7 / 71
2章 城壁都市アドラーブル
7話 仕方がないので冒険者
しおりを挟む
リンドーン……リンドーン……
遠くから鐘の音が聞こえる。時を知らせる鐘なんだろうか。非常時の鐘ではないんだろう。道行く人々が気にしていない。何時の鐘なんだろう。そもそもここは二十四時間制なのか?
街は中世ヨーロッパのような造り……かどうかわ分からない。俺は中世ヨーロッパなんて行ったことがない。
周りはいつの間にか薄暗くなっている。街灯なんてあるんだろうか。
それどころじゃない! とにかく今日だ! 目の前の問題だ。朝からなんにも食べていない。森の中で水を飲んだだけだ。多分ギルドというところへ行って登録すれば身分証明書は手に入る。今日中に発行できないなら公園かどっかで野宿する。それで火竜の爪を現金化して飯を食おう。二、三日なら飢え死にはしないだろう。あとのことはそれから考えよう。
予定が決まったらちょっと勇気が出た。
道端でぼおっとしてキセルみたいなものを吸っている優しそうで暇そうな初老のおじいさんに勇気を出して聞いてみた。
「あの、すいませ……じゃなかった。商業ギルドか冒険者ギルドってどこにありますか ?」
その優しそうなおじいさんは、じっ……と俺を見て顎をぐいと右に向け、プカアっと煙を吐いたっきり。全然優しくない。でも顎が向いた方をみると三階建ての石造りの大きな建物があった。
建物の前は開けた道路というか広場がある。階段を数段上がると大きく開かれたドアがあり、壁にはどーんと五芒星のマークが刻み込まれその下に文字が……って、読めるか!
ギルド? 何のギルド? あの一見やさしそうなおじさんが指し示した建物だからギルドなんだろう。でもなんのギルドなんだろう? せめて剣と盾とか大八車とかのマークだったら想像できるのに、一筆書きで書ける星、五芒星って何を表してるの?
入り口から、いかにも冒険者でございますという姿形をした団体が出てきた時、神の選択が冒険者だとわかった。
石造りの建物は中も石造りだった。武器や防具、ローブや杖で武装した冒険者たちで賑わう冒険者ギルド。入ってすぐに大きなカウンターがありその右横にお決まりの小さな紙をいっぱい貼った掲示板がある。
カウンターの左側には二階に上がる大きな階段があり、そこを通り過ぎた奥にはサロン風に丸テーブルが並び、仕事を終えた冒険者たちが食事や酒で一日の疲れを癒し明日の英気を養っている……んだと思う。
なぜかホッとした。ゲームや小説でおなじみの想像通りの冒険者ギルドだった。しかし想像にないこともあった。
臭い! 汗臭さとムッとする獣臭。錆びた鉄のような匂いもする。夕方が近いので討伐部位を換金する冒険者が多いのだろうか。
そうか、ファンタジー世界は臭いんだ。でも気にする余裕はない。
俺はまっすぐ空いているカウンターに向かい中年のおじさんに話しかけた。残念ながら可愛いさや色気とは無縁の受付だった。人気のない窓口らしい。
「冒険者登録をしたいのですが……」
謝らずに言えた。メガネをかけて両腕に黒いハンドカバーをした村役場の受付のようなイメージのおじさんはじっくり上から下まで俺の姿を見た。
「登録ですね。この書類に必要事項を書いて……あ、文字はかけますか?」
ほっ、登録できるらしい。でもそうか文字か……しまった。
「…あの、書けないのですが」
「代筆ね。じゃあ口頭で質問します」
そう言って村役場の受付風おじさんは書類を一枚出して羽ペンをインク壺にドボッとつけた。良かったあ、代筆してくれるんだ。
「じゃあまず推薦者か保証人の書類を見せてください」
……スイセンシャノショルイ? ホショウニンノショルイ?
