だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
36 / 91
第三章 光の聖女ジェネット

第8話 聖域のオキテ

しおりを挟む
 前後の道を部族たちに挟まれた僕らは決死の強行突破を敢行するため、各々の武器を握りしめる。 
 だけど僕らはここでは聖域のおきてによって他者を傷つけることは出来ないんだ。
 反射的に反撃しないよう気をつけないと。
 僕らが武器を手に応戦する気でいるのを見て取ったようで、部族の中のリーダー格らしき大柄な男が手にした牛刀を振るって仲間たちに合図を送る。

「ガアッ!」

 途端に前方と後方から部族の男たちが一斉に襲いかかってきた。
 来た来た来たぁ!
 ヤバいヤバい!
 僕は自分でもよく分からない声を上げながら部族の男たちを迎え撃った。
 目の前に迫る男がなたを振り上げ、僕に向かって振り下ろす。
 僕はそれを無我夢中になってタリオの刀身で受け止めた。
 重い衝撃が手に走るけど、僕は必死にこれを押し返す。

「走って下さい! 止まってはいけません!」

 張り詰めたジェネットの声が響き、僕は懸命にタリオを振るって身を守りながら走り出した。
 だけど行く手には何人もの部族の男らが押し迫ってくる。
 彼らの武器の使い方は荒く、力はあれど一人一人はそれほど技術は高くない。
 それでもこれだけの人数に囲まれてしまうと、どうにもならなかった。
 数人の男たちが振るう刃物を必死にくぐり抜け、受け止めながらも、そのいくつかを僕は浴びてしまう。

「うぐっ!」
 
 い、痛い!
 腕や足に鋭い痛みが走る。
 どこをどう斬られているのかも判別できないほど僕は興奮状態で、とにかく上に向かって必死に走り続ける。
 危なくなるとジェネットが咄嗟とっさに僕をかばってくれた。
 さすがにジェネットは数人に囲まれても全ての敵の攻撃を懲悪杖アストレアで受け流していたけれど、僕を守るために敵の太刀たちを浴びてダメージを負ってしまう。
 くっ!
 でもジェネットは目に強い光をたたえたまま僕を見る。
 分かってるよジェネット。
 今はここを切り抜けることが最優先だ。

 男たちも僕らが反撃をせずにここから逃げようとしていることを悟ったようで、無理やり僕らを捕まえようと武器を捨ててつかみかかってくる。
 や、やばい。
 つかみかかってくる彼らを無理に振り払って、彼らが転倒してダメージを受けてしまってもダメなんだよね?
 何て難易度の高い状況なんだ。
 その時だった。

「アル様! 目を閉じて口と鼻をふさいで下さい!」
 
 そう言うとジェネットはふところから袋のようなものを取り出してそれを足元の地面に叩きつけた。
 途端に真っ白な粉がボワッと舞い上がり、辺りを粉塵ふんじんで包み込んでいく。
 僕は咄嗟とっさに目を閉じ、右手で口と鼻を押さえた。
 するとジェネットは僕の左手を取って一気に駆け出す。
 そして数十秒の間、走り続けるとジェネットがようやく声を上げた。

「もう目を開けて大丈夫ですよ!」

 そこで僕はようやく目を開け、ジェネットともども立ち止まる。
 後方を見ると、白煙が立ち上る中、バタバタと部族の男たちがその場に倒れ出していた。
 え、ええっ?
 いいのかコレ。

「ジェ、ジェネット?」
「ご安心下さい。眠り薬です。ダメージは与えていませんから」

 そ、そうか。
 ダメージさえ与えなければ、眠らせたり麻痺まひさせたりして足止めするのはOKなのか。
 僕は目からうろこが落ちる思いで後方の部族たちを見つめた。
 ジェネットの法衣の中に顔までスッポリ隠していたアビーがヒョッコリと首を出す。

「シスタ~。そんな便利なものがあるなら最初から使ってほしかったのです~」
「アビー。こういうものが有効なのは不意打ちの一回限りなのですよ。二度目は彼らも学習し、目鼻と口とをふさいでしまうでしょう?」
「ああ~なるほど~」
 
 納得するアビーをよそにジェネットは僕を見ながら言う。
 
「眠りや麻痺まひの神聖魔法をスキルに組み込んでおけば、もう少し楽でしたのにね」
「仕方ないよ。こんな試練があるなんて分からなかったんだし、それを見越して事前に準備をするなんて出来ないし」

 プレイヤーと違い、NPCがスキルの組み換えをするには運営本部の許可が必要で、その許可がおりてスキルを新実装できるまでには数日の手続き時間が必要になる。
 ミランダもメンテナンス時に新たなスキルに組み替えられたけれど、おそらく以前から僕に内緒で申請していたんだろうね。
 僕がそんなことを考えているとジェネットが後方を見つめながら真剣な表情で言った。

「……アル様。どうやらまだまだ走り続けなければならないようですよ」

 ジェネットのその声に僕が後方をチラリと見やると、僕らのいる場所から2~300メートルほど離れた場所でようやくさっきの白煙が霧散して消えていた。
 多数の男たちがその場に倒れて眠りこけていたけど、さらに後方に下がって難を逃れていた男らは再び僕らを追ってくる。
 しつこい人たちだな!

