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第四章 『魔神領域』
第18話 戦場の儀式
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混迷の戦場の中、場違いな儀式が始まった。
【ティナ・ミュールフェルトに修復術プログラムVer.2を再インストールします】
コマンド・ウインドウにそう表示されると、すぐに俺の額が熱くなる。
おそらく【魔】の字がこの額に浮かび上がっているはずだ。
俺は自分の前髪をかき上げ、額を露わにする。
目の前ではティナが緊張に顔を紅潮させて口を引き結んでいた。
俺はそんなティナの額に自分の額をくっつける。
ティナの引き結んだ口の中からわすかに声が漏れた。
「んっ……」
くっつけた額同士が熱い。
そしてティナの口から漏れる吐息が俺の鼻をくすぐった。
【再インストール中:25%……50%……】
早く終われ。
もどかしいぜ。
アルシエルの奴は今のところまだおとなしくしてくれているが、下からはパメラやロドリックが迫り来る亀どもと争う物音が聞こえてくる。
それは徐々にこちらに近付いていた。
こういう状況になってみると、アルシエルの眷属である亀の魔神どもがわんさか湧いてくれるのは逆にありがたい。
あいつらがロドリック達の邪魔をしてくれているからな。
だが、それもいつまで持つかは分からない。
この状態で背中から襲われたらひとたまりもねえぞ。
【75%……90%……インストール完了】
そこでティナの額から【封】の文字が消えて代わりに【天】の文字が浮かぶ。
修復術が再びティナの体に宿った証拠だ。
だが、本番はここからだ。
【天魔融合プログラムおよびティナ・ミュールフェルトの天網恢恢システム並びにバレットの紅蓮燃焼システムの使用許諾。再インストール開始】
ようやくだな。
一度手にした力が再び戻って来る。
そう実感する俺の目の前で、頬を紅潮させてキュッと目を閉じているティナが呟きを漏らした。
「……バレットさん。今後も私と組んでくれるんですか?」
「フンッ。そんなことは今日を生き残ってから気にするんだな」
「生き残るつもりですから。今のうちに聞いておきたいんです」
チッ。
こんなときに面倒くせえ小娘だな。
「……おまえが持ち込む厄介事を乗り越えられないようなら、俺はその程度の男だと気付いたんだよ」
「何ですかソレ。厄介事だなんて。まったくもう」
そう言うとティナは唇を尖らせる。
「コンビ解消とか言ってたくせに。私、けっこう傷ついたんですよ。あんなこと言われて……」
「は? そんなこと言ったか? 言ってねえだろ。一言もな」
「……いや、言いましたよ。トボケないで下さい。もう。でも……私も意固地になってました。自分の主義主張ばかりをバレットさんに押し付けていたんです。今のままじゃ天使長様には遠く及びませんね。実力はもちろん。人格でも。バレットさんと一緒にいれば私ももっと色々なことを学べるんじゃないかと今は思います」
そう言うと額同士を重ね合わせたままティナは目を開けた。
【インストール中:60%……70%……】
「バレットさん。これからも私と……きゃっ!」
「うおっ!」
その時突然、俺たちの足場がガクンと傾き、俺とティナは後方に投げ出された。
くっ……何だ?
「フォォォォォッ!」
眠り薬の効果が消えて、アルシエルが目覚めやがったんだ。
奴は頭の上の俺たちを振り落とそうと激しく首を振る。
俺は咄嗟にアルシエルの髪を掴んで振り落とされないようにした。
ティナの奴も同様に俺の近くの髪にしがみついて声を張り上げる。
「ぎ、儀式が中断されてしまいました!」
【インストール中断中:80%】
くそっ!
あと少しだってのに!
