だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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最終章 決戦! 天樹の塔

第20話 金と銀

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【Band of Alfred】
【membership list】

【Noah / Victoria / Ariana / Jennette / Miranda】

 僕の視界に映るコマンド・ウインドウに記名された5人の少女たちが、土壇場どたんばで僕をキャメロンから守ってくれたんだ。
 僕の感情プログラムを抜き取ろうとお腹に右手を差し込んだキャメロンだけど、お腹の内側から現れた5つの手がそれをはばむ。
 それはミランダたち5人の少女の手だった。
 今や光の玉となって僕の体の中に入っているだけで元の彼女たちの姿は失われてしまっているのに……そんな状態なのに皆は僕を守ろうとしてくれているんだ。

 負けられない。
 僕は心の底から勝利への執念が湧きたつのを感じていた。
 一方のキャメロンは5人の手につかまれているために、僕のお腹の中から右手を引き抜けずに苛立いらだちの声を上げる。

「おのれっ!」

 そこでキャメロンは強制変換フォース・シフトによって体を再び流体化させようとした。
 手をつかまれたまま動けない膠着こうちゃく状態から抜け出そうとしているんだ。
 だけど彼の体はわずかに流体化のきざしを見せただけで、すぐに元の姿に戻ってしまった。

 その時、僕は視界の端で何かがうごめくのを見たような気がした。
 ほんの一瞬だけ流体化したキャメロンの体から何かがい出してきたような……。
 キャメロンはそれにまったく気付いていないようだったけれど、僕はそれを目で追おうとした。
 だけど流体化に失敗したキャメロンが忌々いまいましげに上げた怒声に僕は注意を引き戻される。

「貴様ぁ! 一体何をした!」

 キャメロンは憤慨ふんがいしてそう言うと僕をにらみつけた。
 もちろん僕は何もしていないし事情も分からないけれど、彼は今、得意の流体化を使えないようだ。
 そう悟った僕は咄嗟とっさに右手のそばに落ちている金環杖サキエルつかみ、それでキャメロンの側頭部を殴り付けた。
 もちろんキャメロンの頭部は頑丈で、僕が何度殴ってもビクともしない。

「無駄な悪あがきだ!」

 キャメロンは自由のきく左手で僕が必死に振るう金環杖サキエルを打ち払おうとした。
 だけど……そんな彼の左手が金環杖サキエルに当たった瞬間、二の腕の部分からスパッと切断されてしまったんだ。

「えっ?」
「ぐああっ……」

 腕の切断面から血が噴き出し、キャメロンは苦痛の声を上げる。
 突然のことに僕は呆気あっけに取られてしまった。
 そして僕は目をしばたかせながら、手に握っている金環杖サキエルの形状が変化していることに気付いて驚愕きょうがくを覚えた。
 ほんの数秒前まで杖だったはずのそれは、僕の手の中で金色の刃に変貌へんぼうを遂げていたんだ。
 
 それは黄金色に輝く刀身を持つ一本の剣だった。
 緩やかな曲線を描いた反りのある湾刀のつかには……金色のへびがとぐろを巻いていたんだ。
 そのへびの姿に僕は目を見開いた。

「タ、タリオだ。いつの間に……」

 それは僕が元いたゲーム世界で使っていたものとは形状も色彩も異なるけれど、特徴的な金色のへびが示すように、それは確かに報復の蛇剣・タリオだった。
 タリオは僕のゲーム世界で運営本部によって封印されていたはずなのに。
 いつの間に金環杖サキエルがタリオに変化していたのか分からないけれど、あの頑強なキャメロンの腕を一太刀で切り落としてしまう切れ味は、以前のものと比較しても段違いの威力だった。
 
 そして他にも以前のタリオと違うのは、刃の根元に見慣れないゲージが埋め込まれていることだ。
 その1本のゲージは黒、白、赤、青、金の5色の目盛りで構成されている。
 それは僕の左手首のアザと同じ配色であり、ミランダ達5人に関係のあることだと思ったけれど、それを詳しく考えているひまはない。

「貴様……このに及んでまだ力が変質するとは……」

 苦しげな顔でそう言うキャメロンのライフは半分近くまで減少していた。
 この黄金の蛇剣タリオにどうしてそれほどの力があるのか分からないけれど、キャメロンを倒す最後のチャンスに僕は奮起した。
 僕はもう一度、蛇剣タリオを握る手に力を込めてそれをキャメロンに向けて振るう。
 だけど今度ばかりはキャメロンに油断はない。

