9 / 19
異界の老騎士
9
しおりを挟む
「そもそも前提として俺は魔力以外にもその身体術を使う力はあるのか?」
散々笑ってきた女神様の頬を恐れ多くも引っ張っていたマコトは自分が異世界人のを思い出す。
「あるよ」
「あるのか……」
じゃあ本当に元の世界の人間達にもこの世界の人間の血が混じってるのかもしれない。
「じゃあ、頑張れば使えるはずなのか」
「何時かね。まあ幸い時間は無限にあるし、帰りたいとは思っていても何が何でも帰ろうとは思ってないし、気長に行けば?」
「そりゃ……確かにそうなんだろうけどよ」
不老不死故に死ぬ事も無く、永遠の時を生きるのだろう。幸い山程ある書物などのおかげで飽きは来ない。しかし無限故にそれも何時か終わるのだろう。死にたくなったら殺してくれるのだろうか? 今の所死にたくはないが。
「まあ、不死身だもんな。確かに時間はある……お前がきちんと帰る方法探してくれるか解らないし、地道に外に出れるぐらい強くなれるよう鍛えるよ」
「帰る方法? 探しても良いけど、君が心の底から帰りたいと思った時にね」
本心かどうかはわからない。仮に探すとしても「明日から」と言う感覚で数百年ぐらい間が空いてもおかしくない。イーナは3万年をちょっと長いで済ませる神だから。
「そん時は外に出る。流石にここにずっと暮らすのはなあ……」
「君の世界には何年も部屋から出ないニートって人首がいるのにねえ」
「むしろ逆にすげあな、って思う」
「来たか」
「うっす、師匠……」
鍛錬の時間になりゼレシウガルの元に来る。剣の振り方、握り方、攻撃から防御、防御から攻撃への繋げ方などを教えてくれる。くれるのだが、感覚的に過ぎる。
イーナ曰く実践で手にした実力で、代々受け継がれてきた技ではなく本来なら一世代限り、あるいは当時の彼の弟子が繋げていく筈だった剣。
「やはり、修行には実践が………いや、しかし死んでしまえば元も子も」
死なないけど死ぬ様な目にはなるべく会いたくないので余計なことは言わない。いやなるべくじゃなかった、絶対だ。痛いのも寒いのも熱いのも視界が黒く染まるのも体の感覚が消えるのも意識が闇に沈むのも全部ゴメンだ。
(そう考えると、強くなっても外に出るのは怖いな。こんな化け物みてぇに強い師匠が付いてきてくれんなら、安心感もあるんだけど)
「………なあ、師匠」
「む?」
これは賭けだ。口に出してしまえば、また怒鳴られるかもしれないし、修行も厳しくなるかもしれない。だけど、前に進む為には何もしない訳には行かない。
「………そ、外に出ないか?」
「──────」
「今すぐって訳じゃない。俺が、せめて身体術を覚えてか、ら………っ!」
カチャカチャと鎧が鳴る。空気が軋む。
(まず! 予測、これ……甘すぎた!?)
「あ、あんたはこの世界で初めて、亜竜じゃない……純粋な竜を倒したんだろ!? あんたは、強いよ! イーナイマーヤ様も認めてた。間違いなく世界最強格の一角だって………だ、だから……」
「───め、だ……」
「!」
「だ、めだ………駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だダメだだメだダメダだめダだめだだだだめめだめだめだああああああ!!!」
言葉は、もう届かない。鎧の隙間から除く瞳から伝わるのは、殺意と敵意。
「ひっ!」
「そんなのは、駄目だ! 護らねば守らねば衛らねば鎮らねば葵らねば! わたし、わたしが! わたた、私が守る護れまもらねばあああ!! そうでなければ、何故皆! 何故わたしワあああああアアアアAAAAAAA!!」
剣を高々と振り上げる。振り下ろされればぶった切られて一度死ぬ。すぐに蘇るだろうが、またあの闇に沈むような、体から大切な何かが抜けてくような、自分という存在が消えていくような正しい表現の仕方などわからぬ間隔を、恐怖を味わうことになる。
駆け出す。駆ける。少しでも遠くに……いや、神殿の中に入れば………!
