異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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2章 城壁都市アドラーブル

20話 決戦! 倉庫番

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 勝手口に向かって走る。

 盗賊? 強盗? は先輩見習いのフラムさんに任せ、中の騎士さんたちに知らせに行く。残って一緒に戦うより騎士さんたちに知らせた方がはるかに戦力増強になる。
 うん、情けない。
 閉めたはずのドアが開いて中の光が漏れている。中へ入ったらガタイのでかいおっさん二級騎士Aがいた。

「どうした?」
「大変です。正面から盗賊が攻めてきました。中を頼みます」
「わかった、任せろ!」

 やっぱり心配だ。
 俺は中の護衛を二級騎士に任せてフラムさんの加勢にとって返す。
 途端にうなじがピリピリ。
 やばいと前に一回転。受け身をとって立ち上がり振り向くと二級騎士が剣を振り切っていた。

「反応いいな、見習いのくせによ」
「どうしたどうした?」
「早く片受けろ、まったく外の奴ら、ガキとババアくらい仕留められなかったのかよ」

 ニヤニヤしながら影の薄い騎士B、Cがやってきた。
 彼らの後ろを見ると何人もの人が荷物をあさってる。盗賊たちなんだろう。積まれた荷物の山を崩し、中から何かを引っ張り出そうとしている。

 こいつら騎士じゃなかったんだ……騎士で泥棒という手もあるか。
 まあ閉めた勝手口のドアが開いてる時点でおかしかったし。

「鎧が邪魔で鬱陶しいんだよ。表扉を開けて外の奴らを呼べ! このガキはは俺が始末する」

 そう言いながらおっさんニセモン二級騎士Aは剣を構え直した。
 俺は慌てて剣を抜いた。こいつらを倒してフラムさんに加勢に行かなきゃ……って、こいつらを倒す? どうやって?

「なんで騎士がこんなことするんですか? あんたたちは何を狙ってるんですか?」
「よく聞いてくれた。実は……って時間稼ぎをさせると思うか?」

 いきなり大上段から襲ってくるおっさん二級騎士のニセモン。
 剣で受ける。
 キン!

「ああっ! 俺の五ゴルドがあっ!」

 相手の剣をまともに受けて真っ二つになって飛んでいく俺の五ゴルド剣。手の中に柄だけになった俺の五ゴルド剣。ああ、短い付き合いだった五ゴルド剣。

「残念だったな」

 おっさんが剣を大ぶりに、でも確実に俺を狙ってくる。
 逃げる! というか毎度のことながら何故か剣筋がはっきり見える。必死で逃げる。逃げる。剣筋は見えるがそれをかわすのに体がついていかない。それでもギリギリでなんとか交わしていく。

「なに遊んでるんだ、早く殺せ」

 仲間のニセモン騎士たちが囃し立てる。

「うるせえ! くそ! ええい、ちょこまかと! なんで当たらないんだ! このおっ!」

 ドコッ!

 逃げる俺の背中に力任せで剣を叩きつけようとおっさんが振りかぶった時、俺はその場で飛び上がり右に半回転、右の足刀を伸びきった腹に叩きつける、飛び後ろ回し蹴り、ローリングソバットが決まる。
 反動で後ろへ吹っ飛んでいくニセモン騎士。

 ひいいっ、死ぬかと思った。

 ガラガラガラ。

 その時倉庫の表扉が大きく左右に開いた。
 盗賊が一人立っている。

「遅い! 馬車を中に入れろ!」

 仲間をやられて俺に剣を向けようとした残りのニセモン騎士が怒鳴る。
 扉を開けた盗賊がヨロヨロと入ってくる。

「やばい……逃げ」

 ゴン!

 盗賊の頭に振り下ろされる杖。
 崩れ落ちる盗賊。
 その後ろに杖を肩に担いで見得を切るフラムのおばちゃん。

「ジャジャーン! 主人公登場♡」

 フラムさんの後ろで山積みになってる襲ってきた盗賊たち。

「坊や、生きてるか~い?」

 俺はフラムさんに駆け寄る。

「す……すごい、これ全部フラムさんが倒したんですか……飲んだくれで手抜きばかりしているフラムさんが……初級魔法しか使わないフラムさんが……口先だけでなんにもしないフラム……」
「いっぺん死んで見る会お前」

「なんかおかしいぞ。どうなってるんだ」
「敵は二人だ。たたっ殺してずらかるぞ」

 ざわつく残りのニセモン騎士と盗賊たち。

「残念だったねえ、お嬢さん、敵が釣れたよ」

 フラムさんがニヤつきながら外へ声をかける。

「本当に手間がかかるったらありゃしない、みんな、出番だよ」
「おう!」

 ラトーナ商会のお頭ディオネさん登場。手に手に棍棒を持ってる従業員たちを引き連れて。
 引きつる盗賊たち。

「騙しやがったなあっ! ええいっ野郎ども撤退だ!」

 完全に盗賊に成り下がったニセモン騎士たちが手に手に獲物を構え、やけくそで従業員に襲いかかっていく。
 おっさんニセモン騎士Aは奥で変な形で寝たままだ。死んじゃいないよね。

「このラトーナ商会に手を出したことを地獄で後悔しな! みんな、やっておしまい!」

 おおおおっ!

 ディオネさんが号令を出す。従業員たちが盗賊に襲いかかる。武器を持とうが関係ない。ボッコボコにやられる盗賊たち。どさくさで杖で殴ってるフラムさん。だから魔法は?
 なにこのヤクザの出入り風景。

「全部殺すんじゃないよ、こいつらにゃ聞きたいことが山ほどあるんだからね!」

 と指揮をとる仁王立のディオネさん。
 えーと、どっちが盗賊?
 俺いらなくね?

