女神様の言うとおり

切望

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異界の老騎士

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「………お前それ、本気で言ってんの?」
「え? うん。だってこれならゼレシウガルはもう苦しまなくて済むし、君もゼレシウガルと要られる。君の世界の言葉で、一石二鳥って言うんだろう?」

 面白い事を思いついた子供のように無邪気な笑み。一切の悪意なく、名案として問いかけてきている。嗚呼、なるほどこれは確かに人ではない。
 これが神の価値観なのだろう。

「………必要、ない」
「え、良いの? あ、まあ確かに記憶がないならゼレシウガルとは呼べないか。でも魂はきちんとゼレシウガルだよ?」
「必要ない………ないから、頼むからその人を開放してくれ」
「………そう? あ、でもこのまま記憶消して輪廻に返すぐらいは、してあげてもいいかな? どうせあの世には、リリアルマちゃん……あの子の妻も、他の皆いないし」

 愛の神のくせにあの世の状況までわかるのか? いや、元信者だからだろうか。

「冥府は死後の再会を望む人々の願いから創られた。地獄は死後もなお苦しめと願われて創られた。だから恨む者がいない、あるいは死後平穏に過ごしてほしいという願いが多いと地獄には落ちない。ま、本人が望んで落ちることもあるけど」

 ゼレシウガルは地獄に落ちることを望む者など最初から存在しない。いや、少しは居ただろうが死後の平穏を願う声の方が多かった筈だ。それもどちらも過去の事だが。

「幸いゼレシウガルはアンデッドになってから無作為に暴れまわったりしてないしね。地獄を望むのはこの子自身……そんなのは誰も望まないのにね」
「……それで、師匠せんせいは救われるのか?」
「救いかは解らないけど、苦しむ事は無いよ。それは保証しよう」
「じゃあ、頼む」
「うん………それじゃあ、またねゼレシウガル。来世では平穏な人生を」

 スウ、と白い光が現れ虚空へと消えていく。恐らくゼレシウガルの魂が輪廻へと還ったのだろう。

「それで? 君はこれからどうする? 約束を守ってもらえた私としては、元の世界に返す方法を探すのもやぶさかではないよ」
「ゼレシウガルをどうにかって話か…………言ったろ、俺はあの人にお前を守ると約束した。一方的な勝手な約束だろうと、あの人の魂が白紙化されようと、それがあの人を安心させるためだけの言葉だったとしても………約束したんだ。必ず守る………守りきれるかは分からねえけど。それに……」
「…………!」

 纏う気配が変わる。どれだけ殺されても、一度もゼレシウガルに向けもしなかった感情の籠もった目で、虚空を睨むマコト。

「あの人にくだらねえ呪いをかけたどこぞのクソ野郎をぶち殺さなきゃ気がすまねえ」
「復讐かい?」
「復讐だよ。あの人の魂が輪廻に還ったってんなら、俺個人が満足する為の」

 出会った2年程。最初は怯え、剣を学んだのは半分以下。後はただただ一方的に負け続けて、最後の方には日昼夜問わず挑み続けては殺され続けた関係だというのに、そんな男の為に本気で怒っているのだ。

(まあ、実際目の前にして殺せるかは解らないけど……心情的にも、実力的にも。というか本当に神だったら信者全員皆殺にししないとこの世界から消し去るなんて無理だし)

 とは言え、とは言えだ。やっぱり、この子はとても面白い。平穏な世界で暮らしていたからか、他人を気にする余裕がある……どころじゃあない。行動の勘定に自分が一切入ってない。全て他人に向けている。

(面白いなあ………この子がもし、誰か特別を作るとしたら、どれだけの感情を向けるんだろう………本来自分に向けるべき愛すらも与えるのかな? 私は愛の神だし、是非ともその光景………見たいなあ)

 或いはその想いを向けられるのも、楽しいかもしれない。

(幸い時間は無限にあるんだし…………あ)
「そういえば、その不死の力どうする? 別の力に変えようか?」
「…………俺は弱い」
「そうだね。上位亜竜には傷一つつけられないと思うよ」
「強くなるには、不死の方が都合が良い。そもそもチート貰ったところで、強い奴等は幾らでもいるんだろ?」
「まあ、容量いっぱいの能力与えたところで、そのままじゃ邪竜や竜には勝てないかな。せいぜい上位亜竜が良いところ……」

 つまり邪竜に勝ったゼレシウガルには勝てないと。そう言えばそもそも他の出頭者3人ほどゼレシウガルに殺されてた。

「強い力を得てから鍛えるじゃ駄目なの?」
「あの人はそうだったのか?」
「違うね」
「じゃあ、やっぱりいらねえよ。そもそも、死ぬほどキツイ修行を死なずに出来る時点で、術分ズルだ」

 死なないからって死ぬほどキツイ修行が出来る人間など、果たしてこの世にどれだけいるのやら。

「まあ良いや、とりあえず移動しよう。ゼレシウガルが逝ったのを感知されたかもしれない。あ、その前に服を着なよ……」
「……………」

 再生して殺それて、それを繰り返しているうちに服など跡形もなくなったマコト。数ヶ月もその状態で戦い続けていたわけだから、すっかり忘れてた。

「この世界はとってもきれいなところもあるし、大迫力の滝や火山もある。復讐するのは良いけど復讐に生きるのはきっとつまらない。君は私の信者なんだから、この世界を愛せるように………楽しみながら旅をしよう」
「はいはい………女神様の言うとおりに」
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