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第三章 『地底世界エンダルシュア』
第7話 都市土竜
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地下通路を移動していた俺たちの頭上で突然、天井が崩落しやがったんだ。
走り続けていた俺とティナは前方に滑り込みながら、それをギリギリのところで避けた。
一歩遅ければ瓦礫の下敷きとなっていたかもしれない唐突な出来事に、ティナは目を白黒させ呆然と呟く。
「あ、危なかった……バレットさん。どうも……」
「ホッとしている場合じゃねえぞ」
そこでガラッと瓦礫が崩れる音がして、地面に積み重なったそこからずんぐりとした体格を持つ魔物が現れた。
それは薄汚れた茶色い毛並みを持つ魔物だった。
長い爪を持つ前脚、細長い口先、そして退化してほとんど毛に埋もれている目。
それは土の中で過ごす土竜だった。
だがその大きさは異様にデカく、イノシシほどもある。
「あれは……都市土竜ですか?」
ティナは訝しげに眉を潜めてそう言った。
こいつは持参の魔物図鑑を日頃から愛読しているため、魔物の種類には詳しい。
都市土竜ってのは聞いたことがねえな。
「何だその魔物は?」
「ここみたいにある程度発展した街中の地下に住んでる魔物です。下水道とかにも生息していて、天樹の塔の近くにある大きめの街には結構いたんですよ。でも……」
俺は街中に住んでいたことがねえから見かけたことはねえが、街の地面の下にこんなデカイ奴が住んでたらオチオチ暮らしていられねえんじゃねえのか?
そう思ったが、ティナは疑念に満ちた眼差しを土竜どもに向けている。
その手に握った銀環杖を眼前に構えてティナは言った。
「こんなに大きいはずはないんです。雄の成獣でも猫くらいの大きさしかないはず……」
なるほどな。
その理由は一目瞭然だった。
今、俺たちの目の前にいる都市土竜はその身に揺らぐバグを負っている。
要するに不正プログラムで巨大化しやがったのか。
「フンッ。巨大化っつったって、その程度じゃどうってことねえな」
そう言うと俺は素早く都市土竜に詰め寄り、その体をドカッと蹴り飛ばした。
土竜は大きく吹っ飛んで後方の床に転がる。
例によってライフ・ゲージがバグッているせいで土竜は倒せねえが、こんな奴をイチイチ相手にすることはねえ。
「さっさと行くぞ。ティナ……」
俺がそう言ったその時、天井に開いた穴からドサドサッと何かが落ちてきた。
それは数体の都市土竜だった。
さらに前方の天井が次々と崩落し、そこから大量の土竜どもが姿を現しやがった。
後方と前方を都市土竜に挟み撃ちにされる格好となりティナが声を上げる。
「か、囲まれました!」
「チッ!」
都市土竜どもは我先にと俺たちに殺到してくる。
前脚の鋭い爪がある分、さっきのNPCどもよりよほど厄介だ。
しかも数十頭が一斉に押し寄せてきやがるから、先頭の1頭2頭をぶっ飛ばしたところで次の奴らに飲み込まれちまう。
ヒルダのアジトでも堕天使どもが押し寄せてきやがったが、その時よりもこいつらの方が動きが速い。
羽を広げて飛び上がり、背の低い都市土竜どもをかわすか?
