俺が追放したテイマーがチート能力を手に入れてハーレム状態なんだが、もしかしてもう遅い?〜勇者パーティも女の子募集中です〜

ときのけん

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一章 四人の勇者と血の魔王

第35話 音は遅れてやってくる

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 ─────まさに一瞬の出来事だった。

「つまり、魔王に戦争を止めるよう伝えに行くって事?」

「交渉、ですね。彼が為そうとしている『野望』はあなたも共感できる事のはず。ですがマジストロイ君は少し焦っています……故にこのような方法を取った。もっと別の手段を提案したり、今の方法が悪い事をアピールしてください」

「なるほど。よ~し!勇者としての大仕事!張り切っちゃうぞ!!」

 外に飛び出したリェフルを、ルリマは追いかけた。ため息をつきながら「調子に乗りすぎよ」と嗜め、自分も魔王城へ着いていく旨を伝えようとした。
 ここまでリェフルという人間を知ってしまえば、手伝わずにはいられなかったのだ。

 だが。

「わざわざツーキバルに戻るルートは面倒だよねー」

「面倒って言ったって、それしか行く道はないでしょう」

「普通ならね。でもあたしってば勇者なんだよ?」

 リェフルは雷の聖剣を握った。その手を突き出し、切先を地面に立てる。

「東の勇者もロクトさんも動き出してる。あたしが着く頃には魔王はもう殺されてるかもしれない……でしょ?」

「それは……そうだけど、今から急ぐしか────」

「うん、急ぐんだよルリマ」

 聖剣が光る。────悲鳴にも似た雷の音を鳴らしながら。

「【雷装】」

「ッ!?」

 ルリマは目を疑った。あんなにも修理された雷の聖剣を見て喜んでいたリェフルが────再び聖剣をバラバラにしてしまったのだから。
 ……が、今度はカケラのように細かくはない。

 一つ一つのパーツが鎧のような形を模している。彼女の身体にぴったりと着装され、全てのパーツが剣としての形を失った。

「じゃ、行ってくるから!」

 その言葉を残し─────リェフルは消えた。雷光の如きスピードで……赤刃山脈の方向へ走っていったのだ。

「…………は?」

「やりおったな。本来なら雷を身に纏う聖剣の防御スキルをこうも都合よく解釈し、スキルを『歪める』とは……困った小娘だ。主への冒涜でしかない」

 喉を唸らせつつも、白狼は怒ったような様子を見せず悠々と山脈を見上げている。

「ルタインの言うところの『ユニオンスキル』が勇者と聖剣の共同作業なら……勇者でもない者が聖剣を歪める事によって生まれたあの前例の無いスキルはなんと呼べば良いのでしょう?」

「え、いや……それどころじゃなくて」

 生きた年数のせいか、悠長に構えている魔王と神狼にルリマはより焦りが加速する。

「一人で魔王城へ突っ込むなんてあまりにも無謀すぎます。いくらマジストロイがレナ様の言うような人物であったとしても流石に……」

「……グリードアの小娘よ。何故奴はそのような蛮行に走ったと思う?」

 片目だけ開いたポチの眼差しが彼女をゆっくりと見つめる。

「……分かりません。彼女は私が理解出来る範疇を超えています」

「そう難しく考える必要は無い。奴も貴様と同じ単なる小娘にすぎんのだからな」

「おや、リェフルさんの思惑が分かるのですね駄犬は。私には一切理解出来ませんでしたが」

「簡単な事だ」

 血の流れは関係なく、ポチはさっきのリェフルの様子に覚えがあった。
 自分も若い頃は焦燥のままにその身体を突き動かされ、周囲の静止を聞かずに一人で飛び出した頃があった……と。

「グリードアの小娘。貴様の手を借りたくは無かったのだろう」

「……私の」

「『友』なのだろう?奴は一度借りを作ってしまえばそこから溝が生まれ、『対等』な関係ではいられなくなると考えている。旅の道中でも、友達が出来ても関係が自然消滅して結局一人もいなくなる……とかほざいていた」

