異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

45話 学園ドラマの予感

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 Dランク冒険者にならなければルナステラさんと正式従者契約ができない。
 俺は知識と経験不足。だから自力でプリンシバルへ行き、学校へ通って不足しいる能力を補え。チーム・イソシギ代表ロサードさんのお言葉。
 と、ここまではいい。

「あの、どうやって入学するんですか。入学資格ってあるんですか」
「十三歳から入学できるな。十八までなら何歳からでも可能だぞ」
「冒険者でも?」
「まあ、地方貴族の次男三男とか、金持ちの商人とかが多いが、冒険者で金を貯めた一般市民とかもいるな。騎士科、魔導科があり三年間就学する」
「あれ三ヶ月でいいって……」
「それは、うん、経験というか卒業までしなくても……」
「この時期に入学できるんですか? 編入試験とかとかあるんですか」
「向こうからの依頼でな。冒険者を一人よこしてくれと」
「はあ? 学校から依頼? ひょっとして入学者が少ないんですか? 経営不振?」

「ぷっ」
「ププププ、はははは」

 大人しくしていたブエナさんとディーさんが笑い出す。

「笑うな馬鹿野郎! バレるだろう」

 おい。

「無理だよ、ごまかせるわけないよねー」
「トーマはそこまでバカじゃないにゃ」

 ロサードさんにしてはたどたどしい話し方だった。なんか裏があるのかと思ったら、裏があったらしい。

「ほんとはロサードに話が来たんだよねー。短期でいいから学園に来てくれないかって」
「はあ?」 
「ロサードさんが学生になるんですか」
「んなわけあるか! 臨時講師だよ!」
「講師?」
「エクリプス学園プリンシバル校。講師には研究者の優秀な人材はたくさんいる。だが現場を経験した実戦向きの講師が少ないんだ。だからロサードに臨時の講師に来てくれないか、無理ならいい人材を紹介してくれって話が来た。じゃあってちょうどいいからお前を紹介しようと」
「なんでそこで俺の名前が出てくるんですか。俺ってただの世間知らずでバカのEランク冒険者ですよ」
「自分で言ってるにゃ」

 うぐっ……自爆した。

「と、とにかく学生ならともかく講師なんて俺にできるわけないじゃないですか」
「できるだろう」
「うんできるにゃ」
「は?」

 何を当然のように頷いているんですかお三方。

「お前は召喚魔法系魔獣使いの臨時講師として赴任してもらう」
「はあ? 召喚魔法……系?」
「魔獣使いのDランク従者(仮)を従える、新進気鋭のDランク待遇の冒険者、立派なもんだろ」
「ルナステラさんも一緒に行くんですか」
「当然だろう」
「あのねえ! ルナステラさんはともかく俺に魔獣使いなんてそんなもんできるわけないでしょ」
「猫がいるだろ」
「猫?」

 ミャ?

 ジャケットから声を出す馬鹿猫その二。

「それとも精霊獣の契約者といってもいいのか」

 小声でボソッと耳元で言うロサードさん。
 きったね。契約なんかしてないっつーの。

「猫と狼の二人の魔獣使いが行くんだ。十分資格あるだろう。それに臨時講師は三日に一回。他の日は冒険者として仕事をしていいんだ。若い奴らに従魔魔法の基礎を教える簡単なお仕事だよ」

 はあ、簡単という言葉にどれだけえらい目にあってきたか。

「とにかく、チームイソシギとしての依頼は二つ。臨時講師として領都のエクリプス学園行け。もう一つ、自力でこのクエストを完了しDランク昇格の条件を満たせ。以上」

 三日に一回。三ヶ月。
 この世界のひと月は何日だろう。一年は何ヶ月なんだろう。
 その時俺は、どうでもいいことを考えていた。

 アドラーブル北広場、水の出ない噴水に座って俺たちは今後の予定を考える。

 少なくとも大学へ入学した俺だ。たとえ無名三流大学としてもそれなりに一般教養と学生生活の経験はある。でも、講師の授業を受けた経験はあるが、教えるのは家庭教師のアルバイトもやったことがない。
 問題はその一般教養が全くこの世界では通用しないってことだ。俺は頭を抱える。

「従魔魔法って何? 魔法なんて使えない。精霊お墨付きなんだぞ」

「基本的なことでいいんじゃないですか」
「だからその基本が……あ、ひょっとして知ってるの?」
「はい、あたし魔獣使いですし」

 といって胸を張るルナステラさん。そうかルナステラさんがいたんだ。

「本来、家畜や使役動物のためのものですし、そこから魔獣を使うための従魔魔法が発展したのでいろんな文献も資料もあると思いますです」
「そうなの? だったらそれを手に入れて……あ」
「?」
「俺、文字読めない……」

 運命を切り開くより流れに身をまかせる方が楽と思ってたけど、ドツボに流れていきそうな気がする。


 とにかく!
 領都プリンシバル行きの準備をする。

 俺のギルドカード。表にある黄色い五芒星の下に小さな青い星が。これがDランク待遇のマークらしい。いわばDランク試験中、仮免である。
 ルナステラさんはチーム・イソシギ所属となり従者ギルドのまま。ということになる。
 ちなみにアドラーブルには従者ギルドはないので冒険者ギルドが代行しているそうな。

 エクリプス学園への返事は出しておいた。と言われたので、早急に出立しなければいけない。どうやってプリンシバルへ行くか。

 ラトーナ商会の支配人さんがプリンシバルまで馬車で四日、早馬で二日かかると言っていた。
 乗合馬車を乗り継いでいく。これは論外。とんでもなく費用がかかる。
 次の街まであわよくばプリンシバルまでの護衛の仕事を探す。これも無理。護衛任務は一見さんお断りのものばかり。そりゃそうだ。護衛は信用の置けるものにしか頼まないだろう。だからこそチーム・イソシギが存在する。ということで歩いて行くことにした。

「飲料水、食事、薬、野営道具でしょうかね」

 ルナステラさんと二人で必要なものを準備する。
 前回の護衛任務では、全て用意されたものを使わせてもらった。
 今度は全て自力で持っていかなければならない。またお金がかかるなあ。

「飲料水は一日分で十分。水筒を買ってください。念のため非常食も。基本食事はザイラに頼めば狩でお肉が手に入ります。薬や食器、基本的な野営道具はあたしが持っています。あと必要なのはテントですか」

 うん、負んぶに抱っこだ。従者というより保護者のような気がする。

「テントって宿はないの」
「ラモーヌが最初の宿場町ですので宿があります。買い物もできますが、その次はしばらく野営地しかないですね」

 ラモーヌ……懐かしい響きの町。
 俺は一旗上げるために田舎から出てきてラモーヌにたどり着き、乗合馬車でロサードさんたちと出会った……という設定だったな。

「あとは……文字を覚えるために絵本でも買いますか?」
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