「馬鹿め! 二度目はない!」

 そう言うとキャメロンは右手を僕のお腹に差し込んだ状態で大きく腕を振るった。
 僕は思い切り体を振られ、握っていた金色の蛇剣タリオを落としてしまったんだ。

「うわっ!」
 
 無我夢中で気付かなかったけれど、金色の蛇剣タリオを握る僕の手は、キャメロンが流した血で濡れてすべりやすくなっていたんだ。
 金色の刀身が床に落ちてむなしく音を立てた。
 キャメロンは足でそれを遠くに蹴り飛ばすと至近距離で僕をにらみつける。

「アルフレッド。貴様の感情プログラムは異常すぎる。それをこの身に取り込むリスクは看過できん。口惜しいが俺の読み違いだ。よって貴様はこのまま排除する」

 そう言うとキャメロンは僕のお腹に手を差し込んだまま、僕の体を持ち上げた。
 ま、まずい。
 このまま床に叩きつけられたら、せっかく回復したライフが再び大きく減ってしまう。
 歯を食いしばって抵抗しようとする僕だけど、キャメロンはそのまま僕の体を床に向けて振り下ろした。
 だけどその時、僕は背中にムズムズするような違和感を感じたんだ。
 そして叩きつけられるかと思った僕の体は不自然に床の手前で止まった。

「なにっ? どういうことだ!」

 キャメロンは声を荒げて腕に力を込め、僕をそのまま床に押し付けて潰そうとする。
 だけど僕の体は一向に床に触れずに浮いていた。
 僕はハッと気が付いた。
 この体勢では見えないけれど、僕の背中からもみんなの手が伸びてきて、僕が床に叩きつけられないよう支えてくれているんだ。

「チッ! 小癪こしゃくな!」

 すぐにキャメロンは僕を持ち上げて自分の体に引き寄せ、僕の頭に頭突きを浴びせようとした。
 だけど僕の額からまたもや手が現れて、僕にぶつかってこようとするキャメロンの頭を押さえ込んだ。
 その一本の手は力自慢のヴィクトリアのものだった。

 み、みんなが力を合わせて僕を守ろうとしてくれている。
 今こそ僕にとっての最後の反撃機会なんだ。
 何か……何か僕に打てる手はないのか。
 僕は必死に視線をさ迷わせる。

 そして僕は前方の床に、あるものが転がっているのを目にしてハッと息を飲む。
 い、Eライフルだ。
 そう。
 さっきキャメロンがもはや不要と打ち捨てたEライフルが、この中央広場の床に残されている。
 だけど僕が驚いたのはそのことじゃない。

 そのEライフルの上にのしかかるようにして、一匹の生き物がそこにいたからだ。
 Eライフルの銃身にまとわりついているのは、銀色に輝く体を持つ一匹のへびだった。
 そして僕は見た。
 へびに絡み付かれたEライフルが見る見るうちに形を変えていくのを。

「この死に損ないが!」

 キャメロンは頭を振るってヴィクトリアの手を振るい落とす。
 その手はすぐにまた僕の体の中へと戻った。
 それを見たキャメロンは今度は僕をひざで蹴りつけようと腰を落とした。
 その時……。

「かはっ……」

 キャメロンが息を吐き出すような声を出したかと思うと、彼の胸から突如として一本の剣が突き出してきたんだ。
 それは彼の背中から貫通してその胸を貫いていた。
 キャメロンは自分の胸を貫いた銀色の剣を見下ろし、その色彩と特徴にすぐに気が付いた。

「こ、これは……Eライフルか」

 そう。
 それはEライフルの特徴である緑銀色の一本線が刀身の真ん中に引かれた、白銀の両刃剣だったんだ。
 おそらくあの銀色のへびがEライフルをこの剣に形状変化させたんだろう。
 僕はさっき自分がチラリと見たものが何だったのかを悟った。

 一瞬だけ流体となったキャメロンの体から現れ落ちたのは、金と銀のへびだったんだ。
 それが金環杖サキエルとEライフルを剣に変質させた。
 どうしてそれがキャメロンの体から出てきたのかは理解できなかったけれど、そのおかげで僕はまだ生きている。
 キャメロンは思わぬ一撃を受けて立ち尽くしたまま、口から鮮血を吐いた。

「ごほっ……」

 僕は銀色のその剣が金色の蛇剣タリオと同じ性質であることを確信した。
 僕の位置からだとつかへびは見えないけれど、さっきの金色のタリオと同様に刃の中央にゲージが見える。
 そのゲージは今まさに減少しているところだった。
 そしてその減少分と同じ量がダメージとしてキャメロンのライフゲージから削り取られたんだ。
 それはかなりの大ダメージで、豊富なライフ量を誇るキャメロンのそれも残りわずかとなった。

 今だ!
 僕がそう思った時、僕のお腹から出ていた5人の手が消えて、キャメロンの腕がスポッと抜けた。
 体の自由を得て床に倒れ込んだ僕は、さっきキャメロンが蹴り飛ばした金色の蛇剣タリオに向けて手を伸ばす。
 来い!
 僕の元に!

 確信はなかった。
 だけど金色の蛇剣タリオは空中を飛来して一瞬で僕の手に収まったんだ。
 その蛇剣タリオにはまだ多くのダメージ・ゲージが残されている。
 今のキャメロンを倒すには十分な量のダメージを与えられるほどに。
 僕は力を振り絞って金色の蛇剣タリオをキャメロンに向けて突き出した。

「うおおおおおおっ!」
めるなっ!」

 キャメロンは僕が渾身こんしんの力で突き出した金の蛇剣タリオを右手でつかんで止める。
 刃を思い切り握りしめているためにキャメロンの手からは血がしたたり落ちるけれど、彼はそれも構わずに鬼の形相ぎょうそう蛇剣タリオを握っていた。
 その力は強く、いくら僕が押しても引いても蛇剣タリオは動かない。
 そして赤く充血した目で僕をにらむキャメロンからは底知れない執念が伝わってくる。

「キャメロン。君はどうしてそこまで……」
「俺は全てを飲み込み……必ず目的を果たす。この忌々いまいましい世界を……滅殺する!」

 そう言うキャメロンのただならぬ気配を感じて僕は声を上げた。

蛇剣タリオ!」

 僕の声に応じて剣のつかから飛び出した金のへびが、キャメロンの右手首に噛みついた。
 そして彼の胸に背中から刺さっている銀の蛇剣タリオへびつかを離れてキャメロンの首を締め上げる。
 2匹のへびのおかげか、金の蛇剣タリオの刀身をつかんでいるキャメロンの手の力がわずかに緩んだ。

 そしてそんな僕に手を貸してくれるように、僕の手首からヴィクトリアの手が現れて一緒に金色の蛇剣タリオつかを握ってくれた。
 ヴィクトリアの腕力を借りた僕は咄嗟とっさに金の蛇剣タリオをキャメロンの手から引き抜いて、それをキャメロンに向かって下から振り上げた。

「うおおおお!」

 確かな手応えとともにキャメロンの胴が切り裂かれる。
 そこで僕のお腹から再び3人の手と……1人の尻尾しっぽが現れる。
 ミランダたちの手だ!

 そのうちミランダの指から黒炎弾ヘル・バレットが放たれる。
 ジェネットの手からは清光霧ピュリフィケーションが噴射される。
 アリアナの手からは氷刃槍アイス・グラディウスが放出される。
 ノアの尻尾しっぽからは聖邪の炎ヘル・オア・ヘヴンが放射される。

 それらが次々とキャメロンの体を直撃した。
 それでも倒れずに向かって来ようとするキャメロンに対し、僕は振り上げた金の蛇剣タリオを返す刀で思い切り振り下ろした。

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 キャメロンの左肩から右腰まで袈裟けさ斬りに刃が食い込み、鮮血が噴き出す。
 そこでようやくキャメロンの動きが止まった。

「はぁ……はぁ……」

 肩で息をする僕の前に立ち尽くすキャメロンのライフは……ついに0になっていた。
 か、勝った……勝ったんだ。
 キャメロンは立ったまま目を開けて絶命していた。
 その恐るべき形相ぎょうそうに僕は息を飲んだけれど、彼はもう動かなかった。
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