異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

文字の大きさ
28 / 71
3章 ペンチャーワゴン〜Paint Your Wagon〜

28話 アドラーブル大森林

しおりを挟む
 焚き火を囲んで宴会が始まる。
 丸太を移動させて思い思いに座り、塩を振りかけただけの高級食材、熊の串焼きがみんなにふるまわれる。フォレストドッグの肉は臭くて食えないんだそうな。

「久しぶりに食う熊肉はたまらんなあ。これでエールがあれば言うことないのに」
「でも惜しいことしたなあ、熊の皮。誰だ調子乗って切り刻んだやつ。無傷なら百ゴルドにはなったのに」
「贅沢言いなさんな。死人が出なかっただけでも儲けもんなんだから」

 ロサードさんたちが冒険者と盛り上がっている。
 冒険者が二十人くらい、御者の従業員が十人くらい。怪我人はいたけれど全員命に別条はないらしい。だからこうして和気藹々と宴会ができるんだろう。

 しかし……
 俺は肉汁の滴り落ちる熊肉をじっと見る。

「どうしたトーマ、食べないのかにゃ?」

 考え込んでる俺が心配なのか、持っている肉が心配なのか、隣ではぐはぐ熊肉をほうばるブエナさんが話しかけてきた。

「あのう、魔獣化ってどういうことなんでしょう」
「元々森に分布しているのは普通の動物や爬虫類や昆虫にゃ。それがマナを吸収して魔物となるにゃ。その魔物はさらにマナを吸収すると進化して魔獣化するにゃ。アドラーブル大森林の西側はマナが濃いにゃ」
「そんな魔獣化した肉を食べても大丈夫なんですか」
「いやならうちが食べてやるにゃ」

 そう言って俺の串肉に手を出すブエナさん。慌てて俺は熊肉にかぶりつく。硬いけど肉汁が滴り落ちてうまい。

「ハハ、魔獣は死んだらただの肉。死んだ魔獣はマナが拡散して火を通せば普通に食えるのよ。皮も牙も爪も、たまに魔石も手に入るしな」

 エルフなのにやっぱり熊肉にかぶりついてるディーさん。

『マナ』か。
 確か、自称元宮廷魔術師のフラムさんが「お前の体内には魔導の根幹たるマナが駆け巡っておる」とか言ってたなあ、あのマナか。

「このまま、森の中を進んで大丈夫なんですか?」
「?」
「動物が魔獣化するくらいマナが濃いなら人間も影響を受けないんですか。人間も魔獣化とかするんですか?」
「人間が魔獣化って……お前よっぽど田舎もんなのねえ、常識がないくらいに」
「トーマは田舎から一旗上げに出てきたから仕方がないにゃ」

 そういやそんな設定だった。

「人族の体はもともとマナが溜まりにくいにゃ。だから溜まりにくいマナを貯められる魔法使いが重宝がられるにゃ。魔獣化するほどマナが貯まれば、それはもう大賢者か大魔導士だにゃ」
「まあほとんどは基礎魔法で放出しているからねえ。むしろ世間の魔法使いは少しでも多くのマナを貯めるのに苦労しているのよ。魔法を使い渋って死んじゃった魔法使いもいたりするのよねえ」
「そうにゃ。マナを貯めるのには、いっぱい食べていっぱい寝るにゃ」

 ああ、それで……

「だからみんなマナの豊富な森の中に入るのは大歓迎なのよ。お前もそうだろ?」
「俺?」

 さも当然のように何を言っている。

「お前が何で火竜やボブゴブリンやオーガと戦えたのかやっとわかったのよねえ。身体強化だったんだな」
「うん、ロサードと同じにゃ」
「あいつは反則だよねえ。普段魔法はまったく使わず、俺たちにさんざ使わせといて、いざとなったら身体強化に全てをつぎ込んで戦う。その分無敵だけどねえ」
「あのフォレストベアを倒したのって身体強化だったんですか」
「はあ? 何を今更。お前とご同業でしょうが」

 ひょっとして……時々相手がスローに見えてたのは、こっちが加速してたのか。
 まともに考えたら、盗賊や魔物にボッチ大学生の俺が適うわけがないんだ。入門書読んだり小説読んだりしただけで通用するはずがないんだ。
 ひょっとして異世界転移特典? なんちゃって鑑定とか、異世界言語とか。そもそも火竜は置いといて、ゴブリンやオーガ、そして今回のフォレストドッグを倒しても精神的打撃が少ない。俺ってこんなに根性あった?

 それにしても身体強化か……俺、どうやって使ったんだろ?

「でもさあ、身体強化は一人前だけど、剣の腕はからっきしだねえ。このままじゃすぐ死ぬよん。危ないと思ったらすぐ逃げろよ」
「そうにゃ、逃げ足だけは早いにゃ」

 アドバイスを受けているのか、馬鹿にされているのか、酒の肴じゃなくて熊肉の肴にされながら宴会は夜更けまで盛り上がっていく。きっと誰かがお酒を持ち込んでるに違いない。

 マナってなんなんだろう。
 マナはこの世界に漂っている……らしい。
 人はマナを体内に取り込みそれを魔法に変換して放出する。どうやって?
 俺は魔法なんか使えない。でも身体強化魔法は使えるらしい。どうやって?
 体内に溜まったマナをどうにかするんだろうか?

 あれか?

『気功』とか『チャクラ』とかいうやつか。
 体内のマナを認識する。そして体内を循環させる。それを片手のひらに持ってきて……とかいうやつか?
 漫画で読んだことがある。

 ディーさんやブエナさんに聞けばいいことなんだろうけど……そんなもん常識だろが、なんでそんな常識も知らないんだ、お前どこから来たんだ……とかなるのが怖い。
 滝に打たれながら座禅を組んで瞑想したら習得できるんだろうか。

 まだまだ盛り上がってる宴会場を抜けて馬車に帰る。
 刀の手入れをしたい。とりあえず端切れでぬぐいをかけたけど、砥石ってないんだろうか。

 円形に並べられた馬車に着くと幌の張った馬車に近づく。
 あ、これは違う。円形に並べているのでどこが最後尾かわからない。

ゴトッ……

ん? 馬車から気配がする。

「誰かいますか?」

 まさかフォレストドッグの生き残り?な訳はない。

「お、坊やじゃないか」
「あ、えーと? 魔導士さん?」
「グラントじゃ」

 そうだグラントさんだ。俺は人の名前を覚えるのが苦手だ。

「何してるんですかこんなところで。宴会は参加しないんですか?」
「おうおう、疲れたので寝ようと思っての。馬車を間違えたんじゃ。丸く並べられると、どこが最後尾だったかわからんようになっての。幌の張った馬車を探してたんじゃ。歳はとりたくないもんじゃのう」

 俺と同じか。
 そいうや戦場で見なかったな……どこで戦ってたんだろう。精霊魔法って見てみたかったのに。
 あ、女魔導士……ルナステラさんは? いた。

「あの、どうかしたんですか」

 ルナステラさんはクラウド爺さんの後ろに隠れて……泣いていた。

「いやあ戦いが激しかったからの。まだ若いのでちょっとショックを受けただけじゃ。ささ、わしらは先に寝させてもらうぞ」
「はあ……おやすみなさい」

 そそくさと二人は最後尾の馬車へ帰っていく。
 二人の姿を見送って…… 俺も同じ馬車なんだけど……
 護衛初日の夜はまだまだ終わらない。



 襲ってきた山犬を倒し、熊を美味しくいただいた俺たちは、次の日、朝日を浴びながらあわただしく出立の準備をする。
 馬に干し草と水を与えた後、馬車につなぎ、一列に隊列を組んだところで全員が森の出入り口に集まる。
 ロサードさんが酒の入ったツボを持ち、何かをブツブツ言いながら酒を振り撒いている。何かの神聖な儀式なんだろうか?

「森の精霊たちにお神酒を捧げてこれから通り抜ける許しを願ってるにゃ」

 眠たそうな顔をしたブエナさんが解説してくれる。
 精霊か……やはり神とか精霊への信仰はあるらしい。

「誰だ! お神酒を盗み飲みしたの? 半分しか入ってないぞ」
「こりゃ縁起悪いわ。精霊さんがへそを曲げなけりゃいいけど」
「精霊ってへそがあったのか」

 笑いが起こる中、神聖な儀式は終わる。
 やっぱり昨夜酒を飲んでた奴がいたんだ。まあ、縁起もんの儀式みたいなもんだろうけど、なんかフラグが立ちそうで嫌な予感がする。

 隊列を組み、いよいよ森の中へ分け入って行く隊商。
 この大森林を抜けるのに、途中野営をして二日かかるらしい。

 湿った冷たい空気が清々しい。森林浴だなこれは。ひょっとしてこれがマナ?
 鬱蒼としたジャングルのような森の中を、馬車が二台ほど並列で走れるくらいの道が切り開かれている。道無き道を突き進むんじゃない。木々の間から朝の光も差し込んできている。
 しかしこの道も、定期的にメンテナンスしないとあっという間に森に飲まれるんだそうな。

 鉱山開発した人たちは道無き道を進んで行ったんだろうな。何度も挫折しながら遂には鉱脈を見つけ鉱山都市に発展していったんだろう。

 さてこれからが本番。俺たちは鉱山都市へ無事たどり着くことができるのだろうか。
 お神酒をケチったしなあ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

「え、俺なんかしました?」無自覚チート《概念編集》で石ころを魔石に、なまくらを聖剣に書き換えて、国を追われた聖女様と世界を救う

黒崎隼人
ファンタジー
「え、俺なんかしました?」 ごく普通の大学生、朝霧 海(あさぎり かい)が迷い込んだのは、剣と魔法が息づく異世界エーテルディア。右も左も分からぬままモンスターに襲われた彼を救ったのは、聖なる光を操る謎の美少女、ルミナだった。 彼女は言った。『あなた、一体何者なの?』と。 カイ自身も知らない、触れたモノの”理”を書き換えるチート能力《概念編集(リアライター)》。 「ただの石」が「爆ぜる魔石」に? 「なまくらの剣」が「伝説級の聖剣」に!? 無自覚に規格外の力を振るうカイは、やがて国を追われる訳ありの少女ルミナと共に、巨大な陰謀に立ち向かう運命に巻き込まれていく。 これは、一人の平凡な青年が、大切な人を守るために世界の理すら書き換えて最強へと至る、王道異世界ファンタジー!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...