異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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2章 城壁都市アドラーブル

6話 俺は一人でのたうちまわる

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 田舎から一旗上げようと夢見る少年が目指した都市アドラーブル。

 盗賊に襲われるわ魔物に襲われるわ兵士に逮捕されるわ魔物とバトルするわ…ようやくたどり着いた都市アドラーブル。

 城壁の門に着く少し前、全員幌馬車から降りて隊列を組んだ。
 女隊長さんを先頭に騎馬が続き、そのあとを歩兵隊が進む。
 俺と冒険者たちがいて最後を幌馬車が幌を降ろして進んで行く。
 まあそういうルールかなんかあるんだろう。俺は余計なことを質問しない。
 それよりもアドラーブルの街が見えてくる。
 初めて見る異世界の都市……と言っても大きな城壁が半円形に見えるだけ。

 城壁の前にはごちゃごちゃとバラックみたいな家屋やテントが並んでる。城壁の入り口に向かって幅十mほどの道路を隊列を組んで進み、やっと城壁の門に到着した。遠巻きに子供達がこっちを見ている。手には布みたいなものや食べ物みたいなもの、ジャラジャラとした光ものなどを持っている。
 物売りか? この街に出入りする商人や旅人たちに押し売りをしているんだろうか。さすがに兵隊さんたちには売る気はないらしいい。

 でも、城壁って外から攻められた時に人々を守るためのもの。その外にバラック建てて住民が住んでどうすんの。

 高さ四~五メートルの湾曲した石造りの城壁、そこに開いた両開きの大きな鉄柵の門。初めから開いている。
 身分証明書がない、お金もない、どうしよう……というイベントもなく、さしたる手続きもなくあっけなく城門をくぐった。
 
 目の前に大きな広場と石造りのようななんかわからんモニュメントがある。噴水なんだろうか? 建物が並んだ遠くの方にお城らしきものが見える。街というよりもお城を中心とした城壁都市というところか。
 中年冒険者が決めた設定通りお上りさんと化した俺は、あたりをキョロキョロと見回していた。

「じゃあな。早めに母ちゃんところへ帰れよ」

 と言いながら中年冒険者は仲間の弓の人と猫のひとと話しながら別れて行った。

「改めて礼をいう。困ったことがあったら相談にきてくれ」
 
   女隊長さんは隊員たちと一緒にどこにいるかも名前も告げず去ろうとする。

「あ、そうだ。坊や!」
 
   振り向きざま何か黒いものを俺に投げてよこした。慌てて掴んだものは……

「カギ爪?」
 
   それは浅黒く光沢のある火竜の武器、カギ爪だった。根元になんか肉の残骸のようなものがついて気持ち悪い。

「戦利品だ。ホントは全部坊やにわたすべきなんだろうがな、うちの隊も何かともの入りで……それで我慢してくれ」

 少し赤くなりながら女隊長さんは他の兵士と一緒に何処かにどこかへ帰って行った。

 ポツン……と一人噴水のようなモニュメントのある広場に俺は取り残されている。

 これからどうしよう。

 普通女隊長さんが君は見所があるからうちに来ないかとか、女隊長さんが止まるところはないのかと宿を紹介してくれたり、女隊長さんが何かと世話を焼いてくれるのがこういう時の定番じゃないのか。百歩譲って中年冒険者さんでもいいけど、名前すらも教えてもらえないなんて……。

 俺はよそ者、その他大勢。これが当然なのかもしれない。
 さてここは落ち着いて考えよう。

 これからどうしよう。

 なぜここにいるのかとか俺の使命はなんなのかとか元の世界へ帰れるのかとかこの世界でどうやって暮らすとか……そんなことを考える前に、まず今どうするか。

 夕暮れが近づいている。夕日が沈んでる方向が西かどうかもわからない。まず今日の宿を探す? その前に食事? ダメじゃん、俺は一文無し。どうしてお金を稼ごう?

 「だからこれか!」

 俺は手に持ったままのカギ爪を見る。火竜とはそこそこレアな生物らしい。そのカギ爪となったら少しはお金になるんじゃないだろうか?
 女隊長さんの言い回しを思い出せば火竜の部位は金になるはずなんだ。
 でもどこで買ってもらえるのだろう?

 冒険者ギルド? あれ? 冒険者はいたけどギルドってあるんだろうか?
 俺は中年冒険者さんのアドバイス通り冒険者にはならない。経験者が向かないって言ってるんだから。
 だったら……道具屋か。
   俺は道具屋を探しに街の中心に向かって進んで行った。
 
 夕暮れに差し掛かる町。木造と石造りの建物がごっちゃに建ってる街並みを、人混みにまぎれながら道具屋か雑貨屋を探す。べつに質屋でもいいんだが。質屋って異世界にあるんだろうか?
 うろうろ歩いてたがここで切なる問題に気がついた。
 
  ……看板が読めない。

 なぜ今まで気がつかなかったんだろう。今まで住んでた世界とは全く異なる世界。言葉が通じるので文字も読めると思ってた。
 そういやなんで言葉が通じたんだろう。今更ながら気がついた。その言葉も落ち着いて考えればなんか違和感はあったような気がする。普通に日本語を話してるのではなく、そう、ハリウッド映画の吹き替え版みたいな感覚なんだ。話してることも抑揚もわかる。でも何となく口の動きと合ってない。俺の言葉はどういう風に聞こえてるのだろう。

   ……今はそんなこと考えてる暇はない。

「すみません」
「あのお」

 とにかく道具屋みたいな場所を教えてもらおうと、勇気を振り絞って道行く人に声をかけてみるが……誰も振り向いてくれない。
 それとなく道なりに歩いているとチラホラ人の流れが見えてくる。
 とにかく歩いてそれらしい店を見つけよう。
 それらしい店があった。目の前に。
 八百屋みたいに道にせり出した台に、何に使うかわからないいろんなものをごちゃごちゃと積み上げている。売り物なんだろう。
 勇気を出して店員と思しき人に話しかけた。

「あのう、すみません……」
 
 小太りな無精髭を生やした中年のおじさんはフーとため息をつき、

「にーちゃんさっきから見てたけどよう、なんで謝ってるんだ? 何か悪いことでもしたのかよ」

 あ、そうか。
 お忙しいところすみませんが少し教えていただけませんか? を略してすみません、だから、こっちの世界じゃ通じないんだ。いきなり謝ってくるやつに気味悪がって受け答えする奴はいないよなあ。

「あ、すみませ…じゃなくて、ここ道具屋でしょうか?」
「雑貨屋だよ、見たらわかるだろ」

 わからんから聞いてるんだろが!

「あ、あの、買取なんかしていただけるんでしょうか?」
「買取? 物によるけどねえ、あまり古いのや、壊れたもんはダメだよ」
「火竜のカギ爪なんですが……」
「………」
「あ、やっぱりダメですか、どこへ持って行ったら買い取ってくれるか『待て!』ハイ?」
「もう一度言ってみろ!」
「あ、やっぱりダメですか?」
「それじゃねーよ! もっと前だ!」
「わ、すみませんじゃなくて、あ、これはいいのか、あの……火竜のカギ爪なんですが」
「見せてみろ」
「これです……」

 いきなりそれを奪い取った小太りな店員は、上に向けたり夕日に当てたりひっくり返したりしながら納得したのか気持ち悪い顔でこっちを向いた。

「いやあこりゃ立派なカギ爪じゃないか。ラプトルかなんかだね。よくうちに持ってきてくれたね~、ここ数年ここまで大きなものはお目にかかったことないよ、たまに噂を聞いてもみんなギルドに買い取られちゃうんだよ、これだと……三ゴルドいや五ゴルドは出せるよ、これで精一杯、掛け値なし、ギルドじゃもう少し高いけど二割税で引かれるからね、どう? それでいい?」

 お金の単位はゴルドっていうのか。俺には五ゴルドがどれだけの価値なのか相場はわからない。でも会話からするとある程度の金額なのだろう。

「わかりました、それでお願いします」

 とにかくホッとした。騙されたとしても今夜の飯と寝床は確保できるだろう。ついでに気持ち悪い顔がこのおじさんの笑顔とわかった。

「ありがとうね。現金で払うからね。じゃあ、ギルドカード見せて」
「……は? 」
「ギルドカード。身分証明書にする……あ、冒険者じゃないのか、ごめんごめん早合点しちゃって。住民登録カードでいいんだよ」
「……ないです」
「ない? あ、旅行者かい? それじゃ地元の旅行証明書か村長の推薦書か……」
「すいません何もないです」
「……」
  
   ぽいっと店員はカギ爪を俺に返した。

「帰んな、見逃してやるから」
「……」
「商売の邪魔だよ出て行きな」

 それっきり二度と俺に目線を向けてくれなかった。

 身分証明ができなければ買い取ってくれないということか。道具屋じゃなくて雑貨屋を追い出された俺はトボトボと当て所もなく歩きながら考えた。
 それはわかる。盗品かもわからないしそれを買ったり売ったりしたら罪になるのかもしれない。でも見逃してやるって……盗品と決めつけか!
 ひょっとして身分を証明できないことが罪なのか。住所不定、異世界無宿はそれだけで罪なのか。この街にいる人はみんな身分がはっきりした人たちなの……

「あ…」

 何となくわかった。城壁の外に連なるバラックみたいな建物や物売りの子供達……スラム……あれは身分を証明できない人たちがスラム化しているのじゃないのか。町の片隅、胡散臭いところに存在するスラム街。でもこの都市は城壁で守るべき対象ですらない人たちなのか。俺もこのままじゃ……

 いや、待てよ。

 中年冒険者の設定通り都会で一旗あげるために田舎から飛び出した俺の行動を、あれ程否定していたということは、冒険者や商人にはなれるということなんじゃないか?
 家出した田舎もんに身分証明書があるわけがない。

 生きるため……か。






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