だが天井は低く、万が一にも土竜どもに飛び付かれたら避けようがねえ。
何にせよ多少の無理をしてでもこの包囲網を突破しないと、俺たちはいずれこいつらに食い殺されちまう。
こんな穴倉で土竜どもを相手にジ・エンドなんて笑えねえ。
多少強引にでも突破してやる。
「ティナ! ついてこい! 押し通るぞ!」
そう言うと俺は軽くジャンプして体を高速回転させる。
そしてそのまま地面と平行に螺旋魔刃脚を繰り出した。
「うおおおおおっ!」
目の前の土竜どもが俺の螺旋魔刃脚に弾き飛ばされて囲いに綻びが生じ、道が出来る。
俺は即座に技を解いて地面を矢のように駆け出した。
背後からはティナが翼をはためかせる音が聞こえてくる。
幸いなことに進む先には広い空間が見えてきた。
「ティナ! 抜けたら鳥餅だ!」
「は、はい!」
俺たちは通路を抜けて広い空間に出るとバッと踵を返して振り返る。
そしてアイテム・ストックを展開してその中から白い球を2つ取り出した。
俺はそれを次々と通路の入口付近の床に投げつけた。
すると床にぶつかった白い球は盛大に弾け飛び、それは白い粘液となって床にへばりついた。
ティナも俺と同様に白い球を次々と取り出しては投げつける。
「もう十分だ。次は第二波にいくぞ」
「は、はい!」
縦は数メートル、横は通路の幅一杯に広がった白い粘液が待ち構えるところに、後方から俺たちを追いかけてきた都市土竜どもがまんまと突っ込んできやがった。
そして……。
「ギュエッ! ギュエエエッ!」
都市土竜どもは粘液に脚を取られてすっ転び、後続から来た奴らもそれに巻き込まれて転ぶ。
そして粘液は奴らの毛並みにへばりついて、その身動きを止める。
鳥餅ボール。
強烈な粘着力のある液体を封じ込めたボールだ。
この天国の丘に来る前にティナと買いそろえておいたアイテムだった。
こいつにへばりつかれたら、そうそう簡単には動けねえ。
「第二段だ!」
そして動けなくなった土竜どもの上を乗り越えて来ようとする奴らに、さらに鳥餅ボールをぶつけてやる。
白い粘液がさらに炸裂して土竜どもの動きを止める。
これを第三段までやったところで土竜どもによる壁が築かれ、後続の連中がそれに阻まれて広間に入って来られなくなった。
粘液まみれで山となった都市土竜どもが苦しげに呻く。
「へっ。ざまあみやがれ」
「念には念を入れておきましょう」
ティナはアイテム・ストックから一本のスプレー缶を取り出した。
そして5メートルほど離れた距離からそれを、鳥餅まみれになっている土竜の壁に向けて噴き付ける。
赤い噴霧が勢いよく噴射されて土竜どもに到達した途端、連中が悲鳴を上げ始めた。
「ギョエッ! ギュエッ!」
そしてツンとしたニオイが漂ってくる。
こいつは……カラシヨモギだ。
「カラシヨモギのエキスにトウガラシを混ぜて濃縮したスプレーです。都市土竜はニオイや音に敏感で、こうした刺激臭を嫌がりますから。それにこのスプレータイプなら直接カラシヨモギを燃やすのと違って広範囲に広がらず、一点集中的に攻撃できるので扱いやすいです」
そう言うとティナは俺にもスプレーを一本手渡してきた。
俺はそれを使って土竜の壁にまんべんなく噴きつける。
確かに風向きさえ間違えなければ扱いやすい道具だ。
俺たちは土竜の壁にしっかりと刺激臭を染み付けてから、その場を後にした。
あれなら少しの間、土竜どももこちらに近付いて来られねえだろ。
まあ、連中は地面を掘って移動するからその効果は限定的だが、一時でも時間を稼げりゃそれでいい。
俺は後からついて来るティナを急かした。
「土竜どもがいつまたどこから現れるか分からねえ。さっさと進むぞ」
だが、そこで予期せぬ物音が響き渡ってきた。
カツカツと響き渡るその音に振り返ると、人間の女らしき人影が広間の中を走っていた。
何だ?
女は何かから逃げるように幾度も後ろを振り返りながら泡食って逃げて行きやがる。
その後ろから数人のNPCたちが女を追いかけていた。
「来ないで!」
どうやらこの広場は地上への階段に繋がっているようだな。