 一件落着。

 盗賊の狙いは魔鉱石だった。通称魔石。
 魔石とは、鉱石とともに発掘されたり、たまに魔物の体内から出るらしい。
 マナを大量に含んだ魔石は、魔道具の動力源として使用され、ラトーナ商会の主力商品の一つ。

 ところが今回の盗賊騒ぎで流通が停滞する。
 出荷を見合わせた一週間分の魔石が倉庫に眠ってる。
 それを盗賊が狙っていると騎士団から情報をもらった。
 ご丁寧に護衛までつけてもらう至れり尽くせりの扱い。

 しかしアクシデントで護衛騎士がが入れ替わる。
 それがニセモンの騎士だった。
 ニセモン騎士の手引きで盗賊が倉庫に侵入し、魔石を盗もうとするが、倉庫番をしていた優秀な見習い冒険者たちの活躍で盗賊は一網打尽。見事魔石は盗賊の手から守られた。

 めでたしめでたしって……おかしいだろ。

 なんで騎士団がそんな情報流す?
 なんでわざわざ護衛を押し付ける?
 ニセモン騎士はなんで護衛が交代することを知ってる?
 ニセモンがなんで騎士団の鎧を装備している?

 見習い騎士が騎士団の恥さらしと首にされた後、新しい護衛が入れ替わるその隙を狙って、盗賊の仲間が騎士団になりすまし護衛に入る。
 俺たちが外回りをしてる間、裏口開けて仲間を手引き、別働隊が俺たちを倒す。

 見事盗賊たちは魔石を手に入れ大儲け。めでたしめでたしって……それもおかしいだろ?
 魔石がどれだけ価値があるのか知らないけれど、ちょっと大掛かりすぎない?

 盗賊たちは従業員に簀巻きにされ、連絡を受けた二番隊の人たちに引き渡された。

 みんな死んでないよね。

 後片付けをした後、お疲れさんとスープとサンドイッチが振る舞われた。
 うん、これは夜食の使い回しだね。
 フラムさんは従業員の人たちとスープをぐびぐび飲みながら盛り上がってる。
 ぐびぐび?
 俺はそれとなくディオネさんに聞いてみた。

「騎士団てグルじゃない?」
「まあ……いろいろあるのよ世の中は」
 
 しばらく黙っていたディオネさんがゆっくりとスープを飲みながら話し出した。

「王宮御用達と言ってもね、ラトーナ商会が仕入れた魔鉱石を優先的に納品しろってことなのよね。最初他の商会は相手にもしなかった。わざわざ仕入れの手間が省けたくらいに思ってたんだろうね。それが先の戦争で鉱石や魔鉱石の需要が膨らんで先代が大儲けしたあたりからきな臭くなったのさ」

 う~ん、先の戦争って何ですか? とは聞けないんあろうなあ。

「イラク戦争って何ですか? 第二次世界大戦てなんですか?」

 とか聞いてるみたいなもんだし。
 多分知ってて当然、田舎から家出したという設定でも当然知ってることなんだろうなあ。

「最初は戦争成金とバカにした同業者や貴族連中が、何かと何癖つけたりちょっかいをかけてくるようになったのさ。やれ共同経営だとか後ろ盾になってやろうとか」

「じゃあ騎士団って……」
「どっかの商会の後ろ盾なんだろうねえ。今までたいしてちょっかいは掛けて来なかったんだけど……」

 そういや騎士団て貴族中心とか言ってたなあ。とか思い出しながら話の流れでディオネさんに聞いてみた。

「その騎士団が後ろ盾になっている商会ってわかるんですか?」
「聞きたい?」

 ニヤッと笑ったディオネさんの顔を見て、これはやばい! と気がついた。

「聞きたくないです聞きたくないです。俺は一介の冒険者見習いです。はい」
「いい心がけだ。勘のいい子は好きだよ。でも良すぎる子は早死にするからねえ。はいおしまい。まあ好きなだけ飲んでいきな」

 ご苦労さんと言いながらディオネさんは盛り上がっている従業員の輪の中へ入って行った。

 俺は巻き込まれ型の主人公じゃない。余計なことに手出しして波乱万丈の大冒険なんてしたくないんだ。
 改めてそう思いながら、サンドイッチをリュックに詰め、また一食ゲットだとガッツポーズをしてスープを一口飲んだ。

「ゲッ!」

 お酒だった。

 1日八シルド夜食つきのお仕事が二日で終わる。

 宿に帰って寝る。
 夕方起きて、雑貨屋へ行きどうしても必要な小物を買う。
 落とし紙。節約して使ってもそろそろなくなりそうだ。もちろんトイレで使うためだが、最近はティッシュ代わりにも使ってる。ああ、何と贅沢なんだろう。
 一シルドで大量にゲット。

 帰って井戸端で洗濯をする。下着類やタオルは時々洗っていたが、今日はジーンズと革鎧の下に来ている半袖ジャケット。結構汚れて臭い。最近その臭さにも慣れてきたのが怖い。これじゃあいけない。
 石のような石鹸で洗い、水洗いして部屋干ししてサウナ入ってゲットしたサンドイッチを食べてまた寝た。

 ふわふわと羽虫のような蛍のようなものが寄ってくる。俺の体にまとわりついてぼうっと淡く光りだす。これは夢? 夢の入り口? なんか心地よく、そのまま深い眠りについた。

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 冬馬の家計簿
 入金
 倉庫番2日分 1ゴルド6シルド
 支出 
 雑貨 1シルド
 風呂 50ペンド

 残金3ゴルド5シルド80ペンド
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