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第二章 光の聖女
第7話 ジェネット、うちに泊まるってよ
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主を失った闇の洞窟の中は静寂に支配されていた。
魔女ミランダが消えた。
僕にとってそれは未知の事態だった。
だって僕は洞窟のボス・ミランダを見張る役どころのNPCだから、当のミランダがいなくなってしまうことは自分の立ち位置を失ってしまうことと同じなんだ。
あの恐ろしい魔女はいつもこの洞窟の最深部に鎮座して、訪れるプレイヤーたちを次々と葬り去っては強烈にその存在感を見せつけていた。
それなのにそのミランダが消えてしまうなんて僕自身、何てコメントしたらいいのか分からないよ。
ゲームの運営サイドはこの事態をシステムエラーと断定して即座に洞窟へのプレイヤーの訪問を禁止した。
どうやら運営はミランダのコントロールを失っているようで、事態を解決しかねているみたいだった。
静まり返った洞窟の最深部で、僕と純白の聖女・ジェネットはミランダの玉座を前に立ち尽くしていた。
「まさかミランダがいなくなるなんて……」
僕がポツリとそうつぶやくと、じっと黙り込んでいたジェネットが僕に顔を向けた。
「今までこういうことは無かったんですか?」
「ええ。記録に残っている限り一度も。システムエラーなんて初めての経験ですよ」
胸の内に困惑を抱えながら僕はジェネットに目を向けた。
「こうなると僕たちに出来ることは何もないですね」
運営側からの指示はこの場での無期限の待機だった。
無期限かぁ。
いつまでかかるか分からないな。
やっぱりジェネットには帰ってもらったほうがいいかもしれない。
何もすることがないままこんな場所にいてもらうのは彼女に悪いし、何より間がもたないよ。
だけどジェネットは真剣な顔でじっと僕を見つめ返してきた。
「出来ることは何も無い……本当にそうでしょうか?」
そう言うとジェネットはふいに闇の玉座の足元にかがみ込み、何事かをつぶやいて玉座に向けて手をかざす。
すると彼女の手のひらが白い輝きを放って玉座を照らした。
下位魔法・清光霧。
ジェネットの得意とする神聖魔法だ。
闇の玉座は白く輝く霧に包まれて浄化されていく。
でもジェネットは何をしてるんだろう?
光の霧が消えるとジェネットは立ち上がった。
どうやら彼女は玉座から何かを拾い上げたみたいで僕を振り返ると歩み寄って来て、手にしたそれを差し出した。
「これを……」
彼女が差し出したそれは一枚の写真だった。
「な、何だこれ?」
僕はその写真に写る光景に我が目を疑ってしまった。
その写真にはミランダと僕が写っていたが、フレームの中に並んで立つ僕らはまるで友人のように見える。
この距離感。
こ、こんな写真いつ撮ったんだ?
僕にはまったく覚えが無かった。
そもそも僕とミランダがこんなふうに一緒に写真に収まることなどあるだろうか。
ミランダはプレイヤーたちを次々と葬り去る恐ろしい闇の魔女で、NPCである僕に話しかけたり関わろうとすることなんてあるわけない……はずだ。
驚いて言葉に詰まっている僕にジェネットは話を切り出した。
「この玉座を一目見た時に残留物の存在を感じていたのですが、やはりこうしたものが残されていましたか」
「そ、そんなことまで魔法で分かるんですか?」
驚く僕を尻目にジェネットは再び玉座に目を向ける。
「強い思念を感じたためです。玉座から闇の気配を祓い去ると、この写真が現れました。恐らくはミランダの残したものでしょう。これはあくまでも私見ですが……」
ジェネットはそう前置きをすると、じっと僕を見つめて言った。
「あなたとミランダとの間には、単なるボスとNPCとの関係を超越した何かがあったのではないかと思います」
「は、はぁ? 何を言ってるんですか?」
僕はあまりに突拍子もない話に声を上ずらせた。
「そんなことあるわけないじゃないですか。ミランダはおっかない魔女なんですよ? 他人と仲良くなることなんて絶対ありえませんよ」
でも僕がいくらそう言ってもジェネットは引こうとはしなかった。
「ではあなたの涙の意味はなんでしょうか? ミランダがこの写真を玉座に後生大事に隠していた理由は?」
「そ、それは……」
分からない。
僕は何とも答えようがなくて黙り込むほかなかった。
確かに説明がつかないことが多い。
普通に考えれば不自然なことだらけだ。
困惑する僕とは対照的にジェネットは落ち着いた口調で言った。
「今はまだ分からないことばかりですが、とりあえずは運営側の発表を待ちましょう。すぐにミランダが戻ってくるかもしれませんし」
「……そうですね」
「ですが、数日待っても何の進展も無い場合、私たちでミランダを探しましょう」
ええっ?
