異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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2章 城壁都市アドラーブル

18話 倉庫番の簡単なお仕事……?

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「おや仕事にあぶれたのかい、こんなに早く帰って……」

   『銀のパイプ亭』に帰って鍵をもらおうとすると、小太りなおばちゃんが心配して話しかけてきた。

「いえ、今日から夜勤なんで。十日ほど夜仕事に出て朝帰ります」
「そうかい、良かったじゃないか。じゃあ掃除は出かけてからにするよ。夜食作れるよ、一食一シルドで」
「いいですいいです。夜食付きなので、おやすみなさい」

   商売根性たくましいおばちゃんの攻撃をすり抜けて部屋に戻る。

 楽しい我が家に帰ってから今夜の準備をする。
 まず剣の柄の皮を締め直し、刃を皮でよく磨く。まだサビは浮いてないみたいだ。砥石も必要になるんだろうか。

 ピッカピカの仕上げ研ぎはする必要はないだろう。でも白研ぎにした方が実践向きだということは知ってる。鑑賞ではなく実践、戦い前にに砂山に刀を突っ込むとか、雪駄で踏んで刃に傷をつけるとか……まあ、小説の受け売りだが。
 そもそもこの世界の剣はどうやって作っているのだろう。砂鉄や鉄鉱石をタタラで溶かした玉鋼を使ったり、鍛錬をして鍛えたりしてるのだろうか。

 溶かした鉄を型に流して作ってるパターン?
 それとも鍛冶魔法でエイヤと作るパターン?
 ドワーフの鍛冶屋さんと知り合えたら聞いてみよう。

 荷物は全て布袋に詰め込んで持っていく。だっていつ帰れなくなるかわからない。宿の人たちもそこまで信用してるわけではない。鍵を閉めても毎日中に入って掃除をしているんだから。   

 すべての準備を整えて夕方まで寝る。寝ようと思えばいつでもどこでも寝ることができる。さすがグータラ大学生。

 走っている走っている。いつでもどこでも寝ることはできるが時間通り起きることができないことをコロっと忘れていた。自慢じゃないが一時間めの授業に間に合ったことがなかったのに。

  リンドーンリンドーンと日没の鐘がなっている。
 ちなみにこの鐘は日の出と日の入りを知らせる鐘らしい。ということは正確に時間を知らせる鐘ではない。夏至とか冬至がある世界なら……ないの?

 日が落ちるギリギリになってようやくラトーナ商会の倉庫にたどり着いた。

「すいませーん、遅く『責任者を呼べと言ってるだろうが!』わっと!」
 
 二階建ての事務所に着き、半開きのドアをくぐると異様な雰囲気が広がっていた。

「ですから私が責任を持って対処させていただきますので」
「ほうそうかい、だったら弁償してもらおうか」
 
 柄の悪い冒険者崩れみたいなやつが三人。大きな荷物を受付のカウンターに置いてニヤニヤしながらあの事務員さんと向かい合っている。後ろに殺気立った騎士団見習いが三人対峙する。

「いいか、領都プリンシバルからお前のところを利用して仕入れた商品が傷物になってるんだよ。これじゃうちの商店は潰れてしまう。天下のラトーナ商会がこんな手抜きの商売しちゃいかんだろ」
「ですからその荷を運んだのはうちではないと」
「ほう、逃げるのかい。ちゃんとあんたところの納品書もあるんだぜ」
 
 俺は入り口を入ったところで立ち往生。文句をつけているのは中年の冒険者崩れ。隣にヘラヘラしている若いやつ。後ろにもう一人、雰囲気の違うおっさん。手槍のような短い槍を持って静かに立っている。こいつが一番腕が立ちそう。
 クレーマーなんだろうか?

 事務員さんが落ち着いているので心配はないと思う。こんなことは慣れっこなんだろう。どうやって丸め込もうかと考えてるんだろうか。と、すべての駆け引きをぶち壊すことが起こった。

「いい加減にしろ!」

   思わず事務員さんが目をつぶる。
   我慢できなかった見習い騎士団三人が前に出てくる。

「そんな見え透いた強請りたかりが通用すると思っているのか、 帰れ!」

   背の小さい女性見習い騎士が真っ赤になって威嚇する。
   中年の冒険者崩れはニヤッと笑う。あ、威嚇になってない。

「これは可愛い用心棒さんだねえ、あんた何もんだい?」
「我々は騎士団のものだ。このラトーナ商会には我々騎士団が護衛を頼まれておる。いまなら見逃してやる。帰れ!」
「ほう、騎士団も落ちぶれたもんだねえ」
「なに!」

   真っ赤になった女騎士団さんは剣に手をかける。手槍のおっさんがスッと前に出る。

「だってお嬢ちゃん、騎士団の給金じゃ生活できないからここで働いてるんだろ。そうだいい仕事を紹介してやろう。お嬢ちゃんの顔と身体を使ったらたっぷり稼げるぜ」
「きさまあっ!」

 俺でもわかるくらいの見え透いた挑発に、女騎士は剣を抜いて切りつけた。手槍のおっさんが前に出て剣を下から弾くと、手槍の柄を鳩尾に突き刺す。ウッとなった女騎士の首筋にそのまま半回転した手槍を叩き込む。
   一瞬で意識の飛んだ女騎士は膝から崩れ落ちる。
   仲間の騎士が慌てて剣を抜いて切りかかる。カン!と手槍をひと振りすると剣が手から飛ぶ。そのまま槍先を騎士の喉元でピタリと止める。
 残りの騎士は剣に手をかけたまま動けない。

「どうすんだい?  正当防衛なんだ。このまま続けてもいいんだぜ」

 中年冒険者崩れはニヤリと笑った。狙い通りかな。
 ため息をついている事務員さん。

「あのう、ちょっといいですか?」

 俺は場違いと思ったが中年冒険者崩れに話しかける。

「なんだおまえ?」
「あ、ごめんなさい。その荷物って昨日着いたのですか?」
「ん?   そうだが?」
「事務員さん、その領都……プリンシバル? からアドラーブルまで荷物って何日で着くんですか?」
「順調にいって四日です」
「何が言いたいんだてめえ?」

 俺を睨みつけて威嚇する冒険者崩れ。こ、怖い。

「なんか計算が、おかしいというか……。一週間前まで盗賊とゴブリンのおかげで流通が止まってたんですよねえ事務員さん」
「そうです」
「何がおかしい。流通が再開した五日まえに送った荷物が昨日着いたと言っているだろ。その荷物がこいつらの手抜きのせいで傷もんに……」
「プリンシバルの人はどうやって知ったんでしょうね。盗賊とゴブリンが討伐できたのを」
「……なに?」
「7日前の初荷で知らせました…四日かかりましたが。ちなみに領都からの初荷は明日着きますね」

   書類を見ながらそう答えた事務員さんがはじめてニヤリと笑った。
   四日前に初めて安全と知ったプリンシバル領の商人が五日前に出荷できるわけがない。

「ふっ、ははははははっ。こりゃ参った。にーちゃん冴えてるねえ。俺たちの負けだ。おい、引き上げるぞ」

   と言いながら、中年冒険者崩れはさりげなく手槍のおっさんに目配せを送る。
   おっさんは手槍を騎士から引くと見せて、いきなり俺に向かって鋭い突きを入れる。
   おっさんから目を離さなかった俺は、剣を抜きざま下から弾き上げる。おっさんは槍を半回転させ柄で俺の顔面を突く。が、それはさっき見た。左へ体重移動で槍を交わしながら踏み込み、腹に回し蹴りを叩き込む。おっさんは吹っ飛んで石造りの壁にぶつかりそのまま崩れ落ちた。
 うん、訓練の成果、体が動く。

   剣を中年冒険者崩れに向ける。若いやつは剣に手をかけるが抜く度胸はなさそうだ。
   しばらくにらみ合いになったが、

「帰るぞ」

   と言って中年冒険者崩れは何事もなかったように出て行く。
   慌てて若いやつは倒れている手槍のおっさんを引きずって逃げて行った。
 
  あとにはガラクタの荷物と偽造納品書が一枚。
   気が抜けたら今ごろドキドキしてきた。結構大それたことをやってしまった気がする。

   はあーー、やっぱり最後は蹴りか。あの訓練は何だったんだろ? 

「見事だねえ少年」
 
 どこに隠れていたのか、いつの間にか俺の横に立っていたフラムさんが、

「お、いかん」

 と、慌てて倒れている女性騎士のそばまで行き、手を体に当てた。

「何をする、きさま!」
 
  立ち尽くしていた仲間の騎士が慌ててフラムさんの肩をつかむ。

「仲間を殺す気かい!  ほっとくとこの女騎士が死ぬよ!」

 いつにないフラムさんの気合で騎士はビクッと手を離す。 
 あ、やばい。女騎士さんショックで息をしていない。

 よくTVなんかで首の後ろに手刀を当てて気絶させる、みたいなシーンがあるけれど、あれは危ない。普通は痛いだけで気絶なんかしない。でも力加減を間違えれば神経障害や脳障害を起こしたり下手すりゃショック死する。
 ちなみに時代劇の、日本刀を半回転させで峰で相手を倒す「安心せい峰打ちじゃ」も全然安心できない。刃がついてない方といっても硬い鉄板でぶん殴られるんだ。骨は折れるわ筋断裂は怒るわ、当たりどころが悪けりゃこれもショック死……などと思ってる場合ではない。

 フラムさんが何やら呪文を唱えると彼女の身体に当てた手が光り出す。
 あれはシルビアさんを治療した回復魔法か……

「うっ……」

 女騎士が目を覚ます。

「ここは……!   奴は何処……くっ!」

 状況を思い出したのか、敵を探して立ち上がろうとするが、首を抑えてまたうずくまる。

「動くな。自慢じゃないが傷はそこそこ治せるが体力までは無理。おい木偶の坊二人、控室へ連れて行って休ませてやりな」

 木偶の坊と言われて怒った二人だが、思い直したように女騎士を連れて控室の方へ消えて行った。

「さ、仕事に戻りましょう。あの三人が使い物になるまでお二人に警備を任せますので」
 
 何事もなかったように事務員さんは仕事に戻る。

「あのう…すいません、ちょっと遅れてきたので、あいつらって何だったんですか?」
「こんな見え透いた手を使うからには詐欺ではなく強請りか嫌がらせでしょう。何癖をつけてお金をせびるという輩ですね」

と言って事務員さんは偽造納品書をピラピラ振った。

「それからプリンシバルに輸送路が安全と知らせが行ったのは二日後です。早馬がありますから。商人は時間を無駄にしません」
「え?」
「あなたの狙いがわかりましたので話を合わせましたが、相手が商人なら通用しない手です。でもまあ、そこそこ使える人ですね、トーマさん」

   俺なんかよりはるかに上手だった。騎士団の暴走がなかったら簡単に丸め込んだんじゃないだろうか。さすがはラトーナ商会の事務員さんだ。

「ちなみに私はラトーナ商会の支配人です。事務員さんではありません」

あらら……




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