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第一章 『堕天使の森』
第4話 森の小屋にて
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異世界からやってきたサムライ女・パメラの持つ刀、白狼牙は不正プログラムに感染していた。
俺はパメラの持つ白鞘の先端に一瞬だけ見えたバグの揺らぎを見逃さなかった。
なるほどな。
ティナの奴は先にこれを見抜いていたんだ。
だから妙にパメラの刀に食いついていやがったのか。
パメラに悟られないよう、このことを俺に気付かせる意図があったってことか。
前回の戦いで俺もティナほどではないが不正プログラムを見抜く目を持つようになった。
そうでなければ気付くことが出来ないほど微細なバグだった。
パメラの刀は不正プログラムに感染しているのか?
あるいはパメラ自身が不正プログラムに感染している可能性もある。
パメラ本人がそのことを自覚しているのかしていないのか現時点では分からんが、またキナ臭いことになってきやがったぜ。
どうやら俺は不正プログラムに縁があるようだな。
不正プログラム。
それはキャメロンとかいう堕天使がこのゲーム内にばら撒いた病原菌だ。
キャラクターや建造物のみならず、大地や海や空までも変質させるウイルス・プログラム。
これに感染した場合、そのデータが書き換えられ、バグを経て変質しちまう。
くそったれなウイルスのせいで、強制的に自分が自分ではない何者かになる。
まったくふざけた現象だぜ。
キャメロンはその不正プログラムをこのゲーム内の12人の人物に与えた。
その12人はティナが持つ容疑者リストの中に記載されていて、ティナはその12人の容疑者を捕まえるために旅をしている。
前回の戦いでそのリストの数は10人まで減っていた。
もしこのパメラが不正プログラムを自らの意思で保持する奴だったとしたら、あの善人面の裏にとんだ食わせ者の面が隠れているはずだ。
パメラが不正プログラムにどう関わっているのかを見極める必要がある。
こいつが単なる被害者なのか、あるいは加害者なのか。
後者であれば明確な俺たちの敵だ。
だが、むしろそちらのほうが俺にとっては面白いことになる。
仮にパメラの奴が不正プログラムを意図的に持つ保持者だったとしたら、ティナに邪魔されることなくパメラとやり合えるからな。
もし前者ならティナは何やかんやと理由をつけて俺がパメラとやり合うのを邪魔しようとするだろう。
それはまったく面白くない。
とにかくパメラがどういう理由で不正プログラムを刀にまとわりつかせているのか、それを知るまでは下手にこちらが尻尾を出すわけにはいかない。
ティナもそのことを心得ているようで、不必要に俺と目を合わせることなくパメラと会話を続けていく。
俺はティナとはまた違う意図を持ってパメラの様子を監視することに決めた。
それから俺たちは森の中を進み、いくつかの川を渡ったところで無人の小屋を見つけた。
「あそこに小屋があります。おそらく天使の樵が使う作業小屋かと。一度休憩しましょう」
俺たちが小屋の中に足を踏み入れると、そこは確かに樵の作業部屋らしく、紐でくくられた薪や、採集用のカゴなどが置かれていた。
そこに残されていた古びた椅子に腰を落ち着けたパメラの隣にもティナは腰をかけ、俺は壁際に寄りかかって床に座り込む。
そこでティナは一度だけ俺に視線を向けると、すぐにパメラに視線を映して話を切り出した。
「天使の農村はどのような被害にあわれているんですか?」
「どうやら収穫し終えた野菜や大事な家畜を、堕天使どもに略奪されているようでござる。拙者に依頼を持ちかけた老天使の御仁は相当に困っている様子でござった」
これにはティナが即座に反応を見せた。
「それは許せません。パメラさん。ぜひ私たちにもお手伝いをさせて下さい」
「え? いや、それはありがたいのでござるが……」
「もちろん見返りなんていりませんよ。同胞の天使たちが困っているのですから、私も何とか彼らの助けになりたいんです」
ティナがパメラにそう切り出したのはもちろん考えあってことだろうが、同胞を助けたいというのは本心だろう。
こいつはそういう仲間意識のある甘ちゃんだからな。
俺は同じ悪魔にも仲間意識なんて感じたことはねえから、ティナの気持ちはひとかけらも理解できん。
「いや、報酬をお支払いするのはもちろん吝かではござらんが、お会いしたばかりのティナ殿たちのご厚意に甘えるわけにはいかぬでござるよ。お2人にもご予定があるでござろうし……」
