異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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2章 城壁都市アドラーブル

8話 見習いは冒険者ではないらしい

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 そこは倉庫だった。

 木製の大きな棚が並び荷台にいろんな素材を載せた手押し車を押して、人がせわしなく動いている。どう見ても人じゃないような人もいる。慣れたようにその間をぬって歩いて行ったロサードさんを追って、大きな石造りのカウンターの前にたどり着く。
 なんで買い取りの受付が二階にあるんだろうか? 荷物を運ぶんなら一階の方が便利なはずなのに。と思ってたらでっかい荷物を片手で担ぎ上げた女性冒険者さんが笑いながら通り過ぎて行った。
なるほど……。

「買取をたのむ」

 火竜のカギ爪をカウンターに置くロサードさん。
 一瞬目を見開いた受付の人は、爪を手に取りじっくり見たあとペラペラと分厚い資料をめくる。

「これでいかがかと」

 銀行の事務員のような受付の人は手のひらをニギニギした。

「そんなもんだろ。小銭も混ぜてくれ」

 いったん奥にさがった受付の人は小さなお盆を持って現れた。あれで通じるのか、競市の業者みたいなもんなんだろうか。

「ご確認ください」
「それでいい」
「ありがとうございます。それではカードを」

 お盆の上には金色と銀色の硬貨が山盛りだった。これがお金でカギ爪の報酬だとわかるが……五ゴルドより多くない?

「何してる、タグを見せろ」
「は?」
「見習いタグだよ、もらっただろ」
「持ってますけどその爪はロサードさんに報酬として……」
「ゴチャゴチャうるせえな!   部位は討伐したやつしか換金できねえんだよ。」
「さいですか」
 
  俺は握りしめていたタグを受付の人に見せると、受付の人は書類に文字を書き留め俺の前に置いた。

「サインを」
 
  サ……サイン? 俺文字が……助けを求めるようにロサードさんを見る。

「早くしろ」
 
  ムッとした俺は羽ペンをインクにドボッと漬けて『冬馬』と漢字で書いてやった。

「ではこれで取引成立ということで、ありがとうございました。良い冒険を」

   ちょっと小首をかしげて書類を見た受付の人は、慇懃無礼に答えて火竜のカギ爪を持って倉庫の奥へ戻って行った。
   ロサードさんはお盆の硬貨を五枚数えてポケットにしまった。

「お前を冒険者に推薦して買取の面倒を見た正当な報酬として貰っておく」
「え?   ええっ!  だだってそれは全部ロサードさんに報酬として……」
「おれは鬼か!   何している。早く金をしまえ、襲われるぞ」
「あ、ありがとうございます!」

   俺はお盆の上の硬貨をジャラジャラとジーンズのポケットに突っ込んだ。よく考えたら推薦人なんて始めからいらなかったんだから報酬ってどうよ?   と思ったけれど、俺一人ならあの雑貨屋に五ゴルドで騙し取られたわけだし、ロサードさんの嫌がらせじゃなくて親切があったからすべてうまく行ったんだろう……ということにしておこう。
   これで晩御飯が食べられる。

   下に降りたら全員そろって新人歓迎会……なんてものは当然なく、今日の宿を紹介してもらってあっさり解散。ロサードさんたちは明日新しい依頼があるんだそうな。

   「あとは自力ではい上がって来い。じゃあな」

 ニヤッと笑ったロサードさんたちとギルドの前で別れようとしたが、なぜか猫耳尻尾の人が俺と一緒についてきた。

「銀のパイプ亭、わかりにくい……あたいブエナ。ロサードが案内しろって……」
 
  何と紹介してもらった今日の宿『銀のパイプ亭』に案内してくれるらしい。

 必要最小限の文章しか話さないブエナさんは、おれの腕を両手で抱きかかえ大通りをズンズン歩いて行く。あ、ありがたい。ありがたいんだけど……あの、柔らかいのが当たってるんですが。

 真っ赤になりながら歩いていると前から喧騒な響きがしてきた。騎馬の列が迫ってくる。
 ざわざわしていた人達が道を大きく開ける。そこを騎馬隊と歩兵隊が行進してくる。
 いかにも騎士! という統一のとれた銀の鎧とマントの騎馬隊。どっかのお国の兵隊のような統一のとれた行進をする歩兵隊。
   銀色の鎧と漆黒のマントを身につけた騎士たち。白いローブと黒いローブをまとった人たち。一糸乱れず行進する歩兵たち。街の入り口で隊列整えたんだろうなあ……参覲交代か。

「騎士団、仕事あまりしない……」
「騎士が……仕事しないんですか?」
「うん、汚れ仕事は……金になることしかしないニャ」
「?」

 今『ニャ』って言った?

「……金になることしかしない」

 言い直した!
 なぜか赤くなってるブエナさん。

「「……………………」」

「あーん! せっかく寡黙な魔導士で押し通したのに台無しニャ~」
「寡黙なって……あ、落ち着いてください。普通に話してくれていいですよ……かわいいし」

 寡黙だったブエナさんは両手をバタバタしながらニャーニャーと話し出した。

 「かわいくないニャ~! みんな子供だってバカにするニャ~!」 
「そんなことないです。別に気にならないですから」
「ホント?」

 キョトンとした銀色の目がこっちを向く。
  
「はい、全く」
「じゃあ、普通に話すニャ♪」 

 俺の腕を取ったブエナさんは、あっけらかんといろんな話をしてくれた。
 やっぱりこっちが普通なのか。
 獣人族? 猫族? 目は瞳孔が縦に割れているわけでもなくヒゲも生えてない。顔は人間と同じ。フードに隠れている耳と茶色のハーフコートの下からからチラッと見える尻尾がアイデンティティなんだろうか。

 ~ニャというのは猫族にとって子供言葉らしい。恥ずかしいので初対面の時は寡黙な魔導士を演じるそうな。恥ずかしがるブエナさんをようやくなだめて宿屋へ案内してもらった。

『銀のパイプ亭』に着くまでブエナさんは見習いにとって大切なことを教えてくれた。
   冒険者の半分くらいは見習いのままで終わる。戦闘ができないなら見習いのままの方が稼ぐことができる。冒険者は簡単に死ぬ。
   ギリギリいけると思った仕事はまず失敗する。逃げるのは恥ではない。見習いが仕事欲しけりゃ朝一でギルドに行け。などなど、ニャ~ニャ~と教えてくれた。

「良い冒険を」

 『銀のパイプ亭』の前で、ブエナさんはにっこり笑って手と尻尾を振って帰って行った。
 結局アドバイスするために一緒に来てくれたんだろうなあ。

 良い冒険を。

 ブエナさんの揺れる尻尾に声を出さずに言ってみた。

 『銀のパイプ亭』の入口は西部劇の酒場のような扉がついていた。ギっと開けるとムッとした食べ物の匂いと喧騒。
 一斉に振り向いたお客さんの目線が痛い。
 二階建ての石造りだが中は木造で内装されている。目の前がカウンター。
 でっぷりとしたいかにも宿屋のおばちゃんですという人がこっちを見ている。左に階段。右に食堂らしきスペースがあり丸テーブルに数人のお客さんが座って食事をしている。
 奥でギターのようなハープのような楽器で物悲しい曲を弾いている人がいる。吟遊詩人? でも歌わないなあ。いんすとろめんたる? ぼおっと見ているとおばちゃんが声を掛ける。

「いらっしゃい。泊まりかい?   食事かい?」

   あわてて見習いタグをだして見せた。

「あ、泊まりです。冒険者のロサードさんとブエナさんの紹介です。部屋空いてますでしょうか」
「おや見習いさんかい。懐かしい名前を聞かせてくれるねえ、みんな元気だったかい?  えらくなるとお見限りなんだから、二階の奥が空いてるよ、一泊三シルド。朝食付き。何泊だい?」
 
  おばちゃんは矢継ぎ早に話してきた。ジョ、情報量が多すぎる。三シルド?  しるど?   ゴルドじゃなく?   とりあえずポケットから一枚の金貨を出した。金貨がゴルドだとしてその下の単位か?

