国です。ですが、私の知りたい事は、ウクブレストでは学べない事でした。他国で学んだ事は、とても興味深い事で、私は国にも帰らずに勉学にのめり込みました。そうしてつい最近、友人からウクブレストが他国に攻め入ろうとしているらしいという事を聞いたのです」
他国に攻め入ろうとしているウクブレストの王女だと周りに知れれば、ターニアに危険が及ぶかもしれない。
だから彼女は、ウクブレストが攻め入ろうとしている国々から逃れるように、遠回りをして自国に戻ろうとする過程で、このフレルデントを訪れたのだと言った。
「いろんな国で、ウクブレストが周りの国に圧力をかけようとしている事や、戦争が始まるかもしれないという噂を聞きました。だけど私には信じられなかったのです。だって、好戦的な兄ならともかく、ウクブレストの王である父は平和主義で、周りの国々との調和を望んでいたのですから!」
だから、ウクブレストに何かが起こっているのではないかと思ったらしい。
そして、もしも何かを知っているのなら、何でもいいので教えてほしいのだとターニアは続けた。
「なるほどね、君はとても賢い子だ」
「ありがとうございます。それで、リカルド様は、何かご存知ではないでしょうか? 私には、父が他国に攻め入ろうとしているという事が、どうしても信じられないのです!」
ターニアに縋るような目で見つめられ、リカルドは考える。
彼女に真実を教えるべきか、教えないでおくべきか。
真実を告げたところで、彼女は信じないかもしれない。
だけど、真実を知らないまま自国に戻れば、彼女の身に危険が及ぶ可能性があるのではないだろうか。
フレルデントとターニアにとって、どうする事が最善なのか。
だが、リカルドが考え込んでいる間に、新たにこの場に飛び込んできた者が居た。
「何を言ってるんだ! お前の父親は、ひどい男だ! 最低な王だ!」
「お、おい、クリス!」
勢いよくドアを開け、飛び込んできたのは、クリスだった。
クリスは止めようとしたステファンの腕をすり抜けると、ターニアに詰め寄る。
「お前の父親と兄は、最低な奴らだ! あいつらは、僕らファインズ家に、ものすごくひどい仕打ちをしたんだ!」
「クリス? あなた、クリス・ファインズ? あなたがどうしてこのフレルデントにいるの? それに、どういう事? 私の家族があなたたちに何をしたって言うの?」
「それは、教えてやるさ! お前の父親と兄はっ……」
「クリス!」
パン、と乾いた音が響いた。
飛び出したクリスの跡を追って来たエランドが、息子の頬を叩いたのだ。
「父様……」
「クリス、お前は何をしているのだ! 姫は何もご存知ないのだ! その姫に対してお前はっ……」
エランドに頬を叩かれて頭が冷えたクリスは、ターニアに向き直ると、小さく「ごめん」と謝った。
ターニアはそれに頷きながらも、
「どうしてファインズのおじ様が、フレルデントに居られるのですか?」
と不安そうな表情で呟いた。
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