突然のティナの申し出にパメラは困惑の表情を浮かべた。
しかしティナは意気込んでさらに詰め寄る。
「予定なんてありませんよ。私もバレットさんも暇人ですから。堕天使たちの傍若無人な略奪行為を見過ごせません。義を見てせざるは勇無きなり、ですよ」
誰が暇人だ。
「そうでござるか……そこまで言っていただけるのであれば、ありがたくご厚意に甘えるでござるよ。よろしく頼むでござる」
「お任せ下さい。ね? バレットさん」
やれやれ。
人助けなんざ興味はねえし、堕天使どもをぶっ潰すのも大して面白くねえだろう。
本来なら二つ返事で却下するところだが……パメラはなかなか骨のありそうな奴だ。
こいつと対戦するまでは適当に理由をつけて、付かず離れずの距離を保っておく方がいいだろう。
こいつが不正プログラムを保持しているかどうかは正直、俺にはどうでもいいことだが、実力者との対戦機会は貴重だ。
ザコどもを何百何千と倒すよりも遥かにな。
「フンッ。堕天使どもをブチのめすのを手伝ってやるのは構わん。だが条件がある。パメラ。俺と一戦交えてもらおうか」
「またですかバレットさん……」
俺の言葉にティナは盛大にため息をついてウンザリした顔を見せたが、パメラは白鞘を水平に構えて神妙な面構えで頷いた。
「全力でお相手仕る。ただし今は受けた依頼を果たさねばならぬ身の上ゆえ、堕天使の襲撃を退けた後にお願いしたいのでござるが」
そりゃてめえの勝手な都合だろ。
こっちを優先しやがれ。
そう言おうとした俺だが、いち早くティナが口を開いた。
「バレットさん。まずは堕天使との戦いで準備運動をしてから、パメラさんとのお手合わせといきましょうよ。パメラさんに負担をかけないよう、主に私とバレットさんで堕天使をやっつけちゃいましょうね」
チッ。
小娘が知恵をつけやがって。
俺が言おうとしたことを察知して、先回りしやがった。
そんなティナの余計な気配りを察することもなくパメラは首を横に振る。
「いや、しかしティナ殿。これは拙者が引き受けた仕事。拙者が先頭に立たねば……」
「黙ってろ。堕天使なんざ誰が倒しても一緒だ。俺がさっさと片付けてやるからおまえは……」
そう言いかけた俺だが、そこで耳が何かの音を聞き取った。
それは何かが高速で空気を切り裂くような音だった。
「伏せろ!」
そう言った俺がその場に身を伏せるのと、小屋の窓ガラスを破って何かが飛び込んできたのは同時だった。
それは拳大の石だったが、パチパチと火花を散らせていやがる。
やばい!
俺は咄嗟に小屋の隅に飛び退いて両腕で急所を守る。
視界の端でパメラがティナを押し倒して椅子で身を守ろうとしたのが見えた瞬間、石が大きな音を立てて破裂した。
途端に細かくなった石礫が小屋中に飛び散った。
「ぐうっ!」
俺は体のあちこちに石礫を浴びてダメージを負った。
そして外から次々と同じような爆ぜる石が投げ込まれてきた。
俺は即座に小屋の中にあるボロ机をひっくり返してそれを盾にする。
それを見たパメラはティナを抱えて転がるようにして机の裏に飛び込んできた。
同時に石がバチッと炸裂して石礫が飛び散り、俺たちが隠れている机に激しく衝突して音を立てる。
石礫を浴び、ボロ机はあっという間に表面を削られ、脚を折られていった。
まずい。
このままじゃもたねえ。
かといってここで慌てて部屋を飛び出せば、おそらく待ち伏せされているはずだ。
外に出たところをズドンとやられるのはクソ面白くもねえ。
敵は俺たちを燻り出して、出てきたところでトドメを刺そうとしていやがるんだ。
迂闊だったぜ。
いつの間にか小屋の周囲を取り囲まれていたらしい。
「どうするんですかバレットさん! このままじゃ机が壊れちゃいますよ!」
ティナが俺の横で頭を抱えながら喚く。
俺はそんなティナを見下ろして手短に言った。
「騒ぐな。今からここを脱出するぞ。屋根の上に抜ける。ここで死にたくなかったら、おまえはパメラを抱えて俺についてこい」
「え? 上?」
呆けた顔を見せるティナを無視して、俺は両手に炎を宿し、それを天井にむけて放った。
「灼熱鴉!」
俺はパメラの持つ白鞘の先端に一瞬だけ見えたバグの揺らぎを見逃さなかった。
なるほどな。
ティナの奴は先にこれを見抜いていたんだ。
だから妙にパメラの刀に食いついていやがったのか。
パメラに悟られないよう、このことを俺に気付かせる意図があったってことか。
前回の戦いで俺もティナほどではないが不正プログラムを見抜く目を持つようになった。
そうでなければ気付くことが出来ないほど微細なバグだった。
パメラの刀は不正プログラムに感染しているのか?
