43 / 101
第42話 バーサの計画
しおりを挟む
「戦争さ。ダニアは2つもいらない。我ら正統ダニアのみが新たな歴史を紡ぐのだ」
バーサは傲然とそう言い放った。
その瞳には揺るぎない眼光が宿っていて、彼女の言葉と信念が偽らざるものなのだとボルドに感じさせた。
その眼光に気圧されながらボルドは必死に言葉を紡ぎ出す。
「ブ、ブリジットたちとあなたたちとでは住んでいる土地も活動する範囲も異なります。分布が被らない以上、互いに食い合う必要はないはずです」
分家の存在を知ってからボルドは小姓らから、彼らのことについて学んでいた。
「ほう。しっかりお勉強もしているというわけか。ならば教えてやろう。貴様の言う通り我らは王国、奴らは公国の領内を住処にしている。公認非公認の差はあれどな。かつてブリジットが身勝手にも我らに通告してきた絶縁による不戦状態を継続しようと思えば出来るだろう」
ブリジットの座に就いたばかりの彼女が最初にしたことは、分家との手打ちだった。
父を失うことになった分家の画策に、本来ならばブリジットはすぐにでも分家に攻め込んで滅ぼしてしまいたいほどに怒りを感じていたはずだ。
それでも煮えくり返るハラワタを腹に抱えたまま耐え忍んだのは、内乱によって弱った本家の力を回復させるためだ。
その時に分家との紛争に突入していたら、たとえ勝てたとしても再起できないほどのダメージを負っていただろう。
ブリジットの英断だった。
「だが、それでは5年先は生きられても50年先に我らダニアを待つのは滅亡だ」
「滅亡?」
バーサが言った我らとは本家と分家両方のことを指しているとボルドには分かった。
「そうだ。王国や公国から見ればしょせん我らダニアは少数民族。これまでは国同士のいざこざの間でうまく立ち回り生き延びてきたが、近年その均衡が崩れつつある。公国は大陸の東側諸国と秘密裏に同盟を結ぼうとしている。もしそれが成立すれば公国は背中を攻め込まれる心配をすることなく、西側の王国に攻め込むことが出来る。無論、その際には邪魔なダニアを殲滅しようとするだろう。奴らが本腰を上げて討伐に乗り出せば、ブリジットらは一夜で壊滅するぞ。いかにダニアの勇猛な女たちとはいえ、数の力には太刀打ち出来ぬ」
小姓らの教育を受けてボルドもこの大陸の現状はある程度理解しているつもりだったが、バーサの話は初めて聞く事柄だった。
「そして我らも王国の後ろ盾があるとはいえ、しょせんは有事に最前線で戦うことを課せられた使い捨ての兵だ。公国の力が増せば王国は負ける。そうなれば一番最初に滅びるのは我らだ。だからな……ダニアは1つにまとまるべきなのだ」
「まとまる? それがあなたの狙いなのですか?」
相手を滅ぼすのではなく、2つの勢力を1つにまとめる。
「そうだ。それは我が母の悲願にして当代のクローディアの目指す目標でもある」
かつてベアトリスがやろうとして失敗した謀略を、娘であるバーサは真正面からぶつかって成し遂げようとしている。
本家の勢力を吸収してダニアを統一する。
そんなことが本当に可能なのかと思うボルドだが、バーサがそれを微塵も疑っていないことは伝わってくる。
「ブ、ブリジットがそんなことを許すはずはありません」
「許してもらう必要などない。どのみちブリジットには死んでもらわねばならん。ダニアの女王は1人、我らがクローディアと決まっているからな」
彼女の言葉にボルドは気色ばんだ。
「あなたたちの目論見は失敗に終わります。それに戦争することで互いに力を削り合うなら、50年どころか10年後にはダニアは滅びます。そんな行為は愚かなことだと思わないのですか」
そうまくしたてるボルドに船頭の女が不快そうに顔を歪めるが、バーサはそれを手で制して笑い声を上げた。
「ハッハッハ。勇ましいな。ボルド。御主人様を思う貴様の忠誠心はなかなか好ましいぞ」
そう言うとバーサはボルドの傍に膝をつき、彼の顎をその手でグイッと掴む。
有無を言わせぬ力の強さにボルドは逃れることが出来ない。
「だがな……おまえには戦士の考えは理解できまい。ワタシらダニアは武力を何よりも尊ぶ民族だ。自分のほうが強いと思えば相手に従うことはない。初めから協力し合いましょうと手を握り合うことはないのだ。相手を叩き、力を見せつけることで従わせる。相手を自分より強いと認めれば、従う価値があると納得する。そうして序列をハッキリさせる必要があるのだ。野良犬のような我らにはな」
バーサの母であるベアトリスもヨソ者でありながらその腕前を見せつけることで、本家の者たちに認められていったという。
ボルドには分からない感覚だった。
「戦争によって一時的にはダニアの戦力は削られるだろう。だが、2つの勢力が正統ダニアとして一本化すれば、繁栄の道が広がる。実際に我らはその一歩を踏み出し始めているのだ」
そう言うとバーサはボルドの顎を掴んだまま、その顔をマジマジと見つめた。
「ボルド。自分では分からんだろうが、貴様はなかなか愛らしい顔をしている。貴様のような男を好む女は我が一族にも多かろう。そしてその黒髪は貴重だ。黒髪の一族は海を越えた西の大陸からやって来て、この大陸の西端である王国に住み着いたという言い伝えがある。その者たちは皆、美しい顔立ちをしていたそうだ。男でも女でもな。美しさはそれだけで一つの財産であり武器だ。我らはダニア繁栄のためにその武器を増やそうと考えている。ボルド。貴様にはそのための重要な役割を課す」
その言葉の意味を飲み込めずに眉を潜めるボルドにバーサは告げた。
至極端的に。
「貴様は我が一族に黒髪の子孫を増やすための種馬となるのだ。ボルド」
バーサは傲然とそう言い放った。
その瞳には揺るぎない眼光が宿っていて、彼女の言葉と信念が偽らざるものなのだとボルドに感じさせた。
その眼光に気圧されながらボルドは必死に言葉を紡ぎ出す。
「ブ、ブリジットたちとあなたたちとでは住んでいる土地も活動する範囲も異なります。分布が被らない以上、互いに食い合う必要はないはずです」
分家の存在を知ってからボルドは小姓らから、彼らのことについて学んでいた。
「ほう。しっかりお勉強もしているというわけか。ならば教えてやろう。貴様の言う通り我らは王国、奴らは公国の領内を住処にしている。公認非公認の差はあれどな。かつてブリジットが身勝手にも我らに通告してきた絶縁による不戦状態を継続しようと思えば出来るだろう」
ブリジットの座に就いたばかりの彼女が最初にしたことは、分家との手打ちだった。
父を失うことになった分家の画策に、本来ならばブリジットはすぐにでも分家に攻め込んで滅ぼしてしまいたいほどに怒りを感じていたはずだ。
それでも煮えくり返るハラワタを腹に抱えたまま耐え忍んだのは、内乱によって弱った本家の力を回復させるためだ。
その時に分家との紛争に突入していたら、たとえ勝てたとしても再起できないほどのダメージを負っていただろう。
ブリジットの英断だった。
「だが、それでは5年先は生きられても50年先に我らダニアを待つのは滅亡だ」
「滅亡?」
バーサが言った我らとは本家と分家両方のことを指しているとボルドには分かった。
「そうだ。王国や公国から見ればしょせん我らダニアは少数民族。これまでは国同士のいざこざの間でうまく立ち回り生き延びてきたが、近年その均衡が崩れつつある。公国は大陸の東側諸国と秘密裏に同盟を結ぼうとしている。もしそれが成立すれば公国は背中を攻め込まれる心配をすることなく、西側の王国に攻め込むことが出来る。無論、その際には邪魔なダニアを殲滅しようとするだろう。奴らが本腰を上げて討伐に乗り出せば、ブリジットらは一夜で壊滅するぞ。いかにダニアの勇猛な女たちとはいえ、数の力には太刀打ち出来ぬ」
