だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

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第三章 神の啓示

第11話 白亜の神殿にて

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 僕らのいた場所から神殿までは小走りで5分程度の距離だった。
 すでに神殿の中に入っている僧侶のドレイクを追って僕が神殿に入ると、相変わらずそこは人気ひとけがない。
 それでも神殿の中は外から差し込む光が満ちていて明るかった。

 入口から続く廊下を歩いて突き当たりに位置する祭壇さいだんの間の扉は開け放たれている。
 そこから祭壇さいだんの間に入ると、僧服姿のドレイクが立っているのが見えた。
 誰もいない祭壇さいだんの前に立って祈祷きとうを始めようとしているドレイクは、僕が入ってきた気配を感じてこちらを振り返った。

「ドレイクさん。忘れ物ですよ」

 そう言って僕は彼が忘れていった経典きょうてんを差し出した。
 彼は僕の手の中にある経典きょうてんを目にすると、無言で自分のアイテムストックを呼び出して中を確かめる。
 それでようやく経典きょうてんを忘れたことに気付いたらしいドレイクは僕に近づくと、この手の中からそれをひったくるようにして取り上げた。
 もちろん礼の言葉なんて口にしないどころか、僕を一顧いっこだにしようとしない。
 ま、NPC相手にプレイヤーがよく見せる反応だから別にいいけど、この人とはうまくコミュニケーション取れそうにないなぁ。
 経典きょうてんも渡したし、さっさと退散しよう。

「それじゃあ僕はこれで……」

 僕はそう言うとドレイクに背を向けようとした。
 その時だった。

「うわっ!」

 突然、神殿が大きな揺れに襲われて僕は思わず声を上げた。
 凄まじい揺れと体全体を震わせるような轟音ごうおんに驚いて僕はひっくり返ってしまった。

 何なんだ? 
 僕は自分自身の頭に浮かんだ疑問に即座に答えを得た。
 揺れは一瞬のことだったけど、その一瞬で神殿内の空気がガラリと変わってしまったからだ。

「そ、そんな……どうして」

 遠くにあったはずの闇の気配がすぐ近くに満ちている。
 清らかだった神殿の中に漆黒のきりが立ち込め始めた。
 それもそのはずだ。

 僕は息を飲んでその場に立ちすくみ、祭壇さいだんの上から目が離せなくなった。
 なぜなら祭壇さいだんの上には、漆黒の衣を羽織はおった少女の姿があったからだ。
 突然現れたその少女の姿に、僕は息を詰まらせてうめくようにつぶやきを漏らした。

「ミ、ミランダ……」

 そう。
 そこに立っていたのは闇の魔女・ミランダその人だった。

「我が名はミランダ。闇を司る深淵しんえんの魔女なり」

 僕は見慣れたミランダの顔を見て、頭の中が真っ白になってしまった。
 な、何で? 
 ミランダの気配は今の今まで離れた場所にあったはずだ。
 ここから王城よりもさらに遠くにあったはずで、僕らは歩いて王城に向かっても十分に間に合うはずだったし、ミランダを迎え撃つための準備をする時間さえあったはずだ。
 それなのにどうして……どうして今ここにミランダの姿があるんだ? 
 自分の理解の範疇はんちゅうを超える出来事に、僕は呆然ぼうぜんと彼女の姿を見つめることしか出来なかった。

「か、神の祭壇さいだんに土足で上るとは無礼なり!」

 ドレイクは裏返った声でミランダを怒鳴りつけると、すぐさま神聖魔法の詠唱を始める。
 だけどその胸を一瞬にして黒い鎖が貫いた。

耳障みみざわりよ。黙りなさい」

 ドレイクの胸を貫いていたのは、ミランダの振るった黒鎖杖バーゲストであり、杖の先につけられた鎖はドレイクの胸から引き抜かれて再び杖の元へと戻った。 
 は、速いっ。
 ドレイクが避ける間さえ与えてもらえなかった。

「か……かはっ」

 ドレイクはそれ以上、声を出すことも出来ずに倒れて動かなくなった。
 ライフゲージが0を差している。
 そ、そんな……。
 信じられないことにドレイクはすでに息絶えていた。
 ミランダの強さは圧倒的だった。

 ドレイクだって精鋭たる討伐隊とうばつたいの一員であり、レベルは50を超えている。
 僧侶ゆえに体力は決して多くなかったけれど、それでもたった一撃で殺されてしまうような脆弱ぜいじゃくなプレイヤーではないはずだった。
 それに僕が知るミランダは魔女というくらいだから魔法攻撃は最強クラスだったけれど、黒鎖杖バーゲストを使った打撃についてはさすがにここまでの強さはなかったはずだ。
 ミランダの異変が彼女のステータス値にまで異常をきたし始めているとしか思えない。

「ミランダ……どうしてここへ?」

 僕はやっとのことで声を絞り出したけど、それはカラカラに乾いてかすれた音にしかならない。
 だけどミランダはそれを聞き取ると、冷たい視線を僕に向ける。

「どうしてここへ……ですって? それは私のセリフなんだけど、せっかくだから私の方から答えてあげようかしら」

 そう言うとミランダは祭壇さいだんの上から身をおどらせて床に降り立った。
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