2 / 91
第一章 魔道拳士アリアナ
第1話 アリアナという少女
しおりを挟む
ミランダとジェネットが出かけていった後の洞窟で、ひとり留守番をしていた僕の前にその少女は現れた。
来訪者を告げる警報が鳴り響く中で現れた彼女の頭上にはそのキャラクターの種類を表す三角形のマークがあり、緑色のそれは彼女がプレイヤーであることを示している。
「あれ? キミは確か……」
僕はその少女に見覚えがあったので、思わずそう言葉を漏らした。
透き通るように綺麗な青色のショートヘアーと群青色の瞳が特徴的なその少女は、魔法の道着の上に銀の胸当て等の比較的軽装な防具を身につけている。
そして両手には手甲を装備しているだけで武器は一切持っていない。
「やっぱりそうだ」
魔道拳士と記された彼女のステータス・ウインドウを見て僕は確信した。
彼女は拳や蹴りなどの格闘技で戦うタイプのキャラクターで、魔法も併用して使える魔道拳士というクラスだった。
ちなみに彼女の名前はアリアナというらしい。
僕がアリアナに見覚えがあるのは、彼女が以前にもこの洞窟を訪れてミランダに挑戦したことがあるからだ。
その時は見事なまでに返り討ちにあっていたけれど。
「こんにちは。アリアナさん。ぼ、僕のこと覚えてる?」
いや、安っぽいナンパとかじゃないからね。
やや緊張気味にそう声をかけると、アリアナは僕を見る。
その顔から彼女が僕に負けず劣らず緊張している様子が見て取れた。
アリアナは僕の顔を見ると強張った顔で頷く。
「うん。覚えてるよ。地味で特徴のない顔だから馴染み深かっ……ああっ! ゴメンなさい。私、余計なことを……。わ、私、イケメンの人って何だか苦手で。その点、あなたは全然イケメンじゃなくて平凡な顔……ああっ! またゴメンなさい。と、とにかくあなたって親しみやすい顔してるね」
ぐぬぬ。
ほ、褒め言葉と受け取っておこうか。
途中で気付いてハッとした表情で謝ってくれるってことは、きっと悪気はないはずだ。
僕はその場の雰囲気が悪くならないよう、目一杯の笑顔を取り繕った。
「き、気にしないで。僕、よく地味だって言われるから」
「そ、そう。ごめんね」
「アリアナさん。前に来た時、ミランダに挑戦したでしょ。あの時は残念だったね」
「アリアナでいいよ。あの時はレベルも低くてここにたどり着くのが精一杯だったから仕方ないわ」
この闇の洞窟には普段、モンスターがウジャウジャ出てきて、プレイヤー達の歩みを阻む。
レベルの低い人は途中でモンスターにやられてしまい、最深部であるこの闇の玉座までたどり着けない。
確かに前回、アリアナはこの場所にたどり着くまでに相当苦労したみたいで、ボスのミランダとの戦いにも実力差を見せ付けられるように負けてしまった。
でも僕、アリアナの戦いぶりはよく覚えてるんだ。
ミランダの魔法の集中砲火を浴びながら最後まで勇敢に戦ってたんだよね。
自分より強い相手に立ち向かっていくなんて、簡単なことじゃないよ。
「あの時は負けちゃったけど、でも武器も持たずに自分の拳や蹴りだけで戦うなんてすごくカッコイイよ」
「お世辞なんていいわ。私、ズタボロ負けだったし」
「お世辞なんかじゃないって。きっと次の対戦はもっといい結果になるよ。アリアナ、どんなにミランダに追い詰められても絶対に逃げなかったし、あきらめなかった。僕、尊敬しちゃうよ。まあ僕なんかに尊敬されても嬉しくないか。えへへ」
僕がそう言うとアリアナは少し驚いたように僕をじっと見つめた。
ん?
