どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第四章 『魔神領域』

第19話 取り戻した力

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 魔神の王アルシエルを縛る最後の頸木くびきが外れるまで、おそらくあと3分ほどだ。
 俺の体内時計が狂っていなけりゃな。
 その時を待ちわびるかのように、アルシエルの眷属けんぞくである亀の魔神どもがせわしなく辺りを飛びっている。
 その動きはかなり速いが、動きに一定の法則があるため、それを見切ればかわすことはそこまで難しくはない。
 俺とティナはたがいの背中を守るように背中合わせになりながら、亀どもをかわし反撃を加えていく。

電撃間欠泉スタンガン・ガイザー!」
高潔なる魂ノーブル・ソウル!」

 地面から立ち上る雷を浴びてひっくり返る亀どもに、ティナの姿をかたどった桃色の光が浴びせられダメージを与えていく。
 かなり甲羅こうらの固い連中なので、一撃で倒すことはほぼ不可能だった。
 だが、こいつらをいくら倒したところで半壊した城の地下からはわんさかいてきやがるからキリはない。

 別に倒す必要はねえんだ。
 俺とティナの目的は別にある。
 攻防を繰り返すうちに俺のバーンナップ・ゲージとティナのハーモニー・ゲージはそれぞれ3分の1ほどのところまでエネルギーが蓄積ちくせきされつつあった。
 これを満タンにするのが俺たちの目的だ。

「ロドリックの奴はあのアルシエルの頭の上のあなからトンズラしようとしていやがったのか」
「はい。私を連れて、あそこを目指していましたが、アルシエルに邪魔されてうまくいかずに苛立いらだっていました。あのあなは私がふさぎます。あれが消えれば敵の脱出手段は無くなりますから」

 アルシエルの頭上にいまだ広がるあなはバグで揺らいでいた。
 不正プログラムによって空間に強引にあなが開けられているんだ。
 ティナの修復術があればふさげるが、あれほど巨大なあなだと時間がかかるだろう。
 だがティナのゲージが満タンになり天網恢恢カルマ・モードが発動すれば、おそらく一瞬で消し去れる。
 それくらい能力増強ブーストした状態のティナの修復術は凄まじい。

 そして俺の目的は、今アルシエルの上半身の辺りを飛んでこちらに向かって来ようとしているロドリックとの決着だ。
 あいつは亀どもにはばまれてこっちに向かってくるのに時間がかかっているが、それでもここまで辿たどり着くのに1分とかからないだろう。
 そうなる前にバーンナップ・ゲージをめるのはさすがに無理だ。
 奴とやり合いながら満タンを待つしかない。
 そして懸念けねんはもう一つ。

「早く……パメラさんを助けないと」

 ティナは神妙な声でそう言った。
 そうだ。
 今もまだパメラは宙を舞いながら亀の魔神どもを斬り裂いている。
 その動きはすばやく、どれだけ亀どもが群がって来ようがパメラを傷付けることは出来ない。
 だが、だからといってパメラは無傷ではなかった。
 白狼牙はくろうがの無茶な動きについていけないその体が悲鳴を上げているんだ。

 あいつは肺の病を抱えて5分しか戦えない体だ。
 だというに白狼牙はくろうがに引っ張られて、かれこれ20分以上戦い続けている。
 その口から血を吐いたのか、白い羽織の胸元が赤く染まっていた。

「あのままじゃ……パメラさんが死んでしまいます!」

 ティナの悲痛な声がこだまする。

「パメラはあの速さで動いている。今のあいつに正常化ノーマリゼイションを当てることが出来るか?」
「い、いえ。私にはとても……」
 
 そう言うとティナは悔しげに足を踏み鳴らした。
 フンッ。
 またこいつの悪いくせが出やがった。
 今こいつはパメラを助けたくて仕方ねえんだ。
 そのせいであせりが出ている。
 
「……チッ。ついて来い。俺がパメラの動きを止める。そのすきにやれ」
「……バレットさん? は、はいっ!」

 飛び上がる俺は亀どもの規則的な動きをかわしていき、ティナもそれにならって俺について来る。 
 上昇するにつれ、魔物の姿に変わり果てたパメラの姿が近付いて来る。
 今のパメラを一時的にでも止めることが出来るか正直分からん。