マ、マジですか?
唐突なジェネットの申し出に僕は困惑を覚えずにはいられなかった。
「探すって言っても……」
「手段はあります。ミランダがこのゲームの中から消えてしまわない以上は。あれだけ強い闇の気配を持っているのであれば、近くにいれば私には分かりますから」
確かにジェネットだったらそれも不可能じゃないかもしれない。
ただ、そうは言っても運営側からの指示はここでの待機だしなぁ。
「でも僕は勝手にここを出られませんし……」
「その時は私だけでも探します。私の行動は運営側から特に制限されていませんから」
断固たる口調でそう言うジェネットに僕は不思議な思いを抑えきれなかった。
「そ、そこまでしなくても」
彼女の信条はさっき聞いたから理解できるけど、一人でもミランダを捜索に行くとなるとジェネットの負担が大き過ぎる。
「いいえ。やると決めたからにはとことんやるのが私の主義ですから」
そう言う彼女に圧倒されて僕は頷いた。
「わ、分かりました。シスターのお気持ちに感謝します。けど、他に予定とかあるんじゃないんですか? あまり時間がかかるようなら途中であきらめて下さい。僕も申し訳なくなってしまいますし」
いくらジェネットが自分の信条で行動しているとはいっても、この洞窟のことはやはり彼女には本来無関係のことなんだ。
あまり時間をとらせてしまうのは心苦しいよ。
「予定があるといえばありますけど、今この状況を解決することより優先すべきことはありません。それに私はこういうことのために……」
ジェネットはそう言いかけてそこで口を閉じた。
何だろう。
何か言いたいことがあるのかな?
少しの間、黙り込んでいたけど、彼女はパッと表情を変えると話題も変えた。
「それより、とりあえず今夜は泊めていただけますか?」
ん?
何ですと?
「泊まる? どこにですか?」
「この洞窟にです」
そう言ってジェネットは自分の足元を指差した。
「えええっ? 街に帰るんじゃないんですか?」
僕は思わず狼狽して大きな声を上げた。
ここには一応、僕一人が暮らす質素な宿直室があり、寝泊まりは出来る。
でも、自分以外の誰かを泊めたことなんてないし、ましてや女の子を泊めるなんて考えは僕の思考にはカテゴライズされていないぞ。
「街からここに通うのも無理な話ではありませんが、私がいないときに何か事態が動く可能性もありますから、出来ればここに常駐したいのです。自分のことは自分でいたしますから、あまりお気になさらないで下さい」
お気になさらないでってそんなの無理ですよ。
僕は慌てて首を横に振る。
「けれどここは娯楽も何もありませんよ。それどころか暗いし狭いし、快適とは程遠い環境で、とても女性を泊めるようなところじゃ……」
「かまいませんよ。清貧こそ我が望むところですから」
ジェネットはあっけらかんとそう言う。
いやしかし、だからといって……。
「そ、それに男の家に女性であるシスターが泊まるなんて問題があるかと」
そういう僕の言葉にもジェネットは動じることなく答えを返す。
「大丈夫ですよ。あなたは良き隣人ですから、間違いはしないと信じています」
「そ、そう言っていただけるのはありがたいですけど……」
そりゃあ僕にだって良心があるから、自分の欲望に負けて彼女にちょっかいを出すようなことはしない。
い、いや、そういう言い方は正確じゃないな。
僕には自分の良心を跳ねのけて彼女に手を出す度胸なんてない。
うん。
これだ。
というか並大抵の男じゃジェネットを組み伏せるどころか、触れることすら出来ずに倒されてしまうだろうしね。
でも、そういうことじゃなく、これは僕の心の平穏のために言ってるんだ。
若い女性が同じ家に寝泊まりするなんて落ち着かないことこの上ないよ。
「やっぱり若い男女が一つ屋根の下ってのは……」
そう言う僕の言葉を遮ってジェネットは自信満々に胸を張る。
「万が一あなたが襲い掛かってきたら、逆にこちらから全裸になって迎え撃ちますから。カバディカバディ……」
「どんな理屈ですか!」
もうこの人の倫理観はワケ分かんないよ。
またカバディカバディ言ってるし。
何かイチイチこういうやり取りするのも疲れてきたぞ。
ややゲンナリとした僕の表情を見たジェネットは顔を曇らせる。
「ご迷惑ならば、私はここで野宿をしますよ。別に苦ではありませんから」
そう言うジェネットに、僕も仕方なく覚悟を決めた。
彼女は本当に野宿しかねないからなぁ。
そんなことさせられるもんか。
「そういうわけにはいきませんよ。狭いところですけど僕の宿直室にどうぞ」
今、僕らがいるのは洞窟の最深部であるミランダの玉座の間なんだけど、そこから歩いて1分もしないところに僕の見張り所があり、その見張り所のすぐ後ろにあるのが兵士の宿直所、すなわち僕の住処だった。
大して広くはないけど床も壁も屋根もある一端の家だ。
各部屋は狭くて、居間と寝室とキッチン・バス・トイレがあるだけの簡素な作りだけど、NPCだから食事しなくても死なないし、風呂もトイレも必要ないから形ばかりだけどね。
僕はジェネットを連れて、宿直室の前に立った。
考えてみれば自宅に女の子を招くのなんて初めてのことだからもっと緊張するのかと思ったけど、事態が事態だけにそんなことを考えている余裕もなかった。
「とりあえず今日はここで休んで明日のことは明日考えましょう」
「ええ。お邪魔します」
魔女ミランダが消えた。
僕にとってそれは未知の事態だった。
だって僕は洞窟のボス・ミランダを見張る役どころのNPCだから、当のミランダがいなくなってしまうことは自分の立ち位置を失ってしまうことと同じなんだ。
あの恐ろしい魔女はいつもこの洞窟の最深部に鎮座して、訪れるプレイヤーたちを次々と葬り去っては強烈にその存在感を見せつけていた。
それなのにそのミランダが消えてしまうなんて僕自身、何てコメントしたらいいのか分からないよ。
ゲームの運営サイドはこの事態をシステムエラーと断定して即座に洞窟へのプレイヤーの訪問を禁止した。
どうやら運営はミランダのコントロールを失っているようで、事態を解決しかねているみたいだった。
静まり返った洞窟の最深部で、僕と純白の聖女・ジェネットはミランダの玉座を前に立ち尽くしていた。
「まさかミランダがいなくなるなんて……」
僕がポツリとそうつぶやくと、じっと黙り込んでいたジェネットが僕に顔を向けた。
「今までこういうことは無かったんですか?」
「ええ。記録に残っている限り一度も。システムエラーなんて初めての経験ですよ」
胸の内に困惑を抱えながら僕はジェネットに目を向けた。
「こうなると僕たちに出来ることは何もないですね」
運営側からの指示はこの場での無期限の待機だった。
無期限かぁ。
いつまでかかるか分からないな。
やっぱりジェネットには帰ってもらったほうがいいかもしれない。
何もすることがないままこんな場所にいてもらうのは彼女に悪いし、何より間がもたないよ。
だけどジェネットは真剣な顔でじっと僕を見つめ返してきた。
「出来ることは何も無い……本当にそうでしょうか?」
そう言うとジェネットはふいに闇の玉座の足元にかがみ込み、何事かをつぶやいて玉座に向けて手をかざす。
すると彼女の手のひらが白い輝きを放って玉座を照らした。
下位魔法・清光霧。
ジェネットの得意とする神聖魔法だ。
闇の玉座は白く輝く霧に包まれて浄化されていく。
でもジェネットは何をしてるんだろう?
