だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

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第二章 光の聖女

第8話 尼さんは人気ブロガー

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 ジェネットを自宅に招き入れた僕は緊張を紛らわすため、居間のイスに腰を落ち着けるとしばらくジェネットと雑談を交わした。

「さて。ちょっと失礼してブログを起動してもよろしいでしょうか? 今日はまだ更新を済ませておりませんもので」

 小一時間ほど話した後、ジェネットは出し抜けにそんなことを言い出した。

「ブ、ブログですか?」

 超意外だった。
 ジェネット、ブログやってるのか。

『聖母ジェネットの懺悔ざんげ室』

 それが彼女のブログ名だった。
 ざ、懺悔ざんげ室って。
 字面じづらからして何だか重々しいな。

「お、お悩み相談みたいな感じですか?」

 そう尋ねる僕にジェネットは笑顔でうなづいた。

「ええ。そのようなものです。あなたも何か懺悔ざんげしたいことがあれば、お気軽にアクセスして下さい」

 そりゃまあ懺悔ざんげしたいことは山ほどありますが。
 そんなことを思いながら僕はジェネットのブログを見つめた。
 ジェネットはブログの中にある『懺悔ざんげの間』をクリックして中に入ると、そこには色々なプレイヤーから寄せられた懺悔ざんげが並んでいる。
 ジェネットはその中で3件ほど新着未読となっている懺悔ざんげをクリックした。


『新着①』
『僕は男なのですが女キャラでログインしたままゲームを続けてきてしまいました。仲の良い友達もできて毎日楽しいのですが、今度オフ会があるのです。今さら男だとは言い出せませんし、参加しないと言える流れではなくなってしまいました(泣)』


 ああ、ネカマ(ネット・オカマの略)か。
 あまりにもよくあるパターンだ。
 こうやって男バレして崩壊したプレイヤーの輪を何度も見たことあるよ。
 ジェネットはその懺悔ざんげに対して粛々しゅくしゅくと返答を書き込んだ。


『きっと神はお許しになられます。オフ会当日は女装して裏声で切り抜けましょう。ご心配なく。おそらくあなたのご友人たちは露骨なネカマキャラすら見分けられないほど曇った目をお持ちのようですから十中八九バレません』


 十中八九バレるだろ!
 いや、100%バレるから!
 しかも回答後半が辛辣しんらつすぎる(汗)。
 驚く僕を一顧だにせず、ジェネットは回答の続きを書き込んでいく。


『もし万全を期すのであれば、サクッと性転換手術というのも手です。神のご加護を』


 サクッとやるもんじゃない!
 たかだかネカマバレくらいでそこまでやる人いないから!

「よし。一件解決」

 か……解決だと?
 ジェネットは『いい仕事をした』みたいなさわやかな笑顔で次の懺悔ざんげに取りかかる。


『新着②』
『友達のプレイヤーがデス・ペナルティーで落とした貴重なアイテムを僕はコッソリ拾って自分の物にしてしまいました。友達に返すつもりだったんですが、欲に目がくらんで今も言い出せません。大事なアイテムを失って傷心の友達を見ていると罪悪感に押しつぶされそうです』


 まあ、これもあるよね。
 戦闘に負けたりダンジョンのわなにハマったりしてライフがゼロになると、死んだプレイヤーは所定の場所から再プレイを開始するんだ。
 その際、ばつとして持っていたアイテムを無作為むさくいで一つ奪われてしまう。
 それがたまたま貴重なアイテムで誰か他の人に拾われてしまったりすると、プレイヤーとしては辛いところだろう。
 それが今回のケースみたいに友人同士だったりしたら、そりゃもう友情崩壊の序曲だよ。
 この場合、時間がつほど言い出しにくくなっちゃうから、すぐにでも友人に事実を伝えて謝った方がいいよ。

 ジェネットはこの懺悔ざんげにもすぐに返答した。


『おまえの物は俺の物、というさる偉人の格言もあります』

 ブッ!
 それは偉人でも格言でもない!


『この場合、結局は二つの選択肢しかありません。物を返すか返さないか』


 ふむふむ。
 それはそうだ。


『しかし罪を告白すればあなたは楽になるかもしれませんが、ご友人は傷つくでしょうし、そんなご友人を見て結局はあなたも傷つくでしょう』


 おっ?
 これは罪悪感を抱えたまま生きることこそがつぐないというパターンか?


『ですからあなたは何も言わずに今すぐゲームを一度終了し、現金紙幣を封筒に入れます。金額は今あなたが感じている罪悪感の程度にお任せします。そして善意の第三者を装って、ご友人の自宅の郵便受けにその封筒をそっと投函とうかんしましょう』


 ブッ!
 新しいパターン!
 現金て(汗)。

「じ、自宅のポストに現金が入っていたら誰でもあやしみますよ!」

 思わずそう声を上げる僕をチラリと見るとジェネットは「その点はご心配なく」と言って返答の続きを書き込む。


『封筒の裏に必ず虎覆面レスラーよりと書くように。これで相手の警戒心が解けます』


 解けません!
 孤児院に援助を送るあの人か!


『おまえの物は俺の物。ただし金は払う。これでご友人もホクホク、あなたも気が楽になり万事解決です。神のご加護を』


 くぅ。
 さる偉人が急に生々しく感じられるぞ。
 おそらくあきれ顔をしているであろう僕のことは気にせず、ジェネットは最後の懺悔ざんげに取りかかる。


『新着③』
『恥ずかしくて18禁のエッチな同人誌が買えません』


 もはやこのゲームの話題ですらない!