「─────!」
「─────」
音が、消えた。全身が押されるような感覚のあと、その感覚も纏めて全て消え去った。
「っあ、ああ!!」
目を覚ます。目が醒める。
今の今まで間違いなくこの世から消えていた。この世を知覚する肉体が消滅してた。
「はあ、はぁ………はー………ふぅ、はあぁ………!」
「よしよし、大丈夫?」
体の感覚を確かめるように左腕で抱きしめ右手で視界を覆い、額に血が出るほど爪を食い込ませる。痛みがある。感触がある。手が見える。身体がある。そこまで確認し、漸く安堵する。
「随分ゼレシウガルを怒らせたね? ほら、窓の外見てご覧」
「……………」
その言葉に視線を外に向けると、森の一角が消滅してた。大きな剣で切られたかのように断面がなめらかな崖が生まれていた。そこは、見えない。星の外からでも確認できるのではないかと思えるほどだ。奥の方では白い煙が上がっているのが見える。
「星の血……君の世界で一番近いのはマントルかな? そこまで達したみたいだね。流れ込んでくる海が蒸発してるみたい。噴火しなくて良かったよ。この辺は、だけど…………」
奥の方では噴火してるかもしれないらしい。なんてふざけた威力だ。
「君、一度消し飛んだんだよ? 今の君じゃ復活場所を消えた場所からにして地の底に落ちそうだったら私がこっちで復活させてあげたの。感謝してね」
「あ……あんの、クソ爺! たった一人に、放つかよあんな馬鹿げた一撃!」
「君が何か怒らせるようなこと言ったからじゃない?」
「…………一緒に、外に出ようって。あんたなら、きっと護れるからって言った…………そうだな、無責任で無神経だった。あのおっさんにとっちゃ、そんな言葉で納得できる問題じゃないのにな………」
「素直に謝るね? まあ、それは確かに少し無神経だった。だってそれじゃ妻も娘も友も仲間も殺してしまった彼の行動が、全部無駄だって言ったようなものだもん」
「………………………は?」
散々笑ってきた女神様の頬を恐れ多くも引っ張っていたマコトは自分が異世界人のを思い出す。
「あるよ」
「あるのか……」
じゃあ本当に元の世界の人間達にもこの世界の人間の血が混じってるのかもしれない。
「じゃあ、頑張れば使えるはずなのか」
「何時かね。まあ幸い時間は無限にあるし、帰りたいとは思っていても何が何でも帰ろうとは思ってないし、気長に行けば?」
「そりゃ……確かにそうなんだろうけどよ」
不老不死故に死ぬ事も無く、永遠の時を生きるのだろう。幸い山程ある書物などのおかげで飽きは来ない。しかし無限故にそれも何時か終わるのだろう。死にたくなったら殺してくれるのだろうか? 今の所死にたくはないが。
「まあ、不死身だもんな。確かに時間はある……お前がきちんと帰る方法探してくれるか解らないし、地道に外に出れるぐらい強くなれるよう鍛えるよ」
「帰る方法? 探しても良いけど、君が心の底から帰りたいと思った時にね」
本心かどうかはわからない。仮に探すとしても「明日から」と言う感覚で数百年ぐらい間が空いてもおかしくない。イーナは3万年をちょっと長いで済ませる神だから。
「そん時は外に出る。流石にここにずっと暮らすのはなあ……」
「君の世界には何年も部屋から出ないニートって人首がいるのにねえ」
「むしろ逆にすげあな、って思う」
「来たか」
「うっす、師匠……」
鍛錬の時間になりゼレシウガルの元に来る。剣の振り方、握り方、攻撃から防御、防御から攻撃への繋げ方などを教えてくれる。くれるのだが、感覚的に過ぎる。
イーナ曰く実践で手にした実力で、代々受け継がれてきた技ではなく本来なら一世代限り、あるいは当時の彼の弟子が繋げていく筈だった剣。
「やはり、修行には実践が………いや、しかし死んでしまえば元も子も」
死なないけど死ぬ様な目にはなるべく会いたくないので余計なことは言わない。いやなるべくじゃなかった、絶対だ。痛いのも寒いのも熱いのも視界が黒く染まるのも体の感覚が消えるのも意識が闇に沈むのも全部ゴメンだ。
(そう考えると、強くなっても外に出るのは怖いな。こんな化け物みてぇに強い師匠が付いてきてくれんなら、安心感もあるんだけど)
「………なあ、師匠」
「む?」
これは賭けだ。口に出してしまえば、また怒鳴られるかもしれないし、修行も厳しくなるかもしれない。だけど、前に進む為には何もしない訳には行かない。
「………そ、外に出ないか?」
「──────」
「今すぐって訳じゃない。俺が、せめて身体術を覚えてか、ら………っ!」
カチャカチャと鎧が鳴る。空気が軋む。
(まず! 予測、これ……甘すぎた!?)
