どうせ俺はNPCだから 2nd BURNING!

枕崎 純之助

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第四章 『魔神領域』

第20話 奥の手 vs 切り札

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「フォォォォォッ!」

 魔神の王アルシエルは自分の胴を縛りつける最後の頸木くびきである漆黒しっこくくさりを断ち切ろうともがく。
 だが、まだ自らの役割を終えていないくさりはアルシエルの体を縛りつけている。
 そのくさりが耐えられるのはあと2分ほどだ。
 その状況下で俺とロドリックは決死の表情でたがいに打ち合う。

「うぉぉぉぉっ!」
「ぬぅぅぅぅっ!」

 そこで俺たちの頭上からアルシエルが拳を振り下ろしてきた。
 俺とロドリックはそれぞれ後方に下がってこれを避けるが、巨大なアルシエルの拳が地面をえぐり、地響きとともに土煙が舞い上がる。
 俺はその土煙の中にあってもロドリックを見失わずにアルシエルの拳を回り込むようにして向かっていった。
 
 ロドリックは得意の蹴り技と氷撃魔旋棍フレーズヴェルグで果敢に俺を攻め立てる。
 奴とて時間が惜しいだろう。
 胴に巻かれたくさりが解き放たれれば、アルシエルは自在に移動を始める。
 ここまでフラストレーションをため込んで来たアルシエルだ。
 腕の2本が自由になっているだけの今とは段違いの苛烈かれつな攻撃を繰り出してくるはずだ。

 そうなる前に決着をつける。
 それが俺とロドリックの共通認識だった。
 それをいち早く実行に移したのはロドリックだった。 
 再び奴の体から吹き荒れる氷のあらしが巻き起こる。

氷嵐ブリザート・ガスト……」

 俺は肌を突き刺す冷気に歯を食いしばった。
 だが、そこで俺は目を見張る。
 以前に製鉄所で見せた時よりもさらに氷のあらしは盛大で、それを発しているロドリック自身も瞳のみならずその全身の肌が雪のように白くなっていく。
 以前には無かったエフェクトだ。
 そしてその体から猛烈な冷気を噴き出すロドリックがカッと目を見開いた。
 
「……死王デッド・キング

 そう言って見開かれた奴の白い目が真っ赤に染まり、そこから血の涙があふれ出る。 
 さらには真っ白な肌のそこかしこから血が噴き出し始めた。
 白過ぎる肌とそれをらす真っ赤な鮮血。
 赤と白のコントラストがいかにも不気味で異様な姿と化したロドリックのライフゲージから、先ほどまでよりもさらに早いスピードでライフが減少していく。

「奥の手ってわけか……!」

 そこで奴は一瞬で俺と間合いを詰めてきて、俺の右の脇腹をねらって蹴りを繰り出して来た。
 それはとてつもなく鋭い一撃だったが、速さと攻撃の強さは先ほどと大きくは変わっていないので、慣れ始めていた俺はギリギリのところで防御は出来る。
 だが、それを右の灼焔鉄甲カグツチで受け止めたはずの俺の右脇腹が白く凍り付き、冷たい痛みが走った。

「ぐうっ……何だこりゃ」 

 痛みは脇腹だけに留まらず、灼焔鉄甲カグツチを装備した右腕もひどく冷たい痛みにさいなまれている。
 まるで攻撃を受け止めた灼焔鉄甲カグツチを冷気だけが通り抜けて、腕と脇腹に凍傷のダメージを与えたみたいだ。
 そしてそこからロドリックは息もつかせぬ連続攻撃を仕掛けてきた。
 俺はそれを必死に防御するが、そのたびに体のあちこちに冷気を浴びてライフが減っていく。

 くそっ!
 防御してるのにダメージを受けちまう。
 俺のライフは容赦ようしゃなくけずられ、残り30%を切った。
 だが、ロドリックも自身のライフが先ほどまでよりずっと早く減少しているせいで、残り40%を切っている。

 氷嵐死王ブリザード・ガスト・デッド・キング
 これは互いに死を早めるものの、戦いの早期決着にはうってつけの奥の手だ。
 ロドリックも普段ならば出来れば使いたくない本当に最後の禁じ手なんだろう。
 ライフの減少が目に見えて早く、あいつ自身にもリスクが大き過ぎるからな。

 だが何にせよ、このままいけばロドリックより俺のライフのほうが早く尽きるのは目に見えている。
 頼みのつなとなる紅蓮燃焼スカーレット・モードだが、バーンナップ・ゲージはまだ6割ほどがようやく貯まったばかりだ。
 ロドリックの攻撃を必死に防御するたびにケージは貯まるが、俺のライフが減る方が早い。
 このままだとバーンナップ・ゲージが満タンになる前に俺のライフが尽きちまう。

 くそっ!
 とんだ計算違いだ。
 今のまま打ち合えば負ける。
 どうする?

