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第四章 城下町紛争狂騒曲
第8話 神の意志
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ミランダは口を真一文字に引き結ぶと猛然と駆け出した。
そして他のプレイヤーには目もくれず、リードにまっすぐ向かっていく。
「私の断りなく見張り役の兵士を勝手に消したことを死ぬほど後悔させてやるっ!」
すでに彼女の魔力量は残り少なく、満足に暗黒魔法の一つも唱えられない。
だけど、ミランダは果敢に黒鎖杖を振り上げてリードに挑みかかった。
「往生際の悪い魔女が!」
リードも剣を抜いてこれに応戦する。
負けるなミランダ。
がんばれミランダ!
僕は届かないであろう声援を彼女に送った。
王城の兵士の身でありながら、何て罰当たりなことだろうと思うと同時に、今こうして消えてしまったことがその罰なのだと思った。
でもいいや。
ミランダが生き残れるならそれでいい。
僕がそう思ったその時、頭上から突然声が響き渡った。
『ゲームの脇役であり世界を構成する部品の一つとも言えるNPCが、自分の心を持ちその心に従って行動する。その意味がおまえに分かるか?』
その声に面食らって僕はすぐに上を見上げたが、そこには青い空があるだけだった。
他の人々には聞こえていないようで、誰もその声に注意を払う人はいなかった。
でも声は確かに鳴り響き、僕にはその声の主が誰だかすぐに判別できた。
「か、神ですか?」
『そうだ。様をつけろ無礼者めが』
それはつい数時間前までこのゲームのメインシステムにおける掲示板で僕と意見を交わしていた人物だった。
僕がNPCとしての本来の自分の行動範囲を大きく超えて行動したことの意味。
それは自分の心に従ったということになるのかな。
僕は静かに考えて、そして自分の心の中から湧き出る言葉を口にした。
「僕らはこのゲームのためのプログラムです。だからゲームを管理する運営本部の意向には逆らえません。だけど、それでも僕らは思考や行動の細部まで管理されているわけじゃなくて、自ら物事を考え、思い、そして行動します」
今にして思う。
ミランダを探し続けた僕の行動はNPCとしては枠から外れた異常な行動だったのかもしれないけれど、きっと自然なことだったんだと。
「僕らのいる世界には限りがあって、世界の果てにはその先以上に進めない壁があるのかもしれない。それは僕らにはどうしようもないことです。でも、きっと僕は……いや、ミランダだって、壁の前までは行くはずです。そこまでしか行けなくても、行けるところまで行ってみるはずです」
思いのままに行動した結果、僕は存在を抹消されることになってしまった。
ミランダを救えなかったことは残念で仕方がないけれど、僕自身の行動を後悔しているかと問われれば、即座に僕は首を横に振るだろう。
後悔はしていない。
『そうか。やはりおまえは私の見込んだ男だ』
神様の言葉に僕は思わず首をひねった。
「え? どういうことですか?」
『前にも言ったことだが、私はこのゲームの運営に直接関わることは出来ない。だが、見ていることは出来る。ずっと観察していた。このゲーム全体を。そして魔女ミランダの異変に気が付いた。彼女は倒されるたびに初期化される自分の記憶を手紙という媒体に残し、それを蓄積していった。誰の指示を受けたわけでもなく、自分自身の考えで。これは明らかにNPCとしての進化だ。そしてそんな彼女が固執した男、それがおまえだ』
そうだったのか。
神様はミランダの手紙のことを知っていたんだね。
『だから私はおまえとミランダに注目するようになった。そして私が生み出したジェネットを送り込んだ』
「生み出した?」
そうか。
ジェネットをプログラミングしたのは神様だったのか。
僕は内心でクスリと笑った。
彼女は本当に神の僕だったんだなぁ。
『生み出しただけではない。私が育てた。そして彼女のブログを作り、彼女を支援する輪を広げたのもこの私だ』