「それ絶対本人のいない場で勝手に話しちゃいけないエピソードですよね!?」

「不遜の代価としては不十分なくらいだ、気にするな─────」

 白狼はまたも喉を唸らせ、四肢を地面に擦る。首を振り、全身を震わせてから……ルリマの横で眼差しを送った。

「乗れ」

「!」

「雷の聖剣の速度には及ばないが、その頼りない2本の脚よりは良い風を感じられる自信がある」

「……では、失礼します」

 背に乗ると、柔らかな体毛の感触と生命の神秘を感じさせられる鼓動と温度が伝わる。

「私はここでお昼寝でもしてますので。何かあったらポチに遠吠えでもさせてください、負け犬の姿を拝みにどんな夢を見ていても駆けつけますから」

「コイツのような働きもせずに怠惰を貪る者を主はニートと呼んでいた。生き方には気をつけると良い、グリードア」

「は、はぁ……」

 返答に困ったどっちつかずの反応にレナはクスッと微笑み、地下へと姿を消した。

「既に展開している魔法障壁を縮め、我と貴様を包むようにした。……だが万が一の事もある。よく掴まっておけ」

「はい!」

 リェフルを乗せて勇者の爪痕を訪れた時のように。再び狼は走り出した。砂埃が舞い、瘴気はその影響を受けない異世界の獣の道を開けていく。
 目指すは赤刃山脈。魔王の根城。

 彼の主が傷つき続け、尚戦い続けた姿を眺める事しかできなかった苦い記憶。因縁の場所。1000年もの間避けていた山へ─────行ってもいい価値があると、ポチは既に判断していた。
















 ー ー ー ー ー ー ー











 リェフルの凶行は雷の聖剣の観測を担当している賢者の一人からルタインに伝えられている。彼がリェフルによって歪められた聖剣のスキルに付けた名は『ユアーズスキル』。聖剣と人間によって生まれるスキルという点ではユニオンスキルと似ているが───本質は真逆。
 勇者として認められず、しかし聖剣を無理やり適合させたリェフルにしか出来ない芸当。

「【雷剛】!」

 聖剣に雷を纏わせた攻撃である【雷剛】。今では聖剣を『装着』したリェフルによるパンチ、キック────身体を用いた攻撃を補助している。

 バチバチと音を立てながら、しなやかな獣人の足が横に薙ぎ払う。同時にディグマとストゥネアは素早く後退し……空いた距離を活かして攻撃を開始する。

「【快技・獄風連弾】」

 ディグマの魔導銃が機関銃形態へ移行し、発射されるのは────通常のスキルである【風弾】……だが、その数はとても普通とは呼べぬモノ。夥しいほどの数の【風弾】が連続で発射され続ける。
 初歩的スキルである【風弾】。扱いが容易な上に威力も低くない。故にディグマは目をつけ、まさに銃弾の地獄絵図を現世に呼び出すスキルへと昇華させた。

「おぉ、すごいねこりゃ」

 圧倒的物量は暴風の如く荒狂い、そして銃弾のスピードで向かってくる。これを耐え凌げるとすれば、ロクトのように圧倒的防御力で無効化するか……。

 ─────リェフルのように圧倒的速度で全て避けるか。

「……【雷迅】」

「っ!」

『最初に使っていたスキル』だと……ディグマは気付く。不自然なほどの加速。移動して回避し、壁に足や手を着き跳ねる事で速度低下を防ぐ。目にも止まらぬスピードで動き回る雷は眩しくなるほどの軌道を描き、描き……描き続ける。それが続けられるのなら、リェフルは攻撃に当たっていないという事。

 避けられている今も引き金を引き続けていたディグマだが……気付く。動きが少しだけ、ほんの少しだけ変化した。

(─────来る)

 まるで未来を見通しているかのように、東の勇者はリェフルの回避の傾向を分析し、手足と壁の角度が微妙に異なる事から『攻撃に転じてくる』事を予測した。

「ネアさんっ!今で────」

「分かっている!」

 ストゥネアはディグマが『風』の弾を発射した時点で彼の意図に気付いていた。魔剣の口を開け、準備はもう完了している。

「乱せ、【風飲剣】」

 怪物のようにあんぐりと開いた口が風を吸い、吐き出す。
 当然、風の弾も同じように動きが変わる。一斉に吸い込まれたと思えば逆方向に吹き飛び、繰り返されたそれはやがて─────小さな嵐のようなモノを巻き起こした。

(─────うざ。東方人の性格の悪さが出てる戦い方だなぁ)

 ため息も嵐に飲み込まれる。

(ま、やる事は変わらないけどね)

