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第三章 光の聖女ジェネット
第9話 ステルス・アビリティ
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「眠っているのです~」
アビーが驚きの声を上げ、僕とジェネットは互いに顔を見合わせた。
倒れて眠りこけている男のステータスには【Sleepy】と状態異常が示され、ライフはまったく減っていない。
「と、とにかく今のうちに逃げよう」
僕は足首を掴んでいる男の手を引き離し、そこから再び走り出した。
僕の隣に並んで走りながらジェネットが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「アル様。今の技は?」
「わ、分からない。そう言えば……」
僕は双子との戦いの時にタリオの蛇がアディソンに噛み付いて眠らせたことを思い出し、それを手短にジェネットに説明した。
「だけどその時はこんなふうに口から息を吐き出すんじゃなくて直接噛み付いていたんだけど……」
「相手にダメージを与えてはいけないというアル様の意思が蛇たちに伝わったのでは?」
「どうかな。それはイマイチ自信ないけど」
僕らは懸命に山道を走りながら話を続けた。
後方からは数十メートルの距離を空けて部族の男たちが迫ってくる。
「また地面の中から骸骨マンさんが出てくるかもしれないのです~。足元注意なのです~」
アビーが怯えた声でそう告げる。
地面から生えた手に足を掴まれるというあの不気味な感覚が甦り、僕は悪寒を感じて走りながら思わず足元に目をやった。
そこで僕はふと自分の左腕に装着している腕輪に違和感を感じたんだ。
それもそのはずだった。
ミランダにもらったその腕輪はほんの少し前まで黄色だったのに、それが桃色に変色している。
あれ?
いつの間にこんな色に変わったんだ?
そういえばこのIRリング、さっき小刻みに震えていたような……。
奇妙な現象に僕は眉を潜めたけど、ふいに足元の土が盛り上がるのを感じて咄嗟に大きく飛び退いた。
「うわっ!」
地面から再び生えてきた手が僕の足を掴もうとしたけど、ギリギリのところで僕のジャンプが勝り、その手は宙をかく。
そして土中から土を撒き散らしながらさっきと同じようなヤギの頭骨兜をかぶった部族の男が現れた。
僕が空中で体勢を崩しそうになりながら必死に着地すると、再びIRリングがブルブルと震え、白黒一対の蛇たちがタリオの刀身からシュルシュルッと伸びて男の顔に桃色の煙を吹きかけた。
途端に男はまるで糸の切れた操り人形のごとく力を失って倒れる。
「や、やった……」
僕が半ば呆然としながらもタリオの戦果に安堵の声を上げる中、白と黒の蛇はタリオの刀身に戻らずに僕の左手にあるIRリングのニオイを嗅ぐようにまとわりついている。
何だ?
二匹の蛇たちはIRリングに何を感じているんだろう。
「アル様。もしかしてタリオとその腕輪が連動しているのでは?」
「よく分からないけど……」
「IRリングの機能は遠くに不可視エネルギーを届ける送信能力ですよね。タリオの蛇が持つ誘眠の力がIRリングの機能によって敵に送信されているのでは?」
ジェネットがそう言ったその時、僕らの前方で土がボコボコッと盛り上がり、数人の男たちが現れた。
また新手か。
その様子を見てジェネットは懲悪杖を構えて口を引き締めた。
「どうやら彼らの使う山岳呪術のようですね」
「さ、先回りされたのです~。もう挟み撃ちはカンベンしてほしいのです~」
僕らの前方に現れた男たちの影が長く伸びる。
すでに時刻は夕方で、太陽は地平線に差しかかろうとしていた。
この山の部族に襲われて必死に逃げ回るうちに、思った以上に時間を取られてしまっているみたいだ。
くっ!