「三泊だね。はいこれが鍵とお釣りの一シルド。二階の五号室、一番奥ね。風呂と夕食は別料金だよ」

   何とか予想が当たった。ということは一ゴルドは十シルドってことか。
 でも普通お釣りは7シルドよこさない? 勝手に三泊にされてしまった。別料金は後から知らせるのね。でも風呂があるのか。

「そうだ、タグをそんなことしてたら落としちまうよ。こんなのどうだい? うちは良く見習いさんが泊まるのでね。用意してるんだよ」

   おばさんはカウンターの下から銀色の鎖を出してきた。タグにつけるやつなんだろうか。それにしても商魂たくましいというか……。

「あ、こんなのもあるよ、結構丈夫だから」
 
 今度は革紐を出してきた。確かに鎖か革紐で首にぶら下げた方がいいんだけどね。

「鎖が三シルド。皮紐が八十ペンド。どうする?」

 お釣りの一シルドを手から離さず、セールストークをするおばちゃん。
   ぺんどお?   また新しい単位か!  お釣りも鍵もまだおばさんの手の中にある。
 人質か!

「じゃあ革紐で……」
「おや買ってくれるのかい。じゃあ五号室の鍵とお釣り」

 人質は無事解放され、鍵とジャラジャラと十数枚のお釣りをもらってようやく二階に上がって行った。
 
 一番奥へ行ってドアを鍵で開ける。
 ドアにでっかく書いてある文字が『五』なんだろう。五部屋すべて同じ位置にちがう文字が書いてある。これで一から五の数字が覚えられる。

 汚れた木のドアを開けると部屋の中はベッドが一つに小さな机。木の壁に小さな窓。机の上は陶器でできたお皿の上にコップが置かれ、中をのぞくと液体の真ん中に紐がたてに金属で固定されている。
 ロウソク? ランプ……かな?   マッチはない。ひょっとして魔法で火をつけるのか?  泊まり客みんな魔法が使えるのか?  もう陽が暮れかけて真っ暗になる、どうしよう……とあたふたしてたら石と細長い金属が置いてあった。えっと……火打石?

 カチカチカチ、カチカチカチ、カチカチカチカチカチカチカチカチカチ、ボッ……火がついた。
 なんか嫌な記憶がよみがえる。そういやあの火竜と同じ火の点け方だ。ひょっとしてこの石って火竜の歯?

 薄暗いが暖かい明かりがついてやっと一息。とりあえずベットの上に倒れこんだ。

「はーーーーーーっ、疲れたあーーーーーー。ぜえったいギルドより宿屋の方が疲れた」

 馬車の中で目を覚ましてからいろんなことがありすぎた。本当に今日一日の出来事だったのか。この世界は一日四十時間くらいあるんじゃないのか。

「わからないことばっかりだ……」

 一体なんなんだ。何が起こったんだ。
 ベッドの上で知らない天井を見ながらようやく落ち着いて棚上げにしていたことを考えた。

 ここは異世界だ。
 なんの脈絡も理由も意味もなしにこっちに転移、トリップした。ここまでは理解した。
 じゃあ明日からどうする? 元の世界へ帰る方法を探す。あるんだろうか、帰る方法って。
 朝起きたらなんの脈絡も無しに戻ってる。ということは起こらないだろうなあ。

 帰る方法を探すといっても…… 帰ってどうする?
   また何の目的もない友達もいない待ってる人もいないだらけた毎日を繰り返すために?
   母親の遺産でしばらくは暮らせるだろう。でもあのお金は四年間の大学の授業料で消える予定なんだ。本当は生活費を稼ぐために働かなければいけないのに……すべてが破綻してしまうことがわかりきってるのに……それに背を向けてただ流されるままのあの日々に帰る……?

 とりあえず……明日考えよう。俺はランプの火を消して眠りについた。
 長い長い1日がようやく終わる。
 今夜はどっちの世界の夢を見るんだろう。
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