 嵐は止まなくて良い。心臓の鼓動さえ鎮めれば─────全身に力を込めた彼女はいつでも動ける。

「【雷迅】……!」

「な……っ!?」

 嵐を抜けたリェフルは、防具の隙間から血を吹き出しながら宙を舞う。ディグマもストゥネアも、傷を負ってまで強引に向かってくる選択肢は予想外だった。……膨大すぎる量の【風弾】は必ず致命傷となるはずで、そんな相手なら2人がかりで抑えてしまえばいい。
 だが────リェフルは速すぎた。致命傷を最小限にしてしまうスピードで嵐を通り抜け……一直線にディグマのもとへ。

「【疾風斬り】っ!」

 剣士のスキルの中で最も素早く、通常なら牽制に使われるモノをストゥネアは放つ。でなければリェフルにかする事すら叶わないと判断したからだ。
 だが……それすらも彼女は追い越して行く。

「届かん……ディグマッ!」

「【雷切】ィッ!!」

 防具はリェフルの右手に変形し、収束する。『雷の刃で敵を切り裂く』はずのスキルは歪められ、『爪のように変形した聖剣』が雷を纏う。

(────速すぎる)

 ディグマが引き金を引いた瞬間だった。────リェフルが空いた左手でその銃口をずらしたのは。

「ぐぅっ!!」

 よってリェフルの【雷切】は遅れ、しかし止まらない彼女はディグマと激突。────魔王城の長い廊下を2人が高速で移動して行く。

(……通用する。偽物のあたしの力が、本物の勇者に……!!)

 このまま攻撃しなくても壁にぶつかれば大抵の者は死ぬ。その上、リェフルはいつでも右手を振り下ろせる。圧倒的有利な状況でも彼女は一切油断しなかった。

「あたしを……見下すなッ!」

 最短最速で────リェフルは【雷切】をディグマに。

(……知らなかった。世界はボクが思っていたよりもずっと広い。最強とは言っても帝国という狭い中の存在でしかなかった。こんなにも速く、恐れを知らず、覚悟を持つ強者がいる……)

 油断していないのはディグマも同じだった。が、彼は高揚するリェフルとは異なり、酷く冷静に自分がすべき最善手を導き出す。

「────ボクだって、勇者だ」

「ッ!」

 リェフルの右手を受け止めたのは─────鞘から抜かれた黒い刀身。



 黒の聖剣には『スキル』が搭載されていない。岩の聖剣の【岩刃】、【彼岩の構え】。雷の聖剣の【雷剛】、【雷装】。これらのようなスキルが無い。
 原因は一つ。初代勇者がそれらを設定する前に絶命したからだ。だが────これは、彼の死を看取った一人の男の記憶にのみ残された情報だが。

 初代勇者は死に際に────『ようやく完成した』と。

 スキルが無い以上、扱いが困難を極める。誰でも使える聖剣のはずなのに、誰であろうとそのスキルは使えない。
 代わりに求められるのは……使い手の『応用力』、そして───『負の感情』。

 2つが揃ったモノの『命令』に黒の聖剣は応える。



「いきなり襲ってきたかと思えば差別発言の連発。西の勇者と言い、勇者には人間性を失ったような奴しかいないのか?……女性差別が嫌なら、もう手加減もクソも無しだ」

『聖剣を都合良く解釈し、変形させた』────北の勇者リェフルの存在は、間違いなくディグマにヒントを与えた。その上魔王軍四天王から剣の指南を受けた状態。
 剣が苦手という意識。今なら────『怒り』がそれを破壊する。

「『従え』……黒の聖剣ッ!」

 完全に抜刀された聖剣。同時に鞘から顔を見せた『黒い泥』が─────2人を隠してしまうほどに溢れ出した。


ーーーーーーーーーー


初代勇者は初代魔王との最終決戦時、赤刃山脈の頂上で死闘を繰り広げました。結果的に初代魔王を殺害した初代勇者は唯一の『災いを滅せし者』となりました。当時、【楔の聖剣】で心臓を貫かれた初代魔王の身体は光の粒となって天に昇っていったと言われています。初代魔王以降の【統率者】はあくまで初代魔王の『玉座』を介して災害の『代理』を務めているだけであり、災害としての本来の力はわずかです。
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