時間に余裕があるわけじゃないのに。
だけど相手はこっちの都合なんて考えちゃくれない。
各々手に刃を持って襲い掛かってくる。
僕とジェネットはこれを迎え撃とうとした。
だけどその時、タリオの柄から身を離した黒蛇が僕の左手首にはめられたIRリングに直接触れたんだ。
途端に黒蛇はピーンと頭を上に向け口を大きく開いた。
するとそこから何か小さな棒状のものがせり出してきた。
まるで蛇が体の奥底から吐き出したようなそれは、ペーパーナイフほどの至極小ぶりなナイフで、柄から刀身まで全てが桃色だった。
「な、何だ?」
「アル様!」
ふいにジェネットの声に我に返った僕の眼前に影が躍り出る。
すぐ目の前に迫った男が鉈を振り上げた。
や、やばい!
そう思った瞬間だった。
黒蛇が頭を翻し、僕の目の前に迫る男に向けて口の中のナイフを吹き出したんだ。
桃色のナイフは一直線に相手の額に突き刺さった。
ああっ!
まずい!
ついに相手を傷つけてしまったかと思われたけど、桃色のナイフは相手に突き刺さった途端、まるで氷が溶けるかのように一瞬で溶解して相手の頭の中に吸い込まれていった。
すると男の体からたちまちのうちに力が抜け、男の振り上げた鉈はすっぽ抜けて僕のすぐ横の地面に突き立った。
そして地面に崩れ落ちた男はすっかり眠りこけていたんだ。
当然のようにダメージはゼロだ。
「も、もしかして……」
僕は咄嗟に直感した。
このナイフはさっきの桃色の煙と同じ成分で出来ているんだ。
蛇たちが吐き出す煙はすぐ近くの相手にしか届かないけど、これなら少し離れた相手を眠らせることが出来るぞ。
僕の直感を感じ取ったかのように黒蛇はさらに別のナイフを口から出してくれる。
僕は即座にそれを掴み取ると、ジェネットに斬りかかろうとしている部族の男に向けて投げつけた。
先ほどと同様にナイフは男の体に命中すると、その体の中へ溶け込んでいく。
よし。
この距離なら間違いなく当たるぞ。
ミランダと一緒に行ったあのナイフダーツのお店で、素早く動く小さな映像モンスターを狙った時と比べたら遥かに簡単だった。
そしてナイフを当てられた男はそれが見えないどころか自分の体にナイフが当たったことすら気付かずに倒れて眠る。
突然の事態に驚いているのはジェネットだ。
「アル様?」
「ちょっと待ってて」
僕はそう言うと黒蛇の口からナイフを立て続けに受け取り、それをまだ僕らの前方に残っている3人の部族に向けて投げつけた。
見えないナイフを避けることも出来ず、男たちは3人ともあえなくその場に倒れ込んで眠り込んだ。
これでとりあえず前方から迫ってくる敵はすべて眠らせた。
とは言っても下から追ってくる男たちももう数十メートルのところまで迫ってきている。
僕らは即座に上に向かって再び駆け出した。
「アル様。一体何をされたのですか?」
僕の隣に並んで走りながらそう尋ねるジェネットに僕は黒蛇の頭を持ってその口の中にある桃色のナイフを見せた。
だけどジェネットはそれを見ても首を傾げるだけだ。
彼女の反応を見て僕は状況を理解した。
「やっぱりジェネットにも見えないのか。もしかしてさっき蛇たちが吐き出した桃色の煙も見えなかった?」
「桃色の煙? いえ。私には蛇がただ口を開けてるようにしか見えませんでした」
やっぱりそうか。
僕はこの桃色ナイフとさっきの桃色の煙のことを彼女に説明する。
ジェネットは驚きつつも納得したように言った。
「なるほど。やはりタリオには他のアイテムと連動する力があるようですね。アル様にしか見えないステルス式の煙幕やナイフなら、かなり有利に使えると思います。アル様。すごいです!」
少し興奮したようにそう言うジェネットの隣でアビーがウンウンと頷いた。
「アルフレッド様~。第一印象が冴えない男子だっただけに、その分のギャップでカッコよく見えるのです~」
ふふふ。