あの女は地上から逃げ込んだ新式のNPCだろう。
その姿を見たティナが反射的に駆け出した。
「大丈夫ですか!」
「おい待て! ティナ!」
ティナの声に女のNPCは立ち止まり、こちらを振り返った。
その瞬間だった。
女が立っている地面がいきなり陥没し、女は追いかけてきた他のNPCたちもろとも地面に穿たれた穴の中へと落下していく。
「きゃあっ!」
「ああっ!」
ティナは声を上げてその穴のところまで駆け寄った。
そして穴の縁にしゃがみ込むと中を覗き込んでいやがる。
あのアホ……性懲りもなく女のNPCを助けるつもりだ。
穴の中からは女が助けを呼ぶ声が響いてきた。
「た、助けて!」
「今、行きます!」
そう言ってティナが翼を広げて宙を舞ったその時、今度は穴の真上の天井が崩落してきてティナの頭上に降り注いだ。
砂埃が舞い上がり、視界を覆い尽くす中、落ちてくる瓦礫を必死にティナの奴がよける姿が見える。
だが、それは長くは続かなかった。
瓦礫の後に天井から落ちてきたのは、またしても大量の都市土竜どもだったからだ。
「ティナッ!」
「きゃあっ!」
土竜どもに押し潰されるようにしてティナは穴の底へと落下していった。
走り続けていた俺とティナは前方に滑り込みながら、それをギリギリのところで避けた。
一歩遅ければ瓦礫の下敷きとなっていたかもしれない唐突な出来事に、ティナは目を白黒させ呆然と呟く。
「あ、危なかった……バレットさん。どうも……」
「ホッとしている場合じゃねえぞ」
そこでガラッと瓦礫が崩れる音がして、地面に積み重なったそこからずんぐりとした体格を持つ魔物が現れた。
それは薄汚れた茶色い毛並みを持つ魔物だった。
長い爪を持つ前脚、細長い口先、そして退化してほとんど毛に埋もれている目。
それは土の中で過ごす土竜だった。
だがその大きさは異様にデカく、イノシシほどもある。
「あれは……都市土竜ですか?」
ティナは訝しげに眉を潜めてそう言った。
こいつは持参の魔物図鑑を日頃から愛読しているため、魔物の種類には詳しい。
都市土竜ってのは聞いたことがねえな。
「何だその魔物は?」
「ここみたいにある程度発展した街中の地下に住んでる魔物です。下水道とかにも生息していて、天樹の塔の近くにある大きめの街には結構いたんですよ。でも……」
俺は街中に住んでいたことがねえから見かけたことはねえが、街の地面の下にこんなデカイ奴が住んでたらオチオチ暮らしていられねえんじゃねえのか?
そう思ったが、ティナは疑念に満ちた眼差しを土竜どもに向けている。
その手に握った銀環杖を眼前に構えてティナは言った。
「こんなに大きいはずはないんです。雄の成獣でも猫くらいの大きさしかないはず……」
なるほどな。
その理由は一目瞭然だった。
今、俺たちの目の前にいる都市土竜はその身に揺らぐバグを負っている。
要するに不正プログラムで巨大化しやがったのか。
「フンッ。巨大化っつったって、その程度じゃどうってことねえな」
そう言うと俺は素早く都市土竜に詰め寄り、その体をドカッと蹴り飛ばした。
土竜は大きく吹っ飛んで後方の床に転がる。
例によってライフ・ゲージがバグッているせいで土竜は倒せねえが、こんな奴をイチイチ相手にすることはねえ。
「さっさと行くぞ。ティナ……」
俺がそう言ったその時、天井に開いた穴からドサドサッと何かが落ちてきた。
それは数体の都市土竜だった。
さらに前方の天井が次々と崩落し、そこから大量の土竜どもが姿を現しやがった。
後方と前方を都市土竜に挟み撃ちにされる格好となりティナが声を上げる。
「か、囲まれました!」
「チッ!」
都市土竜どもは我先にと俺たちに殺到してくる。
前脚の鋭い爪がある分、さっきのNPCどもよりよほど厄介だ。
しかも数十頭が一斉に押し寄せてきやがるから、先頭の1頭2頭をぶっ飛ばしたところで次の奴らに飲み込まれちまう。
ヒルダのアジトでも堕天使どもが押し寄せてきやがったが、その時よりもこいつらの方が動きが速い。
羽を広げて飛び上がり、背の低い都市土竜どもをかわすか?
