その大魔法使いは美しい髪を切り落とす

しもたんでんがな

文字の大きさ
12 / 46
記憶を持たぬ大魔法使い

9、そうそう上手くはいかない話をしよう

しおりを挟む





「一寸法師感、半端ないな」

かれこれ一時間は漕いでるのではないだろうか。永遠と景色が変わらない。当然、目を凝らしても見えるのは青くぼやける水平線のみ。風ひとつ感じない無音の中。なのに、何故か迷路に迷い込んだような酔いを伴う錯覚を覚える。

「これは、詰みだな」

緩んだ口元からこぼれた戯言が現状に目を背けていた俺の頬を殴る。ここは湖。海ではないので波が起たない。つまり全く進まない。永遠と漕ぎ続けなければならない現実。引き替えそうにも孤島も見えない。まさに八方塞がりだ。アゴヨワの機嫌が悪くなさそうなのがせめてもの救いだった。

「詰みだぁー」

逃れるように重い頭をアゴヨワの硬い毛に突っ伏し項垂れる。これを泳いで行こうとした朝の俺は余りにも無謀すぎた。もう腕がパンパンだ。暫く毛で体力を充電する。

「兄さん、不思議なパワーとか持ってないの?」

見てくれは全く変わらない重い腕を摩ると、ほんのり赤く色づいた。

『ガルルッ』

アゴヨワが、釈然としないとでも言いたげに短い髭を上下に動かす。

「え?まじで?」

『ガルッ』

「もっと早く教えてよー」

勿論、俺の願望の話だ。

「ほら、兄さんの為にちんまい葉っぱも持ってきたんだよー」

『············』

「はい、あーーん」

アゴヨワが冷めた目で、もそもそと口を開ける。俺は僅かに開いた口の隙間から小さな葉を潜り込ませた。さながら接待葉っぱだ。

「ほーら、まだお弁当葉っぱたーくさんあるよー?」

何も知らない人間が見れば、小汚い布に雑草を包んだだけのそれ。

『ガルルッ』

アゴヨワは怪訝そうに瞼を閉じた。

「ははっなんか青春っぽいな」

乾いた笑い声が青い空に漂う。

『············』

静寂の中、一人と一匹でぷかぷかと湖に浮かぶ。圧倒的に美しい空間に、今にも沈みそうな手製の筏。天と地ほどのコントラストがあまりにもシュールで、堪らず堪えていた笑みを吹き出した。アゴヨワは相も変わらずすました顔で俺を見下す。

「ぶっははっ」

すると視界が山を描くように、規則的なリズムを刻みだす。微かな水音。軋む筏擬き。目をこらすと辺りを覆う一面の青が揺れている事に気が付いた。どうやら、こびりついていた微かな酔いは錯覚ではなかったようだ。

硝子板のように水平を保っていた水面が、微かに震え始める。

「はぁ」

呑気に笑っていると、俺の笑い声をかき消すようにどこからか妙な音が近付いてくるのが分かった。嫌な予感に上げた口角が引き攣る。

素知らぬ顔で突っ伏すアゴヨワ。次第に振動も加わり、段々と雪崩にも似た音が大きく、そして近づいてくるのを感じる。こんなのまるで波のよ·····。

「···え?········嘘だろ?」

音の根源を探すように振り向くと、驚く間もなく、背後から天災のような大波が襲いかかる。『猶予は与えない』飛沫が激しく水面を打ち付ける音が確かにそう俺に告げていた。

「フルパワーすぎだろおおおおおぉぉッ」

『············』

魚や水草を巻き込みながら近づいてくる大波は、容赦なく筏擬きに覆い被さり、死にものぐるいでオールを漕ぎ続ける俺を嘲笑うかのようにぺろりと飲み込んでしまう。ガプガプと溺れかけながら、迫ってくる魚達の切羽詰まった表情が脳裏にこびりつき、大虎に振り回され続ける互いをしんみりと労った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...