「あ、あんたはこの世界で初めて、亜竜じゃない……純粋な竜を倒したんだろ!? あんたは、強いよ! イーナイマーヤ様も認めてた。間違いなく世界最強格の一角だって………だ、だから……」
「───め、だ……」
「!」
「だ、めだ………駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だダメだだメだダメダだめダだめだだだだめめだめだめだああああああ!!!」
言葉は、もう届かない。鎧の隙間から除く瞳から伝わるのは、殺意と敵意。
「ひっ!」
「そんなのは、駄目だ! 護らねば守らねば衛らねば鎮らねば葵らねば! わたし、わたしが! わたた、私が守る護れまもらねばあああ!! そうでなければ、何故皆! 何故わたしワあああああアアアアAAAAAAA!!」
剣を高々と振り上げる。振り下ろされればぶった切られて一度死ぬ。すぐに蘇るだろうが、またあの闇に沈むような、体から大切な何かが抜けてくような、自分という存在が消えていくような正しい表現の仕方などわからぬ間隔を、恐怖を味わうことになる。
駆け出す。駆ける。少しでも遠くに……いや、神殿の中に入れば………!
「─────!」
「─────」
音が、消えた。全身が押されるような感覚のあと、その感覚も纏めて全て消え去った。
「っあ、ああ!!」
目を覚ます。目が醒める。
今の今まで間違いなくこの世から消えていた。この世を知覚する肉体が消滅してた。
「はあ、はぁ………はー………ふぅ、はあぁ………!」
「よしよし、大丈夫?」
体の感覚を確かめるように左腕で抱きしめ右手で視界を覆い、額に血が出るほど爪を食い込ませる。痛みがある。感触がある。手が見える。身体がある。そこまで確認し、漸く安堵する。
「随分ゼレシウガルを怒らせたね? ほら、窓の外見てご覧」
「……………」
その言葉に視線を外に向けると、森の一角が消滅してた。大きな剣で切られたかのように断面がなめらかな崖が生まれていた。そこは、見えない。星の外からでも確認できるのではないかと思えるほどだ。奥の方では白い煙が上がっているのが見える。
「星の血……君の世界で一番近いのはマントルかな? そこまで達したみたいだね。流れ込んでくる海が蒸発してるみたい。噴火しなくて良かったよ。この辺は、だけど…………」
奥の方では噴火してるかもしれないらしい。なんてふざけた威力だ。
「君、一度消し飛んだんだよ? 今の君じゃ復活場所を消えた場所からにして地の底に落ちそうだったら私がこっちで復活させてあげたの。感謝してね」
「あ……あんの、クソ爺! たった一人に、放つかよあんな馬鹿げた一撃!」
「君が何か怒らせるようなこと言ったからじゃない?」
「…………一緒に、外に出ようって。あんたなら、きっと護れるからって言った…………そうだな、無責任で無神経だった。あのおっさんにとっちゃ、そんな言葉で納得できる問題じゃないのにな………」
「素直に謝るね? まあ、それは確かに少し無神経だった。だってそれじゃ妻も娘も友も仲間も殺してしまった彼の行動が、全部無駄だって言ったようなものだもん」
「………………………は?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる