だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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第一章 長身女戦士ヴィクトリア

第11話 バカ女なんかじゃない!

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 空中高くでノアに放り投げられた僕は、地面へと落下していく中で確かに見た。
 僕を槍で刺し貫こうとするノアに、大きな斧が地上から襲いかかったのを。

「うぐあっ!」

 ノアは先ほどのように槍で斧を弾き返そうとしたけれど、斧の圧力に負けて槍のほうが弾き飛ばされてしまい、ノア自身も大きく後方に飛ばされた。
 それもそのはずで、地上から投じられたのは小振りな手斧である羽蛇斧ククルカンではなく、大型の両手斧である嵐刃戦斧ウルカンだったんだ。
 あ、あんな大きな斧をこの高さまで投げられるのは、ヴィクトリアの腕力と念力の賜物たまものだろう。
 すごいよ……ヴィクトリア。
 そんなことを考えている間にも僕はグングン地上に落下していく。

 くぅぅぅっ!。
 この落下する感覚。
 迫り来る地面。
 もう嫌だ!
 地面に激突した時の痛みを想像して僕は絶望的な気持ちになる。
 そしてついに地面に激突すると僕が目を閉じた瞬間だった。

「うぐっ……あ、あれ?」

 ふいに体をガシッと受け止められ、僕は地面への落下を免れたんだ。
 状況を理解できずに目を白黒させる僕を上からのぞき込み、呆れたような声を出したのはヴィクトリアだった。

「おい。生きてるか? まさかチビッてねえだろうな?」

 僕はヴィクトリアによってお姫様抱っこをされていた。
 信じられないことに地面に激突する寸前でヴィクトリアが僕を抱き止めてくれたんだ。
 あんな高さから人1人が落下してきたのを受け止めたら、それは相当な衝撃なんだろうけれど、ヴィクトリアはそれをものともせずに平然としていた。

「お、おかげさまで。ヴィクトリアは大丈夫なの? 僕、すごい高さから落ちたのに……」
「アタシはきたえ方が違うんだよ。おまえ一人くらいどうってことはねえ」
「そ、そっか。助けてくれてありがとう」
「助かったかどうか判断するのはまだ早いぜ。上を見な」

 そう言って僕を地面に降ろしたヴィクトリアは頭上を見上げる。
 僕も彼女にならって顔を上げた。
 先ほどノアを吹き飛ばした嵐刃戦斧ウルカンが回転しながら落ちて来て、ヴィクトリアはそれをガシッとつかむ。
 上空には再び槍をつかみ直して体勢を整えたノアがじっと僕らを見下ろしていた。
 
 その表情までは遠くてよく見えないけれど、ノアは蛇竜槍イルルヤンカシュを頭上に掲げると、そのまま右から左へと360度回転を始めたんだ。
 その速度は徐々に上がっていき、そのきりもみ状のスピンはまるでノアが一本の大きなドリルになったように思わせる。
 さらにノアの持つ槍の穂先が白と黒のまだらのもやを帯びて明滅し始めたんだ。

「あ、あれは? 聖邪の炎ヘル・オア・ヘヴン?」

 ノアは回転しながら光とやみのブレスを交互に吐き出し、それがもやとなる。
 そしてそのもやはすぐに槍全体を包み込み、さらにはノアの体をも飲み込んだ。
 まるでノアと槍が一体化してさらには光とやみもやを帯びた竜巻に変わってしまったみたいだった。
 その異様な雰囲気に息を飲む僕のとなりでヴィクトリアが嵐刃戦斧ウルカンを握って腰を落とす。

竜牙槍砲ドラゴン・バリスタ。ノアの上位スキルだ。高速回転によってドリルと化した槍で相手を貫く大技だ。過去10戦、あいつがあれをアタシに使ったことは一度もない」
「じょ、上位スキル……」

 確かに僕はヴィクトリアとノアの対戦映像であの技を見たことはない。
 だけど今のノアが放つ異様な殺気は僕にも感じ取れる。
 それはどれだけ恐ろしい威力を持つ技であるか想像に難くない。
 でも、ヴィクトリアは緊迫した表情の中でわずかのその口元をほころばせていた。

「ヴィクトリア……笑ってるの?」
「ああ。嬉しいじゃねえか。今まであの野郎は自分の最強の技を出すまでもなく私を倒していた。でも今回は違う。あいつは切り札を出さざるを得なかったってことだ。そこまであいつを追い詰めたってことだろう」

 確かにそうだ。
 ヴィクトリアの善戦によってノアは大技を使わざるを得なくなった。
 だけど、ヴィクトリアも初体験の技に対処せざるを得ないという危機的状況にあるんだ。
 だ、大丈夫なのか?

「た、対策は? どうやってあの技を避けるの?」
「逃げずに受け止める!」

 勇ましく答えるヴィクトリアに僕はグッと言葉に詰まってしまう。
 あのすさまじい高速回転を続ける槍の突進を受け止める?
 しょ、正気か?

「ま、真正面からなんて無茶だよ」

 僕は緊張で目蓋まぶたがヒクヒクするのを感じながらそう声をしぼり出した。
 だけどヴィクトリアは開き直ったように泰然と氷の盾を構えると僕の前に歩み出る。
 そして僕に背中を向けたまま彼女は言った。

「真正面から受け止めることに意味があるんだ。絶対に勝たなくちゃいけない戦いであっても、己の流儀を曲げないことに最高の価値を見出す。ヴィクトリアっていう戦うことしか能のないバカ女はな」
「ヴィクトリア……」
「それに下手に逃げようとして背中を刺されるより、万全の態勢で受け止めたほうがいいに決まってる。それで死んだらそれがアタシの運命ってことさ」

 覚悟を決めてそう言うヴィクトリアに僕も口をつぐんだ。
 そうだ。
 これは彼女の戦いだ。
 巻き込まれたとはいえ僕はしょせん部外者だから、彼女の流儀に口を出すべきじゃない。
 だけど……戦いを見届ける者として言いたいことは言わせてもらう。

「君は間違ってるよ。ヴィクトリア」
「なに?」

 僕がそんなことを言うと思わなかったんだろうね。
 虚を突かれたヴィクトリアは思わず驚いた顔で振り返る。
 そんな彼女に僕は言わずにいられなかった。

「君はバカ女なんかじゃない。どんな時も真正面から受け止める。そんなの誰にでも出来ることじゃない。それって……最高にカッコイイよ!」

 僕がそう言うと、彼女はわずかに呆けた顔をして、それから少しだけ肩を揺らして笑った。
 そして静かに言う。

「アルフレッド。今回はサンキューな。拉致らちっといて言うことじゃねえけど、おまえがいてくれて助かったわ。勝ってNPCになったら、そのうちおまえのとこに行くからな」
「ヴィクトリア……」
「あと7番目に残してある超回復ドリンクはおまえが使え。ノアにやられて傷ついてんだろ。アタシにはもう回復は必要ねえ。あとはアタシが死ぬかノアが死ぬかのどちらかだからな」

 それだけ言うとヴィクトリアは体の前に構えた氷の盾の裏に嵐刃戦斧ウルカンを隠すようにする独特の構えで腰を落とした。
 もう僕から彼女に言うべきことはない。
 だから僕はアイテム・ストックから7番目となる最後のアイテムを取り出すと、ヴィクトリアの背中をポンと叩いた。
 激励の意味を込めて。
 そんな僕らの頭上からノアの声が響き渡る。

此度こたびもノアの勝利ぞ。ヴィクトリア。うぬはノアには一生かけても勝てぬ」

 その声が響くや否や、回転する高速のうずと化したノアがヴィクトリア目掛けて急降下してきた。

竜牙槍砲ドラゴン・バリスタ!」

 ノアが上位スキルを発動させ、最後の勝負に打って出た。
 ヴィクトリアは真正面からこれを受け止めて反撃する腹づもりだ。
 天から打ち下ろされる巨大な竜巻となったノアは、上空から地上までわずか2秒にも満たないほどの速度で飛来してヴィクトリアに激突した。
 ヴィクトリアはこれを氷の盾で受け止めようとしたけれど、とてつもない衝撃に盾は一瞬で弾き飛ばされてしまった。

「ヴィクトリア!」
「ぐうううううっ!」

 だけど……だけどヴィクトリアは盾の裏に隠していた嵐刃戦斧ウルカンで逆にノアに打ちかかる。
 激しい火花が舞い散って2つの武器がぶつかり合う。
 ヴィクトリアが歯を食いしばり、両足で踏ん張ってノアの勢いを止めた。
 すさまじいぶつかり合いに僕は体が興奮で震えるのを止められなかった。

「すごい……すごいよヴィクトリア」

 だけどノアの竜牙槍砲ドラゴン・バリスタは止まらない。
 ヴィクトリアは次第にノアの勢いに押されていき、今にもノアの槍の穂先がヴィクトリアの腹部をえぐろうとしている。
 やばい……やばいやばいやばい!

「ぬぁぁぁぁぁ!」

 ヴィクトリアは必死の形相でこれを押し返そうとするけれど、彼女の腕力をもってしてもノアのほうが優勢だ。
 まずいぞ。
 ヴィクトリアは懸命に粘っているけれど、ついにノアの槍がヴィクトリアの炎の鎧を削り始めた。
 けたたましい金属音が鳴り響く。
 そしてヴィクトリアが悔しそうに吠えた。

「く……くっそぉぉぉぉぉぉ!」

 こ、ここまでか。
 ヴィクトリアの勝利を最後の最後まで信じたかったけれど、僕はこの時に決断した。
 7つ目のアイテムをここで使うことを。
 ヴィクトリアには7つ目のアイテムを回復用のドリンクだと言っておいたんだけど、それはうそだ。
 彼女には秘密で、僕は別のアイテムを購入しておいたんだ。
 
 多分、ヴィクトリアのプライドを傷つけることになるから、出来れば使わずにいたかったけれど、これは2対2のタッグ戦だ。
 そして僕はこの戦いにおける彼女のパートナーなんだ。
 だから僕は堂々とヴィクトリアに加勢することにした。
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