光の霧が消えるとジェネットは立ち上がった。
どうやら彼女は玉座から何かを拾い上げたみたいで僕を振り返ると歩み寄って来て、手にしたそれを差し出した。
「これを……」
彼女が差し出したそれは一枚の写真だった。
「な、何だこれ?」
僕はその写真に写る光景に我が目を疑ってしまった。
その写真にはミランダと僕が写っていたが、フレームの中に並んで立つ僕らはまるで友人のように見える。
この距離感。
こ、こんな写真いつ撮ったんだ?
僕にはまったく覚えが無かった。
そもそも僕とミランダがこんなふうに一緒に写真に収まることなどあるだろうか。
ミランダはプレイヤーたちを次々と葬り去る恐ろしい闇の魔女で、NPCである僕に話しかけたり関わろうとすることなんてあるわけない……はずだ。
驚いて言葉に詰まっている僕にジェネットは話を切り出した。
「この玉座を一目見た時に残留物の存在を感じていたのですが、やはりこうしたものが残されていましたか」
「そ、そんなことまで魔法で分かるんですか?」
驚く僕を尻目にジェネットは再び玉座に目を向ける。
「強い思念を感じたためです。玉座から闇の気配を祓い去ると、この写真が現れました。恐らくはミランダの残したものでしょう。これはあくまでも私見ですが……」
ジェネットはそう前置きをすると、じっと僕を見つめて言った。
「あなたとミランダとの間には、単なるボスとNPCとの関係を超越した何かがあったのではないかと思います」
「は、はぁ? 何を言ってるんですか?」
僕はあまりに突拍子もない話に声を上ずらせた。
「そんなことあるわけないじゃないですか。ミランダはおっかない魔女なんですよ? 他人と仲良くなることなんて絶対ありえませんよ」
でも僕がいくらそう言ってもジェネットは引こうとはしなかった。
「ではあなたの涙の意味はなんでしょうか? ミランダがこの写真を玉座に後生大事に隠していた理由は?」
「そ、それは……」
分からない。
僕は何とも答えようがなくて黙り込むほかなかった。
確かに説明がつかないことが多い。
普通に考えれば不自然なことだらけだ。
困惑する僕とは対照的にジェネットは落ち着いた口調で言った。
「今はまだ分からないことばかりですが、とりあえずは運営側の発表を待ちましょう。すぐにミランダが戻ってくるかもしれませんし」
「……そうですね」
「ですが、数日待っても何の進展も無い場合、私たちでミランダを探しましょう」
ええっ?
マ、マジですか?
唐突なジェネットの申し出に僕は困惑を覚えずにはいられなかった。
「探すって言っても……」
「手段はあります。ミランダがこのゲームの中から消えてしまわない以上は。あれだけ強い闇の気配を持っているのであれば、近くにいれば私には分かりますから」
確かにジェネットだったらそれも不可能じゃないかもしれない。
ただ、そうは言っても運営側からの指示はここでの待機だしなぁ。
「でも僕は勝手にここを出られませんし……」
「その時は私だけでも探します。私の行動は運営側から特に制限されていませんから」
断固たる口調でそう言うジェネットに僕は不思議な思いを抑えきれなかった。
「そ、そこまでしなくても」
彼女の信条はさっき聞いたから理解できるけど、一人でもミランダを捜索に行くとなるとジェネットの負担が大き過ぎる。
「いいえ。やると決めたからにはとことんやるのが私の主義ですから」
そう言う彼女に圧倒されて僕は頷いた。
「わ、分かりました。シスターのお気持ちに感謝します。けど、他に予定とかあるんじゃないんですか? あまり時間がかかるようなら途中であきらめて下さい。僕も申し訳なくなってしまいますし」
いくらジェネットが自分の信条で行動しているとはいっても、この洞窟のことはやはり彼女には本来無関係のことなんだ。
あまり時間をとらせてしまうのは心苦しいよ。
「予定があるといえばありますけど、今この状況を解決することより優先すべきことはありません。それに私はこういうことのために……」
ジェネットはそう言いかけてそこで口を閉じた。
何だろう。
何か言いたいことがあるのかな?