小姓らの教育を受けてボルドもこの大陸の現状はある程度理解しているつもりだったが、バーサの話は初めて聞く事柄だった。
「そして我らも王国の後ろ盾があるとはいえ、しょせんは有事に最前線で戦うことを課せられた使い捨ての兵だ。公国の力が増せば王国は負ける。そうなれば一番最初に滅びるのは我らだ。だからな……ダニアは1つにまとまるべきなのだ」
「まとまる? それがあなたの狙いなのですか?」
相手を滅ぼすのではなく、2つの勢力を1つにまとめる。
「そうだ。それは我が母の悲願にして当代のクローディアの目指す目標でもある」
かつてベアトリスがやろうとして失敗した謀略を、娘であるバーサは真正面からぶつかって成し遂げようとしている。
本家の勢力を吸収してダニアを統一する。
そんなことが本当に可能なのかと思うボルドだが、バーサがそれを微塵も疑っていないことは伝わってくる。
「ブ、ブリジットがそんなことを許すはずはありません」
「許してもらう必要などない。どのみちブリジットには死んでもらわねばならん。ダニアの女王は1人、我らがクローディアと決まっているからな」
彼女の言葉にボルドは気色ばんだ。
「あなたたちの目論見は失敗に終わります。それに戦争することで互いに力を削り合うなら、50年どころか10年後にはダニアは滅びます。そんな行為は愚かなことだと思わないのですか」
そうまくしたてるボルドに船頭の女が不快そうに顔を歪めるが、バーサはそれを手で制して笑い声を上げた。
「ハッハッハ。勇ましいな。ボルド。御主人様を思う貴様の忠誠心はなかなか好ましいぞ」
そう言うとバーサはボルドの傍に膝をつき、彼の顎をその手でグイッと掴む。
有無を言わせぬ力の強さにボルドは逃れることが出来ない。
「だがな……おまえには戦士の考えは理解できまい。ワタシらダニアは武力を何よりも尊ぶ民族だ。自分のほうが強いと思えば相手に従うことはない。初めから協力し合いましょうと手を握り合うことはないのだ。相手を叩き、力を見せつけることで従わせる。相手を自分より強いと認めれば、従う価値があると納得する。そうして序列をハッキリさせる必要があるのだ。野良犬のような我らにはな」
バーサの母であるベアトリスもヨソ者でありながらその腕前を見せつけることで、本家の者たちに認められていったという。
ボルドには分からない感覚だった。
「戦争によって一時的にはダニアの戦力は削られるだろう。だが、2つの勢力が正統ダニアとして一本化すれば、繁栄の道が広がる。実際に我らはその一歩を踏み出し始めているのだ」
そう言うとバーサはボルドの顎を掴んだまま、その顔をマジマジと見つめた。
「ボルド。自分では分からんだろうが、貴様はなかなか愛らしい顔をしている。貴様のような男を好む女は我が一族にも多かろう。そしてその黒髪は貴重だ。黒髪の一族は海を越えた西の大陸からやって来て、この大陸の西端である王国に住み着いたという言い伝えがある。その者たちは皆、美しい顔立ちをしていたそうだ。男でも女でもな。美しさはそれだけで一つの財産であり武器だ。我らはダニア繁栄のためにその武器を増やそうと考えている。ボルド。貴様にはそのための重要な役割を課す」
その言葉の意味を飲み込めずに眉を潜めるボルドにバーサは告げた。
至極端的に。
「貴様は我が一族に黒髪の子孫を増やすための種馬となるのだ。ボルド」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる