6 / 12
6
その翌日。俺は、目を瞬かせた。
普段は寝坊ばかりの陽太が、俺よりも早く起きていたのだ。俺は呆気に取られたまま、リビングにいる陽太に「お、おはよう…」と声をかける。
「…あ、雪、おはよう……」
「なんだよ、今日は随分と早起きだな―……」
そして、リビングに一歩踏み入れてから気づく。死角になっていて見えなかったが、リビングには李海もいた。優雅にコーヒーを飲みながら、俺と目が合えば「おはようございます」と甘い微笑みを浮かべる。
「……」
昨夜のこともあり、俺は冷ややかな眼差しを向ける。そして、すぐに陽太に視線を戻した。
「昨日はよく眠れたか?」
「う、ん……」
弱々しい声が返ってくる。
陽太はソファに座り込み、スマホを握りしめたまま、こちらに顔を向けずに画面を見つめていた。
「どうした?なんかあったのか?」
「えっ…」
俺は陽太の隣に腰を下ろし、スマホを覗き込もうとする。しかし陽太は驚いたように顔を上げて、サッと画面を隠してしまう。
その慌てた様子に、俺は少し声のトーンを下げた。
「…何見てたんだ?」
「……ううん。なんでもない。ただ、ちょっと、知り合いから連絡きててさ」
「知り合い?」
「うん、この前のコンテストの関係で……」
そう言いながら陽太はへらりと笑った。でも、その笑顔はどこか作り物めいていた。目の奥が、冷たい。いつもの温かい笑顔じゃない気がした。
「…なんかあったなら話せよ?」
俺はそう返す。
陽太の胸に押し付けられた画面に何が表示されているのか、気にならないわけがない。しかし、コンテスト関連のものなら落選通知のショックをまた掘り起こすのも気の毒になった俺は、それ以上追求しない選択をした。
「うん、でも大丈夫。雪には関係ないから」
「そうか」
俺はなんてことないように返事しつつも、ズキリと胸が痛んだ。
“雪には関係ない”。俺たちは恋人同士だ。何でも言い合える仲で、家族以上の存在だと思っている。陽太もそう思ってくれてると信じてた。でも、陽太の口から出た言葉は俺を突き放すようなもので、それに俺はショックを受けた。
けれど、表情に出さないように努める。言葉一つで凹むような情けない姿を見せて陽太に疎まれたくないからだ。
俺は陽太の頭を撫でれば、そっと耳元に唇を寄せる。
「…陽太、今日まだキスしてない」
「え、でも」
「うん。分かってる―……洗面所行こ。そこでならいいだろ?」
「………うん」
俺はちらりとリビングでコーヒーを飲む“邪魔者”を見る。その視線を追った陽太は俺の意図を汲んだように頷いて、差し伸べた俺の手に自分のそれを重ねてきた。そのことに俺は少し安堵する。しかし、すぐに、俺は首を傾げた。気のせいか、陽太の手は冷たく、ほんの少し震えていたからだ。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
S級エスパーは今日も不機嫌
ノルジャン
BL
低級ガイドの成瀬暖は、S級エスパーの篠原蓮司に嫌われている。少しでも篠原の役に立ちたいと、ガイディングしようとするが拒否される日々。ある日、所属しているギルドから解雇させられそうになり、焦った成瀬はなんとか自分の級を上げようとする。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。