少しの間、黙り込んでいたけど、彼女はパッと表情を変えると話題も変えた。
「それより、とりあえず今夜は泊めていただけますか?」
ん?
何ですと?
「泊まる? どこにですか?」
「この洞窟にです」
そう言ってジェネットは自分の足元を指差した。
「えええっ? 街に帰るんじゃないんですか?」
僕は思わず狼狽して大きな声を上げた。
ここには一応、僕一人が暮らす質素な宿直室があり、寝泊まりは出来る。
でも、自分以外の誰かを泊めたことなんてないし、ましてや女の子を泊めるなんて考えは僕の思考にはカテゴライズされていないぞ。
「街からここに通うのも無理な話ではありませんが、私がいないときに何か事態が動く可能性もありますから、出来ればここに常駐したいのです。自分のことは自分でいたしますから、あまりお気になさらないで下さい」
お気になさらないでってそんなの無理ですよ。
僕は慌てて首を横に振る。
「けれどここは娯楽も何もありませんよ。それどころか暗いし狭いし、快適とは程遠い環境で、とても女性を泊めるようなところじゃ……」
「かまいませんよ。清貧こそ我が望むところですから」
ジェネットはあっけらかんとそう言う。
いやしかし、だからといって……。
「そ、それに男の家に女性であるシスターが泊まるなんて問題があるかと」
そういう僕の言葉にもジェネットは動じることなく答えを返す。
「大丈夫ですよ。あなたは良き隣人ですから、間違いはしないと信じています」
「そ、そう言っていただけるのはありがたいですけど……」
そりゃあ僕にだって良心があるから、自分の欲望に負けて彼女にちょっかいを出すようなことはしない。
い、いや、そういう言い方は正確じゃないな。
僕には自分の良心を跳ねのけて彼女に手を出す度胸なんてない。
うん。
これだ。
というか並大抵の男じゃジェネットを組み伏せるどころか、触れることすら出来ずに倒されてしまうだろうしね。
でも、そういうことじゃなく、これは僕の心の平穏のために言ってるんだ。
若い女性が同じ家に寝泊まりするなんて落ち着かないことこの上ないよ。
「やっぱり若い男女が一つ屋根の下ってのは……」
そう言う僕の言葉を遮ってジェネットは自信満々に胸を張る。
「万が一あなたが襲い掛かってきたら、逆にこちらから全裸になって迎え撃ちますから。カバディカバディ……」
「どんな理屈ですか!」
もうこの人の倫理観はワケ分かんないよ。
またカバディカバディ言ってるし。
何かイチイチこういうやり取りするのも疲れてきたぞ。
ややゲンナリとした僕の表情を見たジェネットは顔を曇らせる。
「ご迷惑ならば、私はここで野宿をしますよ。別に苦ではありませんから」
そう言うジェネットに、僕も仕方なく覚悟を決めた。
彼女は本当に野宿しかねないからなぁ。
そんなことさせられるもんか。
「そういうわけにはいきませんよ。狭いところですけど僕の宿直室にどうぞ」
今、僕らがいるのは洞窟の最深部であるミランダの玉座の間なんだけど、そこから歩いて1分もしないところに僕の見張り所があり、その見張り所のすぐ後ろにあるのが兵士の宿直所、すなわち僕の住処だった。
大して広くはないけど床も壁も屋根もある一端の家だ。
各部屋は狭くて、居間と寝室とキッチン・バス・トイレがあるだけの簡素な作りだけど、NPCだから食事しなくても死なないし、風呂もトイレも必要ないから形ばかりだけどね。
僕はジェネットを連れて、宿直室の前に立った。
考えてみれば自宅に女の子を招くのなんて初めてのことだからもっと緊張するのかと思ったけど、事態が事態だけにそんなことを考えている余裕もなかった。
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