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最終章 決戦! 天樹の塔
第18話 最後の光
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キャメロンによって望まぬ巨大竜の姿に変えられてしまったノアの目から金色の涙が溢れて舞い落ちる。
彼女は抗えないはずのキャメロンの命令に抵抗し、負傷しているイザベラさんや見習い天使のティナを襲う寸前で自分の暴挙を止めたんだ。
そんな彼女の目に見習い天使のティナの姿が映っている。
ティナをデザインしたのは、かつてノアをデザインし、ノアが母として慕った女性スタッフだった。
ノアにはそれが一目で分かったんだろう。
ティナを見つめるその目からはハラハラと涙が流れ落ちていた。
ティナはその隙にイザベラさんを抱えて一気にその場から離脱して飛び去っていく。
その様子を見てキャメロンは吐き捨ているように言った。
「チッ! 役立たずの化け物め」
去っていくティナを目で追いながら涙を流すノアが、力のない鳴き声を上げる。
それは先ほどの天地を切り裂くような咆哮とは違い、己の運命を呪うかのような悲哀に満ちた嘆きの声だったんだ。
再三に渡って誇りを踏みにじられたノアの悲しみや悔しさが伝わって来て、僕は腹の底から怒りが込み上げてきた。
「キャメロン。もういい加減にしろ。こんなの……こんなの絶対許せない!」
「ハッ。許せないなら俺を振りほどいてあの巨大竜を止めてみせろ。出来もしないくせに貴様は口だけだな」
そう嘲り笑うキャメロンの手から逃れようと僕は無我夢中で暴れるけれど、キャメロンの力は絶対的で、振りほどくことは叶わない。
ノアが苦しんでいるのに、こんな時に僕は何も力になってあげられないのか。
「くそぉぉぉぉっ!」
悔しくて大声を張り上げたその時だった。
僕が手に握っていた金環杖からいきなり金色の霧が吹き出して、僕とキャメロンを包み込んだ。
「なっ……」
驚くキャメロンと僕の反応はまったく違っていた。
僕はその金色の霧に温かさと心地良さを感じていたけれど、キャメロンは激しく咳き込んで苦しみ始めたんだ。
「ゴハッ! うがぁぁぁぁっ」
キャメロンの力が一気に緩んだのを感じ、僕は彼の手を振りほどいて思い切りその体を蹴りつけた。
金色の霧に苦しみながらキャメロンは燃える森の中へと落下していく。
僕はすぐに振り返ってノアの元へと飛んだ。
「ノアッ!」
僕は涙を流し続けるノアの巨体に飛び付き、その頬に手を触れた。
「ノア。もういいんだ。暴れなくていいんだよ。君のなりたくない姿になんて、もうならなくていいから」
僕がそう言うとノアは力のない声で鳴く。
そして僕の体にノアの涙がシャワーのように降り注いだ。
金色の涙に濡れるのも構わずに僕はノアの頬に体を押し当てる。
「もう大丈夫。君のお母さんが描いてくれた君のままでいていいんだ。君の誇りをこれ以上誰にも傷つけさせやしない」
とめどなく溢れるノアの涙に濡れる僕だけれど、その体は温かくなっていた。
その原因はすぐに分かった。
5つのアザが残る僕の左手首が急激に熱を帯び始めていたんだ。
「こ、これは……あ、熱い」
体を伝い落ちるノアの涙の雫に濡れた手首に5つ残るアザのうち、4つはすでに黒、白、青、赤に染まっている。
そして今、くすんだ肌色だった5つ目のアザに金色の光が灯り始めたんだ。
僕は驚きに息を飲む。
最後の光が宿った途端、手首の熱が体中に広がっていき、僕はたまらずに声を上げた。
「く……あああああっ!」
やがて体中を包み込んでいた熱が落ち着くと、僕は湧き出るような力の奔流が体内を駆け巡っているのを感じた。
その時、焼けた森に落ちたキャメロンが身体中から煙を立ち上らせながら急上昇して接近してくるのを僕は視界の端に捉えた。
すぐに僕は巨大なノアを背に守るようにして、キャメロンの前に立ちはだかる。
「もうこれ以上ノアを傷つけさせない」
そう言う僕と空中で対峙しながらキャメロンは険しい顔つきで睨んでくる。
「……まったく不可解な男だ。その化け物を守ることで貴様はどんな見返りを求めている? 女たちの変化した感情プログラムを取り入れた今なお俺には理解できん」