あるいはパメラ自身が不正プログラムに感染している可能性もある。
パメラ本人がそのことを自覚しているのかしていないのか現時点では分からんが、またキナ臭いことになってきやがったぜ。
どうやら俺は不正プログラムに縁があるようだな。
不正プログラム。
それはキャメロンとかいう堕天使がこのゲーム内にばら撒いた病原菌だ。
キャラクターや建造物のみならず、大地や海や空までも変質させるウイルス・プログラム。
これに感染した場合、そのデータが書き換えられ、バグを経て変質しちまう。
くそったれなウイルスのせいで、強制的に自分が自分ではない何者かになる。
まったくふざけた現象だぜ。
キャメロンはその不正プログラムをこのゲーム内の12人の人物に与えた。
その12人はティナが持つ容疑者リストの中に記載されていて、ティナはその12人の容疑者を捕まえるために旅をしている。
前回の戦いでそのリストの数は10人まで減っていた。
もしこのパメラが不正プログラムを自らの意思で保持する奴だったとしたら、あの善人面の裏にとんだ食わせ者の面が隠れているはずだ。
パメラが不正プログラムにどう関わっているのかを見極める必要がある。
こいつが単なる被害者なのか、あるいは加害者なのか。
後者であれば明確な俺たちの敵だ。
だが、むしろそちらのほうが俺にとっては面白いことになる。
仮にパメラの奴が不正プログラムを意図的に持つ保持者だったとしたら、ティナに邪魔されることなくパメラとやり合えるからな。
もし前者ならティナは何やかんやと理由をつけて俺がパメラとやり合うのを邪魔しようとするだろう。
それはまったく面白くない。
とにかくパメラがどういう理由で不正プログラムを刀にまとわりつかせているのか、それを知るまでは下手にこちらが尻尾を出すわけにはいかない。
ティナもそのことを心得ているようで、不必要に俺と目を合わせることなくパメラと会話を続けていく。
俺はティナとはまた違う意図を持ってパメラの様子を監視することに決めた。
それから俺たちは森の中を進み、いくつかの川を渡ったところで無人の小屋を見つけた。
「あそこに小屋があります。おそらく天使の樵が使う作業小屋かと。一度休憩しましょう」
俺たちが小屋の中に足を踏み入れると、そこは確かに樵の作業部屋らしく、紐でくくられた薪や、採集用のカゴなどが置かれていた。
そこに残されていた古びた椅子に腰を落ち着けたパメラの隣にもティナは腰をかけ、俺は壁際に寄りかかって床に座り込む。
そこでティナは一度だけ俺に視線を向けると、すぐにパメラに視線を映して話を切り出した。
「天使の農村はどのような被害にあわれているんですか?」
「どうやら収穫し終えた野菜や大事な家畜を、堕天使どもに略奪されているようでござる。拙者に依頼を持ちかけた老天使の御仁は相当に困っている様子でござった」
これにはティナが即座に反応を見せた。
「それは許せません。パメラさん。ぜひ私たちにもお手伝いをさせて下さい」
「え? いや、それはありがたいのでござるが……」
「もちろん見返りなんていりませんよ。同胞の天使たちが困っているのですから、私も何とか彼らの助けになりたいんです」
ティナがパメラにそう切り出したのはもちろん考えあってことだろうが、同胞を助けたいというのは本心だろう。
こいつはそういう仲間意識のある甘ちゃんだからな。
俺は同じ悪魔にも仲間意識なんて感じたことはねえから、ティナの気持ちはひとかけらも理解できん。
「いや、報酬をお支払いするのはもちろん吝かではござらんが、お会いしたばかりのティナ殿たちのご厚意に甘えるわけにはいかぬでござるよ。お2人にもご予定があるでござろうし……」
突然のティナの申し出にパメラは困惑の表情を浮かべた。
しかしティナは意気込んでさらに詰め寄る。
「予定なんてありませんよ。私もバレットさんも暇人ですから。堕天使たちの傍若無人な略奪行為を見過ごせません。義を見てせざるは勇無きなり、ですよ」