「ないのですか? 冒険者になりたいのなら推薦者か保証人が居るのが常識ですが」
「……持ってません、知りませんでした」
俺には異世界の常識なんてありません。
「そうですか。それでは出直してきてください。はい次の人? あ、部位の買取は二階です。だからそうはいってもねえ……」
それっきり受付のおじさんの興味は後ろに並んだ順番待ちの冒険者に移って行った。
本を売るのには身分証明書がいる。ネットで物を売るにも登録がいる。アパートを借りる時も借金をする時にも保証人がいる。それは当然のことだと知っている。
なのになぜ想像できない? この世界の住人にとってこの世界こそ現実なんだ。身分証明書や保証人がいるのは当然のこと、いや気付かなかっただけなんだ。
何を甘いこと考えているんだ。これは現実なんだぞ。
俺のスラム行きが決定した瞬間だった……このまま何もしなければ。
奥のサロンから酒に酔った陽気な声が聞こえる。
まだだ。俺はまだ何もしていない。
もう一度受付へ戻った俺はおじさん受付に確認の意味で聞いた。
「推薦人の条件てありますか?」
「条件? こ、この街で身分を証明できる人ならどなたでも結構ですが」
礼を言ってそのまま奥のサロンへ行き、見覚えのある背中に向かって頭を下げながら言った。
「推薦人になってください!」
声をかけた背中はしばらく反応せず、やがて、
「あれ程言ったのによお……」
と言いがら、数少ないこの世界での知り合い、中年戦士改め中年冒険者は振り向いた。
そして引き続き文句や説得を続けようとなにか言いかけたが、俺が頭を下げたまま微動だにしないのを見て、
「仕方ねえなあこのガキが……で、報酬は?」
思わず頭を上げた。中年冒険者は丸テーブルにだらしなく座ってボサボサの頭をボリボリ掻いていた。
「報酬? ……ですか?」
「当たり前だろ、何処の馬の骨かわからねえガキの推薦人の依頼だぞ。人にものを頼む時は報酬がいるんだよ! そんなこともわからねえで冒険者になるつもりか? あ、一文無しか、そりゃあ無理だな~やっぱり田舎に帰んな、うん、その方が……」
ドコッ!
俺はツカツカと近づいてテーブルの上に火竜の爪を置いた。
「これが全財産です。雑貨屋で五ゴルド出すと言ってます。これでお願いします!」
俺はもう一度深々と頭を下げた。
「か、火竜の爪だと!」
「本物か? 岩トカゲの牙じゃねえの?」
テーブルに座って一緒に酒盛りをしている取り巻き連中が騒ぎ出した。
「でも五ゴルドって…バカかこいつ」
おそらくもうこのチャンスしかないっと思って必死だった。あとは最後の手段、土下座がしか残っていない。
半ば飽きれたように中年冒険者はは爪をもてあそびながらいった。
「お前な~冒険者は魔物や盗賊と戦うんだぞ。全財産差し出して装備はどうする? 武器なしでどうやって戦うんだ? 」
「す、素手で戦います!」
俺はまっすぐ中年冒険者を見て答えた。目線を外したらもうチャンスはないような気がした。土下座をしても意味が通じないかもしれない。
シンと静まったサロンの中で俺と中年冒険者はにらみ合いを続けた。
「ぷっ」
「きゃはははっはあ」
「素手だって素手!」
「さすが火竜を飛び蹴りで倒しただけのことはある」
「あれジョーダンじゃなかったのかよ!」
「うるさいぞてめえら!」
いきなり騒がしくなった観客たちを中年冒険者はシメた。
再びシンとサロンは静まり……かえらなかった。取り巻き連中は無視して騒ぎ続けていた。あまりリーダーシップはないらしい。
「もういいんじゃないのロサード。それ以上いじめなくてもさあ。坊やも本気みたいだし、俺たちも偉そうなこと言える生い立ちじゃないでしょーが」
「モグモグ……自分のこと棚に上げて……」
「うるせぇ! わかったよ!」
あ、弓の人も猫耳尻尾の人もいたんだ。なんか俺を弁護しているような気がする。ロサードって中年冒険者の名前なのかな。弓の男の人がいてニヤニヤ笑ってる。金髪で結構イケメン。両隣に色っぽい女の人がしなだれかかってる。
猫耳尻尾の人は相変わらずほとんど話さないんだ。なんかガツガツ食べている。数人の野次馬たちは冒険者に仲間なんだろうか。ようやく周りが見えるようになってきた。