だが天井は低く、万が一にも土竜どもに飛び付かれたら避けようがねえ。
何にせよ多少の無理をしてでもこの包囲網を突破しないと、俺たちはいずれこいつらに食い殺されちまう。
こんな穴倉で土竜どもを相手にジ・エンドなんて笑えねえ。
多少強引にでも突破してやる。
「ティナ! ついてこい! 押し通るぞ!」
そう言うと俺は軽くジャンプして体を高速回転させる。
そしてそのまま地面と平行に螺旋魔刃脚を繰り出した。
「うおおおおおっ!」
目の前の土竜どもが俺の螺旋魔刃脚に弾き飛ばされて囲いに綻びが生じ、道が出来る。
俺は即座に技を解いて地面を矢のように駆け出した。
背後からはティナが翼をはためかせる音が聞こえてくる。
幸いなことに進む先には広い空間が見えてきた。
「ティナ! 抜けたら鳥餅だ!」
「は、はい!」
俺たちは通路を抜けて広い空間に出るとバッと踵を返して振り返る。
そしてアイテム・ストックを展開してその中から白い球を2つ取り出した。
俺はそれを次々と通路の入口付近の床に投げつけた。
すると床にぶつかった白い球は盛大に弾け飛び、それは白い粘液となって床にへばりついた。
ティナも俺と同様に白い球を次々と取り出しては投げつける。
「もう十分だ。次は第二波にいくぞ」
「は、はい!」
縦は数メートル、横は通路の幅一杯に広がった白い粘液が待ち構えるところに、後方から俺たちを追いかけてきた都市土竜どもがまんまと突っ込んできやがった。
そして……。
「ギュエッ! ギュエエエッ!」
都市土竜どもは粘液に脚を取られてすっ転び、後続から来た奴らもそれに巻き込まれて転ぶ。
そして粘液は奴らの毛並みにへばりついて、その身動きを止める。
鳥餅ボール。
強烈な粘着力のある液体を封じ込めたボールだ。
この天国の丘に来る前にティナと買いそろえておいたアイテムだった。
こいつにへばりつかれたら、そうそう簡単には動けねえ。
「第二段だ!」
そして動けなくなった土竜どもの上を乗り越えて来ようとする奴らに、さらに鳥餅ボールをぶつけてやる。
白い粘液がさらに炸裂して土竜どもの動きを止める。
これを第三段までやったところで土竜どもによる壁が築かれ、後続の連中がそれに阻まれて広間に入って来られなくなった。
粘液まみれで山となった都市土竜どもが苦しげに呻く。
「へっ。ざまあみやがれ」
「念には念を入れておきましょう」
ティナはアイテム・ストックから一本のスプレー缶を取り出した。
そして5メートルほど離れた距離からそれを、鳥餅まみれになっている土竜の壁に向けて噴き付ける。
赤い噴霧が勢いよく噴射されて土竜どもに到達した途端、連中が悲鳴を上げ始めた。
「ギョエッ! ギュエッ!」
そしてツンとしたニオイが漂ってくる。
こいつは……カラシヨモギだ。
「カラシヨモギのエキスにトウガラシを混ぜて濃縮したスプレーです。都市土竜はニオイや音に敏感で、こうした刺激臭を嫌がりますから。それにこのスプレータイプなら直接カラシヨモギを燃やすのと違って広範囲に広がらず、一点集中的に攻撃できるので扱いやすいです」
そう言うとティナは俺にもスプレーを一本手渡してきた。
俺はそれを使って土竜の壁にまんべんなく噴きつける。
確かに風向きさえ間違えなければ扱いやすい道具だ。
俺たちは土竜の壁にしっかりと刺激臭を染み付けてから、その場を後にした。
あれなら少しの間、土竜どももこちらに近付いて来られねえだろ。
まあ、連中は地面を掘って移動するからその効果は限定的だが、一時でも時間を稼げりゃそれでいい。
俺は後からついて来るティナを急かした。
「土竜どもがいつまたどこから現れるか分からねえ。さっさと進むぞ」
だが、そこで予期せぬ物音が響き渡ってきた。
カツカツと響き渡るその音に振り返ると、人間の女らしき人影が広間の中を走っていた。
何だ?
女は何かから逃げるように幾度も後ろを振り返りながら泡食って逃げて行きやがる。
その後ろから数人のNPCたちが女を追いかけていた。
「来ないで!」
どうやらこの広場は地上への階段に繋がっているようだな。
あの女は地上から逃げ込んだ新式のNPCだろう。
その姿を見たティナが反射的に駆け出した。
「大丈夫ですか!」
「おい待て! ティナ!」
ティナの声に女のNPCは立ち止まり、こちらを振り返った。
その瞬間だった。
女が立っている地面がいきなり陥没し、女は追いかけてきた他のNPCたちもろとも地面に穿たれた穴の中へと落下していく。
「きゃあっ!」
「ああっ!」
ティナは声を上げてその穴のところまで駆け寄った。
そして穴の縁にしゃがみ込むと中を覗き込んでいやがる。
あのアホ……性懲りもなく女のNPCを助けるつもりだ。
穴の中からは女が助けを呼ぶ声が響いてきた。
「た、助けて!」
「今、行きます!」
そう言ってティナが翼を広げて宙を舞ったその時、今度は穴の真上の天井が崩落してきてティナの頭上に降り注いだ。
砂埃が舞い上がり、視界を覆い尽くす中、落ちてくる瓦礫を必死にティナの奴がよける姿が見える。
だが、それは長くは続かなかった。
瓦礫の後に天井から落ちてきたのは、またしても大量の都市土竜どもだったからだ。
「ティナッ!」
「きゃあっ!」
土竜どもに押し潰されるようにしてティナは穴の底へと落下していった。
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