そんなに誉めると照れるよアビー。
そして第一印象で冴えない男だと思っていたんだね。
ひどいよアビー。
まあそれはそれとして……。
しばらく走ってから僕はジェネットに声をかけて立ち止まった。
そして僕は小さなミランダを懐から取り出すと、彼女をそっと両手で包み込むようにしてジェネットに差し出す。
そんな僕を見てジェネットは怪訝な表情を浮かべた。
「アル様?」
「ジェネット。ミランダを連れてアビーと一緒に先に山頂に向かって。僕はここで彼らを食い止めるから」
意を決して僕がそう言うと、ジェネットは血相を変えて反論する。
「そんな。アル様1人でなんて危険です」
「アルフレッド様~。あまり無理はなさらないほうがよろしいかと~」
アビーも首をプルプルと横に振ってそう言うけど、僕はもう決めていた。
見上げる空は薄暗く、もう夜の帳がすぐそこまでやってきていた。
「このまま3人であの部族の相手をしていたら、いつまでも足止めされちゃうよ。時間だけが過ぎていく。それは避けないと」
「ですが……」
「ジェネット。聖域でミランダを治すために君とアビーの力は必要不可欠だ。けど僕はそこにいても見ていることしか出来ない。それなら僕が自分の役割を果たすべき場所はここしかない」
僕がそう言うとジェネットは観念したように唇を噛み締めた。
「アル様……」
「ジェネット。ミランダを頼むよ。彼女を絶対に元に戻してあげたいんだ」
僕がそう頼むとジェネットはため息をついて僕をじっと見つめた。
「必ず後から登ってくると約束して下さいますか?」
「うん。約束するよ」
「……分かりました。アル様を信じて山頂でお待ちしています」
ジェネットはそう言うと僕の手からミランダを受け取り、そっと自分の法衣のポケットに忍ばせる。
ジェネットの胸元から出て地面に降り立ったアビーは、僕の膝に鼻面を押し付けながら言う。
「アルフレッド様~。ミランダさんはアビーが必ず治しますので~、どうか思い残すことなく成仏して下さい~。後ほど骨は拾いますので~」
「いや、生きて山頂に向かう予定なんで」
死地に赴く兵士と別れを惜しむようなセリフはやめて下さい。
「行きますよアビー」
ジェネットとアビーはそう言うと先に山頂へと向かっていったんだ。
アビーが驚きの声を上げ、僕とジェネットは互いに顔を見合わせた。
倒れて眠りこけている男のステータスには【Sleepy】と状態異常が示され、ライフはまったく減っていない。
「と、とにかく今のうちに逃げよう」
僕は足首を掴んでいる男の手を引き離し、そこから再び走り出した。
僕の隣に並んで走りながらジェネットが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「アル様。今の技は?」
「わ、分からない。そう言えば……」
僕は双子との戦いの時にタリオの蛇がアディソンに噛み付いて眠らせたことを思い出し、それを手短にジェネットに説明した。
「だけどその時はこんなふうに口から息を吐き出すんじゃなくて直接噛み付いていたんだけど……」
「相手にダメージを与えてはいけないというアル様の意思が蛇たちに伝わったのでは?」
「どうかな。それはイマイチ自信ないけど」
僕らは懸命に山道を走りながら話を続けた。
後方からは数十メートルの距離を空けて部族の男たちが迫ってくる。
「また地面の中から骸骨マンさんが出てくるかもしれないのです~。足元注意なのです~」
アビーが怯えた声でそう告げる。
地面から生えた手に足を掴まれるというあの不気味な感覚が甦り、僕は悪寒を感じて走りながら思わず足元に目をやった。
そこで僕はふと自分の左腕に装着している腕輪に違和感を感じたんだ。
それもそのはずだった。
ミランダにもらったその腕輪はほんの少し前まで黄色だったのに、それが桃色に変色している。
あれ?
いつの間にこんな色に変わったんだ?