「本気なんだな」
「はい」
「しゃあねえなあ、ついて来い少年」
ふてくされたように立ち上がった中年冒険者はギルドの受付の方へ歩いて行った。慌てて後を追いかける俺。
「おっちゃん、こいつの登録頼む」
「推薦人になってくれるのですか」
「登録にそんなもんいるわけないだろ」
「はあ?」
「ごめんよにいちゃん、ロサードさんに頼まれてね」
村役場受付係風のおっちゃんは俺に冒険者をあきめさせるため、中年冒険者に寸劇をさせられていたらしい。冒険者には推薦人も保証人もいらない。お尋ね者、重複登録が発覚したらクビになる。ただそれだけだそうだ。すべては自己責任。事務的な表情を一転愛想笑いを浮かべながら受付のおっちゃんは説明してくれた。
「改めて登録しましょうか」
「よろしくおねがいします」
ホッとした。これで冒険者として登録できる。
「名前はトマデナカ……ジョートマーマーだったか?」
そこへ中年冒険者、いやロサードさんは悪びれもせず口を挟んできた。
「ナカジョウトウマです」
「ややこしいな、トマーマーにしとけ」
「せめてトウマで」
「トーマだそうだ」
「そ……それでいいです」
「では登録名はトーマ様で」
実は結構世話焼きだと判明した中年冒険者ことロサードさん主体であれよあれよという間に登録は終わった。
「ではこれがタグになります。冒険者目指して頑張ってください」
「は? あの、冒険者目指してって……」
「いきなり冒険者になれるわきゃねえだろ。まずは見習いからだ。それより次は二階だ。ついて来な」
「あのギルドのルールとか仕組みとか冒険者の心得とかランクとかは?」
「見習いにランクなんかねえよ。ルールとか何とかは見習いやってりゃそのうち覚えるだろ」
「そんな適当な……」
見習いの証というタグは鈍い銀色、タテ五センチ横三センチほどでコーナーが丸い金属のタグだった。まさにドッグダグ。上の方に穴が空いているのは鎖を付けろということか。下の方に文字が一列で書かれているが当然読めない。これくらい教えてくれればいいのに。
でもこれでこの世界での身分が手に入った。何とか生きていけるかも……あ、一文無しか……。
「早くしろトーマ」
階段の途中からロサードさんが呼んでいる。やっぱり『トウマ』の方がと思いながら、ドッグダグを握りしめ二階へ上がる階段をロサードさんに付いて駆け上がって行った。
遠くから鐘の音が聞こえる。時を知らせる鐘なんだろうか。非常時の鐘ではないんだろう。道行く人々が気にしていない。何時の鐘なんだろう。そもそもここは二十四時間制なのか?
街は中世ヨーロッパのような造り……かどうかわ分からない。俺は中世ヨーロッパなんて行ったことがない。
周りはいつの間にか薄暗くなっている。街灯なんてあるんだろうか。
それどころじゃない! とにかく今日だ! 目の前の問題だ。朝からなんにも食べていない。森の中で水を飲んだだけだ。多分ギルドというところへ行って登録すれば身分証明書は手に入る。今日中に発行できないなら公園かどっかで野宿する。それで火竜の爪を現金化して飯を食おう。二、三日なら飢え死にはしないだろう。あとのことはそれから考えよう。
予定が決まったらちょっと勇気が出た。
道端でぼおっとしてキセルみたいなものを吸っている優しそうで暇そうな初老のおじいさんに勇気を出して聞いてみた。
「あの、すいませ……じゃなかった。商業ギルドか冒険者ギルドってどこにありますか ?」
その優しそうなおじいさんは、じっ……と俺を見て顎をぐいと右に向け、プカアっと煙を吐いたっきり。全然優しくない。でも顎が向いた方をみると三階建ての石造りの大きな建物があった。
建物の前は開けた道路というか広場がある。階段を数段上がると大きく開かれたドアがあり、壁にはどーんと五芒星のマークが刻み込まれその下に文字が……って、読めるか!
ギルド? 何のギルド? あの一見やさしそうなおじさんが指し示した建物だからギルドなんだろう。でもなんのギルドなんだろう? せめて剣と盾とか大八車とかのマークだったら想像できるのに、一筆書きで書ける星、五芒星って何を表してるの?