「見返りなんていらない。僕はノアを救いたいだけだ!」
憤然とそう叫ぶ僕を見てキャメロンは冷笑を浮かべた。
「そんなお為ごかしを俺が信じると思うか? 他人のためにリスクを背負う利他的行為は、その相手からのリターンを期待しての投資だ。俺が貴様にEライフルを与えたようにな。だが貴様の目は節穴だ。そんな化け物から得られる見返りなどたかが知れている」
「化け物なんかじゃない! ノアは……僕の仲間だ。仲間が侮辱されて、傷つけられて、僕はそれが許せない! そんなことも分からない君に、絶対に負けるわけにはいかないんだ!」
感情が爆発して口から止めどなく溢れ出す。
キャメロンはそんな僕をせせら笑いながら言った。
「馬鹿め。そうして怒り昂ぶるほどに貴様は力を失って……」
キャメロンが言葉を言い終わらないうちに、僕の背後で眩い光が舞い上がった。
背中に感じていたノアの巨体が消えていくことに驚き、僕はキャメロンと対峙しているというのに思わず振り返った。
「ノ、ノア……」
ノアの巨体はまるでゲームオーバーの際のように光の粒子に包まれて消えていく。
僕が不思議に思っていると光の粒子が1つに寄り集まって金色の小さな光の球に変わったんだ。
そしてその光の玉は僕の左手首にある金色のアザの中に吸い込まれた。
その途端に僕が身につけている天樹の衣に変化が現れた。
天樹の木の色をしていた胸当てなどの装甲がノアのそれのような金色の鱗に変化していく。
ノ、ノアの力だ……。
僕は即座に踵を返し、キャメロンと再び対峙する。
彼は僕の変化に目を見張り、警戒の表情を浮かべていた。
そんなキャメロンを見据える僕の視界の中に、唐突にコマンド・ウインドウが展開されたんだ。
【Bond System start‐up】
ウインドウの中に示されたその文字に僕は息を飲む。
こ、これは……イザベラさんが言っていた絆システムか?
避難した彼女たちが残してくれた天樹の衣が今まさに僕に力を与えようとしてくれているのを感じ、僕は2人に感謝した。
【Band of Alfred】
ぼ、僕のチーム……。
そしてその言葉のすぐ下にある枠の中に新たな文字が追加された。
【membership list】
【Noah】
ノアの名前だ……。
それがリストに追加された途端、僕の持っている金環杖の宝玉からいきなり白と黒の粒子が噴出した。
それは僕の前方で身構えていたキャメロンを襲う。
「うおっ!」
不意を突かれたキャメロンは慌ててこれを回避した。
こ、これは……。
「ノアの聖邪の炎だ」
ノアが得意とする光と闇のブレスが合成された状態でキャメロンに襲いかかったんだ。
ノアが僕に力を貸してくれている。
今、彼女自身がどうなっているのか心配だけど、キャメロンを倒さなければここまでの皆の苦労が水泡に帰す。
僕は金環杖を握りしめてキャメロンを睨みつけた。
「来い! キャメロン!」
「貴様……調子に乗るなよ!」
キャメロンは再び自身を高熱の溶岩流へと変化させて襲いかかってくる。
だけど僕が金環杖から聖邪の炎を放出すると、それを浴びた流体のキャメロンはあえなく霧散した。
「よしっ!」
僕は確かな手ごたえを感じて金環杖を握る力を強めた。
霧散した流体のキャメロンはすぐにまた収斂して元の姿に戻るけれど、その顔からはすっかり余裕が消え失せていた。
そして確かに彼のライフは減少し始めていたんだ。
効いてる……効いてるぞ。
これは本家本元のノアのブレスより強力かもしれない。
この機を逃すまいと僕は一気に攻勢に出た。
「チィッ!」
キャメロンは流体ではブレスに対して相性が悪いと判断したのか、元の堕天使の姿に戻ると、僕の放つブレスをかいくぐって接近戦に持ち込もうとしてくる。
その手に握られている鉄の棒が先の尖った長槍へと変化した。
「串刺しにしてやる!」
僕はキャメロンを撃墜しようと聖邪の炎を放つけれど、キャメロンは冷静さを取り戻していた。
「吸収防壁!」
キャメロンの体の周囲に現れる空気の揺らぎの中に光と闇のブレスは吸い込まれていき、彼にダメージを与えることは出来ない。
キャメロンはニヤリと笑みを浮かべ、長槍を手に突進してくる。
その時、僕は自分の視界が金色に染まるのを感じて両目を見開いた。
その途端、キャメロンの周囲に展開されている吸収防壁に異変が生じた。
「なにっ?」
さっきは光と闇のブレスを吸い込んだ空気の揺らぎの中から、逆に金色に光る無数の糸が現れたんだ。
それはキャメロンの体に次々と絡みついてその動きを止めてしまう。
ド、縛竜眼だ。
それは以前にヴィクトリアとの戦いでノアが使った、相手を光の金糸で縛り付ける技だった。
技を使う際にノアの目が金色の光を放ったをのよく覚えている。
僕の視界が金色に光ったのも、おそらくその現象と同じことが僕の目に起きていたんだ。
「忌々しいっ!」
身動きの取れなくなったキャメロンは仕方なく再び流体に変化して光の緊縛から逃れるけれど、その隙を見逃さずに僕は思い切り光と闇のブレスをキャメロンに浴びせた。
「うぐああああっ!」
液状化したキャメロンはまたもや霧散し、再度の収斂によって元の姿に戻ったけれど、そのライフは着実に減っている。
「お、おのれ……」
大きく後方に飛ばされたキャメロンは苦虫を噛み潰したような顔で僕を睨みつけていたけれど、再びこちらに向かってくることはなく後方に飛び去っていく。
襲いかかって来るかと思って身構えていた僕は虚を突かれた。
「待てっ!」
一転して今度は追う立場となった僕は、天樹の衣の力をフル活用し、空中を高速で飛翔する。
キャメロンの背中を追いかける僕はすぐに彼の意図に気が付いた。
彼は再び中央広場へと戻ろうとしているんだ。
そこにはミランダたちがまだ捕まっているはずだった。
もし彼女たちを人質にされたりしたら……。
僕は焦りに駆られて必死にキャメロンを追った。
だけどそんな僕を邪魔するように中央広場の中から十数人の堕天使が現れたんだ。
キャメロンが放った妨害役の彼らに対し、僕は速度を緩めることなく突っ込んだ。
モタモタしている暇はないんだ。
「邪魔するなあっ!」
僕は金環杖を振りかざし、光と闇のブレスをまき散らして彼らを排除した。
今の僕なら例え相手が十数人でも堕天使相手に後れを取ることは無い。
それでも全員を撃墜するのに多少の時間のロスが発生し、その間にキャメロンの姿は見えなくなってしまっていたんだ。
そして遅れて中央広場にたどり着いた僕は、そこで見た光景に思わず声を上げた。
「ああっ!」
中央広場の吹き抜けを見上げると、そこではキャメロンが左右の手で情報編集を発動し、十字架に貼り付けられて気を失っているミランダとジェネットのお腹に両手を差し込んでいたんだ。
彼女は抗えないはずのキャメロンの命令に抵抗し、負傷しているイザベラさんや見習い天使のティナを襲う寸前で自分の暴挙を止めたんだ。
そんな彼女の目に見習い天使のティナの姿が映っている。
ティナをデザインしたのは、かつてノアをデザインし、ノアが母として慕った女性スタッフだった。
ノアにはそれが一目で分かったんだろう。
ティナを見つめるその目からはハラハラと涙が流れ落ちていた。
ティナはその隙にイザベラさんを抱えて一気にその場から離脱して飛び去っていく。
その様子を見てキャメロンは吐き捨ているように言った。
「チッ! 役立たずの化け物め」
去っていくティナを目で追いながら涙を流すノアが、力のない鳴き声を上げる。
それは先ほどの天地を切り裂くような咆哮とは違い、己の運命を呪うかのような悲哀に満ちた嘆きの声だったんだ。
再三に渡って誇りを踏みにじられたノアの悲しみや悔しさが伝わって来て、僕は腹の底から怒りが込み上げてきた。
「キャメロン。もういい加減にしろ。こんなの……こんなの絶対許せない!」
「ハッ。許せないなら俺を振りほどいてあの巨大竜を止めてみせろ。出来もしないくせに貴様は口だけだな」
そう嘲り笑うキャメロンの手から逃れようと僕は無我夢中で暴れるけれど、キャメロンの力は絶対的で、振りほどくことは叶わない。
ノアが苦しんでいるのに、こんな時に僕は何も力になってあげられないのか。
「くそぉぉぉぉっ!」
悔しくて大声を張り上げたその時だった。
僕が手に握っていた金環杖からいきなり金色の霧が吹き出して、僕とキャメロンを包み込んだ。
「なっ……」
驚くキャメロンと僕の反応はまったく違っていた。
僕はその金色の霧に温かさと心地良さを感じていたけれど、キャメロンは激しく咳き込んで苦しみ始めたんだ。
「ゴハッ! うがぁぁぁぁっ」
キャメロンの力が一気に緩んだのを感じ、僕は彼の手を振りほどいて思い切りその体を蹴りつけた。
金色の霧に苦しみながらキャメロンは燃える森の中へと落下していく。
僕はすぐに振り返ってノアの元へと飛んだ。
「ノアッ!」
僕は涙を流し続けるノアの巨体に飛び付き、その頬に手を触れた。
「ノア。もういいんだ。暴れなくていいんだよ。君のなりたくない姿になんて、もうならなくていいから」
僕がそう言うとノアは力のない声で鳴く。
そして僕の体にノアの涙がシャワーのように降り注いだ。
金色の涙に濡れるのも構わずに僕はノアの頬に体を押し当てる。
「もう大丈夫。君のお母さんが描いてくれた君のままでいていいんだ。君の誇りをこれ以上誰にも傷つけさせやしない」
とめどなく溢れるノアの涙に濡れる僕だけれど、その体は温かくなっていた。
その原因はすぐに分かった。
5つのアザが残る僕の左手首が急激に熱を帯び始めていたんだ。
「こ、これは……あ、熱い」
体を伝い落ちるノアの涙の雫に濡れた手首に5つ残るアザのうち、4つはすでに黒、白、青、赤に染まっている。
そして今、くすんだ肌色だった5つ目のアザに金色の光が灯り始めたんだ。
僕は驚きに息を飲む。
最後の光が宿った途端、手首の熱が体中に広がっていき、僕はたまらずに声を上げた。
「く……あああああっ!」
やがて体中を包み込んでいた熱が落ち着くと、僕は湧き出るような力の奔流が体内を駆け巡っているのを感じた。
その時、焼けた森に落ちたキャメロンが身体中から煙を立ち上らせながら急上昇して接近してくるのを僕は視界の端に捉えた。
すぐに僕は巨大なノアを背に守るようにして、キャメロンの前に立ちはだかる。
「もうこれ以上ノアを傷つけさせない」
そう言う僕と空中で対峙しながらキャメロンは険しい顔つきで睨んでくる。
「……まったく不可解な男だ。その化け物を守ることで貴様はどんな見返りを求めている? 女たちの変化した感情プログラムを取り入れた今なお俺には理解できん」
「見返りなんていらない。僕はノアを救いたいだけだ!」
憤然とそう叫ぶ僕を見てキャメロンは冷笑を浮かべた。
「そんなお為ごかしを俺が信じると思うか? 他人のためにリスクを背負う利他的行為は、その相手からのリターンを期待しての投資だ。俺が貴様にEライフルを与えたようにな。だが貴様の目は節穴だ。そんな化け物から得られる見返りなどたかが知れている」
「化け物なんかじゃない! ノアは……僕の仲間だ。仲間が侮辱されて、傷つけられて、僕はそれが許せない! そんなことも分からない君に、絶対に負けるわけにはいかないんだ!」
感情が爆発して口から止めどなく溢れ出す。
キャメロンはそんな僕をせせら笑いながら言った。
「馬鹿め。そうして怒り昂ぶるほどに貴様は力を失って……」
キャメロンが言葉を言い終わらないうちに、僕の背後で眩い光が舞い上がった。
背中に感じていたノアの巨体が消えていくことに驚き、僕はキャメロンと対峙しているというのに思わず振り返った。
「ノ、ノア……」
ノアの巨体はまるでゲームオーバーの際のように光の粒子に包まれて消えていく。
僕が不思議に思っていると光の粒子が1つに寄り集まって金色の小さな光の球に変わったんだ。
そしてその光の玉は僕の左手首にある金色のアザの中に吸い込まれた。
その途端に僕が身につけている天樹の衣に変化が現れた。
天樹の木の色をしていた胸当てなどの装甲がノアのそれのような金色の鱗に変化していく。
ノ、ノアの力だ……。
僕は即座に踵を返し、キャメロンと再び対峙する。
彼は僕の変化に目を見張り、警戒の表情を浮かべていた。
そんなキャメロンを見据える僕の視界の中に、唐突にコマンド・ウインドウが展開されたんだ。
【Bond System start‐up】
ウインドウの中に示されたその文字に僕は息を飲む。
こ、これは……イザベラさんが言っていた絆システムか?
避難した彼女たちが残してくれた天樹の衣が今まさに僕に力を与えようとしてくれているのを感じ、僕は2人に感謝した。
【Band of Alfred】
ぼ、僕のチーム……。
そしてその言葉のすぐ下にある枠の中に新たな文字が追加された。
【membership list】
【Noah】
ノアの名前だ……。
それがリストに追加された途端、僕の持っている金環杖の宝玉からいきなり白と黒の粒子が噴出した。
それは僕の前方で身構えていたキャメロンを襲う。
「うおっ!」
不意を突かれたキャメロンは慌ててこれを回避した。
こ、これは……。
「ノアの聖邪の炎だ」
ノアが得意とする光と闇のブレスが合成された状態でキャメロンに襲いかかったんだ。
ノアが僕に力を貸してくれている。
今、彼女自身がどうなっているのか心配だけど、キャメロンを倒さなければここまでの皆の苦労が水泡に帰す。
僕は金環杖を握りしめてキャメロンを睨みつけた。
「来い! キャメロン!」
「貴様……調子に乗るなよ!」
キャメロンは再び自身を高熱の溶岩流へと変化させて襲いかかってくる。
だけど僕が金環杖から聖邪の炎を放出すると、それを浴びた流体のキャメロンはあえなく霧散した。
「よしっ!」
僕は確かな手ごたえを感じて金環杖を握る力を強めた。
霧散した流体のキャメロンはすぐにまた収斂して元の姿に戻るけれど、その顔からはすっかり余裕が消え失せていた。
そして確かに彼のライフは減少し始めていたんだ。
効いてる……効いてるぞ。
これは本家本元のノアのブレスより強力かもしれない。
この機を逃すまいと僕は一気に攻勢に出た。
「チィッ!」
キャメロンは流体ではブレスに対して相性が悪いと判断したのか、元の堕天使の姿に戻ると、僕の放つブレスをかいくぐって接近戦に持ち込もうとしてくる。
その手に握られている鉄の棒が先の尖った長槍へと変化した。
「串刺しにしてやる!」
僕はキャメロンを撃墜しようと聖邪の炎を放つけれど、キャメロンは冷静さを取り戻していた。
「吸収防壁!」
キャメロンの体の周囲に現れる空気の揺らぎの中に光と闇のブレスは吸い込まれていき、彼にダメージを与えることは出来ない。
キャメロンはニヤリと笑みを浮かべ、長槍を手に突進してくる。
その時、僕は自分の視界が金色に染まるのを感じて両目を見開いた。
その途端、キャメロンの周囲に展開されている吸収防壁に異変が生じた。
「なにっ?」
さっきは光と闇のブレスを吸い込んだ空気の揺らぎの中から、逆に金色に光る無数の糸が現れたんだ。
それはキャメロンの体に次々と絡みついてその動きを止めてしまう。
ド、縛竜眼だ。
それは以前にヴィクトリアとの戦いでノアが使った、相手を光の金糸で縛り付ける技だった。
技を使う際にノアの目が金色の光を放ったをのよく覚えている。
僕の視界が金色に光ったのも、おそらくその現象と同じことが僕の目に起きていたんだ。
「忌々しいっ!」
身動きの取れなくなったキャメロンは仕方なく再び流体に変化して光の緊縛から逃れるけれど、その隙を見逃さずに僕は思い切り光と闇のブレスをキャメロンに浴びせた。
「うぐああああっ!」
液状化したキャメロンはまたもや霧散し、再度の収斂によって元の姿に戻ったけれど、そのライフは着実に減っている。
「お、おのれ……」
大きく後方に飛ばされたキャメロンは苦虫を噛み潰したような顔で僕を睨みつけていたけれど、再びこちらに向かってくることはなく後方に飛び去っていく。
襲いかかって来るかと思って身構えていた僕は虚を突かれた。
「待てっ!」
一転して今度は追う立場となった僕は、天樹の衣の力をフル活用し、空中を高速で飛翔する。
キャメロンの背中を追いかける僕はすぐに彼の意図に気が付いた。
彼は再び中央広場へと戻ろうとしているんだ。
そこにはミランダたちがまだ捕まっているはずだった。
もし彼女たちを人質にされたりしたら……。
僕は焦りに駆られて必死にキャメロンを追った。
だけどそんな僕を邪魔するように中央広場の中から十数人の堕天使が現れたんだ。
キャメロンが放った妨害役の彼らに対し、僕は速度を緩めることなく突っ込んだ。
モタモタしている暇はないんだ。
「邪魔するなあっ!」
僕は金環杖を振りかざし、光と闇のブレスをまき散らして彼らを排除した。
今の僕なら例え相手が十数人でも堕天使相手に後れを取ることは無い。
それでも全員を撃墜するのに多少の時間のロスが発生し、その間にキャメロンの姿は見えなくなってしまっていたんだ。
そして遅れて中央広場にたどり着いた僕は、そこで見た光景に思わず声を上げた。
「ああっ!」
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