『サンタさんにお願いしてみましょう。神のご加護を』


 18禁が買える大きなお友達のところにはサンタさん来ませんから!

「今日はこんなところですかね」

 一仕事終えて清々すがすがしい表情でジェネットはそう言う。
 い、いいのかこれで?

「あの、シスター」

 おずおずと声をかける僕にジェネットは視線を向けてくる。

「何でしょうか?」
「この懺悔ざんげ室、人気あるんですか?」

 言っちゃ悪いけど、こんなヘンテコな回答ばかりのところに多くの人が相談するとはとても思えない。

「いえ。せいぜい1日に2、3人のザンゲストたちが訪れるだけです」

 だろうね。
 ってか相談者の人達をザンゲストって呼ぶのか。

「ただブログのアクセス数は一日に千件ほどあります」

 マジか。
 一体何がそんなに人を惹きつけるんだろうか。
 僕は気になって自分でも彼女のブログにアクセスして、その中を確認する。

 このブログには『懺悔ざんげの間』の他に3つの項目があるみたいだ。
 一つ目はジェネットが日々の出来事をつづる『あまさん日記』。
 二つ目は『典礼の間』となっていて、僕がそこをクリックすると、『パスワードを入力して下さい』という認証画面が表示される。

 パスワード?
 何だろう。
 僕は何とはなしにジェネットの名を『Jennette』と入力した。

『パスワードが間違っています。認証に失敗しました』

 そういう警告メッセージが表示される。
 そりゃそうか。
 あまりにも安直だったね。
 そんな僕にジェネットは少し申し訳無さそうに言う。

「ごめんなさい。そこは運営本部に認められた会員の方しか入ることが出来ないんです。内容についても秘匿ひとくの義務が課せられているので、お話しすることは出来なくて」
「いや、いいんですよ。勝手にすみません」

 ジェネットにも人に言えない事情があるのは当然だし、そこはあまり詮索せんさくするべきじゃない。
 どうやったら会員になれるのか分からないけど、ジェネットの様子を見る限りあまり立ち入ったことは聞かないほうが良さそうだな。
 ただ、ジェネットのブログの会員というのが何のために集まったどんな人たちなのだろうかと、その点だけは少し気になったけどね。

「次の項目は会員ではない方も閲覧えつらん可能ですから。お気軽にどうぞ」

 そう言うジェネットに、僕は三つ目の項目『今日の一枚』をクリックしてみた。
 その中身はジェネットの様々な写真を集めたフォトページだった。

 むぅ。
 これは。
 中にはセクシーグラビア風の写真まである。
 しかし何だろう。
 どこか違和感のある写真だなぁ。
 僕がそのページを見ている間もジェネットは話を続けていた。

「恐らくアクセスしてくれる大多数の人達は、懺悔ざんげしたくても勇気の出ない潜在的なザンゲストなのでしょう」

 いえ。
 アクセスしてくれる大多数の人達はこのちょっとエッチなグラビア目当てだと思います。

「このブログ、シスターが立ち上げたんですか?」

 僕は不思議に思ってそう尋ねた。
 この写真集みたいなページを清廉せいれんなジェネットが作成したとはとても思えない。

「いえ。このブログはある運営の方から与えられました。私の生みの親のような方です」

 やっぱり。
 ジェネット自身が作ったわけじゃないんだ。

「じゃあこの写真は?」

 そう言って僕は写真集の中からなるべく当たり障りのない一枚を表示する。

「これはどなたかが毎日提供してくれているのです」
「え? どなたかって、写真を撮ってくれたカメラマンとかじゃないんですか?」

 そう言う僕にジェネットは首をかしげた。

「カメラマン? そのような方には今までお会いしたことはありませんねえ」

 ん?
 話が見えないな。

「この写真は誰に撮ってもらったんですか?」

 そう尋ねる僕にジェネットは考え込んだ。

「写真を撮られた覚えがないんですよ。ご親切などなたかが私の知らない間に写真を撮ってここに載せてくれてるみたいですね。うふふ」
 
 へぇ。
 親切な人もいるもんですね……じゃなくて!

「それって盗撮じゃないですか! なにノンキにしてるんですか!」

 どうりでどこか違和感のある写真だと思ったよ!
 何だかジェネットの視線がカメラに定まってないし、明らかに盗撮の写真だった。

「運営の人に言ってすぐに掲載停止してもらったほうがいいですよ!」

 そう言う僕だったけど、当の本人は泰然たいぜんと首を横に振った。

「いいんですよ。これも神が私に与えたもうた試練だと受け止めます」
「そ、そんな……」
「いつどこで何をしていても神の目は私を見ているということです。誰に恥じない生き方をすればいいのです」

 神の目じゃなくて盗撮魔のファインダーですけどね(白目)。
 僕はさすがに言葉を失ったけど、これ以上追求しても暖簾のれんに腕押しだろうなぁ。
 ジェネットはこういう人なんだ。
 僕は仕方なくうなづくと時計に目をやった。

「もう遅いですし、そろそろ休みましょうか」
「ええ。そうですね」

 僕らは翌日の起動時間を決めて待機状態、まあ人間で言うところの睡眠に入った。
 結局、この日は運営側から事態の進展を伝える情報は何ひとつ入ってこなかった。
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