入り口から、いかにも冒険者でございますという姿形をした団体が出てきた時、神の選択が冒険者だとわかった。
石造りの建物は中も石造りだった。武器や防具、ローブや杖で武装した冒険者たちで賑わう冒険者ギルド。入ってすぐに大きなカウンターがありその右横にお決まりの小さな紙をいっぱい貼った掲示板がある。
カウンターの左側には二階に上がる大きな階段があり、そこを通り過ぎた奥にはサロン風に丸テーブルが並び、仕事を終えた冒険者たちが食事や酒で一日の疲れを癒し明日の英気を養っている……んだと思う。
なぜかホッとした。ゲームや小説でおなじみの想像通りの冒険者ギルドだった。しかし想像にないこともあった。
臭い! 汗臭さとムッとする獣臭。錆びた鉄のような匂いもする。夕方が近いので討伐部位を換金する冒険者が多いのだろうか。
そうか、ファンタジー世界は臭いんだ。でも気にする余裕はない。
俺はまっすぐ空いているカウンターに向かい中年のおじさんに話しかけた。残念ながら可愛いさや色気とは無縁の受付だった。人気のない窓口らしい。
「冒険者登録をしたいのですが……」
謝らずに言えた。メガネをかけて両腕に黒いハンドカバーをした村役場の受付のようなイメージのおじさんはじっくり上から下まで俺の姿を見た。
「登録ですね。この書類に必要事項を書いて……あ、文字はかけますか?」
ほっ、登録できるらしい。でもそうか文字か……しまった。
「…あの、書けないのですが」
「代筆ね。じゃあ口頭で質問します」
そう言って村役場の受付風おじさんは書類を一枚出して羽ペンをインク壺にドボッとつけた。良かったあ、代筆してくれるんだ。
「じゃあまず推薦者か保証人の書類を見せてください」
……スイセンシャノショルイ? ホショウニンノショルイ?
「ないのですか? 冒険者になりたいのなら推薦者か保証人が居るのが常識ですが」
「……持ってません、知りませんでした」
俺には異世界の常識なんてありません。
「そうですか。それでは出直してきてください。はい次の人? あ、部位の買取は二階です。だからそうはいってもねえ……」
それっきり受付のおじさんの興味は後ろに並んだ順番待ちの冒険者に移って行った。
本を売るのには身分証明書がいる。ネットで物を売るにも登録がいる。アパートを借りる時も借金をする時にも保証人がいる。それは当然のことだと知っている。
なのになぜ想像できない? この世界の住人にとってこの世界こそ現実なんだ。身分証明書や保証人がいるのは当然のこと、いや気付かなかっただけなんだ。
何を甘いこと考えているんだ。これは現実なんだぞ。
俺のスラム行きが決定した瞬間だった……このまま何もしなければ。
奥のサロンから酒に酔った陽気な声が聞こえる。
まだだ。俺はまだ何もしていない。
もう一度受付へ戻った俺はおじさん受付に確認の意味で聞いた。
「推薦人の条件てありますか?」
「条件? こ、この街で身分を証明できる人ならどなたでも結構ですが」
礼を言ってそのまま奥のサロンへ行き、見覚えのある背中に向かって頭を下げながら言った。
「推薦人になってください!」
声をかけた背中はしばらく反応せず、やがて、
「あれ程言ったのによお……」
と言いがら、数少ないこの世界での知り合い、中年戦士改め中年冒険者は振り向いた。
そして引き続き文句や説得を続けようとなにか言いかけたが、俺が頭を下げたまま微動だにしないのを見て、
「仕方ねえなあこのガキが……で、報酬は?」
思わず頭を上げた。中年冒険者は丸テーブルにだらしなく座ってボサボサの頭をボリボリ掻いていた。
「報酬? ……ですか?」
「当たり前だろ、何処の馬の骨かわからねえガキの推薦人の依頼だぞ。人にものを頼む時は報酬がいるんだよ! そんなこともわからねえで冒険者になるつもりか? あ、一文無しか、そりゃあ無理だな~やっぱり田舎に帰んな、うん、その方が……」
ドコッ!