な、何だろう。
「何だかあなたってNPCなのにまるで人間みたいね」
「え? どういうこと?」
「いえ、何でもないわ。と、ところでミランダはどこ?」
硬い表情でそう言うとアリアナは怪訝そうに周囲を見回した。
本来なら僕がアリアナにかける第一声は「この先には恐ろしい魔女がいるから注意しろ」というNPCとしてのお決まりのセリフなんだけど、この日は違った。
恐ろしい魔女はお出かけ中だからね。
「せっかく来てもらったのにごめんね。今日、ミランダはメンテナンスで運営本部に行っているんだ。戻るのは明日になるから、申し訳ないけどまた来てもらえる?」
アリアナには悪いけれど、こればかりは仕方ない。
間の悪い訪問を気の毒に思いながら僕がそう言うと、彼女は明らかに困った顔で口を開いた。
「え? ミランダいないの? 私、今日中にミランダを倒さないといけないのに……」
今日中?
それはまたずいぶんと急な話だな。
どういうことだろう?
「あ、あの、アリアナ。洞窟に入った時に、ミランダ不在のお知らせを受け取らなかった?」
今日この洞窟に入ったプレイヤーには『ミランダ不在』の報告が漏れなく届くはずだ。
僕がそのことを尋ねると、どうやら彼女は緊張していて、お知らせの内容によく目を通していなかったらしい。
アリアナは肩を落として困惑の表情を浮かべている。
あまりにガッカリしたその様子に、僕は何だか彼女が少しかわいそうになってしまった。
「どうしても今日じゃないとダメなの?」
僕がそう尋ねるとアリアナは口をへの字に曲げてわずかに首を縦に振り、それっきりむっつりと黙り込んでしまう。
ううむ。
どうしたものか。
アリアナの表情には切迫した思いが滲んでいる。
一歩も引けない。
そんな雰囲気を漂わせる彼女を見かねて思わず僕は尋ねた。
「何か事情があるの? よかったら話だけでも聞くけど。ま、まあ僕なんかに話してもしょうがないかもしれないけど」
僕がそう問いかけるとアリアナは深刻な顔でしばらく黙っていたけど、やがてポツリポツリと自分が抱える事情を話し始めたんだ。
来訪者を告げる警報が鳴り響く中で現れた彼女の頭上にはそのキャラクターの種類を表す三角形のマークがあり、緑色のそれは彼女がプレイヤーであることを示している。
「あれ? キミは確か……」
僕はその少女に見覚えがあったので、思わずそう言葉を漏らした。
透き通るように綺麗な青色のショートヘアーと群青色の瞳が特徴的なその少女は、魔法の道着の上に銀の胸当て等の比較的軽装な防具を身につけている。
そして両手には手甲を装備しているだけで武器は一切持っていない。
「やっぱりそうだ」
魔道拳士と記された彼女のステータス・ウインドウを見て僕は確信した。
彼女は拳や蹴りなどの格闘技で戦うタイプのキャラクターで、魔法も併用して使える魔道拳士というクラスだった。
ちなみに彼女の名前はアリアナというらしい。
僕がアリアナに見覚えがあるのは、彼女が以前にもこの洞窟を訪れてミランダに挑戦したことがあるからだ。
その時は見事なまでに返り討ちにあっていたけれど。
「こんにちは。アリアナさん。ぼ、僕のこと覚えてる?」
いや、安っぽいナンパとかじゃないからね。
やや緊張気味にそう声をかけると、アリアナは僕を見る。
その顔から彼女が僕に負けず劣らず緊張している様子が見て取れた。
アリアナは僕の顔を見ると強張った顔で頷く。
「うん。覚えてるよ。地味で特徴のない顔だから馴染み深かっ……ああっ! ゴメンなさい。私、余計なことを……。わ、私、イケメンの人って何だか苦手で。その点、あなたは全然イケメンじゃなくて平凡な顔……ああっ! またゴメンなさい。と、とにかくあなたって親しみやすい顔してるね」
ぐぬぬ。
ほ、褒め言葉と受け取っておこうか。