誰が暇人だ。
「そうでござるか……そこまで言っていただけるのであれば、ありがたくご厚意に甘えるでござるよ。よろしく頼むでござる」
「お任せ下さい。ね? バレットさん」
やれやれ。
人助けなんざ興味はねえし、堕天使どもをぶっ潰すのも大して面白くねえだろう。
本来なら二つ返事で却下するところだが……パメラはなかなか骨のありそうな奴だ。
こいつと対戦するまでは適当に理由をつけて、付かず離れずの距離を保っておく方がいいだろう。
こいつが不正プログラムを保持しているかどうかは正直、俺にはどうでもいいことだが、実力者との対戦機会は貴重だ。
ザコどもを何百何千と倒すよりも遥かにな。
「フンッ。堕天使どもをブチのめすのを手伝ってやるのは構わん。だが条件がある。パメラ。俺と一戦交えてもらおうか」
「またですかバレットさん……」
俺の言葉にティナは盛大にため息をついてウンザリした顔を見せたが、パメラは白鞘を水平に構えて神妙な面構えで頷いた。
「全力でお相手仕る。ただし今は受けた依頼を果たさねばならぬ身の上ゆえ、堕天使の襲撃を退けた後にお願いしたいのでござるが」
そりゃてめえの勝手な都合だろ。
こっちを優先しやがれ。
そう言おうとした俺だが、いち早くティナが口を開いた。
「バレットさん。まずは堕天使との戦いで準備運動をしてから、パメラさんとのお手合わせといきましょうよ。パメラさんに負担をかけないよう、主に私とバレットさんで堕天使をやっつけちゃいましょうね」
チッ。
小娘が知恵をつけやがって。
俺が言おうとしたことを察知して、先回りしやがった。
そんなティナの余計な気配りを察することもなくパメラは首を横に振る。
「いや、しかしティナ殿。これは拙者が引き受けた仕事。拙者が先頭に立たねば……」
「黙ってろ。堕天使なんざ誰が倒しても一緒だ。俺がさっさと片付けてやるからおまえは……」
そう言いかけた俺だが、そこで耳が何かの音を聞き取った。
それは何かが高速で空気を切り裂くような音だった。
「伏せろ!」
そう言った俺がその場に身を伏せるのと、小屋の窓ガラスを破って何かが飛び込んできたのは同時だった。
それは拳大の石だったが、パチパチと火花を散らせていやがる。
やばい!
俺は咄嗟に小屋の隅に飛び退いて両腕で急所を守る。
視界の端でパメラがティナを押し倒して椅子で身を守ろうとしたのが見えた瞬間、石が大きな音を立てて破裂した。
途端に細かくなった石礫が小屋中に飛び散った。
「ぐうっ!」
俺は体のあちこちに石礫を浴びてダメージを負った。
そして外から次々と同じような爆ぜる石が投げ込まれてきた。
俺は即座に小屋の中にあるボロ机をひっくり返してそれを盾にする。
それを見たパメラはティナを抱えて転がるようにして机の裏に飛び込んできた。
同時に石がバチッと炸裂して石礫が飛び散り、俺たちが隠れている机に激しく衝突して音を立てる。
石礫を浴び、ボロ机はあっという間に表面を削られ、脚を折られていった。
まずい。
このままじゃもたねえ。
かといってここで慌てて部屋を飛び出せば、おそらく待ち伏せされているはずだ。
外に出たところをズドンとやられるのはクソ面白くもねえ。
敵は俺たちを燻り出して、出てきたところでトドメを刺そうとしていやがるんだ。
迂闊だったぜ。
いつの間にか小屋の周囲を取り囲まれていたらしい。
「どうするんですかバレットさん! このままじゃ机が壊れちゃいますよ!」
ティナが俺の横で頭を抱えながら喚く。
俺はそんなティナを見下ろして手短に言った。
「騒ぐな。今からここを脱出するぞ。屋根の上に抜ける。ここで死にたくなかったら、おまえはパメラを抱えて俺についてこい」
「え? 上?」
呆けた顔を見せるティナを無視して、俺は両手に炎を宿し、それを天井にむけて放った。
「灼熱鴉!」
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