 だがパメラは俺たちにとっても不安要素だ。
 あいつに下手な動きをされると困る。
 ロドリックとやり合っている最中に後ろからブスリとやられたら、たまったもんじゃねえ。
 何にせよロドリックも迫って来るし、速攻で決めるしかない。

「パメラ!」

 そう叫ぶと俺はアイテム・ストックから再び煙幕弾を取り出してそれをパメラに投げつけた。
 俺の声に反応してこちらを向いたパメラは即座にそれを斬り捨てる。
 途端とたんに白い煙がパメラの周囲を包み込み、視界をふさぐ。
   
「ま、また眠り薬ですか?」
「いいや。単なる煙幕だ。パメラを眠らせたところで動いているのは白狼牙はくろうがだから無意味だしな」

 そう言うと同時に俺は近くに飛んできた亀の魔神を灼焔鉄甲カグツチで受け止める。
 ガツッという衝撃を受け切れずに俺は後方にのけ反るが、その瞬間に亀の野郎の腹を蹴り上げてパメラの方向へ飛ばす。
 同時に俺は全力で方向転換をして飛ぶと、パメラの後方に回り込むようにした。
 煙幕の中に影となって見えるパメラは、向かってくる亀を斬り捨てる。

 そのすきを見て俺は一気にパメラに突っ込んだ。
 だが背後からパメラにつかみかかろうとした瞬間、白狼牙はくろうがを握るあいつの腕が信じられないことに後ろ向きに曲がり、その切っ先がこちらに向かってきやがったんだ。
 その無理な太刀筋たちすじのため、パメラの肩関節が外れて、腕が不自然に後方へ向いていた。

 くっ!
 避け切れねえ!  
 その瞬間だった。

「パメラさん!」

 ティナの声が響き渡り、その声を聞いた途端とたん、パメラの太刀筋たちすじがわずかににぶったんだ。

「くうっ!」

 おかげで俺はギリギリのところで白狼牙はくろうが灼焔鉄甲カグツチで受け止めることが出来た。
 だが、バグにまみれた白狼牙はくろうがを受け止めたことで、忌々いまいましいことに灼焔鉄甲カグツチにもバグが感染し始めやがった。
 くそったれ!
 そこでさらにティナの声が響く。

「負けないで下さいパメラさん! お姉さんを……アナリンさんを超えるサムライになるんでしょ!」

 アナリンという言葉を聞き、パメラの肩の関節を外してまで俺を攻撃してきた白狼牙はくろうがの力が明らかに弱まる。
 こいつ……こんな有り様になりながらまだ自我の欠片かけらを残している。
 俺は即座に白狼牙はくろうがを打ち払うと、そのまますばやくパメラに組み付いた。
 その体を後ろから羽交はがめにするが、小さなナリからは信じられないような強い力でパメラは俺を振りほどこうとする。 

「ウガァァァッ!」

 だがそこで煙幕をかき分けてティナの奴が俺たちの眼前へとおどり出た。
 必死に亀どもを避けてここまで来たティナは、鬼気迫る表情で銀環杖サリエルを振り上げる。

正常化ノーマリゼイション!」

 銀環杖サリエル宝玉ほうぎょくから降り注ぐ青い光が俺とパメラを包み込む。
 不正プログラムの感染でバグり始めていた俺の灼焔鉄甲カグツチから揺らぎが消えていき、同時にパメラの体と白狼牙はくろうがからもバグがきれいさっぱり消えていく。
 見事なもんだ。
 今更いまさらながら、これは現時点ではティナにしか出来ない唯一無二の技術だと実感する。

 不正プログラムの呪縛じゅばくから解放されたパメラの体から力が抜けていき、その手から白狼牙はくろうががスルリと抜け落ちていく。
 刀身を赤く染めたままの白狼牙はくろうがは切っ先から地面に突き立った。
 途端とたんにパメラのくちばしや赤い翼、そして体中から生えていた黒い羽毛が消えていき、パメラは元の姿を取り戻した。