「そうだったんですか」
僕はジェネットのブログ【聖母ジェネットの懺悔室】を思い返した。
『様々な苦労があった。手っ取り早く集客するためにコッソリ撮影したジェネットの写真を掲載したりな。なかなか骨の折れる作業だった』
「盗撮犯はアンタだったのか!」
とんだ神様だな。
『ジェネットのあの容姿には多くの男性キャラが食いつくだろう?』
悪びれもせずにそう言う神様に僕は呆れて嘆息した。
「不純な動機ですけどね」
『それでいいんだ。妙な動きで人を集めると運営から睨まれるからな。クーデターでも起こすんじゃなかろうかと』
僕は神様のその言葉に少し驚いた。
「え? ってことはワザとですか?」
そうか。
ジェネットが人集めをするのにグラビアを利用すれば、スケベ根性で人が集まってきただけだと思われるし、そのほうが怪しまれない。
さ、さすが神様を自称するだけのことはあるな。
一見無意味な行動のようでも、ちゃんと深い意味があるんだ。
『いや、楽しんでやったことだが。8割方は私の趣味だ。正直言って』
……だと思いましたよ。
前言撤回します。
だけどジェネットを生み出してくれたことには素直に感謝したい。
彼女との出会いは僕にとってはミランダとの出会いと同じくらい尊いものだから。
「……こうなることを予見していたんですか?」
『ミランダの暴走までは予見できなかったがな』
そう言うと神様は静かにつぶやくように僕に語りかけた。
『おまえとミランダ。二人はこれからのこのゲーム世界にとって新たな要素を提供する原石になり得る。いや、おまえたちだけが特別なわけではない。恐らくどのNPCだってそうなる可能性を秘めているんだ』
難しい言葉だったけれど何となく分かる。
僕だけじゃない。
他のNPCだって僕と同じ立場になればきっと何かを思い、考え、その末に行動を起こすこともあるはずなんだから。
『だから私は見定めたい。おまえたちの行く末を。おまえも見るがいい。ミランダの生き様を。おまえはまだ世界と繋がっているのだから』
そう言ったきり、神様の声は消えた。
その存在感とともに。
僕は神様の言葉通り、広場の戦いを見据えた。
万感の思いを胸に秘めて。
そして他のプレイヤーには目もくれず、リードにまっすぐ向かっていく。
「私の断りなく見張り役の兵士を勝手に消したことを死ぬほど後悔させてやるっ!」
すでに彼女の魔力量は残り少なく、満足に暗黒魔法の一つも唱えられない。
だけど、ミランダは果敢に黒鎖杖を振り上げてリードに挑みかかった。
「往生際の悪い魔女が!」
リードも剣を抜いてこれに応戦する。
負けるなミランダ。
がんばれミランダ!
僕は届かないであろう声援を彼女に送った。
王城の兵士の身でありながら、何て罰当たりなことだろうと思うと同時に、今こうして消えてしまったことがその罰なのだと思った。
でもいいや。
ミランダが生き残れるならそれでいい。
僕がそう思ったその時、頭上から突然声が響き渡った。
『ゲームの脇役であり世界を構成する部品の一つとも言えるNPCが、自分の心を持ちその心に従って行動する。その意味がおまえに分かるか?』
その声に面食らって僕はすぐに上を見上げたが、そこには青い空があるだけだった。
他の人々には聞こえていないようで、誰もその声に注意を払う人はいなかった。
でも声は確かに鳴り響き、僕にはその声の主が誰だかすぐに判別できた。
「か、神ですか?」
『そうだ。様をつけろ無礼者めが』
それはつい数時間前までこのゲームのメインシステムにおける掲示板で僕と意見を交わしていた人物だった。
僕がNPCとしての本来の自分の行動範囲を大きく超えて行動したことの意味。
それは自分の心に従ったということになるのかな。
僕は静かに考えて、そして自分の心の中から湧き出る言葉を口にした。
「僕らはこのゲームのためのプログラムです。だからゲームを管理する運営本部の意向には逆らえません。だけど、それでも僕らは思考や行動の細部まで管理されているわけじゃなくて、自ら物事を考え、思い、そして行動します」
今にして思う。
