だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

文字の大きさ
36 / 52
第三章 神の啓示

第12話 悪魔のささやき

しおりを挟む
 ミランダは祭壇さいだんの上から身をおどらせて床に降り立った。
 そして僕を指差す。

「その手にある剣。そのせいであんたが私の存在を感じるように私もあんたを感じるのよ。キモイったらありゃしない」

 そういうことか。
 ミランダは知っているんだ。
 この剣が僕に与える影響を。

「その剣、あのジェネットとかいう忌々いまいましい尼僧にそうが持っていたものよね。どうしてあんたが持ってるのかしら」
「……デス・ペナルティーでロストされたんだ。それを僕が拾った。どうしてだか分からないけど、僕の手から離れようとしない」

 僕がそう言うとミランダは腕組みをして合点がてんがいったというような表情を見せた。

「フン。そういうことか。あの尼僧にそうが中途半端に解呪した呪いが尼僧にそうの死によって復活したんでしょ。それをマヌケなあんたが拾ったってことね。で、あんたは洞窟の番を放り出して外に出たと。どうりでその気配が移動していると思った」
「役目を放り出してるのは君のほうだろ!」

 思わず僕が声を荒げると、ミランダは僕に向かってゆっくりと歩を進め始めた。

「あんた。そんなに大きな声出す奴だったっけ」

 静かにそう言うミランダだったけど、その表情は殺気に満ちていて怖いくらいの迫力だった。
 うぅ……。
 ゆっくりと近づいてくるミランダを前にして、僕は思わず後ずさってしまいそうになる。
 動揺を気取けどられないよう必死に冷静な声を出そうとする僕だけど、緊張で口がうまく回ってくれない。

「き、君、ついさっきまで、ずいぶん遠くにいたじゃないか。どうして今ここに……」
「私の住処たる闇の洞窟からこの神殿までは徒歩で5分ほど。それくらいの距離なら私が魔力全開で飛べば10秒もかからないわ」

 その言葉の意味がすぐには理解できずに僕は呆然ぼうぜんと彼女を見つめた。
 そんな僕の様子を見てミランダは唇の端をり上げて不敵に笑う。

「ボスは世界のどこにいようとも自分の拠点には即時帰還できるのよ。知らなかった?」

 今度はミランダの言葉を僕もすぐに理解した。

「そうか。い、一度洞窟に戻って、そこから移動してきたの……がっ!」

 そこまで言って僕は言葉を失った。
 素早い動きであっという間に僕の目の前に立ったミランダが片手で僕の首をつかんだんだ。
 彼女はその手に物凄ものすごい力を込めて僕のノドをめ上げる。
 僕はミランダの手に自分の手をかけたけど、僕なんかの力じゃ到底振りほどけやしない。
 ミランダは僕の首をつかんだまま、魔力で少しずつ浮上し始めた。
 必然と僕の両足が地面から離れ、息苦しさで徐々に体の力が抜けていく。

「その剣を私に返しなさい。あんたが持っていても無用の長物でしかないわ」

 そう言うとミランダは僕の手に握られた剣に左手を伸ばす。
 僕は遠くなりつつある意識の中で、これは好機だと思った。
 ミランダの方から剣を取り戻しに来てくれた。
 これできっと彼女は暴走を止めてくれるはずだ。
 そう思った矢先だった。

 僕の手に握られた剣のつかに手をかけた途端、ミランダはビクッと身をすくませたんだ。
 そしてまるで静電気でも走ったかのようにミランダは驚いてサッと手を離すと、つかんでいた僕の体を放り出した。

「うげっ!」

 僕は床に背中を打ちつけて、痛みに思わず声を上げた。
 それでも僕は痛みをこらえてすぐに身を起こすと、自分の手に握られている呪いの剣に目をやった。
 見ると呪いの剣がうっすらと緑色の光を帯びている。
 ミランダが触れたことで剣に生じた明らかな変化に僕は一縷いちるの希望を抱き、顔を上げた。
 そこではミランダが両目をこれ以上ないほどに見開き、僕を見下ろしていた。
 その表情は先ほどまでとはまったく違う余裕のないそれだった。

「ミランダ?」

 僕がそう言って立ち上がろうとすると、ミランダは弾かれたように後方に飛び退すさった。
 何だ? 
 彼女の様子がおかしいぞ。
 僕が立ち上がりミランダに歩み寄ろうとすると、彼女は咄嗟とっさに金切り声を上げた。

「近寄らないで!」

 彼女のあまりの剣幕けんまくに僕はビクッとして思わず足を止めた。
 ミランダは明らかに狼狽ろうばいしていた。
 もう先ほどまでの自信に満ちあふれた邪悪な魔女の顔はそこにはない。

 も、もしかしたら正常化しそうなのか? 
 正気に戻ってくれるのか?
 僕はそう思ったらいてもたってもいられず、ミランダに詰め寄った。

「ミランダ! 思い出しそうなの?」

 ミランダはさらに二歩三歩と後方に後ずさりながら声を荒げた。

「近寄るなって言ってんのよ!」

 そう言うとミランダは僕に右手の平を向けた。
 や、やばいっ!
 そう思った時にはすでに遅く、彼女の手から黒いきりが噴射されて僕の顔を直撃した。

「ウプッ! な、何するんだ!」

 濃密な黒いきりが僕の鼻腔びこうから体内に入り込んできて、僕は思わずむせ込んでしまった。
 途端に強烈な眠気が襲ってきた。
 全身の筋肉から力が失われていく。

「あんた。ワケ分かんないのよ。目障めざわ目障めざわりっ! 私が王城を襲う間、寝てなさい!」

 そう。
 彼女が僕に吹きかけた黒いきりは、人の神経に働きかけ、それを狂わす暗黒魔法『悪魔の囁きテンプテーション』だった。
 ミランダの中位スキルであるその魔法によって僕の神経が睡眠状態へと導かれていく。

 や、やばい……寝てしまう。
 僕はあまりの眠気に立っていられなくなり、その場にがっくりとひざをついた。
 そう言えば前にミランダにこの魔法をかけられた時は、変な自白をさせられたっけ。
 僕の名誉のために、いまだにあれが本心だとは認められないけど。
 あの時はミランダが顔を真っ赤にして怒ってたな。
 そんなことを考えながら朦朧もうろうとし始めた僕は、ぼやけた視界の中で前方に立つミランダが何故か驚いたような戸惑ったような顔をしているのを見た。

「ま、前にも私、あんたにこの魔法をかけなかったかしら……」

 ミランダのその言葉はひどく遠く聞こえ、何を言っているのか僕には判別出来なかった。

「あんた。前に私に変なこと言ったわよね。何なのこれ?」

 そんなことを言っていたように思えたけど、僕にはその言葉はただの音としてしか認識できず、その意味を考えることは出来なかった。
 何だったの……か……な……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...