 白狼牙はくろうがを手放したから元に戻れたってことか。
 やはりこいつは白狼牙はくろうがに操られていたんだ。
 無理に戦わされていた体はすっかり憔悴しょうすいし、疲労度は真っ赤に染まっている。
 そのライフはもう残り10%もない。
 パメラはショック状態となり意識を失っていた。
 俺の腕の中で目を閉じたまま瀕死ひんしの状態となっているパメラを見てティナは心配そうに口元をふるわせる。

「パメラさん……」

 回復させようにもアルシエルの不可逆結界の中ではその手段がない。
 
「ティナ。おまえはパメラを連れて適当なところに避難してろ。どうせおまえはコイツを見捨てることは出来ねえんだろ」
「そ、それはそうですが……」
「俺はあいつの相手をしなきゃならん」

 そう言うと俺はティナにパメラを預け、頭上を振り仰いだ。
 ロドリックの奴はアルシエルの腕をかいくぐりながら同時に亀の魔神を倒していよいよ俺の目前まで迫ってこようとしている。
 なかなかタフな状況だってのに、あいつは自分の目的を果たすために揺るぎなく一貫した行動を見せていた。
 敵ながら見上げた根性だぜ。
 
 ティナはパメラを抱えたまま後方へと下がっていく。
 城の残骸ざんがいが転がっている辺りなら、身を隠す場所がありそうだ。
 ティナは後方から俺の背中に向けて声をかけてきた。

「バレットさん! 勝って下さいね! 私、バレットさんが勝つって信じてますから!」

 フンッ。
 余計なお世話なんだよ。
 勝つに決まってんだろ。

 俺はただ右手を上げてその声に応えると地上に降下した。
 そこでロドリックを待ち受ける。
 空中だと亀どもが鬱陶うっとうしいし、地上ならアルシエルは腕を上から振り下ろすしかなくなるから避けやすい。
 
 見るとロドリックの奴はすでひとみの色も元の藍色あいいろに戻っていて、そのライフの減少も止まっていた。
 アルシエルの不可逆結界に気付いて一度、能力増強ブースト状態を解いたんだろう。
 ライフの回復手段が失われた以上、ライフの無駄遣むだづかいは死に直結する。

 ま、ああいうのはここぞという時に使うもんだからな。
 俺は自分の視界の中に映るバーンナップ・ゲージを確認する。
 それはようやく半分ほどまで蓄積ちくせきされたところだ。
 このゲージはライフゲージとは違って相手には見えない。
 俺とティナはおそらくこれを手にする経緯が特殊だったため、それぞれたがいのゲージが見える仕様になっているようだがな。

凍塊魔鎚フローズン・ハンマー!」

 ロドリックは頭上から落ちてくるその勢いのまま、必殺のかかと落としを打ち落としてくる。
 俺は後方に下がってそれを避けるが、奴は地面スレスレで技をキャンセルして着地すると、真正面から俺に突っ込んできて蹴りを浴びせてくる。
 と見せかけてフェイントの突きを繰り出してきた。

「フンッ!」
「チッ!」

 俺は奴の拳を灼焔鉄甲カグツチで受け止める。
 ガツッという衝撃に足を踏ん張って耐え、ロドリックと至近距離でにらみ合った。

「バレット。あの天使の小娘……力を取り戻したようだな。どうやったか知らんが、こざかしいマネを」
「フンッ。あいつはあれでなかなかしぶといんだよ。ただの非力な小娘だと思ってたら痛い目見るぜ」

 先ほど実際にこいつはティナの高潔なる魂ノーブル・ソウルを浴びて手痛いダメージを負った。
 そのせいもあり、ライフは残り半分を切っている。
 まあ、こっちも40%を切っているから俺のほうが若干じゃっかん不利だがな。
 
「さあ。最終ラウンドといこうぜ。あのデカブツが暴れ出すまでもう2分ちょっとだ。さっさと俺を片付けねえと面倒なことになるぜ? 最初から全力で来いよ。ロドリック」

 俺はロドリックと至近距離でにらみ合い、たましいを込めた拳の一撃を繰り出した。
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