そういえばこのIRリング、さっき小刻みに震えていたような……。
奇妙な現象に僕は眉を潜めたけど、ふいに足元の土が盛り上がるのを感じて咄嗟に大きく飛び退いた。
「うわっ!」
地面から再び生えてきた手が僕の足を掴もうとしたけど、ギリギリのところで僕のジャンプが勝り、その手は宙をかく。
そして土中から土を撒き散らしながらさっきと同じようなヤギの頭骨兜をかぶった部族の男が現れた。
僕が空中で体勢を崩しそうになりながら必死に着地すると、再びIRリングがブルブルと震え、白黒一対の蛇たちがタリオの刀身からシュルシュルッと伸びて男の顔に桃色の煙を吹きかけた。
途端に男はまるで糸の切れた操り人形のごとく力を失って倒れる。
「や、やった……」
僕が半ば呆然としながらもタリオの戦果に安堵の声を上げる中、白と黒の蛇はタリオの刀身に戻らずに僕の左手にあるIRリングのニオイを嗅ぐようにまとわりついている。
何だ?
二匹の蛇たちはIRリングに何を感じているんだろう。
「アル様。もしかしてタリオとその腕輪が連動しているのでは?」
「よく分からないけど……」
「IRリングの機能は遠くに不可視エネルギーを届ける送信能力ですよね。タリオの蛇が持つ誘眠の力がIRリングの機能によって敵に送信されているのでは?」
ジェネットがそう言ったその時、僕らの前方で土がボコボコッと盛り上がり、数人の男たちが現れた。
また新手か。
その様子を見てジェネットは懲悪杖を構えて口を引き締めた。
「どうやら彼らの使う山岳呪術のようですね」
「さ、先回りされたのです~。もう挟み撃ちはカンベンしてほしいのです~」
僕らの前方に現れた男たちの影が長く伸びる。
すでに時刻は夕方で、太陽は地平線に差しかかろうとしていた。
この山の部族に襲われて必死に逃げ回るうちに、思った以上に時間を取られてしまっているみたいだ。
くっ!
時間に余裕があるわけじゃないのに。
だけど相手はこっちの都合なんて考えちゃくれない。
各々手に刃を持って襲い掛かってくる。
僕とジェネットはこれを迎え撃とうとした。
だけどその時、タリオの柄から身を離した黒蛇が僕の左手首にはめられたIRリングに直接触れたんだ。
途端に黒蛇はピーンと頭を上に向け口を大きく開いた。
するとそこから何か小さな棒状のものがせり出してきた。
まるで蛇が体の奥底から吐き出したようなそれは、ペーパーナイフほどの至極小ぶりなナイフで、柄から刀身まで全てが桃色だった。
「な、何だ?」
「アル様!」
ふいにジェネットの声に我に返った僕の眼前に影が躍り出る。
すぐ目の前に迫った男が鉈を振り上げた。
や、やばい!
そう思った瞬間だった。
黒蛇が頭を翻し、僕の目の前に迫る男に向けて口の中のナイフを吹き出したんだ。
桃色のナイフは一直線に相手の額に突き刺さった。
ああっ!
まずい!
ついに相手を傷つけてしまったかと思われたけど、桃色のナイフは相手に突き刺さった途端、まるで氷が溶けるかのように一瞬で溶解して相手の頭の中に吸い込まれていった。
すると男の体からたちまちのうちに力が抜け、男の振り上げた鉈はすっぽ抜けて僕のすぐ横の地面に突き立った。
そして地面に崩れ落ちた男はすっかり眠りこけていたんだ。
当然のようにダメージはゼロだ。
「も、もしかして……」
僕は咄嗟に直感した。
このナイフはさっきの桃色の煙と同じ成分で出来ているんだ。
蛇たちが吐き出す煙はすぐ近くの相手にしか届かないけど、これなら少し離れた相手を眠らせることが出来るぞ。
僕の直感を感じ取ったかのように黒蛇はさらに別のナイフを口から出してくれる。
僕は即座にそれを掴み取ると、ジェネットに斬りかかろうとしている部族の男に向けて投げつけた。
先ほどと同様にナイフは男の体に命中すると、その体の中へ溶け込んでいく。
よし。
この距離なら間違いなく当たるぞ。
ミランダと一緒に行ったあのナイフダーツのお店で、素早く動く小さな映像モンスターを狙った時と比べたら遥かに簡単だった。
そしてナイフを当てられた男はそれが見えないどころか自分の体にナイフが当たったことすら気付かずに倒れて眠る。