そしてさらに悪いことに後方からロドリックの奴がいよいよ迫ってきやがった。
奴は亀どもを強引に振り切って飛んで来たのか、体中が傷だらけになりながらアルシエルの頭髪をかき分けて俺に飛びかかってくる。
「バレットォォォッ!」
ロドリックはその声に執念深さを滲ませて叫ぶ。
奴もいよいよ必死だ。
こっちも死の物狂いでやらねえと、押し負けちまう。
仕方なく俺は羽を広げて奴を迎え撃とうとした。
だが、そこでティナがふいに俺の背中にくっついて来やがる。
「おいっ! 邪魔すんな!」
「高潔なる魂!」
ティナは俺の腋の下から銀環杖を突き出すと、その先端から高潔なる魂を放った。
それは突っ込んで来たロドリックを至近距離から直撃する。
「ぐうっ!」
全力で突っ込んで来ていたことが災いし、ロドリックはこれを避け切れずに浴びてしまった。
ロドリックの奴も俺と同じ悪魔だから当然のごとく闇属性であり、ティナの極端に高い光属性を持つ神聖魔法はひどく効きやがるはずだ。
その証拠にロドリックの動きが一瞬だけ止まった。
俺はその隙を突いて奴の胸に思い切り前蹴りを喰らわせてやった。
「オラアッ!」
「ぐはっ!」
ロドリックは後方に吹っ飛んでいき、アルシエルの頭髪に絡みつくようにして止まった。
それを見たティナが声を上げる。
「バレットさん! 今です! 何としても再インストールを完成させるんです!」
ティナが断固たる口調でそう言うと同時に、アルシエルが首をブンッと降りやがった。
そこでティナの奴が俺にしがみつき、後方に俺の体を引っ張った。
「フンッ!」
俺はアルシエルの頭髪を握る手を放し、そのまま宙を落下する。
そして空中で真っ逆さまになりながらティナの体を抱き寄せ、額同士をくっつけ合わせる。
とにかくもう必死の状況で、ティナも喚き声一つ上げずに俺にしがみつき、ほとんど顔をくっつけるようにして額を合わせた。
【再インストール再開:85%……90%……】
俺もティナも羽や翼を広げず、浮力に頼らず重力に身を任せるまま落下する。
そんな俺たちを斬り裂こうと亀どもが襲いかかって来るが、奴らの攻撃は俺たちを捉えることなく次々と左右前後をすり抜けていく。
だが、当然のようにグングン地面が迫って来る。
このままだと頭から地面に激突して首が折れちまう。
それでも俺たちは構うことなく儀式を続けた。
ここまで来たらもう中断なんてしてたまるかよ!
【再インストール中:95%……100%】
「バレットさん!」
「よしっ!」
俺とティナは同時に羽と翼を広げて地面への激突を回避する。
浮力による制動が急激にかかり、俺もティナも歯を食いしばってそれに耐える。
そして地面のギリギリのところで勢いがようやく止まったものの、それでも完全に浮遊することは出来ずに俺は背中を地面に打ち付けた。
「イテッ!」
「あうっ!」
ティナの奴はうまいこと俺の体の上でバウンドして無傷で地面に着地した。
落下ダメージを負ったのは俺だけだ。
「チッ。俺を下敷きにしやがって……」
「ま、まあまあ。でもホラ。見て下さい」
そう言うティナの頭上にはコマンド・ウインドウが開かれた。
【再インストール完了:天網恢恢スタンバイ】
俺の頭上にも同様にコマンド・ウインドウが開かれて紅蓮燃焼システムがスタンバイ状態になったことを示している。
そして俺の視界にライフ・ゲージとは別のゲージが出現した。
来たぜ。
バーンナップ・ゲージだ。
こいつを満タンにすれば紅蓮燃焼が使えるようになる。
ティナのライフ・ゲージの下にも俺と同じようにハーモニー・ゲージが記されていた。
俺とティナは互いに頷き合うとすぐさま周囲に注意を払う。
亀の魔神どもは今、空中で飛び回るパメラに群がっていたが、地上にいる俺たちを見ると降下してきやがった。
ちょうどいい。
俺のバーンナップ・ゲージやティナのハーモニー・ゲージは、敵との攻防を繰り返すことでエネルギーが蓄積されていく。
連中を相手にすることで満タンを目指せるってわけだ。
「バレットさん。今のうちにライフの回復を」
そう言うとティナは俺の背後で銀環杖を振り上げる。
だがティナが俺に回復魔法をかけようとしたそこで再び大音響が響き渡り、思わずティナは身をすくめた。
「フォォォォォォッ!」
両腕の自由を取り戻したアルシエルは今、幾度も首を振って自分の頭髪に絡みついているロドリックをようやく振り落としたところだ。
そこでアルシエルの頭上に大きな光の輪が発生する。
途端にとんでもない魔力の波が空から降って来て、俺たちがいる辺り一帯の広範囲へと広がっていく。
な、何だ?