「また追ってくるよ!」
「何とか振り切りましょう!」

 僕らは全力で走って山道を登り続けるけど、ちょうどこの辺りから上り坂が急激にキツくなっていて、ジェネットも僕もどうしても走る速度が落ちてくる。
 だけど背後から追ってくる男たちはまったく速度を落とすことなくグングンと距離を詰めてきた。
 勝手知ったる己の庭というやつで、彼らは山道に慣れていた。
 こ、このままじゃすぐに追いつかれる。

「シスタ~。他に効果的なアイテムはないのですか~?」

 ジェネットの胸元から顔を出してそう言うアビーだったけど、ジェネットは厳しい表情で首を横に振る。

「残念ですが、この状況を打開できるものは何も……」

 さっきの眠り薬がもっとたくさんあれば、部族の男たちを一網打尽に出来るのに……。
 そう思いながら走り続けていた僕は、突如として左足に何かを引っ掛けて転倒してしまった。

「うわっ!」
「アル様?」

 少し先を走るジェネットが驚いて立ち止まり、こちらを振り返る。
 僕は地面に転倒した痛みに顔をしかめていたけど、いきりなり何者かに足首を強い力でつかまれて思わず仰天した。

「な、何だ?」

 僕の足をつかんでいたのは、信じられないことに地面の中から伸びていた手だった。
 ゴツゴツとしたその武骨な手は、固い土の地面からまるで植物のように生えていたんだ。
 地面に倒れ込んだ僕は自分の足首をつかんでいる手が土を盛り上げながら地面からせり出してきて、やがて地面の中から一人の男が現れたのを見て息を飲んだ。
 それは頭にヤギの頭蓋骨ずがいこつで出来たかぶとをかぶった部族の男だったんだけど、彼の胸から下はいまだ地面に埋まっていたんだ。
 まるでそれは地面からい出して来たような姿だったけれど、あれこれ考えているヒマはなかった。
 男は右手で僕の足首をつかみ、左手に持った小刀を僕の太ももに突き立てようとしていたからだ。

 うわっ!
 やばい!
 僕が危機感を覚えながらも身構え遅れたその時、左手にはめていた黄色いIRリングがブルブルッと小刻みに揺れ、次いでタリオの刀身に巻きついていたへびが反応を見せた。
 僕が止める間もなく、白と黒の2匹のへびが部族の男に反射的に襲いかかったんだ。
 き、傷つけたらダメだ!
 だけどへびたちは男に噛みつくことはせず、男の鼻先で口を開けると桃色の煙を吹き出した。

「ハグゥゥ!」

 部族の男は桃色の煙に顔を包まれて苦しげに声を上げると、パタッと倒れて大いびきをかき始めたんだ。
 状況を飲み込めずに僕が目をしばたかせていると、アビーが声を上げた。

「眠っているのです~」

 へびたちが吐き出した桃色の煙は、部族の男を一瞬にして眠りの底に落としたんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

手折れ花

アヒル
恋愛
王族から見捨てられ、とある村で暮らしていた第四王女だったが……。 侵略した王子×亡国の平凡王女のお話。 ※注意※ 自サイトでボーイズラブとして書いたお話を主人公を女の子にして加筆したものです。 (2020.12.31) 閲覧、お気に入りなど、ありがとうございます。完結していますが、続きを書こうか迷っています。

婚約破棄ですか?構いませんわ。ですがその契約、すべて我が家のものです

ふわふわ
恋愛
王太子ユリウスは、王立学園の卒業舞踏会で突然宣言した。 「カリスタ・ヴァレリオンとの婚約を破棄する!」 隣には涙を流す義妹ルミレア。 彼女は「姉に虐げられてきた可哀想な令嬢」を演じ、王太子はそれを信じてしまう。 だが――王太子は知らなかった。 ヴァレリオン公爵家が 王国銀行の資金、港湾会社の株式、商人組合の信用保証―― 王国経済の中枢を支える契約のほとんどを握っていたことを。 婚約破棄と同時に、カリスタは静かに言った。 「では契約を終了いたします」 その瞬間、王国の歯車は止まり始める。 港は停止。 銀行は資金不足。 商人は取引停止。 そしてついに―― 王宮大広間で王太子の公開断罪が始まる。 「私は悪くない!」 「騙されたんだ!」 見苦しく喚き暴れる王太子は、衛兵に取り押さえられ、床を引きずられるようにして連行されていく。 王太子、義妹、義父母。 すべてが破滅したとき、カリスタはただ静かに告げる。 「契約は終わりました」

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...