ミランダを探し続けた僕の行動はNPCとしては枠から外れた異常な行動だったのかもしれないけれど、きっと自然なことだったんだと。
「僕らのいる世界には限りがあって、世界の果てにはその先以上に進めない壁があるのかもしれない。それは僕らにはどうしようもないことです。でも、きっと僕は……いや、ミランダだって、壁の前までは行くはずです。そこまでしか行けなくても、行けるところまで行ってみるはずです」
思いのままに行動した結果、僕は存在を抹消されることになってしまった。
ミランダを救えなかったことは残念で仕方がないけれど、僕自身の行動を後悔しているかと問われれば、即座に僕は首を横に振るだろう。
後悔はしていない。
『そうか。やはりおまえは私の見込んだ男だ』
神様の言葉に僕は思わず首をひねった。
「え? どういうことですか?」
『前にも言ったことだが、私はこのゲームの運営に直接関わることは出来ない。だが、見ていることは出来る。ずっと観察していた。このゲーム全体を。そして魔女ミランダの異変に気が付いた。彼女は倒されるたびに初期化される自分の記憶を手紙という媒体に残し、それを蓄積していった。誰の指示を受けたわけでもなく、自分自身の考えで。これは明らかにNPCとしての進化だ。そしてそんな彼女が固執した男、それがおまえだ』
そうだったのか。
神様はミランダの手紙のことを知っていたんだね。
『だから私はおまえとミランダに注目するようになった。そして私が生み出したジェネットを送り込んだ』
「生み出した?」
そうか。
ジェネットをプログラミングしたのは神様だったのか。
僕は内心でクスリと笑った。
彼女は本当に神の僕だったんだなぁ。
『生み出しただけではない。私が育てた。そして彼女のブログを作り、彼女を支援する輪を広げたのもこの私だ』
「そうだったんですか」
僕はジェネットのブログ【聖母ジェネットの懺悔室】を思い返した。
『様々な苦労があった。手っ取り早く集客するためにコッソリ撮影したジェネットの写真を掲載したりな。なかなか骨の折れる作業だった』
「盗撮犯はアンタだったのか!」
とんだ神様だな。
『ジェネットのあの容姿には多くの男性キャラが食いつくだろう?』
悪びれもせずにそう言う神様に僕は呆れて嘆息した。
「不純な動機ですけどね」
『それでいいんだ。妙な動きで人を集めると運営から睨まれるからな。クーデターでも起こすんじゃなかろうかと』
僕は神様のその言葉に少し驚いた。
「え? ってことはワザとですか?」
そうか。
ジェネットが人集めをするのにグラビアを利用すれば、スケベ根性で人が集まってきただけだと思われるし、そのほうが怪しまれない。
さ、さすが神様を自称するだけのことはあるな。
一見無意味な行動のようでも、ちゃんと深い意味があるんだ。
『いや、楽しんでやったことだが。8割方は私の趣味だ。正直言って』
……だと思いましたよ。
前言撤回します。
だけどジェネットを生み出してくれたことには素直に感謝したい。
彼女との出会いは僕にとってはミランダとの出会いと同じくらい尊いものだから。
「……こうなることを予見していたんですか?」
『ミランダの暴走までは予見できなかったがな』
そう言うと神様は静かにつぶやくように僕に語りかけた。
『おまえとミランダ。二人はこれからのこのゲーム世界にとって新たな要素を提供する原石になり得る。いや、おまえたちだけが特別なわけではない。恐らくどのNPCだってそうなる可能性を秘めているんだ』
難しい言葉だったけれど何となく分かる。
僕だけじゃない。
他のNPCだって僕と同じ立場になればきっと何かを思い、考え、その末に行動を起こすこともあるはずなんだから。
『だから私は見定めたい。おまえたちの行く末を。おまえも見るがいい。ミランダの生き様を。おまえはまだ世界と繋がっているのだから』
そう言ったきり、神様の声は消えた。
その存在感とともに。
僕は神様の言葉通り、広場の戦いを見据えた。
万感の思いを胸に秘めて。
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