 追い詰められたその時、頭上から再びアルシエルの腕が振り下ろされるのを見た俺はハッとひらめいた。
 アルシエルの拳は俺たちを叩きつぶそうとして地面をくだく。
 俺とロドリックはそれを避けるが、俺は咄嗟とっさにアルシエルの腕にしがみつき、アルシエルが引き上げる拳にくっついたままその場を離脱した。
 そして俺はアルシエルの顔近くまで引き上げられた奴の腕から離れて宙に身をおどらせる。
 そして魔力を込めて両手に炎を宿す。

灼熱鴉バーン・クロウ!」

 俺が得意の飛び道具を放った先はロドリックではない。
 アルシエルだ。
 炎のからすはアルシエルの顔面にぶち当たって消える。
 もちろんアルシエルには大したダメージはないが、それによって俺のバーンナップ・ゲージが先ほどまでより大きく蓄積ちくせきされる。

 このゲージの特性として通常攻撃や防御の時よりも、スキルを使った攻防のほうがエネルギーが多く貯まるんだ。
 俺はそのまま連続してアルシエルの顔面に灼熱鴉バーン・クロウを放った。
 地上にいるロドリックは俺の不審な行動にまゆを潜めるが、すぐに上空へ飛び上がって俺を追ってきた。
 今の奴は速く、飛びう亀どもにもとらえられることなく上空までほぼ一瞬で舞い上がってきた。

「時間かせぎか? 俺のライフ減少待ちとは見苦しいぞバレット」

 そう言うとロドリックは宙を舞いながら次々と氷風隼フロスト・ファルコンを放ってくる。
 鋭く撃ち出されたそれを避け切れずに俺は防御するが、灼焔鉄甲カグツチを通り抜けて冷気が腕や胴を痛めつけてくる。

「くっ!」

 それでも相手のスキルを防御することでバーンナップ・ゲージは通常防御よりも多く貯まっていく。
 ここから先は駆け引きだ、
 ダメージを極力減らしつつ、バーンナップ・ゲージをいかに早く満タンに出来るか。
 
魔刃脚デビル・ブレード!」

 周囲を飛び交う亀の魔神どもを俺は魔刃脚デビル・ブレードで蹴りつける。
 切れ味が自慢の俺のスキルだが、口惜しいことに亀の魔神を斬り裂くことは出来ない。
 パメラの白狼牙はくろうがはいとも容易たやすくコイツらを斬り裂いていたがな。
 だが、それでもいい。
 俺は魔刃脚デビル・ブレードで亀どもをロドリックの方向へ蹴り飛ばした。
 
「こざかしいぞっ!」

 ロドリックは次々と向かってくる亀どもを氷撃魔旋棍フレーズヴェルグで叩き落とす。
 俺は振り回されるアルシエルの腕を注意深く交わしながら次々と亀どもをロドリックに向けて蹴り飛ばす。
 ロドリックもアルシエルの腕をかわしながら、さらに向かってくる亀どもを叩き落として応戦していた。
 そうしている間に俺のバーンナップ・ゲージは85%まで蓄積ちくせきされていく。

 これだ。
 ロドリックの奴を出し抜いて勝つためなら、今ここにある状況を何でも利用してやる。
 それが亀の魔神だろうと魔神の王アルシエルだろうとな。
 あの小生意気な天使のガキが見てやがるんだ。
 あいつがぐうの音も出なくなるような勝ち方をしてやるよ。

魔刃脚デビル・ブレード! 灼熱鴉バーン・クロウ!」  

 俺は亀の魔神をロドリックに向けて蹴り飛ばしながら、すぐに身をひるがしてアルシエルへ灼熱鴉バーン・クロウを放つ。
 炎のからすを顔面に受けて怒りにえながら腕を振り回すアルシエルに叩き落とされないよう細心の注意を払いつつ、ロドリックに目を向ける。
 ロドリックの奴は亀の動きにすっかり慣れたようで、飛んでくる亀どもの背中を足蹴あしげにし、渡り歩くようにして宙を舞いながら一気に距離を詰めてきた。
 
氷風隼フロスト・ファルコン!」

 奴が放った飛び道具は正確に俺の頭をねらう。
 防御するだけでダメージを負ってしまうそれを、俺は後方に頭をのけらせてギリギリのところで避けた。
 だが……。

「くっ……なにっ?」

 その一瞬で周囲への反応が遅れた俺は、のけって天をあおいだ状態の頭上から降下してきた亀の魔神への反応が遅れてしまった。
 咄嗟とっさ灼焔鉄甲カグツチで防御するが、ガツッとぶつかってきた亀の勢いに押されて叩き落とされてしまう。

「ぐうっ!」

 それを見計みはからったロドリックが一気に宙を舞って俺に組みついて来やがった。
 し、しまった!
 ロドリックはそのまま俺を羽交はがめにして真っ逆さまに落下していく。
 くそっ!
 このままじゃ受け身も取れず脳天から地面に激突しちまうぞ!
 そうなったら首が折れて即死か、運がよくても致命傷で動けなくなる。
 
「うおおおおおっ!」
「くうううううっ!」
 
 必死にもがく俺だが、ロドリックが全力でしがみついているため振りほどくことは叶わない。
 だが、地上まで残り10数メートルというところで俺の頭の中に突然、ゴォーンという低くて重いかねの音が鳴り響いた。
 途端とたんに俺の視界に文字がおどる。

【紅蓮開花】

 来た……来たぞ!
 それは紅蓮燃焼スカーレット・モードが使えるようになったことを示していた。
 必死だったのですぐに気付かなかったが、ロドリックに組みつかれた時にバーンナップ・ゲージが100%に達していたんだ。
 俺は即座に頭の中のスイッチをオンにした。

紅蓮燃焼スカーレット・モード。起動】

 途端とたんに俺の腹の底から込み上げてくる猛烈な熱を感じた。
 その感覚に任せるまま、俺は一瞬で魔力を全開にして体中から紅蓮ぐれんの炎を噴き上げる。

焔雷フレア・スパーク!」

 色あざやかな炎と弾ける電撃が体中から発せられてロドリックを吹っ飛ばす。

「ぐおおおっ!」

 そして地面に激突寸前だった俺の体は自ら発した紅蓮燃焼スカーレット・モード状態の焔雷フレア・スパークによって地面をえぐり、衝突の衝撃をほぼゼロにすることが出来たんだ。

「ふぅっ……本当にギリギリだったぜ」

 受け身を取った俺はすぐに起き上がると、体からき上がる力を確かめるように拳を握り締めた。
 紅蓮燃焼スカーレット・モード
 一時的だが俺の全ステータスを大きく上げてくれる能力増強ブーストシステムだ。
 この状態でしか使えないスキルも数多くある。

 そして100%になったバーンナップ・ゲージが再び99%へと減り始める。
 これが0になるまでの間、俺はこの力を振るうことが出来る。
 要するにこうなった時が俺の勝負時だってことだ。 

「バレット……それが貴様の切り札か」 

 ロドリックは俺の変化にその赤い血眼ちまなこを見張る。
 
「そうだ。さあ、あのデカブツが自由時間になる前にケリつけようぜ」

 そう言うと俺はロドリックとにらみ合う。 

「フォォォォォッ!」

 俺たちの頭上ではアルシエルがいよいよ我慢の限界とばかりに甲高い声を上げた。
 暴れるアルシエルの胴に巻かれた漆黒しっこくくさりがギシギシと音を立てる。
 いよいよ時間がなくなってきたぜ。
 アルシエルが解き放たれるまで、おそらくもう1分切った辺りだろう。

 奥の手を使ってきたロドリックと切り札を手に入れた俺。
 1分後に立っていられるのはどちらか。

「それはもちろん俺だ」

 そう言うと俺は体中から炎をまき散らしながらロドリックに向かって突進した。
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