異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

文字の大きさ
54 / 71
5章 領都プリンシバル

54話 学園ドラマで戦闘を

しおりを挟む
 目が覚める。ポケットから腕時計を出す。午前六時。

 緊張しているのか、あれほど苦手だった早起きが旅の間はできるようになっている。
 ベッドから上半身を起こして周りを見る。
 お腹の上で寝ていた黒猫がゴロンとベットまで落ちる。

 ムー……不満の声を出しながらそのまま寝る精霊猫ムー。
 今日はムーの当番か。

 とりあえず起きて柔軟体操をする。腹筋、腕立て伏せ、スクワット。しばらくできなかった基礎訓練をまた始めようと思う。体を鍛えなければ死に直結するなと思って始めたストレッチ。かなり動くようになった。

 次にそばに立てかけていた鬼切丸を抜く。
 左手で握り左肩に担ぐ。右手を添えて袈裟斬り。手首を返して逆袈裟。切っ先を降ろして水平になぐ。そして右脇に構えて突き。
 今の所これが一番楽して振れる刀の動き。
 鉱山都市ラトーナ商会会頭のビスタさんに調整はしてもらったけど、やはり振り続けるとかなり重さが腕に来る。
 旅の間は鍛える暇なかったもんなあ。

 刀を青眼に構える。今度は体内のマナを身体中に駆け巡らせたいと思う。思うだけでなく、おへその下あたりに溜まったマナを手足の先まで巡らせるように意識をする。
 ロサードさん曰く、身体強化の極意。

「身体強化」

 もう一度刀を振る。これはすごい、刀が風のようだ……などということはなく、ちょっと楽になったかなあという程度か。う~ん、先は長い。

「トーマさーん、朝ですよー起きてくださーい」

 リビングからルナステラさんの声がする。
 汗を拭いてリビングへ。
 テーブルにパンとスープが並んでいる。

「これどうしたの」
「はい、食堂へ行って朝食もらってきたです。もちろん無料でした」
 
 うん、よくできた従者だ。

 水場で顔を洗って着替えて出かけようと思ったが、部屋に鍵がかかるので荷物と防具は置いていくとして、やはり武器は持っていくことにした。懐にムーを入れてローブを着る。

 アクア棟の教務室まで事務官さんを訪ねて行くと、すでに書類にまみれて仕事をしている事務官さん。

「あ、おはようございます。早かったですね。とりあえずこれをお渡ししておきます。通行証です」

 といって冒険者カードと同じ大きさの青いカードを2枚もらった。

「これで学園内の施設は普通に出入りできますので。あくまでも仮ですが」

 そう言いながら書類をひとまとめにして出て行こうとする。

「ちょっと事務官さん、どこへいくんですか?」
「魔導科主任の所ですが、朝から研究棟にいるという情報が入りましたので」

 はあ……。
 ルナステラさんと顔を見合わせ、仕方がないので急ぎ足で事務官さんの後についていく。

 学舎を離れ、公園のような森の中を抜けると研究棟があるらしい。
 早足で歩きながら主任講師の情報を教えてくれる事務官さん。

「魔導科の主任講師はアジュール・ファンローズ教授です。召喚魔法研究の第一人者ですが個性的というか独創的というか……」

 ドガガガガ! グオオオオン!

 その時研究棟の方で大きな破壊音が聞こえる。

「ダメだー制御が効かん」
「警備兵を呼べー」
「わあああああ」

 なんだー! と尻餅をつく事務官。

「いくぞ!」
「はい」

 ルナステラさんに声をかけて事務官をほったらかしにして現場に向かう。
 鉄柵で囲まれた石造りの建物、これが研究棟なんだろうか。
 しかしそこには阿鼻叫の世界が展開していた。

 グオオオオオッ!

 そこで大見得を切っているのはクマ? フォレストベアよりも大きく前足が発達している茶褐色の大型獣。

「なんだこいつは?」
「ガイアベアです。なんでこんなところに……」

 ルナステラさんが唖然としている。それをかばうようにザイラが戦闘態勢をとる。ムーは寝ている。

『ガイア……テリウム……狂乱?』

 あ! 起きたのか叡智の精霊。あいつはなんなんだ、おい、なんとかしてくれ。

『Unknown……zzz』
 寝るなー!

