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76.ウクブレスト王宮の地下
しおりを挟むディスタルの正式な婚約者となり、ウクブレスト王宮へと出入りするようになったある日、スザンヌは王宮の地下に足を向けていた。
王宮の地下は、牢屋になっていた。
この場所には、いろいろな囚人が入れられていたのだろう。
そして、牢屋から出られずに死んでしまった者、出られたとしても処刑されてしまった者ばかりで、この王宮の地下にある牢屋には、禍々しい残留思念が溢れていた。
「ここに、置いておきましょう」
スザンヌはこの禍々しい場所に、自分の血を滴らせた黒い魔石を置いた。
魔石は手のひらサイズで、スザンヌと強く繋がっていた。
彼女はこの牢屋に残る禍々しい思念を、己の魔力に変換しようと考えていた。
ここで蓄えた魔力はいずれ、このウクブレストを自分のものにする時に役に立つだろう。
「ディスタル王子は、信用ならないものね」
ディスタルがスザンヌを利用していたように、スザンヌもディスタルを利用していた。
いずれ、あの男は自分を裏切るかもしれないーー。
そう考えたスザンヌは、その時に備えて、ここに力を溜めておいたのだ。
それが今、スザンヌの役に立っていた。
肉体を失ったスザンヌの思念は、ウクブレストの地下牢に置かれた、魔石へと飛んだ。
肉体は失ったが、スザンヌの思念は魔石に溶け込み、溜め込んでいた魔力を得た。
スザンヌがこんな方法で力を取り戻したなど、誰も気づかないだろう。
もっと力を蓄えて、そして今度こそあの女とあの男をーーアリアとリカルドを八つ裂きにしてやろう……スザンヌはそう思った。
スザンヌはウクブレスト王宮の地下牢の魔石から、状況を見極めていた。
どうやらステファンたちフレルデント兵が、王宮の一室に閉じ込めていた、ウクブレスト王と王妃、そしてターニアを助け出したようだ。
フレルデント兵に、今の自分の事がばれたらお終いだ。
スザンヌはフレルデント兵がウクブレストから立ち去るの、静かに待った。
そしてフレルデント兵が去った後に、瘴気を出し始めた。
スザンヌは瘴気でウクブレストの国民を操り、生気を吸い取り、自分の力をさらに強めようとしていた。
誰かがスザンヌの企みに気づき、止めようとするかもしれない。
だが、それは彼女にとってピンチではなく、チャンスだった。
自分を止めようと近づいてくる誰かの体を奪う事ができるからだ。
今のスザンヌは、魔石の中で生きている。
ここは安全で魔法も使えるが、自らの意思で動く事はできなかった。
自由に動ける体が欲しい、とスザンヌは思った。
ウクブレストの王妃か、娘のターニアが望ましいが、ウクブレスト王でもいいとスザンヌは思った。
近づいて、この魔石に触れてくれさえすれば、体を乗っ取る事ができるのだ。
だが、瘴気を発し始めた事に気づいたウクブレスト王は、こちらには近寄らず、離れたところから、瘴気を抑える事にしたらしい。
ウクブレスト王に瘴気を抑えられたスザンヌは、苛立ちながらチャンスを待つ事にした。
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