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あり得ぬ夢と見逃した現実と
しおりを挟む夢をみる。
俺が俺として生きている夢。
その夢ではあの人との関係も比較的良好で、性格も今よりは歪んでなくて。俺はアイツらと普通の友人のように会話している。
…そんな、まさに夢みたいな夢をみる。
だからそれをみた後、つい考えてしまう。
もしも、あの日あの時あの人が、あの提案をしなければ俺は今頃笑っていたのだろうかと。
もしも、あの頃既に真実が判明していたら、俺は不完全とならずに済んだのだろうかと。
中途半端な身体を持て余すこともなく、普通にアイツらと話して、普通に日々を生きて、普通に恋というものをしていたのだろうかと。
そんな、あり得ない“もしも”を考える。
✦○✦○✦○✦○✦○✦○✦○✦○✦○✦○✦○
「ボス1週間ぶり~!!」
「…………」
朝、登校早々俺との再会を呑気に喜んで飛び付いてくる馬鹿を無言を避け、プリントの束が出来た自身の机へと向かった。
俺の逆鱗に触れないか心配なのだろう。
扉を開けるまでは賑やかだったクラスメイト達はすっかり静まり返り、固唾を呑んでコチラを監視していた。
「(…人食い猛獣にでもなった気分だ)」
“ヒトでないもの”を見る目に晒され、いつものことながら鬱々とした気分になる。苛立ちを舌打ちに込めて落とすと、鬱陶しい視線は一斉に明後日の方へと逸らされた。
「オレの抱擁を無言スルーとか、さっすがボス~」
そんな絶望的なまでに悪い空気を総スルーし、馬鹿な犬のように俺の周りにへばり付くコイツは一体何なのか。
こんなのがオメガとか終わってんなと、思いっきり自分を棚に上げつつそう思う。
「……はよ」
「!!!!!ボスが!!!オレに挨拶してくれたぁぁあ!!!!?」
流石にずっと無視はカワイソウかと思い声をかけたが、早速後悔している。なんだその天変地異が起きたと言わんばかりの驚きようは。
有象無象からの視線よりも最悪すぎんだろ。
「…んだよ」
「だって!!!!!ボスがオレに朝から声かけてくれるとか4年に一度ぐらいのちょ~レア展開なんだもん!!!!!」
俺はオリンピックか。
思わずそうツッコミかけ…る前に言葉を全て飲み込んだ。代わりにガンつけるような目で、眼前に立っている奴を睨み上げる。
「…………」
「あ、や、やめてヤメて!?!?そんな目でオレを見ないでよボス~!!」
オレ泣いちゃうと、シクシク嘘泣きを始めるハズカシイ馬鹿はとりあえず無視し「ないでぇ!?」……チッ、勝手に入ってくんじゃねぇよ。
つか、コイツいつからこうなったんだ?始めのうちはまだマトモだった気ぃす……いや、コイツは始めっからこうだったわ。
馬鹿の更生計画が早速潰れちまったのに諦めつつ、今後も希望が無いのを憂いて天を仰いだ。
「あれ、突然どったのボス?」
そんな俺の心情を知ってか知らずか、マヌケなキョトン顔晒さしてコチラを覗き込んできた馬鹿に多少手を出しても仕方ねぇと思う。
…まぁ、流石に今はしねぇがな。
「はぁ……んな顔、人前でしてんじゃねぇよ馬鹿が」
「なんでオレ唐突に貶されてるの!?理不尽!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ阿呆の音をBGMに窓の外を眺める。
丁度眼下では、たった今登校して来たらしき生徒達が砂糖に群がる蟻のようにウジャウジャと蠢いていた。
それに軽く吐き気を催しつつ更に視線を奥へやると、到底ここが都会とは思えない程の緑が茂っている景色が目に映る。
これは、かつてあった緑化計画の名残りらしい。
空気を人工的に創り出せる現代では土地の無駄遣いでしかないが、蟻共のせいで気分が悪くなった今の俺にとっては有難い。
存分に緑の恩恵を味わっていると、相手されなくなってたのに漸く気付いた馬鹿が声をかけてきた。
「ねぇねぇボス~、オレ放って何見てるのさぁ~。もしかしてアレ?あの奥にある緑色のカタマリ見てんの?」
「…………」
「さっすがボス、目の付け所が大人だぁ~」
「…………」
「そういやアレと似たようなの、オレんちにあったなぁ。まぁ、アレ程大規模じゃないけどね~」
「…………」
「…あ、ねぇボス、あそこにいるの副ちゃんっぽくない?あぁほらあっち!!噴水の近くにいるよね!?」
「…………」
「こっから声届くかなぁ?…おぉ~い!!副ちゃぁぁあん!!!」
「…………」
「おっ、届いたっぽい?……って、ヤバッ!あの顔絶対怒ってるよ!!?」
「…………」
「このままだとオレ放課後にしんじゃう~!!!ボス助けてぇぇえ!!」
ずっと1人でペラペラ喋り続け、かつ勝手に自滅している茶髪へと視線だけを移す。
奴は自業自得でしかない、ほぼ確定した未来への恐怖(笑)をコピー用紙1枚程の厚さ分だけ積もらせていた。つまり、馬鹿本人はこの状況を娯楽として楽しんでいる。
それを裏付けるように、コイツの顔には始めからずっと馬鹿みたいな笑顔が浮かんでいた。
「…テメェの自業自得だろ、勝手に死んどけ」
だから適当にそう吐き捨て、視線を再び窓の外へと戻す。
「そんなせっしょーなぁ~!?ヒドいよボスゥ~!!!」
ヒドいヒドいと笑った声で言いながら、茶髪は酷く弱ぇ力で俺の二の腕辺りを殴ってくる。
ふと視線を上げた先にあった窓ガラスに反射した馬鹿の笑顔は、何故か今にも泣き出しそうに見えた。
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