女神様の言うとおり

切望

文字の大きさ
16 / 19
異界の老騎士

16

しおりを挟む
「………お前それ、本気で言ってんの?」
「え? うん。だってこれならゼレシウガルはもう苦しまなくて済むし、君もゼレシウガルと要られる。君の世界の言葉で、一石二鳥って言うんだろう?」

 面白い事を思いついた子供のように無邪気な笑み。一切の悪意なく、名案として問いかけてきている。嗚呼、なるほどこれは確かに人ではない。
 これが神の価値観なのだろう。

「………必要、ない」
「え、良いの? あ、まあ確かに記憶がないならゼレシウガルとは呼べないか。でも魂はきちんとゼレシウガルだよ?」
「必要ない………ないから、頼むからその人を開放してくれ」
「………そう? あ、でもこのまま記憶消して輪廻に返すぐらいは、してあげてもいいかな? どうせあの世には、リリアルマちゃん……あの子の妻も、他の皆いないし」

 愛の神のくせにあの世の状況までわかるのか? いや、元信者だからだろうか。

「冥府は死後の再会を望む人々の願いから創られた。地獄は死後もなお苦しめと願われて創られた。だから恨む者がいない、あるいは死後平穏に過ごしてほしいという願いが多いと地獄には落ちない。ま、本人が望んで落ちることもあるけど」

 ゼレシウガルは地獄に落ちることを望む者など最初から存在しない。いや、少しは居ただろうが死後の平穏を願う声の方が多かった筈だ。それもどちらも過去の事だが。

「幸いゼレシウガルはアンデッドになってから無作為に暴れまわったりしてないしね。地獄を望むのはこの子自身……そんなのは誰も望まないのにね」
「……それで、師匠せんせいは救われるのか?」
「救いかは解らないけど、苦しむ事は無いよ。それは保証しよう」
「じゃあ、頼む」
「うん………それじゃあ、またねゼレシウガル。来世では平穏な人生を」

 スウ、と白い光が現れ虚空へと消えていく。恐らくゼレシウガルの魂が輪廻へと還ったのだろう。

「それで? 君はこれからどうする? 約束を守ってもらえた私としては、元の世界に返す方法を探すのもやぶさかではないよ」
「ゼレシウガルをどうにかって話か…………言ったろ、俺はあの人にお前を守ると約束した。一方的な勝手な約束だろうと、あの人の魂が白紙化されようと、それがあの人を安心させるためだけの言葉だったとしても………約束したんだ。必ず守る………守りきれるかは分からねえけど。それに……」
「…………!」

 纏う気配が変わる。どれだけ殺されても、一度もゼレシウガルに向けもしなかった感情の籠もった目で、虚空を睨むマコト。

「あの人にくだらねえ呪いをかけたどこぞのクソ野郎をぶち殺さなきゃ気がすまねえ」
「復讐かい?」
「復讐だよ。あの人の魂が輪廻に還ったってんなら、俺個人が満足する為の」

 出会った2年程。最初は怯え、剣を学んだのは半分以下。後はただただ一方的に負け続けて、最後の方には日昼夜問わず挑み続けては殺され続けた関係だというのに、そんな男の為に本気で怒っているのだ。

(まあ、実際目の前にして殺せるかは解らないけど……心情的にも、実力的にも。というか本当に神だったら信者全員皆殺にししないとこの世界から消し去るなんて無理だし)

 とは言え、とは言えだ。やっぱり、この子はとても面白い。平穏な世界で暮らしていたからか、他人を気にする余裕がある……どころじゃあない。行動の勘定に自分が一切入ってない。全て他人に向けている。

(面白いなあ………この子がもし、誰か特別を作るとしたら、どれだけの感情を向けるんだろう………本来自分に向けるべき愛すらも与えるのかな? 私は愛の神だし、是非ともその光景………見たいなあ)

 或いはその想いを向けられるのも、楽しいかもしれない。

(幸い時間は無限にあるんだし…………あ)
「そういえば、その不死の力どうする? 別の力に変えようか?」
「…………俺は弱い」
「そうだね。上位亜竜には傷一つつけられないと思うよ」
「強くなるには、不死の方が都合が良い。そもそもチート貰ったところで、強い奴等は幾らでもいるんだろ?」
「まあ、容量いっぱいの能力与えたところで、そのままじゃ邪竜や竜には勝てないかな。せいぜい上位亜竜が良いところ……」

 つまり邪竜に勝ったゼレシウガルには勝てないと。そう言えばそもそも他の出頭者3人ほどゼレシウガルに殺されてた。

「強い力を得てから鍛えるじゃ駄目なの?」
「あの人はそうだったのか?」
「違うね」
「じゃあ、やっぱりいらねえよ。そもそも、死ぬほどキツイ修行を死なずに出来る時点で、術分ズルだ」

 死なないからって死ぬほどキツイ修行が出来る人間など、果たしてこの世にどれだけいるのやら。

「まあ良いや、とりあえず移動しよう。ゼレシウガルが逝ったのを感知されたかもしれない。あ、その前に服を着なよ……」
「……………」

 再生して殺それて、それを繰り返しているうちに服など跡形もなくなったマコト。数ヶ月もその状態で戦い続けていたわけだから、すっかり忘れてた。

「この世界はとってもきれいなところもあるし、大迫力の滝や火山もある。復讐するのは良いけど復讐に生きるのはきっとつまらない。君は私の信者なんだから、この世界を愛せるように………楽しみながら旅をしよう」
「はいはい………女神様の言うとおりに」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...