【魔神魔法:不可逆結界】
アルシエルの胸元に巨大なコマンド・ウインドウがそう表示された。
発生した魔力の波は空気を揺らし、俺の肌を舐めるようにして消えていく。
ティナも同じものを感じたようだが、これといった異変は体に起きていないようだ。
今のは一体……何だったんだ?
そのままティナは神聖魔法を敢行する。
「母なる光」
銀環杖から桃色の光が溢れ出し、俺の体に降り注いだ。
だが……残り40%ほどになった俺のライフはまったく回復しない。
【回復機能の無効領域内のため、回復不能です】
「へっ? ど、どういうことですか?」
驚きに目を見開くティナをよそに、俺はアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出して飲んでみる。
だが同じ表示がコマンド・ウインドウに現れ、ライフは一切回復されなかった。
チッ……マジかよ。
「どうやらアルシエルの魔神魔法とやらのせいだろう。不可逆領域とか言っていたな。どのくらいの範囲が有効なのかは分からねえが、この辺り一帯にいる限り回復手段は失われたと思っていい」
「そ、そんな……バレットさん。ライフがもう残り半分切っちゃってるじゃないですか」
唖然としてそう言うティナだが俺は拳を握り、鼻を鳴らすと頭上を見上げた。
「フンッ。条件はロドリックの奴も一緒だ。それよりおまえはあのサムライ女を何とかしろ。今はああして亀どもと斬り合ってるからいいが、今のあいつにこっちを攻撃されたらマズイことになるぞ」
パメラはすでに体のあちこちがバグッた状態でヒドイことになっている。
それでも白狼牙を振るい亀どもを斬りまくるその姿にティナは唇を噛んで言った。
「パメラさんは私が絶対に助けます」
そこで俺たちの前に続々と亀どもが押し迫って来た。
奴らは地面スレスレの低空飛行で俺たちを切り刻みにかかる。
俺は左足を振り上げ、ティナは銀環杖を掲げた。
「電撃間欠泉!」
「高潔なる魂!」
今、持ち得る力を全て取り戻した俺とティナの反撃が始まった。
【ティナ・ミュールフェルトに修復術プログラムVer.2を再インストールします】
コマンド・ウインドウにそう表示されると、すぐに俺の額が熱くなる。
おそらく【魔】の字がこの額に浮かび上がっているはずだ。
俺は自分の前髪をかき上げ、額を露わにする。
目の前ではティナが緊張に顔を紅潮させて口を引き結んでいた。
俺はそんなティナの額に自分の額をくっつける。
ティナの引き結んだ口の中からわすかに声が漏れた。
「んっ……」
くっつけた額同士が熱い。
そしてティナの口から漏れる吐息が俺の鼻をくすぐった。
【再インストール中:25%……50%……】
早く終われ。
もどかしいぜ。
アルシエルの奴は今のところまだおとなしくしてくれているが、下からはパメラやロドリックが迫り来る亀どもと争う物音が聞こえてくる。
それは徐々にこちらに近付いていた。
こういう状況になってみると、アルシエルの眷属である亀の魔神どもがわんさか湧いてくれるのは逆にありがたい。
あいつらがロドリック達の邪魔をしてくれているからな。
だが、それもいつまで持つかは分からない。
この状態で背中から襲われたらひとたまりもねえぞ。
【75%……90%……インストール完了】
そこでティナの額から【封】の文字が消えて代わりに【天】の文字が浮かぶ。
修復術が再びティナの体に宿った証拠だ。
だが、本番はここからだ。
【天魔融合プログラムおよびティナ・ミュールフェルトの天網恢恢システム並びにバレットの紅蓮燃焼システムの使用許諾。再インストール開始】
ようやくだな。
一度手にした力が再び戻って来る。
そう実感する俺の目の前で、頬を紅潮させてキュッと目を閉じているティナが呟きを漏らした。
「……バレットさん。今後も私と組んでくれるんですか?」
「フンッ。そんなことは今日を生き残ってから気にするんだな」
「生き残るつもりですから。今のうちに聞いておきたいんです」
チッ。
こんなときに面倒くせえ小娘だな。
「……おまえが持ち込む厄介事を乗り越えられないようなら、俺はその程度の男だと気付いたんだよ」
「何ですかソレ。厄介事だなんて。まったくもう」
そう言うとティナは唇を尖らせる。
「コンビ解消とか言ってたくせに。私、けっこう傷ついたんですよ。あんなこと言われて……」
「は? そんなこと言ったか? 言ってねえだろ。一言もな」
「……いや、言いましたよ。トボケないで下さい。もう。でも……私も意固地になってました。自分の主義主張ばかりをバレットさんに押し付けていたんです。今のままじゃ天使長様には遠く及びませんね。実力はもちろん。人格でも。バレットさんと一緒にいれば私ももっと色々なことを学べるんじゃないかと今は思います」
そう言うと額同士を重ね合わせたままティナは目を開けた。
【インストール中:60%……70%……】
「バレットさん。これからも私と……きゃっ!」
「うおっ!」
その時突然、俺たちの足場がガクンと傾き、俺とティナは後方に投げ出された。
くっ……何だ?
「フォォォォォッ!」
眠り薬の効果が消えて、アルシエルが目覚めやがったんだ。
奴は頭の上の俺たちを振り落とそうと激しく首を振る。
俺は咄嗟にアルシエルの髪を掴んで振り落とされないようにした。
ティナの奴も同様に俺の近くの髪にしがみついて声を張り上げる。
「ぎ、儀式が中断されてしまいました!」
【インストール中断中:80%】
くそっ!
あと少しだってのに!
そしてさらに悪いことに後方からロドリックの奴がいよいよ迫ってきやがった。
奴は亀どもを強引に振り切って飛んで来たのか、体中が傷だらけになりながらアルシエルの頭髪をかき分けて俺に飛びかかってくる。
「バレットォォォッ!」
ロドリックはその声に執念深さを滲ませて叫ぶ。
奴もいよいよ必死だ。
こっちも死の物狂いでやらねえと、押し負けちまう。
仕方なく俺は羽を広げて奴を迎え撃とうとした。
だが、そこでティナがふいに俺の背中にくっついて来やがる。
「おいっ! 邪魔すんな!」
「高潔なる魂!」
ティナは俺の腋の下から銀環杖を突き出すと、その先端から高潔なる魂を放った。
それは突っ込んで来たロドリックを至近距離から直撃する。
「ぐうっ!」
全力で突っ込んで来ていたことが災いし、ロドリックはこれを避け切れずに浴びてしまった。
ロドリックの奴も俺と同じ悪魔だから当然のごとく闇属性であり、ティナの極端に高い光属性を持つ神聖魔法はひどく効きやがるはずだ。
その証拠にロドリックの動きが一瞬だけ止まった。
俺はその隙を突いて奴の胸に思い切り前蹴りを喰らわせてやった。
「オラアッ!」
「ぐはっ!」
ロドリックは後方に吹っ飛んでいき、アルシエルの頭髪に絡みつくようにして止まった。
それを見たティナが声を上げる。
「バレットさん! 今です! 何としても再インストールを完成させるんです!」
ティナが断固たる口調でそう言うと同時に、アルシエルが首をブンッと降りやがった。
そこでティナの奴が俺にしがみつき、後方に俺の体を引っ張った。
「フンッ!」
俺はアルシエルの頭髪を握る手を放し、そのまま宙を落下する。
そして空中で真っ逆さまになりながらティナの体を抱き寄せ、額同士をくっつけ合わせる。
とにかくもう必死の状況で、ティナも喚き声一つ上げずに俺にしがみつき、ほとんど顔をくっつけるようにして額を合わせた。
【再インストール再開:85%……90%……】
俺もティナも羽や翼を広げず、浮力に頼らず重力に身を任せるまま落下する。
そんな俺たちを斬り裂こうと亀どもが襲いかかって来るが、奴らの攻撃は俺たちを捉えることなく次々と左右前後をすり抜けていく。
だが、当然のようにグングン地面が迫って来る。
このままだと頭から地面に激突して首が折れちまう。
それでも俺たちは構うことなく儀式を続けた。
ここまで来たらもう中断なんてしてたまるかよ!
【再インストール中:95%……100%】
「バレットさん!」
「よしっ!」
俺とティナは同時に羽と翼を広げて地面への激突を回避する。
浮力による制動が急激にかかり、俺もティナも歯を食いしばってそれに耐える。
そして地面のギリギリのところで勢いがようやく止まったものの、それでも完全に浮遊することは出来ずに俺は背中を地面に打ち付けた。
「イテッ!」
「あうっ!」
ティナの奴はうまいこと俺の体の上でバウンドして無傷で地面に着地した。
落下ダメージを負ったのは俺だけだ。
「チッ。俺を下敷きにしやがって……」
「ま、まあまあ。でもホラ。見て下さい」
そう言うティナの頭上にはコマンド・ウインドウが開かれた。
【再インストール完了:天網恢恢スタンバイ】
俺の頭上にも同様にコマンド・ウインドウが開かれて紅蓮燃焼システムがスタンバイ状態になったことを示している。
そして俺の視界にライフ・ゲージとは別のゲージが出現した。
来たぜ。
バーンナップ・ゲージだ。
こいつを満タンにすれば紅蓮燃焼が使えるようになる。
ティナのライフ・ゲージの下にも俺と同じようにハーモニー・ゲージが記されていた。
俺とティナは互いに頷き合うとすぐさま周囲に注意を払う。
亀の魔神どもは今、空中で飛び回るパメラに群がっていたが、地上にいる俺たちを見ると降下してきやがった。
ちょうどいい。
俺のバーンナップ・ゲージやティナのハーモニー・ゲージは、敵との攻防を繰り返すことでエネルギーが蓄積されていく。
連中を相手にすることで満タンを目指せるってわけだ。
「バレットさん。今のうちにライフの回復を」
そう言うとティナは俺の背後で銀環杖を振り上げる。
だがティナが俺に回復魔法をかけようとしたそこで再び大音響が響き渡り、思わずティナは身をすくめた。
「フォォォォォォッ!」
両腕の自由を取り戻したアルシエルは今、幾度も首を振って自分の頭髪に絡みついているロドリックをようやく振り落としたところだ。
そこでアルシエルの頭上に大きな光の輪が発生する。
途端にとんでもない魔力の波が空から降って来て、俺たちがいる辺り一帯の広範囲へと広がっていく。
な、何だ?
【魔神魔法:不可逆結界】
アルシエルの胸元に巨大なコマンド・ウインドウがそう表示された。
発生した魔力の波は空気を揺らし、俺の肌を舐めるようにして消えていく。
ティナも同じものを感じたようだが、これといった異変は体に起きていないようだ。
今のは一体……何だったんだ?
そのままティナは神聖魔法を敢行する。
「母なる光」
銀環杖から桃色の光が溢れ出し、俺の体に降り注いだ。
だが……残り40%ほどになった俺のライフはまったく回復しない。
【回復機能の無効領域内のため、回復不能です】
「へっ? ど、どういうことですか?」
驚きに目を見開くティナをよそに、俺はアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出して飲んでみる。
だが同じ表示がコマンド・ウインドウに現れ、ライフは一切回復されなかった。
チッ……マジかよ。
「どうやらアルシエルの魔神魔法とやらのせいだろう。不可逆領域とか言っていたな。どのくらいの範囲が有効なのかは分からねえが、この辺り一帯にいる限り回復手段は失われたと思っていい」
「そ、そんな……バレットさん。ライフがもう残り半分切っちゃってるじゃないですか」
唖然としてそう言うティナだが俺は拳を握り、鼻を鳴らすと頭上を見上げた。
「フンッ。条件はロドリックの奴も一緒だ。それよりおまえはあのサムライ女を何とかしろ。今はああして亀どもと斬り合ってるからいいが、今のあいつにこっちを攻撃されたらマズイことになるぞ」
パメラはすでに体のあちこちがバグッた状態でヒドイことになっている。
それでも白狼牙を振るい亀どもを斬りまくるその姿にティナは唇を噛んで言った。
「パメラさんは私が絶対に助けます」
そこで俺たちの前に続々と亀どもが押し迫って来た。
奴らは地面スレスレの低空飛行で俺たちを切り刻みにかかる。
俺は左足を振り上げ、ティナは銀環杖を掲げた。
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