大勢の前で婚約破棄を言い渡されましたが、それは幸せへの道の第一歩でした

明衣令央

文字の大きさ
77 / 80

77.新しい体

しおりを挟む


 どのくらい時間が経っただろう。
 ウクブレスト王宮の地下の瘴気は、とても濃くなっていた。
 ここに足を踏み入れた者は、この瘴気のせいで、気が狂ってしまうかもしれない。
 これほどの瘴気を、このままにしておく事はできないはずだ。
 そろそろ観念して、誰かがここを訪れるだろう。
 アリアやリカルドの可能性は低いと思うが、たとえあの二人がここを訪れたとしても、この濃い瘴気の中では無事ではいられないだろう。
 もしかすると、この瘴気だけで憎いあの二人に一矢報いる事ができるかもしれない。

 だが、スザンヌの前に現れたのは、意外な人物だった。 
 王宮の地下に降りてきたのは、ディスタルだった。
 ドラゴンに襲われた時、スザンヌはディスタルを置いて逃げたが、彼はどうやってドラゴンたちから逃れたのだろうか?

「すごい、瘴気だ……」

 ディスタルは地下牢に充満する瘴気に嫌悪したようだが、正気を保ったまま、魔石のある場所まで近づいてきた。
 彼の胸には、見た事もない十字架のペンダントがかけられていた。
 その十字架のペンダントは、どうやらマジックアイテムらしく、そのおかげで瘴気の中でも大丈夫なようだった。
 スザンヌの知る限り、ディスタルの持ち物ではなかったはずだ。
 ウクブレスト王か王妃の持ち物かもしれない。
 今のディスタルは少し怪我をしているようだが、五体満足だ。
 彼は魔力こそ少ないが、若く強い肉体を持っていた。
 まぁ、ディスタルでもいいかとスザンヌは思う。
 それに、彼の体を手に入れれば、この国を手に入れるのは簡単だ。
 今まで以上に、何だってできるだろう。

「なんだ?」

 コツン、とディスタルのブーツの先が、魔石に当たった。
 ディスタルがしゃがみ込み、魔石を拾い上げる。

 うふふ、触れた。魔石に、触れた。

 これでディスタルの体を奪う事ができるーースザンヌはそう思ったが、それはできなかった。

 一体どうして?

 あの十字架のせいかもしれない。
 だけど、ディスタルは以前もスザンヌの術で操る事ができなかった。
 十字架というマジックアイテムもあるが、どうやらディスタルはスザンヌが思っていた以上に、強い精神力を持っていたのかもしれなかった。

「これが、瘴気の正体か? スザンヌ、お前なのか?」

 魔石の中で、スザンヌはギクリとした。
 自分が魔石の中に居る事が、ディスタルに気づかれていた。

「美しかったお前の体はどうなったのだ? あの時、お前を追いかけていったドラゴンに食われたのか?」

 そう言ったディスタルに苛立ったが、魔石の中でスザンヌは考え込んでいた。
 いっその事、魔石の中から魔法で攻撃をして、この男を殺してしまおうか。
 だが、そうすればディスタルの体を奪う事ができなくなるし、ウクブレスト王は警戒を強めてしまうだろう。

「返事もできんか」

 ディスタルはそう呟くと、コトリと床に魔石を置いた。
 そして、剣を引き抜くと、魔石に突き立てようとする。

「っ!」

 考え込んでいる場合ではなかった。
 スザンヌは瘴気を黒い刃へと変え、ディスタルの腹を貫いた。
 そしてそのまま、魔石を魔力で浮かせてディスタルの腹部へと魔石をねじ込む。
 直接体の中に入り込み、ディスタルを支配しようと思ったのだ。

「ぐ、ああぁっ」

 ディスタルの体内に入り込んだと同時に、スザンヌは魔石の中に溜めていた魔力を全て解放した。
 ディスタルの体全体に魔力を行き渡らせて、彼を支配する。

「く、そっ! スザンヌめっ!」

 ディスタルはしばらく必死に抵抗し、暴れていたが、やがて大人しくなった。
 スザンヌはディスタルの体を動かし、貫いた腹に右手をかざした。
 魔力の少ないディスタルが、唯一使える魔法が初歩の回復魔法であるのはとても意外だったが、今はこれが役に立った。

「あはははは、はは、はははははっ!」

 瘴気の刃で貫いた腹を癒し、ディスタルの体を乗っ取ったスザンヌは笑った。
 スザンヌはディスタルの若く強い肉体と、ウクブレスト王国の王子という権力を手に入れた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

殿下は婚約破棄した私を“横領犯”として追放しましたが、私が“王国の財布”だとご存じなかったのですか?

なかすあき
恋愛
王太子の婚約者であるレティシアは、愛ではなく“王国の財布”に選ばれた内政官だった。 干ばつ救済基金を管理し、徴税と支出の流れを整え、国が崩れないように回してきたはずなのに。 舞踏会の夜。 聖女セシルの涙と王太子の言葉が、レティシアを一瞬で“横領犯”に仕立て上げる。 反論しても届かない。空気が判決を下す場所で、レティシアは追放された。 落とされた先は、干ばつに喘ぐ辺境。 水のない井戸、荒れた配給所、怒りの列。 レティシアは泣く代わりに、配給と水路と記録を整えた。奇跡ではなく、段取りで。 やがて王都は、レティシアがいなくなった穴から静かに壊れ始める。 支払いは止まり、責任は溶け、聖女の“物語”だけが空回りする。 呼び戻しの使者が来ても、レティシアは従わない。戻る条件はひとつ。 ――公開監査。 記録水晶が映し出すのは、涙では隠せない日付と署名、そして“誰が何を決めたか”という事実。 この逃げ場のない復讐劇の先に残るのは、王都の再起ではなく、辺境の明日だった。 これは、道具として捨てられた内政官が、二度と道具に戻らず、“責任を固定する”ことで国を救い、自分の居場所を選び直す物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処理中です...