突然の事態に驚いているのはジェネットだ。
「アル様?」
「ちょっと待ってて」
僕はそう言うと黒蛇の口からナイフを立て続けに受け取り、それをまだ僕らの前方に残っている3人の部族に向けて投げつけた。
見えないナイフを避けることも出来ず、男たちは3人ともあえなくその場に倒れ込んで眠り込んだ。
これでとりあえず前方から迫ってくる敵はすべて眠らせた。
とは言っても下から追ってくる男たちももう数十メートルのところまで迫ってきている。
僕らは即座に上に向かって再び駆け出した。
「アル様。一体何をされたのですか?」
僕の隣に並んで走りながらそう尋ねるジェネットに僕は黒蛇の頭を持ってその口の中にある桃色のナイフを見せた。
だけどジェネットはそれを見ても首を傾げるだけだ。
彼女の反応を見て僕は状況を理解した。
「やっぱりジェネットにも見えないのか。もしかしてさっき蛇たちが吐き出した桃色の煙も見えなかった?」
「桃色の煙? いえ。私には蛇がただ口を開けてるようにしか見えませんでした」
やっぱりそうか。
僕はこの桃色ナイフとさっきの桃色の煙のことを彼女に説明する。
ジェネットは驚きつつも納得したように言った。
「なるほど。やはりタリオには他のアイテムと連動する力があるようですね。アル様にしか見えないステルス式の煙幕やナイフなら、かなり有利に使えると思います。アル様。すごいです!」
少し興奮したようにそう言うジェネットの隣でアビーがウンウンと頷いた。
「アルフレッド様~。第一印象が冴えない男子だっただけに、その分のギャップでカッコよく見えるのです~」
ふふふ。
そんなに誉めると照れるよアビー。
そして第一印象で冴えない男だと思っていたんだね。
ひどいよアビー。
まあそれはそれとして……。
しばらく走ってから僕はジェネットに声をかけて立ち止まった。
そして僕は小さなミランダを懐から取り出すと、彼女をそっと両手で包み込むようにしてジェネットに差し出す。
そんな僕を見てジェネットは怪訝な表情を浮かべた。
「アル様?」
「ジェネット。ミランダを連れてアビーと一緒に先に山頂に向かって。僕はここで彼らを食い止めるから」
意を決して僕がそう言うと、ジェネットは血相を変えて反論する。
「そんな。アル様1人でなんて危険です」
「アルフレッド様~。あまり無理はなさらないほうがよろしいかと~」
アビーも首をプルプルと横に振ってそう言うけど、僕はもう決めていた。
見上げる空は薄暗く、もう夜の帳がすぐそこまでやってきていた。
「このまま3人であの部族の相手をしていたら、いつまでも足止めされちゃうよ。時間だけが過ぎていく。それは避けないと」
「ですが……」
「ジェネット。聖域でミランダを治すために君とアビーの力は必要不可欠だ。けど僕はそこにいても見ていることしか出来ない。それなら僕が自分の役割を果たすべき場所はここしかない」
僕がそう言うとジェネットは観念したように唇を噛み締めた。
「アル様……」
「ジェネット。ミランダを頼むよ。彼女を絶対に元に戻してあげたいんだ」
僕がそう頼むとジェネットはため息をついて僕をじっと見つめた。
「必ず後から登ってくると約束して下さいますか?」
「うん。約束するよ」
「……分かりました。アル様を信じて山頂でお待ちしています」
ジェネットはそう言うと僕の手からミランダを受け取り、そっと自分の法衣のポケットに忍ばせる。
ジェネットの胸元から出て地面に降り立ったアビーは、僕の膝に鼻面を押し付けながら言う。
「アルフレッド様~。ミランダさんはアビーが必ず治しますので~、どうか思い残すことなく成仏して下さい~。後ほど骨は拾いますので~」
「いや、生きて山頂に向かう予定なんで」
死地に赴く兵士と別れを惜しむようなセリフはやめて下さい。
「行きますよアビー」
ジェネットとアビーはそう言うと先に山頂へと向かっていったんだ。
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