途中で気付いてハッとした表情で謝ってくれるってことは、きっと悪気はないはずだ。
僕はその場の雰囲気が悪くならないよう、目一杯の笑顔を取り繕った。
「き、気にしないで。僕、よく地味だって言われるから」
「そ、そう。ごめんね」
「アリアナさん。前に来た時、ミランダに挑戦したでしょ。あの時は残念だったね」
「アリアナでいいよ。あの時はレベルも低くてここにたどり着くのが精一杯だったから仕方ないわ」
この闇の洞窟には普段、モンスターがウジャウジャ出てきて、プレイヤー達の歩みを阻む。
レベルの低い人は途中でモンスターにやられてしまい、最深部であるこの闇の玉座までたどり着けない。
確かに前回、アリアナはこの場所にたどり着くまでに相当苦労したみたいで、ボスのミランダとの戦いにも実力差を見せ付けられるように負けてしまった。
でも僕、アリアナの戦いぶりはよく覚えてるんだ。
ミランダの魔法の集中砲火を浴びながら最後まで勇敢に戦ってたんだよね。
自分より強い相手に立ち向かっていくなんて、簡単なことじゃないよ。
「あの時は負けちゃったけど、でも武器も持たずに自分の拳や蹴りだけで戦うなんてすごくカッコイイよ」
「お世辞なんていいわ。私、ズタボロ負けだったし」
「お世辞なんかじゃないって。きっと次の対戦はもっといい結果になるよ。アリアナ、どんなにミランダに追い詰められても絶対に逃げなかったし、あきらめなかった。僕、尊敬しちゃうよ。まあ僕なんかに尊敬されても嬉しくないか。えへへ」
僕がそう言うとアリアナは少し驚いたように僕をじっと見つめた。
ん?
な、何だろう。
「何だかあなたってNPCなのにまるで人間みたいね」
「え? どういうこと?」
「いえ、何でもないわ。と、ところでミランダはどこ?」
硬い表情でそう言うとアリアナは怪訝そうに周囲を見回した。
本来なら僕がアリアナにかける第一声は「この先には恐ろしい魔女がいるから注意しろ」というNPCとしてのお決まりのセリフなんだけど、この日は違った。
恐ろしい魔女はお出かけ中だからね。
「せっかく来てもらったのにごめんね。今日、ミランダはメンテナンスで運営本部に行っているんだ。戻るのは明日になるから、申し訳ないけどまた来てもらえる?」
アリアナには悪いけれど、こればかりは仕方ない。
間の悪い訪問を気の毒に思いながら僕がそう言うと、彼女は明らかに困った顔で口を開いた。
「え? ミランダいないの? 私、今日中にミランダを倒さないといけないのに……」
今日中?
それはまたずいぶんと急な話だな。
どういうことだろう?
「あ、あの、アリアナ。洞窟に入った時に、ミランダ不在のお知らせを受け取らなかった?」
今日この洞窟に入ったプレイヤーには『ミランダ不在』の報告が漏れなく届くはずだ。
僕がそのことを尋ねると、どうやら彼女は緊張していて、お知らせの内容によく目を通していなかったらしい。
アリアナは肩を落として困惑の表情を浮かべている。
あまりにガッカリしたその様子に、僕は何だか彼女が少しかわいそうになってしまった。
「どうしても今日じゃないとダメなの?」
僕がそう尋ねるとアリアナは口をへの字に曲げてわずかに首を縦に振り、それっきりむっつりと黙り込んでしまう。
ううむ。
どうしたものか。
アリアナの表情には切迫した思いが滲んでいる。
一歩も引けない。
そんな雰囲気を漂わせる彼女を見かねて思わず僕は尋ねた。
「何か事情があるの? よかったら話だけでも聞くけど。ま、まあ僕なんかに話してもしょうがないかもしれないけど」
僕がそう問いかけるとアリアナは深刻な顔でしばらく黙っていたけど、やがてポツリポツリと自分が抱える事情を話し始めたんだ。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる