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第三幕 雷奈と響詩郎 回り始めた運命の秒針
(幕間)雪花と香桃 旧知の2人
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客間に響詩郎と雷奈を残し、雪花と香桃は別室へ移動するべく廊下を歩いていた。
2人の付き合いは古く、今年で御年70歳になる雪花がまだ10歳になる前より続いている。
年月を経て雪花は年老いていったが、すでに数百年生きている妖狐・香桃の姿は雪花が子供の頃よりさして変わらない。
変わったことと言えば三又の尾が二又に減ったことと、少しだけ他者を見る目つきが穏やかになったことくらいだった。
前を歩く雪花はチラリと振り返りながら、すぐ後ろを歩く香桃に釘を刺すように言った。
「本当にあの二人だけにして大丈夫なのじゃな?」
「やれやれ。疑り深い婆さんになったねぇ。雪花。若い頃はそれはそれは可憐な娘だったというのに。時の流れは人間には酷だね」
ニヤニヤと笑いながらそう言う香桃とは対照的に雪花は眉間に皺を寄せた。
「やかまわしいわ。まあ、おまえが育てた坊主じゃから若さゆえの未熟さを凌駕する何かがあるんじゃろうが、相手はあの悪路王じゃぞ。問答無用で殺されたりしたら後の祭じゃ」
拭い去れない不安に表情を曇らせる雪花だったが、香桃は悠然たる表情を崩さない。
「鬼ってやつは確かに危険だが、まったく話の通じない相手じゃない。響詩郎ならきっと面白い結果になるだろうさ」
「フン。まるで息子を贔屓目に見る母親じゃな。冷徹な妖狐様も変われば変わるもんじゃて」
鼻を鳴らしてそう言う雪花だったが、香桃の目が節穴でないことは雪花が誰よりも知っている。
恐らく響詩郎には事態を打開する特別な力があり、それは香桃の信頼に足るものなのだろうと雪花は思った。
そして響詩郎の身の内に何か得体の知れないものが宿っていて、それが彼の特異性を際立たせていることも雪花は感じ取っていた。
「あの坊主が背負っているのは何じゃ? 尋常ではないのう。坊主はただの罪科換金士でも霊医師でもない。違うか?」
ジロリと視線を向けてそう言う雪花に、香桃は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑う。
「気が付いたかい。あれはね、かなり特殊な憑物さ。私ら妖魔よりもはるかに古い存在。確証はないけれど、あれは古代の呪術師の類だろう」
「古代……というと?」
「おそらくはまだ人が石器で狩猟や採集をしていた頃かもね。あの憑物の話す言葉は誰にも理解できないんだ。人だろうと妖魔だろうとね。古代に人が喋っていた言葉なんじゃないかと私は思ってる」
香桃は真顔でそう言ってのけたが、これには雪花もさすがに眉を潜めた。
「随分と荒唐無稽な話じゃな」
そんな彼女の反応を楽しむかのように香桃は表情を一変させ、喉を鳴らしてクックと笑った。
「推測するのは自由だろう? それよりも重要なのはあれのおかげで響詩郎は複数能力者になったってことさ」
「複数能力か」
話をするうちに廊下の突き当りが見えてきた。
するとそこで香桃は足を止めた。
雪花も立ち止まって振り返ると、香桃は三本の指を立てて言った。
「ああ。今のところあいつに発現した能力は3種類。罪科換金能力の【断罪】、霊力分与の【治療】、そしてもう一つは……」
2人の付き合いは古く、今年で御年70歳になる雪花がまだ10歳になる前より続いている。
年月を経て雪花は年老いていったが、すでに数百年生きている妖狐・香桃の姿は雪花が子供の頃よりさして変わらない。
変わったことと言えば三又の尾が二又に減ったことと、少しだけ他者を見る目つきが穏やかになったことくらいだった。
前を歩く雪花はチラリと振り返りながら、すぐ後ろを歩く香桃に釘を刺すように言った。
「本当にあの二人だけにして大丈夫なのじゃな?」
「やれやれ。疑り深い婆さんになったねぇ。雪花。若い頃はそれはそれは可憐な娘だったというのに。時の流れは人間には酷だね」
ニヤニヤと笑いながらそう言う香桃とは対照的に雪花は眉間に皺を寄せた。
「やかまわしいわ。まあ、おまえが育てた坊主じゃから若さゆえの未熟さを凌駕する何かがあるんじゃろうが、相手はあの悪路王じゃぞ。問答無用で殺されたりしたら後の祭じゃ」
拭い去れない不安に表情を曇らせる雪花だったが、香桃は悠然たる表情を崩さない。
「鬼ってやつは確かに危険だが、まったく話の通じない相手じゃない。響詩郎ならきっと面白い結果になるだろうさ」
「フン。まるで息子を贔屓目に見る母親じゃな。冷徹な妖狐様も変われば変わるもんじゃて」
鼻を鳴らしてそう言う雪花だったが、香桃の目が節穴でないことは雪花が誰よりも知っている。
恐らく響詩郎には事態を打開する特別な力があり、それは香桃の信頼に足るものなのだろうと雪花は思った。
そして響詩郎の身の内に何か得体の知れないものが宿っていて、それが彼の特異性を際立たせていることも雪花は感じ取っていた。
「あの坊主が背負っているのは何じゃ? 尋常ではないのう。坊主はただの罪科換金士でも霊医師でもない。違うか?」
ジロリと視線を向けてそう言う雪花に、香桃は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑う。
「気が付いたかい。あれはね、かなり特殊な憑物さ。私ら妖魔よりもはるかに古い存在。確証はないけれど、あれは古代の呪術師の類だろう」
「古代……というと?」
「おそらくはまだ人が石器で狩猟や採集をしていた頃かもね。あの憑物の話す言葉は誰にも理解できないんだ。人だろうと妖魔だろうとね。古代に人が喋っていた言葉なんじゃないかと私は思ってる」
香桃は真顔でそう言ってのけたが、これには雪花もさすがに眉を潜めた。
「随分と荒唐無稽な話じゃな」
そんな彼女の反応を楽しむかのように香桃は表情を一変させ、喉を鳴らしてクックと笑った。
「推測するのは自由だろう? それよりも重要なのはあれのおかげで響詩郎は複数能力者になったってことさ」
「複数能力か」
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するとそこで香桃は足を止めた。
雪花も立ち止まって振り返ると、香桃は三本の指を立てて言った。
「ああ。今のところあいつに発現した能力は3種類。罪科換金能力の【断罪】、霊力分与の【治療】、そしてもう一つは……」
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