だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
13 / 89
第一章 長身女戦士ヴィクトリア

第12話 決着!

しおりを挟む
 竜人ノアの上位スキル・竜牙槍砲ドラゴン・バリスタが猛威を振るっていた。
 光とやみもやに包まれたノアが槍と一体化するようにしてドリル状となったその切っ先は、ヴィクトリアの鎧を削っていく。
 炎の鎧の上からでもその衝撃は強く、ヴィクトリアのライフはジリジリと減少の一途をたどっていた。
 そしてこのまま炎の鎧が貫かれてしまえばヴィクトリアは一気に大ダメージを受けてゲームオーバーは避けられないだろう。
 だからヴィクトリアは嵐刃戦斧ウルカンでノアを押し返すことに全力を傾ける他に成すすべがない。

 でもこのままじゃ攻撃に転じることは出来ない。
 ほんのわずかにでもすきが生まれればヴィクトリアは全ての力を攻撃に注ぐことが出来るはずなんだ。
 そのすきを……僕が作る!

 僕は両目を見開いてヴィクトリアの背中を見た。
 彼女の背中には一枚の白い護符が貼られていた。
 その護符には黒い墨で『身』と記されている。
 僕がさっき彼女を送り出す際に背中にこっそり貼り付けたものだった。
 それこそ最後のアイテムの半分であり、僕はアイテム・ストックから残りの半分となるもう一枚の護符を取り出すと自分の胸に貼り付けた。
 その黒い護符には白い文字で『代』と記されている。

 僕は今から自分がやろうとしていることを思って内心で溜息ためいきをついた。
 はぁ……僕ってどうしてこうなんだろう。
 もっと上手く立ち回ることが出来れば、痛い思いしないで済むのに。
 でも……やるしかない!
 覚悟を決めた僕は腹に力を込めて声を上げる。

「ヴィクトリア! 躊躇ちゅうちょせずに目の前の敵を叩くんだ!」

 決然と張り上げた僕の声にヴィクトリアはわずかに反応したけれど、彼女はそれから自分の身に起きた異変をすぐさま感じ取ったようだった。
 ノアの攻撃によって減り続けていたヴィクトリアのライフの変動が止まり、ノアの攻撃は止まっていないにもかかわらずヴィクトリアのライフはそれ以上減らなくなった。
 代わりに僕のライフがジリジリと減り始め、僕は腹を削られるような強い痛みを覚えて身をよじる。

「あががががが……」

 痛い痛い痛い!
 想像をはるかに超える痛みだ!
 苦痛の声を漏らさないよう我慢するつもりだったけれど、ヘタレの僕には無理だった。
 こ、こんなに痛いならやめときゃよかった。
 泣けてくる。
 だ、だけど作戦通りだ。

 第7のアイテム『身代わり札』。
 対となる『身』の護符を貼った仲間の受けるダメージを、『代』の護符を貼った者が全て代わりに受ける効果があるんだ。
 即ち今、ヴィクトリアが受けるはずだったダメージを僕が肩代わりしていることになる。
 ヴィクトリアがピンチに陥った時のために緊急用として彼女にナイショで買っておいたんだ。

「ア、アルフレッド。おまえ……」

 僕の漏らした苦痛の声にヴィクトリアはほんのわずかにたじろいだ。
 ふ、振り返っちゃダメだヴィクトリア!
 千載一遇のチャンスを失っちゃうよ。
 僕は苦痛をこらえて絶叫した。

「振り返るなヴィクトリア! 君の名は勝利を意味するんだろ! いつまでも負けっぱなしなら僕と同じヘタレだ! そんなんでいいのか!」

 振り返ろうとしたヴィクトリアの肩がビクリと止まる。
 そして彼女は我に返ったように怒声を上げた。

「う、うるっせえんだよ! 言われなくても分かってんだ! アタシは勝つ! ヘタレなんかじゃねぇぇぇぇ!」

 ヴィクトリアはそう声を張り上げると、防御を捨ててノアの槍の穂先が自分の鎧を貫くのも構わずに嵐刃戦斧ウルカンを振り上げる。
 そして自らの腕力と念力を掛け合わせて嵐のように両手斧を振るいまくる彼女の上位スキル・嵐刃大旋風ウルカン・フルバーストを繰り出した。
 僕は痛みも忘れて興奮に拳を握る。
 い、いけぇぇぇぇ!

「うおおおおおおおっ!」

 ヴィクトリアの繰り出す激しい刃の嵐が、回転し続けるノアの体を打った。
 ガキンッと大音響がして、竜牙槍砲ドラゴン・バリスタを展開していたノアの回転が止まった。

「くあっ!」

 ノアの体に今だまとわりつく磁力スライムによって確実にヒットしたヴィクトリアの斧が、ノアのライフを着実に1ポイント削り取る。
 だけどヴィクトリアの反撃はそれだけではとどまらない。

「くそったれぇぇぇぇ!」

 まるで今までの鬱憤うっぷんをすべて叩きつけるかのように、ヴィクトリアは連続で斧をノアに打ち込んだ。
 6、5、4、3……ノアのライフがどんどん減っていくぞ!
 荒れ狂う斧の激流に飲み込まれたら最後、そこから逃れることは誰にも出来ないんだ。
 反撃するすきをまったく与えないヴィクトリアの猛攻の前にノアはついに屈した。

「くはっ……」

 ライフ0。
 難攻不落だったノアのライフゲージはとうとう底をついた。
 ゲームオーバーだ!

「勝った……勝ったぞぉぉぉぉ!」

 ヴィクトリアが嵐刃戦斧ウルカンを頭上高く振り上げて雄叫おたけびを上げる。

「ノ、ノアが負けるなど……」

 地面に崩れ落ちたノアは、無念というよりも自身の敗北を信じられないといった驚愕きょうがくの表情でそう言葉を残すと、そのまま目を閉じて動かなくなった。
 その姿が大人のそれから本来の子供の姿に戻っていく。
 戦闘終了だった。
 ヴィクトリアは11戦目にしてノアに初勝利を収めたんだ。

 だけどゲームオーバーになったのはノアだけじゃなかった。
 身代わり札でノアの竜牙槍砲ドラゴン・バリスタの威力をもろにダメージとしてこの身に受けた僕のライフはもともと貧弱なこともあって、あっという間に底をついたんだ。
 僕の命もここまでだ。
 うぅ。
 そういえば僕、ライフゲージを持つようになってから初めてのゲームオーバーだな。

 ライフが0になった途端、さっきまでの痛みはうそのように消えて、代わりに体に力が入らない不思議な感覚が全身を包み込んでいる。
 これがゲームオーバーか。
 もう指一本動かせないや。
 ライフが0になるのは残念なことだけど、不思議と後悔はなかった。

「アルフレッド!」

 雄叫おたけびを上げて勝利の喜びに打ち震えていたヴィクトリアはハッとして僕の元へと駆け寄ってきた。
 横たわる僕のすぐそばひざをついて座った彼女は、ちょっと怒ったような表情を浮かべている。

「おまえ。7番目のアイテムのこと、アタシに黙ってやがったな」

 そう言うと彼女は僕の額を指で小突いた。
 彼女は7番目のアイテムは回復ドリンクだと思い込んでいたからね。

「ご、ごめん。でも身代わり札があるって分かってると、それが君の態度に出てノアに感付かれる恐れがあるでしょ。敵をあざむくにはまず味方からって言うしね」

 そう言う僕だけど、ヴィクトリアは不満げに口をとがらせた。

うそつけ。真っ向勝負に横やり入れるようなアイテムは、アタシのプライドを傷付けると思って余計な気を回したんだろ。生意気なんだよ」

 そっか。
 僕の浅知恵なんて彼女にはお見通しだったんだね。

「ご、ごめんよ。余計なことだったね」
「……助かったよ。おまえのおかげで勝てた。おまえを仲間にした甲斐かいがあったぜ」

 ヴィクトリアは少しばかり照れくさそうに目をそらしながらそう言った。
 そんな彼女の様子に僕は思わず苦笑してしまう。

「そう言ってもらえると、無理矢理にでも仲間にされた甲斐かいがあるよ」

 そろそろ視界がボンヤリしてきた。
 ヴィクトリアの顔もおぼろげになってきたな。
 いよいよコンティニューの時間か。

 ようやくやみ洞窟どうくつに戻れる。
 ずいぶん遅くなっちゃったからミランダにこっぴどくしかられるんだろうな。
 それだけが憂鬱ゆううつだよ。
 また己の分をわきまえずに余計なお節介せっかいしちゃったし。
 でも、ヴィクトリアがこんなに笑ってくれるなら、まあいいか。

「ヴィクトリア。NPCになったらまた自由に冒険してね。君が楽しんで暮らせるよういのってるから」

 この場から消える間際、僕は最後にそう伝えた。
 ヴィクトリアは僕の言葉を受けて何か言葉を返してくれているみたいだったけれど、もう彼女の声は僕には聞こえない。
 だけど閉ざされていく視界の中で、最後にヴィクトリアは見たこともないような優しい目をして、僕のほほにそっと口づけをしてくれたんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

処理中です...