だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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第一章 長身女戦士ヴィクトリア

第1話 アタシの仲間になれ!

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 皆さん。
 あらためまして、こんにちは。
 僕、アルフレッド・シュヴァルトシュタインです。

 今回もいつもみたいにちゃんと自己紹介したいところなんだけど、き、緊急事態のため割愛かつあいさせてもらいます。
 ここは王城からほど近くの街道の脇にある林の中。
 いきなりで恐縮なんですが、いま僕はここである人に身柄を拘束されて誘拐ゆうかいされようとしているところなんです。

「おとなしくしろ! 殺すぞ!」

 ひぃぃぃぃぃっ!
 鋭いナイフの切っ先を鼻先に突き付けられて僕は必死に悲鳴を飲み込む。
 そんな僕に刃物を突き付けているのは一人の女の子だった。
 僕よりも頭ひとつ分は背の高い長身が特徴的な女戦士。
 赤毛にオレンジ色の瞳、そして褐色かっしょくの肌。
 僕の記憶が正しければ、前に何度か僕の住むやみ洞窟どうくつを訪れて、ボスのミランダに挑戦したことがあった人だ。

 あ、もう説明する必要もないと思うけど、ミランダってのはやみ洞窟どうくつべる恐ろしい魔女のことね。
 僕はそのやみの魔女ミランダを見張る役を担う王国の下級兵士なんだ。
 ミランダには家来だと思われてるけどね。

 そしてつい先ほどミランダはあるプレイヤーに敗北した。
 だから僕はそのプレイヤーを王様の元へ連れていくために洞窟どうくつから出たんだ。
 それも僕の任務のひとつだからね。
 で、無事に役目を果たしてプレイヤーを王様の元に送り届け、僕はひとり王城からやみ洞窟どうくつに帰るその途中だった。

 そこで道行く僕はいきなり草むらから飛び出してきたこの長身の女戦士に捕まって、草むらの中に引っ張り込まれてしまったんだ。
 彼女はものすごい力で僕を地面に押さえ付けると、あっという間に僕の体をなわでグルグル巻きに縛り上げた。
 僕はまったく抵抗できないまま林の奥まで連れ込まれ、そして今こうしているように刃を突きつけられているってわけ。

「あの……女戦士さん。なぜ僕を誘拐ゆうかいするんですか?」

 震えながらそう声を絞り出す僕に、女戦士はいら立って声を荒げる。

「うるせえ! おまえはこのままアタシの仲間になるんだよ! あとアタシの名前はヴィクトリアだ! 覚えておけっ!」
「うひいっ! き、切っ先をこっちに向けないで」

 ナイフの鋭い剣先が今にも僕の鼻の穴に突っ込まれそうで怖いから!
 仲間になれ、だって?
 いやいや、仲間になるイベントってもっとこうなごやかな感じなんじゃないの?
「もしや君はロー○シアの王子では? いやー探しましたよ。さあ力を合わせ共に闘いましょう」みたいな。
 こんな拉致らちしておどして「仲間になれ!」ってそんなのアリか!
 そんな力技では信頼関係は築けませんよ。

「あ、あの。ヴィクトリアさん? 意気込んでるところ申し訳ないんだけど、僕を仲間にしても何もメリットないですよ。ただの下級兵士ですし」
「ウソこけ! おまえが反則級のチート野郎だってことはお見通しなんだよ!」

 ゲッ!
 な、なぜそれを……。
 確かに僕は前回、砂漠都市を中心に繰り広げられた大騒動の中で、いくつもの偶然が重なった結果、信じられないような急成長を遂げた。
 チート野郎とか言われても仕方ない。
 そんな僕をにらみつけるヴィクトリアの目は真剣味があり過ぎて、もはや血走っている。

「アタシはこれから絶対に負けられない大事な戦いがあるんだ。おまえにはアタシの仲間としてその戦いに参加してもらう」
「そ、そんな国を代表するみたいな重要な戦いに、僕みたいな素人しろうとを連れていかないほうがいいよ」
「てめえ。あくまでもシラを切り通すつもりか。うわさ通りのタヌキ野郎だな」

 そう言うとヴィクトリアは僕の鼻にナイフの刀身をピタリと当てた。
 刃の冷たさに僕は心底ビビッて声を失う。

「いいか。一度しか言わねえからよく聞けよ。おまえがどうしても仲間にならねえって言うなら、こいつで生きたまま全身の皮をはいでやる。死んだ方がマシってくらいの激痛地獄を味あわせてやるからな」

 いやだぁぁぁぁ!
 因幡いなばの白ウサギにはなりたくないっ!
 そんな残酷ショーはこのゲームでは見せられません!

「だが、おまえがアタシに協力して仲間になるって言うなら……そ、その時は」

 そう言うとヴィクトリアはほほを赤く染め、自分の鎧の胸当てをずらして豊満な胸元を僕に見えるようにした。
 ほえっ、な、何を……。
 ヴィクトリアの小麦色の健康的な肌を前に僕は思わず息を飲む。

「お、おまえの好きなように触ってもいいぞ。天国みたいな気分にさせてやる」

 ブフーッ!
 何だその極端な条件は。

「だが仲間にならないなら皮はぎ&撲殺だ!」

 天国から地獄の振り幅すごすぎ!
 
「い、いやちょっと。だいたい何でそうなるの?」
「と、とぼけてんじゃねえ! おまえが相当な女好きのスケコマシ野郎だってことは有名な話だ!」
「そんなの聞いたことないよ!」

 嘘でしょ?
 そ、そんな不名誉ふめいようわさが出回ってるのか。

「どうせ交換条件としてアタシの体を求めるつもりなんだろ?」
「そんなわけないでしょ! そもそも僕、この通り地味ですし、女の子にモテる要素ゼロだよ」
「いいや。アタシはそんな見てくれなんぞにだまされねえぞ。やみの魔女ミランダ、光の聖女ジェネット、氷の魔道拳士アリアナ。いずれも音に聞こえしツワモノぞろいだ。あの女たちがそろいもそろっておまえみたいな地味な兵士に肩入れしてるってのは一体どういうわけだ? ああ?」

 た、確かに3人とも何だかんだで僕を助けてくれるけれど、それはモテてるとかいうのとは明らかに違うと思う。

「いや、それは彼女たちの気まぐれというか、優しさというか……」
「うーそーだーねー! あの手この手であいつらを手ごめにしてるんだろ? 愛人にしてるんだろ? そんなナリして、よ、夜とかすごいんじゃないのかおまえ。どうなんだ!」
「よ、夜とかって……何もすごくないよ!」

 もう何なのこの人!
 自分自身も顔を真っ赤にしてるくせに恥ずかしいワードを連発して。

「あの3人を手なずけてるってことはアルフレッドって奴はボンクラのふりをして相当な手練てだれなんじゃないかって世間じゃもっぱらのうわさだからな」
「て、手なずけてるなんてとんでもない」

むしろ僕のほうが犬扱いされてるんだけど。

「とにかく! おまえが女好きだってことはその顔を見れば分かる!」
「どんな顔だ!」

 もういい加減にしてよ。
 僕がほとほと困り果てていると、ヴィクトリアは声のトーンを下げてくちびるとがらせた。
 その目に浮かぶ色がほんのわずかに変化したように僕には見えた。

「だから……もし協力してくれるんなら、アタシもおまえが望むものをくれてやるって言ってんだ」
「ヴィクトリア……」
「ア、アタシは、あいつらに比べたらガタイもデカくて色気もねえけど、む、胸だけは勝ってるぞ。おまえもそう思うだろ?」
「た、確かに」

 何が「確かに」だ!
 何ガン見してんだ僕は!
 ミランダたちに聞かれたら殺されるところだぞ。
 でも僕はヴィクトリアを見ていて少し気になったんだ。
 え?
 いや、大きな胸のことじゃないからね!
 そうじゃなくて……。

「ヴィクトリア……君、もしかして何か悲しいことがあったの?」

 そう。
 彼女の目に浮かぶその色を僕は知っている。
 何か悲しいことがあった人は、こんな目をしているんだ。
 僕はそんな目を今まで何度か見たことがあるから。
 だから僕はヴィクトリアの話を聞いてあげたくなったんだ。
 それが自分の悪いくせだと分かっているけれど。
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