 前足が長めのガイアベアが二本足で立ち、その両手でガツーンズガーンと周りの建物や並木を破壊している。

「ダメだー契約魔法が効かん。なんとかしろー」

 白衣の女の人が喚いている。

「なんとかってできるわけないでしょ。警備兵はまだですか、このまま鉄柵を超えたら学園になだれ込みますよ!」
「私が許す、誰でもいいから攻撃して奴を倒せー」
「俺たち研究生ですよ、倒せるわけないでしょー」

 ガイアベアは自分の進行を邪魔する鉄柵に、よほど腹が立っているのかガツンガツンと殴る。大きくひしゃげる鉄柵。

 やばい、逃げたい、どうしよう……

「いけ!ザイラ!」

 ウオオオオオオルル!

 ザイラがウォークライとともにガイアベアに向かって走る。折れかけている並木に飛び上がり、三角飛びでガイアベアの顔面に攻撃を加える。
 腕の一振りでザイラを攻撃、それをかわして体を捻って腕を蹴り、反転して着地、距離を取るザイラ。

「何してるんだルナステラさん!」
「このままでは学園になだれ込みます。学生たちにどれだけ被害が出るか」
「だからってザイラ一頭じゃ無理だろ」
「はい、だから……」

 だから? ルナステラさんが俺をじっと見ている……うるっとした目で仲間になりたそうに……ふざけている場合ではない。

「わかったよ!」

 俺は懐からムーを取り出しルナステラさんに放り投げ、愛刀鬼切丸を抜く。
 二本足で立って前足で攻撃するやり方、フォレストベアと同じような気がする。
 あの時のロサードさんの戦い方……。

 俺は体内のマナを身体中に駆け巡らす。そして左手から鬼切丸にマナを流し……たいなあと思う。

「ザイラ、牽制しろ!」

 俺の命令を聞くかどうかわからないがザイラに気を引いてもらい、鬼切丸を左肩に担ぎながら走る。

「ザイラ、敵を挑発して!」

 途端にアイラがガイアベアの周りを走り、隙あらば攻撃しようとする。
 イラついたガイアベアが立ち上がり両腕を振り回す。
 俺は鬼切丸に両手を添えて、すり抜けざま左足を叩き斬る!

 ガツッ!

 大腿骨を断ち切る手応えはあったが切断することはできなかった。

 グオオアアアアアッ!

 しかしガイアベアが悲鳴をあげながら横倒しになる。
 その隙を逃さず、ザイラが跳躍し顔面をかきむしる。
 俺は態勢を立て直し、鬼切丸を脇構えに取り、後ろから延髄へ突き刺す。

 ガアッ……

 断末魔の声とともに痙攣し、地面に倒れるガイアベア。
 剣を抜き残心をとるつもりだったのに、引き抜いたその反動で尻餅をつく俺。最後の最後で……かっこ悪い。
 
 しばらく息を整え鬼切丸を杖代わりに立ち上がろうとすると。

「動くな!」
「は?」

 落ち着いて周りを見ると、遠巻きに野次馬がわんさかと集まってきている。青いローブを着ているので学生なんだろうか。
 そして俺の周りにはようやく駆け込んで来たのか、警備兵と思われる人たちが、槍を俺に向けて威嚇している。

「はあ?」

 喧嘩売ってるのかお前ら! と心の中で言ってみる。

 なんとザイラが俺の目の前にきて警備兵をガルルと威嚇している。
 珍しいと思ったら、

「トーマさん大丈夫ですか、お怪我はありませんか」

 あ、ルナステラさんの命令ね。

 両手に抱かれたムーが飛び降りてきて俺の前にすくっと立ち、シャーッと耳を伏せ、尻尾を膨らまして警備兵を威嚇する。
 おおっ、俺を守ろうとしているのか? 全然怖くないけど。

「待て! 何をしている。その者は魔獣を倒して学園を守った功労者だぞ!」
「あ、ファンローズ教授!」

 現れたのはさっきから周りの人に命令をしていた汚れてボロボロになった白衣を着ている女性。背は高く銀色のボサボサの髪そして……そこから見える尖った耳、またエルフか。
 この人が主任講師?
 いつの間にか横に事務官が立っている。

「き、教授、この魔獣は! 一体何があったんですか!」
「いやあ、新しい召喚魔法陣を開発してな、召喚したらとんでもない奴が召喚されたんだ。私の契約魔法も全く役に立たんかった。どこが間違ってたんだろうか、自信はあったのになあ、いやあ失敗失敗」

 と言いながらあっけらかんとしている教授。

「「「またあなたですか」」」

 全員が合唱する。

 やばい、また残念エルフだ。
 この人が魔導科主任? 大丈夫なのかこの学園。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...