だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
3 / 91
第一章 魔道拳士アリアナ

第2話 アリアナの事情

しおりを挟む
 ミランダ不在のやみ洞窟どうくつにタイミング悪く訪れた魔道拳士アリアナ。
 お目当ての魔女ミランダとの対戦が叶わないと知って落胆したアリアナは失意の中、彼女が抱える事情を僕に話してくれた。

「私……Aランクになりたいの。今日中に。どうしても」
「きょ、今日中にAランクに?」

 驚く僕にアリアナは真剣な顔でうなづいた。
 このゲームでは僕みたいな一般NPC以外のNPCやプレイヤーに、そのキャラクターのグレードを示すランクがあるんだ。
 初期ランクがEでD、C、Bと昇格して最高がAランクとなる。
 アリアナは現在Bランク。
 Aランクへの昇格まであと一歩だった。

 だけどランクアップは簡単なことじゃない。
 単なるレベルアップにつながる経験値稼ぎとは違って、ランク昇格のためにはいくつかの指定条件をクリアーしなければならないからだ。
 たとえばランクの高いボスを倒したり、困難なミッションをコンプリートしたりと、それは様々だった。
 
 アリアナは前回ミランダに敗れてから相当な修練を積んできたみたいで、あの時とは段違いにレベルも上がり、ランクもBの範囲の上限近くまできたえ上げられていた。
 アリアナとしては満を持してミランダに再挑戦するつもりだったんだろうけど、目当てのミランダが留守にしているもんだから、すっかり肩透かしを食らった気分なんだろうね。

「どうしてそんなに急いでAランクになりたいの? 今、Bランクだし順調にいけば近いうちに間違いなくAランクになれると思うけど」
「実は……明日に開かれる武術大会の参加しめ切りが今日いっぱいまでなの」

 アリアナが困り果てた顔でそう言うのには理由があった。
 どうやら、その武術大会はプレイヤーたちが腕を競う【P‐1クライマックス】という大会で、Aランクの達人のみが出場できるみたいなんだ。

「だから今日中にAランクになりたいのかぁ。でもその大会って定期的に開かれるんでしょ? だったらまた次回にでも……」
「それじゃダメなの!」

 ヒエッ! 
 突然アリアナが金切り声を上げたから僕は驚いてひっくり返ってしまった。
 び、びっくりしたなぁ。
 おとなしい印象でオドオドしながら小さな声でしゃべる彼女だったけど、いきなりの大声には鬼気迫る迫力があった。
 腰を抜かした僕を見てアリアナはハッと我に返る。

「あ、ごめん。大きな声出して」
「い、いや。でもアリアナはどうしても今回の大会に出なきゃならない事情があるんだね」

 僕がそう言うとアリアナは少し気落ちした表情でうなづいた。
 そしてまた少しの間、何かを考えるように口を引き結んでいたけど、ようやく決意したように口を開いた。

「私の姉……あ、現実の話ね。姉は入院中なんだけど、明日大きな手術があるの。もともとこのアリアナってキャラは姉がプレイしてて」

 彼女の話によれば、病気の姉に代わってアリアナをプレイしているらしい。
 姉の希望で。
 何だ。
 いい話じゃないか。
 アリアナってお姉さん思いのいい子なんだな。
 僕はちょっと感動してしまった。

「アリアナ。お姉さんのこと好きなんだね」
「いいえ? 大っ嫌いよ。姉は私に言ったわ。自分の手術が終わるまでにアリアナを武術大会に出場できるようにしておけって。さもないと妹の私のお小遣こづかい全部使ってBL同人誌を大人買いしてやるって」

 ひどい姉だ!
 というか僕の感動を返せ!
 せっかくいい話だと思ったのに。

「昔から横暴な姉で、逆らったら何を言われるか分からないの」

 浮かない表情でそう言うアリアナだけど、僕も何と声をかけていいか困ってしまう。
 僕は兄弟いないし、その関係性はよく分からないからなぁ。
 とにかく僕は彼女を刺激しないように自分の考えを話した。
 
「と、とにかくミランダは今日は絶対に戻って来られないから。今日中にどうしてもAランクになりたいなら、他の方法を探したほうがいいよ」

 気の毒だけど、こればっかりはどうにもならないよね。
 僕の言葉にアリアナは再び落胆してうつむいた。

「……色々探したの。Aランクになれそうなボス攻略やミッションを。だけど今日1日でAランクになるにはどれも不足だったり私には難しすぎたりして、ここに来るしかなかったの」

 なるほど。
 要するにミランダ攻略が一番手っ取り早くAランクに昇格できる道だったってことか。
 ミランダを倒せるかどうかは別として。
 ミランダは最近、有名人だから倒せば名声ボーナスもついて昇格しやすいんだろう。
 アリアナはすっかり肩を落とし、あきらめ顔できびすを返した。

「……結局、私ってダメだなぁ。最後まで」

 アリアナがボソッとらしたつぶやきに僕は首をかしげた。

「最後?」
「ん~ん。何でもない。もう……ログアウトするね」

 しょんぼりしたアリアナの背中を見るうちに僕は何だか彼女がとても気の毒に思えてきた。
 このまま彼女を帰してしまっていいんだろうか。
 何だか僕は胸にザワザワと落ち着かない気分が湧き上がってきて、思わず声を上げていた。

「あ、あの、アリアナ」

 僕が彼女の背中に声をかけると、アリアナはログアウト入力中の手を止めて僕を振り返った。

「なに?」
「な、何か別の方法を考えよう。僕も手伝うから、今日中にAランクになれる方法を探そう」

 あまりにもアリアナが不憫ふびんで、僕は出来るかどうかも分からないことを言ってしまった。
 余計なおせっかいだよなぁ。
 ミランダが知ったら「馬鹿じゃないの? お人よしもいい加減にしなさいよね」とののしられるだろうな(汗)。
 でも僕は何だかアリアナのことを放っておけなかった。
 失意のアリアナがこのままログアウトしてしまえば、もう二度とこのゲームに戻ってこないような気がして。
 そんなわけないのに。
 突然の僕の申し出に驚いたみたいで、アリアナは目を丸くする。

「え? あなた、冴えない下級兵士みたいだけど、あなたに何か出来るの? あっ! ゴメン。また私、余計なことを……」

 ぐぬぬ。
 さ、さっきからワザと言ってないか、この人。
 僕はグサッと突き刺さるアリアナの言葉を必死にスルーして無理やり笑顔を浮かべる。

「ア、アハハ。ま、まあ情報探しくらいは出来るよ」

 冴えない下級兵士ですけどね(怒)。
 だけどきっとアリアナはわらをもつかむ心境だったんだろうね。
 ダダダダッと僕の元に駆け寄ってくると、僕の両手をガッとつかんだ。

「ヒェッ!」

 アリアナは驚く僕の両手をつかんだままブンブンッと上下に二度三度と振り、顔を輝かせてお礼を言ってくれた。

「ありがとう。やっぱりあなたってNPCなのに、まるで人間みたいね」

 人間みたい。
 それはこのゲームにおけるNPCが学習型人工知能を備え付けられた自我を持つキャラクターだから、そう思うのかな。
 ともあれ、素直にお礼を言うアリアナの表情は思いのほか健気けなげだった。
 ちょっと失言癖があって天然っぽいけど、根はいい子なんだろうな。
 そう思った僕は少しでも彼女の力になってあげたいと、そう思ったんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...