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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター
第1話 フランチェスカの困惑
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銀髪の修道女・フランチェスカは何もない闇の中を漂っていた。
闇穴を操る少年、甘太郎の首にナイフを突き立て、確かにその息の根を止めたはずだった。
しかし事態は彼女の予想外の様相を呈していた。
「あの坊や。力が妙な具合に変容しているわね」
そう言いながらフランチェスカはつい先頃の状況を思い返した。
間違いなくフランチェスカは甘太郎の喉に刃を突き立てたのだが、その瞬間、まるで水風船がはじけたかのように甘太郎の体は破裂して黒い液体に変わってしまった。
そしてその液体にまみれたフランチェスカの体は、底なし沼に飲み込まれるようにして、この闇の世界に引きずり込まれたのだった。
「ここは中間世界かしら。いや、どこか違う」
現世と異界との中間に位置する空間。
そうした意味で、闇穴の奥にある空間を中間世界と呼ぶ。
世界のそこかしこに存在する異界貿易士ならば皆が知っている言葉であり、フランチェスカにとっては馴染みの深い場所、であるはずだった。
しかし彼女は違和感を覚えていた。
中間世界特有の魔気濃度の高さ、薄暗い視界、重力から切り離された空間。
それらすべてが中間世界の条件を満たしているというのに、どこか居心地が悪い。
そんな違和感を拭えなかった。
「アマタロウはどこに消えたのかしら。あれで死んだとは思えないけど」
甘太郎の姿はどこにもない。
周囲を見回しても薄暗い闇がどこまでも続いているだけだった。
「とりあえず現世に戻ろうかしら」
そう言うとフランチェスカは中間世界の空間に闇穴を穿とうとした。
その時、フランチェスカは不意に何かを感じ取り、頭上を見上げた。
その顔に狡猾な笑みが浮かぶ。
「……これは好都合だわ。もう一人の獲物が自分から寄ってきてくれるなんてね」
そう言うとフランチェスカは頭上に向けて大きく腕を振り払う。
ズバッと空気を切り裂く音とともに、文字通り空間が真横に切り裂かれた。
そして薄暗い空間に生じた隙間からコンクリートの壁や天井、そして天井に備え付けられた電灯が見える。
それはポルタス・レオニスの地下道の景色だった。
フランチェスカはニヤリと笑うと、振り払った腕とは逆の腕を勢いよく頭上に伸ばす。
すると信じられないことに彼女の腕は数メートルに渡って伸びていく。
裂け目の向こう側から人が走る足音が聞こえてきたかと思うと、その足音の主と思しき人物が裂け目を飛び越えた。
フランチェスカはタイミングよく腕を裂け目の先に伸ばすと、その人物の足首を掴んで裂け目の中へと引っ張り込んだ。
「きゃっ!」
その人物の叫び声を聞くと、フランチェスカは満面の笑みを浮かべた。
「捕まえた。梓川恋華。いよいよご対面ね」
フランチェスカが闇の中へと引きずり込んだ相手は、彼女を仇敵として追い続けていたカントルムのエージェント、梓川恋華だった。
闇穴を操る少年、甘太郎の首にナイフを突き立て、確かにその息の根を止めたはずだった。
しかし事態は彼女の予想外の様相を呈していた。
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そう言いながらフランチェスカはつい先頃の状況を思い返した。
間違いなくフランチェスカは甘太郎の喉に刃を突き立てたのだが、その瞬間、まるで水風船がはじけたかのように甘太郎の体は破裂して黒い液体に変わってしまった。
そしてその液体にまみれたフランチェスカの体は、底なし沼に飲み込まれるようにして、この闇の世界に引きずり込まれたのだった。
「ここは中間世界かしら。いや、どこか違う」
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そうした意味で、闇穴の奥にある空間を中間世界と呼ぶ。
世界のそこかしこに存在する異界貿易士ならば皆が知っている言葉であり、フランチェスカにとっては馴染みの深い場所、であるはずだった。
しかし彼女は違和感を覚えていた。
中間世界特有の魔気濃度の高さ、薄暗い視界、重力から切り離された空間。
それらすべてが中間世界の条件を満たしているというのに、どこか居心地が悪い。
そんな違和感を拭えなかった。
「アマタロウはどこに消えたのかしら。あれで死んだとは思えないけど」
甘太郎の姿はどこにもない。
周囲を見回しても薄暗い闇がどこまでも続いているだけだった。
「とりあえず現世に戻ろうかしら」
そう言うとフランチェスカは中間世界の空間に闇穴を穿とうとした。
その時、フランチェスカは不意に何かを感じ取り、頭上を見上げた。
その顔に狡猾な笑みが浮かぶ。
「……これは好都合だわ。もう一人の獲物が自分から寄ってきてくれるなんてね」
そう言うとフランチェスカは頭上に向けて大きく腕を振り払う。
ズバッと空気を切り裂く音とともに、文字通り空間が真横に切り裂かれた。
そして薄暗い空間に生じた隙間からコンクリートの壁や天井、そして天井に備え付けられた電灯が見える。
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フランチェスカはニヤリと笑うと、振り払った腕とは逆の腕を勢いよく頭上に伸ばす。
すると信じられないことに彼女の腕は数メートルに渡って伸びていく。
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フランチェスカはタイミングよく腕を裂け目の先に伸ばすと、その人物の足首を掴んで裂け目の中へと引っ張り込んだ。
「きゃっ!」
その人物の叫び声を聞くと、フランチェスカは満面の笑みを浮かべた。
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