甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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第三章 トロピカル・カタストロフィー

第28話 黒い水を追って

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 閉ざされていたとびらの向こうから現れたのは感染者と化した警官隊の面々だった。
 恋華れんかは目の前で警官隊の拳銃けんじゅうが火をくのを目の当たりにし、激しい発砲音と衝撃しょうげきにほんのわずかな間、意識が飛んでしまう。
 2~3秒程度の時間をてすぐに意識を取りもどした恋華れんかは、目の前の衝撃的しょうげきてきな光景に思わず声を上げた。

「ええっ?」

 恋華れんか射殺しゃさつしようとしていた警官隊の5人は全員が足元をすくわれてその場に転倒していた。 
 そのため彼らの放った銃弾じゅうだんねらいを外れ、天井をけずり、ね返ってかべゆかかたい音を立てた。

「く、黒い……水?」

 銃撃じゅうげきまぬがれることの出来た恋華れんかは、警官隊が全員、足元に広がる黒くてドロドロした液体に足を取られている様子をマジマジと見つめる。
 彼らはみな、黒い液体にしずみ込んでこしまでつかっている。
 その異様な光景に、恋華れんかはすぐに思いいたった。

「ア、アマタローくんだわ!」

 目の前の不思議ふしぎな現象が甘太郎あまたろうの力によるものだということに気付いた恋華れんかの顔喜色きしょくびてパッとかがやきを放つ。
 警官隊はすでに体のほとんどを黒い液体えきたいらわれてすべなくしずんでいき、すぐに全員が姿すがたを消した。

「た、助かった……。もうダメかと思ったよ。アマタローくん」

 甘太郎あまたろうに助けられたのだという思いか恋華れんかよろこいさんだが、すぐにその顔をくもらせた。
 恋華れんかは周囲を見回すが、甘太郎あまたろう姿すがたはどこにも見えない。
 彼がいればすぐに恋華れんかってきてくれるはずだ。

「アマタローくんはここにはいない」

 冷静れいせいになって考えてみれば、先ほどの黒い水については甘太郎あまたろうが普通に能力を使ったとは考えにくい。
 恋華れんか途端とたんに不安をおぼえた。

「アマタローくん。まさかまたあの黒い薬を……」

 恋華れんか脳裏のうりに浮かぶのは新宮しんぐう総合病院での一件だった。
 恋華れんかは直接その場面を目にしたわけではないが、甘太郎あまたろうは黒い池のような巨大な闇穴やみあなを作り出して多くの感染者らを一網打尽いちもうだじんにした。
 だが、そうした力を振るうために体に大きな負担ふたんがかかると知りながら魔気まき誘発ゆうはつする錠剤じょうざいを飲んだ。
 その代償だいしょうとして甘太郎あまたろうは肉体に大きなダメージをってしまったのだった。

「もしまたそんな|無茶をしているんだとしたら……」

 それは甘太郎あまたろうがそうせざるを得ないほどめられているということだ。
 恋華れんかはそう推測すいそくし、思わずくちびるんだ。
 恋華れんかが悪い予感に立ちくしている間も、警官隊を飲み込んだ黒い水は範囲はんいを広げて恋華れんかせまろうとしていた。

「あ……」

 恋華れんかはハッと我に返ると、黒い水に飲み込まれないようあわてて後ろへ下がろうとする。
 だが、黒い水は恋華れんかから1メートルほどのところで不意ふいにその進行を止めた。
 そして数秒の間を置いて、今度は恋華れんかから下がって行こうとする。

「……ど、どういうこと?」

 恋華れんかは思わず黒い水をう様に足を二歩三歩とみ出す。
 すると黒い水は彼女から一定の間を置くようにしてさらに下がっていく。
 まるで黒い水が恋華れんかを認識し、巻き込まないようにしてくれたかのように恋華れんかには思えた。

「こ、これって……」
 
 その黒い水には人の意思のようなものが感じられ、恋華れんかは直感的にそれがやはり甘太郎あまたろうの力によるものだと感じ取れた。
 あれをえば甘太郎あまたろうの元へたどり着けるかもしれない。
 そう思った恋華れんかは黒い水をってけ出した。
 恋華れんかが足を早めると、黒い水はそれに呼応こおうするかのようにより早く引いていく。

「アマタローくん。すぐに行くから待っててね」

 恋華れんか決然けつぜんとそう言うと、地下道を進み続ける。
 彼女が進む先、黒い水が引いた後には感染者の姿すがたは一切なく、恋華れんかは何者にも邪魔じゃまされることなくただひたすらに黒い水をっていった。
 甘太郎あまたろう窮地きゅうちけつけたいというはやる気持ちと、黒い水によって感染者らが一掃いっそうされたとおぼしき廊下ろうかを快走する心地ここちよさが、恋華れんかの心に一瞬のすきを生み出した。

「えっ……?」

 恋華れんかわれる黒い水との間に、突如とつじょとして大きな黒いみぞが生じたのだ。
 それは突然、地面を引き裂く地割れのようであり、恋華れんかは眼前に唐突とうとつに現れた1メートルほどの長さのそのみぞ咄嗟とっさに飛び越えた。
 だがその瞬間、みぞの中から出し抜けに人の手がびてきて、恋華れんかの足首をつかんだのだ。

「きゃっ!」

 予想だにしなかったことに恋華れんかはバランスをくずし、それがだれの手であるのかを確かめる間もなく、みぞの中に引きずり込まれてしまった。
 恋華れんかを飲み込んだ黒いみぞは、すぐにその口を閉じて、やがて消え去っていった。
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