俺はツカツカと近づいてテーブルの上に火竜の爪を置いた。
「これが全財産です。雑貨屋で五ゴルド出すと言ってます。これでお願いします!」
俺はもう一度深々と頭を下げた。
「か、火竜の爪だと!」
「本物か? 岩トカゲの牙じゃねえの?」
テーブルに座って一緒に酒盛りをしている取り巻き連中が騒ぎ出した。
「でも五ゴルドって…バカかこいつ」
おそらくもうこのチャンスしかないっと思って必死だった。あとは最後の手段、土下座がしか残っていない。
半ば飽きれたように中年冒険者はは爪をもてあそびながらいった。
「お前な~冒険者は魔物や盗賊と戦うんだぞ。全財産差し出して装備はどうする? 武器なしでどうやって戦うんだ? 」
「す、素手で戦います!」
俺はまっすぐ中年冒険者を見て答えた。目線を外したらもうチャンスはないような気がした。土下座をしても意味が通じないかもしれない。
シンと静まったサロンの中で俺と中年冒険者はにらみ合いを続けた。
「ぷっ」
「きゃはははっはあ」
「素手だって素手!」
「さすが火竜を飛び蹴りで倒しただけのことはある」
「あれジョーダンじゃなかったのかよ!」
「うるさいぞてめえら!」
いきなり騒がしくなった観客たちを中年冒険者はシメた。
再びシンとサロンは静まり……かえらなかった。取り巻き連中は無視して騒ぎ続けていた。あまりリーダーシップはないらしい。
「もういいんじゃないのロサード。それ以上いじめなくてもさあ。坊やも本気みたいだし、俺たちも偉そうなこと言える生い立ちじゃないでしょーが」
「モグモグ……自分のこと棚に上げて……」
「うるせぇ! わかったよ!」
あ、弓の人も猫耳尻尾の人もいたんだ。なんか俺を弁護しているような気がする。ロサードって中年冒険者の名前なのかな。弓の男の人がいてニヤニヤ笑ってる。金髪で結構イケメン。両隣に色っぽい女の人がしなだれかかってる。
猫耳尻尾の人は相変わらずほとんど話さないんだ。なんかガツガツ食べている。数人の野次馬たちは冒険者に仲間なんだろうか。ようやく周りが見えるようになってきた。
「本気なんだな」
「はい」
「しゃあねえなあ、ついて来い少年」
ふてくされたように立ち上がった中年冒険者はギルドの受付の方へ歩いて行った。慌てて後を追いかける俺。
「おっちゃん、こいつの登録頼む」
「推薦人になってくれるのですか」
「登録にそんなもんいるわけないだろ」
「はあ?」
「ごめんよにいちゃん、ロサードさんに頼まれてね」
村役場受付係風のおっちゃんは俺に冒険者をあきめさせるため、中年冒険者に寸劇をさせられていたらしい。冒険者には推薦人も保証人もいらない。お尋ね者、重複登録が発覚したらクビになる。ただそれだけだそうだ。すべては自己責任。事務的な表情を一転愛想笑いを浮かべながら受付のおっちゃんは説明してくれた。
「改めて登録しましょうか」
「よろしくおねがいします」
ホッとした。これで冒険者として登録できる。
「名前はトマデナカ……ジョートマーマーだったか?」
そこへ中年冒険者、いやロサードさんは悪びれもせず口を挟んできた。
「ナカジョウトウマです」
「ややこしいな、トマーマーにしとけ」
「せめてトウマで」
「トーマだそうだ」
「そ……それでいいです」
「では登録名はトーマ様で」
実は結構世話焼きだと判明した中年冒険者ことロサードさん主体であれよあれよという間に登録は終わった。
「ではこれがタグになります。冒険者目指して頑張ってください」
「は? あの、冒険者目指してって……」
「いきなり冒険者になれるわきゃねえだろ。まずは見習いからだ。それより次は二階だ。ついて来な」
「あのギルドのルールとか仕組みとか冒険者の心得とかランクとかは?」
「見習いにランクなんかねえよ。ルールとか何とかは見習いやってりゃそのうち覚えるだろ」
「そんな適当な……」
見習いの証というタグは鈍い銀色、タテ五センチ横三センチほどでコーナーが丸い金属のタグだった。まさにドッグダグ。上の方に穴が空いているのは鎖を付けろということか。下の方に文字が一列で書かれているが当然読めない。これくらい教えてくれればいいのに。
でもこれでこの世界での身分が手に入った。何とか生きていけるかも……あ、一文無しか……。
「早くしろトーマ」
階段の途中からロサードさんが呼んでいる。やっぱり『トウマ』の方がと思いながら、ドッグダグを握りしめ二階へ上がる階段をロサードさんに付いて駆け上がって行った。
0
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる