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第四章 城下町紛争狂騒曲
第7話 目に見えぬ存在となって
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ふいに視界が開けた。
暗闇の中から明るい場所へ突然引き戻された僕は息を飲んだ。
そこは先ほどの広場であり、戦いがまだ続いている状況だった。
あれ?
僕は消えたんじゃなかったっけ?
驚いて自分の体を見ると、消えたはずの手足や胴が元に戻っている。
ただ一つ、前と違うのは何か全体的に体が薄く透けて見えることと、体が地面より数メートルほど浮いていることだった。
そして右足には黒い鎖が結ばれていて、その鎖を辿ると地面に転がっている呪いの剣『タリオ』と繋がっている。
僕の様子を一言で表すと、ヒモで繋がれたフーセンか凧だった。
どうしてこんなことになってるんだ?
そう自問して僕はすぐに嫌な予感を感じた。
自分のステータスを表すコマンドも消えてしまっている。
……も、もしかして僕、俗に言う幽霊とか霊魂とかいう状態なんじゃないだろうか。
NPCの僕がそんな状況になるなんて考えにくいけど。
広場ではジェネットが孤軍奮闘を続けていたけど、その場にいる誰一人として僕の姿を気に留めない。
リードも僕が見える位置にいるはずなのに、こちらを見ても顔色一つ変えない。
やっぱりそうか。
僕は誰にも見えていないってことか。
霊体になって自分の死に様を見下ろしていたとか、よく話に聞くもんね。
と言っても僕の体は消えてしまったから見下ろす先には何もないけど。
いや、見下ろす先の地上ではミランダが呪いの剣の傍らにしゃがみ込んでいた。
後ろ姿だったのでミランダの顔を見ることは出来なかったけど、彼女は手紙と写真を両手に持っていた。
その両肩が小刻みに震えている。
ミランダ。
泣いているの?
彼女のそんな姿に僕は思い出した。
僕が消えてしまう前にミランダが見せた大粒の涙を。
その顔は冷酷な魔女が見せる表情とは思えなかった。
ミランダに記憶が戻ったんだろうか。
僕はいてもたってもいられなくなり、足首につけられた黒い鎖をつかむと、それを手繰りながら必死に地上へと降下していく。
ふわふわと浮いていて慣れない状態だからうまく動けないけど、フラフラしながらようやく地面の近くまで降下した。
だけど僕がミランダの近くまで降り切る前にミランダの背後に数名のプレイヤーたちが迫っているのが見えた。
ミランダ!
後ろだ!
僕は必死に叫んだけど、その声はまったく彼女に届かない。
姿が見えないだけじゃなく声まで聞こえないなんて……僕は何のためにこんな状態になって戻ってきたんだ。
失意に沈む僕の目の前でついにプレイヤーたちがミランダに襲い掛かった。
さすがにこれに気付いたミランダは黒鎖杖を手に立ち上がって応戦するけど、先ほどまでの彼女と違い、明らかに戦意が不足していた。
剣や槍によるプレイヤーの攻撃を黒鎖杖で受け流しつつも、その顔は苦しげに歪んでいる。
体力を失っておぼつかない足取りのミランダは、屈強な戦士たちに押し込まれていた。
ミランダ。
死ぬな。
死なないでくれ。
消えるのは僕だけで十分だ。
僕は彼女の助けになってやれない無力感で唇を噛み締めるしかなかった。
だけど僕はすぐに息を飲んで目を見開いた。
ミランダを襲うプレイヤーたちを背後から攻撃する白い人影が飛び込んできたんだ。
ジェネットだ!
広場で多くのプレイヤーを相手にしていたジェネットがミランダの援護に駆けつけてくれたんだ。
ジェネットは下位魔法である清光霧を唱え、輝く霧に包まれたプレイヤーたちが次々と倒れて動かなくなる。
ミランダを襲う手合いを一掃すると、ジェネットは叱咤の声を鋭く発した。
「しっかりしなさい! 魔女ミランダ! 兵士様の頑張りを無駄にする気ですか」
この言葉にミランダはムッとしてジェネットを睨みつけた。
「な、何よそれ」
「思い出したのでしょう? これまでの記憶を。その写真と手紙のことを」
そう言うジェネットに、ミランダは動揺の色をありありと浮かべてたじろいだ。
「……どうしてあんたが」
そ、そうか。
ジェネットの言葉で僕はこのとき確信した。
ミランダの記憶を呼び覚まし、彼女を正常化に導くには呪いの剣だけじゃ足りなかったんだ。
写真とそして彼女の手紙。
この2つが追い風となってミランダは本当の自分を取り戻すことが出来たんだ。
最初の鍵である呪いの剣に触れた時、ミランダは暴走によって手にしていた異常な強さを失い、記憶の片鱗を取り戻しかけたんだろう。
ジェネットは毅然とした態度で続ける。
「私は知っています。兵士様があなたの暴走を止めようと心を砕き、報われないかもしれない努力を積み重ねてきたことを」
ミランダは首を横に振って声を荒げた。
「そ、そんなのあいつが勝手にやったことじゃない! 私はこんなの望んでなかった!」
ミランダがそう言うやいなや、ジェネットはミランダに詰め寄って有無を言わせぬ調子で彼女の胸倉を掴み上げた。
「甘ったれるのもいい加減になさい!」
凄みのある顔でそう言うジェネットにミランダは一瞬表情を硬くしたが、すぐにそれを怒りの色に変化させてジェネットの手を振り払った。
「何ですって? 尼僧風情が生意気な」
だけどジェネットはさらに憤怒の表情を色濃くしてミランダに詰め寄った。
「兵士様はあなたの暴走を心から憂いていました。あなたを何とか救いたいと日夜頭を悩ませていたのです。この世界でそんなにもあなたのことを考え、あなたのために行動してくれる人が他にいますか?」
「そ、それは……」
ミランダは言葉に詰まって悔しそうに下を向く。
「兵士様が命を落とされてまで救おうとしたあなたが簡単にここで死ぬようなら、彼の死は無意味です。私は……私は……そんなことは断じてガマンがなりません!」
怒気を振りまくようにジェネットはそう言うと、ミランダをその場に残して、再び広場に残るプレイヤーたちに向かっていった。
ジェネットのその言葉だけで僕は胸がいっぱいになり、死んでいるというのに目頭が熱くなるのを感じた。
ジェネット。
ありがとう。
でも僕はただ僕の心に従って行動しただけなんだ。
誰かに感謝されたくてやったわけじゃない。
僕はミランダを見下ろした。
ミランダ。
僕が君に望むことは唯一つ。
君が一番気持ちのいい生き方をしてほしいんだ。
誰にどう思われようとも、君ならそれが出来るはずだ。
傲岸不遜な君なら。
僕はきっとそんな君に憧れていたんだね。
だからミランダ。
思うままに望むことをして欲しい。
僕のそんな思いが通じたわけじゃないだろうけど、ミランダは顔を上げた。
その顔には悔しげで、そして戦意を取り戻したミランダらしい表情が浮かんでいた。
「尼僧風情が生意気なのよ。魔女に説教とかして馬鹿じゃないの。あんたの理屈を押し付けるんじゃないわよ。私は悪の権化。闇の魔女ミランダだ!」
ミランダはそう叫ぶと黒鎖杖を手に猛然と駆け出した。
暗闇の中から明るい場所へ突然引き戻された僕は息を飲んだ。
そこは先ほどの広場であり、戦いがまだ続いている状況だった。
あれ?
僕は消えたんじゃなかったっけ?
驚いて自分の体を見ると、消えたはずの手足や胴が元に戻っている。
ただ一つ、前と違うのは何か全体的に体が薄く透けて見えることと、体が地面より数メートルほど浮いていることだった。
そして右足には黒い鎖が結ばれていて、その鎖を辿ると地面に転がっている呪いの剣『タリオ』と繋がっている。
僕の様子を一言で表すと、ヒモで繋がれたフーセンか凧だった。
どうしてこんなことになってるんだ?
そう自問して僕はすぐに嫌な予感を感じた。
自分のステータスを表すコマンドも消えてしまっている。
……も、もしかして僕、俗に言う幽霊とか霊魂とかいう状態なんじゃないだろうか。
NPCの僕がそんな状況になるなんて考えにくいけど。
広場ではジェネットが孤軍奮闘を続けていたけど、その場にいる誰一人として僕の姿を気に留めない。
リードも僕が見える位置にいるはずなのに、こちらを見ても顔色一つ変えない。
やっぱりそうか。
僕は誰にも見えていないってことか。
霊体になって自分の死に様を見下ろしていたとか、よく話に聞くもんね。
と言っても僕の体は消えてしまったから見下ろす先には何もないけど。
いや、見下ろす先の地上ではミランダが呪いの剣の傍らにしゃがみ込んでいた。
後ろ姿だったのでミランダの顔を見ることは出来なかったけど、彼女は手紙と写真を両手に持っていた。
その両肩が小刻みに震えている。
ミランダ。
泣いているの?
彼女のそんな姿に僕は思い出した。
僕が消えてしまう前にミランダが見せた大粒の涙を。
その顔は冷酷な魔女が見せる表情とは思えなかった。
ミランダに記憶が戻ったんだろうか。
僕はいてもたってもいられなくなり、足首につけられた黒い鎖をつかむと、それを手繰りながら必死に地上へと降下していく。
ふわふわと浮いていて慣れない状態だからうまく動けないけど、フラフラしながらようやく地面の近くまで降下した。
だけど僕がミランダの近くまで降り切る前にミランダの背後に数名のプレイヤーたちが迫っているのが見えた。
ミランダ!
後ろだ!
僕は必死に叫んだけど、その声はまったく彼女に届かない。
姿が見えないだけじゃなく声まで聞こえないなんて……僕は何のためにこんな状態になって戻ってきたんだ。
失意に沈む僕の目の前でついにプレイヤーたちがミランダに襲い掛かった。
さすがにこれに気付いたミランダは黒鎖杖を手に立ち上がって応戦するけど、先ほどまでの彼女と違い、明らかに戦意が不足していた。
剣や槍によるプレイヤーの攻撃を黒鎖杖で受け流しつつも、その顔は苦しげに歪んでいる。
体力を失っておぼつかない足取りのミランダは、屈強な戦士たちに押し込まれていた。
ミランダ。
死ぬな。
死なないでくれ。
消えるのは僕だけで十分だ。
僕は彼女の助けになってやれない無力感で唇を噛み締めるしかなかった。
だけど僕はすぐに息を飲んで目を見開いた。
ミランダを襲うプレイヤーたちを背後から攻撃する白い人影が飛び込んできたんだ。
ジェネットだ!
広場で多くのプレイヤーを相手にしていたジェネットがミランダの援護に駆けつけてくれたんだ。
ジェネットは下位魔法である清光霧を唱え、輝く霧に包まれたプレイヤーたちが次々と倒れて動かなくなる。
ミランダを襲う手合いを一掃すると、ジェネットは叱咤の声を鋭く発した。
「しっかりしなさい! 魔女ミランダ! 兵士様の頑張りを無駄にする気ですか」
この言葉にミランダはムッとしてジェネットを睨みつけた。
「な、何よそれ」
「思い出したのでしょう? これまでの記憶を。その写真と手紙のことを」
そう言うジェネットに、ミランダは動揺の色をありありと浮かべてたじろいだ。
「……どうしてあんたが」
そ、そうか。
ジェネットの言葉で僕はこのとき確信した。
ミランダの記憶を呼び覚まし、彼女を正常化に導くには呪いの剣だけじゃ足りなかったんだ。
写真とそして彼女の手紙。
この2つが追い風となってミランダは本当の自分を取り戻すことが出来たんだ。
最初の鍵である呪いの剣に触れた時、ミランダは暴走によって手にしていた異常な強さを失い、記憶の片鱗を取り戻しかけたんだろう。
ジェネットは毅然とした態度で続ける。
「私は知っています。兵士様があなたの暴走を止めようと心を砕き、報われないかもしれない努力を積み重ねてきたことを」
ミランダは首を横に振って声を荒げた。
「そ、そんなのあいつが勝手にやったことじゃない! 私はこんなの望んでなかった!」
ミランダがそう言うやいなや、ジェネットはミランダに詰め寄って有無を言わせぬ調子で彼女の胸倉を掴み上げた。
「甘ったれるのもいい加減になさい!」
凄みのある顔でそう言うジェネットにミランダは一瞬表情を硬くしたが、すぐにそれを怒りの色に変化させてジェネットの手を振り払った。
「何ですって? 尼僧風情が生意気な」
だけどジェネットはさらに憤怒の表情を色濃くしてミランダに詰め寄った。
「兵士様はあなたの暴走を心から憂いていました。あなたを何とか救いたいと日夜頭を悩ませていたのです。この世界でそんなにもあなたのことを考え、あなたのために行動してくれる人が他にいますか?」
「そ、それは……」
ミランダは言葉に詰まって悔しそうに下を向く。
「兵士様が命を落とされてまで救おうとしたあなたが簡単にここで死ぬようなら、彼の死は無意味です。私は……私は……そんなことは断じてガマンがなりません!」
怒気を振りまくようにジェネットはそう言うと、ミランダをその場に残して、再び広場に残るプレイヤーたちに向かっていった。
ジェネットのその言葉だけで僕は胸がいっぱいになり、死んでいるというのに目頭が熱くなるのを感じた。
ジェネット。
ありがとう。
でも僕はただ僕の心に従って行動しただけなんだ。
誰かに感謝されたくてやったわけじゃない。
僕はミランダを見下ろした。
ミランダ。
僕が君に望むことは唯一つ。
君が一番気持ちのいい生き方をしてほしいんだ。
誰にどう思われようとも、君ならそれが出来るはずだ。
傲岸不遜な君なら。
僕はきっとそんな君に憧れていたんだね。
だからミランダ。
思うままに望むことをして欲しい。
僕のそんな思いが通じたわけじゃないだろうけど、ミランダは顔を上げた。
その顔には悔しげで、そして戦意を取り戻したミランダらしい表情が浮かんでいた。
「尼僧風情が生意気なのよ。魔女に説教とかして馬鹿じゃないの。あんたの理屈を押し付けるんじゃないわよ。私は悪の権化。闇の魔女ミランダだ!」
ミランダはそう叫ぶと黒鎖杖を手に猛然と駆け出した。
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