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しおりを挟む「早下っていつもお前のこと見てるよな」
「あ?」
放課後の練習中だ。ストレッチをしていると、部活仲間であり、親友の三浦はそう言った。三浦の視線を追いかければ、校舎の窓から湊が見えた。位置的にあそこは図書室の窓か。なにやらこちらをジッと見つめている。
「なんかアレだよな、王子様にゾッコンのお姫様って感じ」
「なんだそれ」
ふわぁっ…と欠伸をした。三浦は俗っぽい話が好きだ。同級生の誰々がゲイらしい、誰々と誰々がデキてる、とか俺としてはかなりどうでもいい話題を日常的に振ってくる。だからいつものように適当に返事をした。
すると三浦は呆れたような目で俺を見る。
「お前…あんだけの熱視線浴びまくって、よく普通にしてられるよな…」
「熱視線?」
「へえへえ、あれが日常ってか?いいよなー、イケメンは」
三浦はまだ湊のほうをチラチラと気にしてるようだ。休憩のたびに「マジで早下って可愛いよな」「早下なら俺男でもイケるわ」など馬鹿げたことを言ってきたから無視をした。
「いいか、お前ら。明日はいよいよ大会本番だ。今日はゆっくり寝て明日に備えろ。解散!」
「「はい!」」
コーチの言葉を合図に、雄叫びのような返事が夕焼けのグラウンドに響き渡る。
明日が全国大会当日ということもあり、今日の練習は早めに切り上がった。
「じゃあな、洸太。明日遅刻すんなよ」
靴を履き替えてるときだ。バンッと背中を叩いてきたのは三浦だ。夕焼けに照らされた下駄箱は、俺たちしかいない。
「しねーよ」と、俺が笑いながら返せば、三浦は肩に掛けたエナメルバッグをぐいっと俺の方に寄せて、マネージャーが部員にくれた《絶対優勝》と刺繍が施されたお守りを見せて言う。
「明日、ぜってぇ優勝しような」
「…お前となら余裕だろ?」
そんな普段なら口にすることのないキザな台詞を吐いてしまう。どうやら俺は大会前日ということもあり、気分が高揚してるようだ。すると、三浦は少し目を見開いてから、くしゃりとエクボを見せて笑った。
◆
「―っ!」
…誰かいる?
夜の学校というのはどうしてこうも薄気味悪いのだろうか。そう考えながら砂利道を歩いていたときだ。悲鳴のような声が耳に届いた。
寝る前だった。《絶対優勝》と刺繍されたお守りが寮部屋のどこにもないことに気付いた俺は部室を確認するため校内の敷地を歩いていた。もう夜の10時過ぎだ。サッと部室を探して見つからなければ諦めて帰って寝よう。そう思っていた。しかし部室に入る前に足を止めた。どうやら部室には先客がいたようだ。窓からは微かな光が漏れていて、物音まで聞こえる。
…誰だ?こんな遅くまで何してるんだ?
怪訝に近寄り、ドアの隙間から中を覗いた。
「…っ、ぁ、ああっ…もぅ…おれぇ…」
「!?」
俺はバッと足を一歩後退させた。
目を疑った。
「…………は?」
後頭部をドンッと強く殴られたような衝撃が走った。
「はっ、はやしたぁ…いい?なぁ、…いいだろ?」
「ゃ、…やめて…ください…」
「ぇえ~?さっきまでの淫乱っぷりはどうしたんだよぉ。あんなに誘ってきてたじゃん。ああ、そういうプレイがすきなん?」
「だ、だれか……」
“たすけて”という言葉が聞こえたときには、体が勝手に動いていた。部室のドアには鍵が掛かっていたが、それを蹴破り、部屋に乗り込んでいた。
そして呆然として、呟く。
「…三浦…お前…何してんだよ」
そこにいたのは三浦だった。
三浦の服装は最後に見たときと同じで、部活の練習着だが、酷く乱れている。ズボンと下着を足首まで下ろし、みっともなく下半身を丸出しにして、床に両手足をついて、誰かを組み敷いていた。
「先輩…っ」
「湊…?」
その誰かを確認しようとする前に聞き覚えのある声が耳に届く。
その途端パッと三浦の下から人影が飛び出してきて、その人は俺に抱きついてきた。
目を見開いた。三浦に組み敷かれていたのは、湊だった。
大きな目は涙の膜で覆われている。俺に抱きついた湊はガクガクと震えながら、上目遣いをして言った。
「先輩…っ…怖かった…」
「なっ……」
俺は目のやり場に困った。
湊は制服を着ているが、酷い有様だった。ジャケットは肩から落ちていて、シャツはボタンが外れ前が開いてしまっている。さらにズボンのベルトは緩まり、ファスナーは下ろされ、手で押さえていなければ下着が見えてしまいそうだ。
俺はパッと目を逸らす。湊のシャツの隙間から、ツンと勃ち上がった桜色の胸の頂が露わになっていた。湊は少女のような顔をしてるからか、女の胸元を見てしまったような罪悪感に苛まれる。
俺は自身が着ていたパーカーを脱いで、湊に被せた。練習中着てたものだから汗臭いかもしれないが、そのままよりマシだろう。すると湊は、はっと小さく息を飲んで、「ありがとうございます…」と感極まったように言って、羽織ったパーカーを引っ張り上げ、口元を埋めた。
「ああ?だれだよ、じゃますんなぁ!」
瞬間、三浦はふらふらした足取りで起き上がる。
顔を真っ赤にして掴みかかってくる三浦に俺は困惑した。毎日会う親友が、本能のままに動く獣に見えた。
獲物を喰らおうとしたところを邪魔された。今の三浦はそんな感じだ。
「三浦っ…落ち着け……!」
三浦の動きを止めるのは簡単だった。妙にふらふらとしている三浦の腕を掴み上げて、壁に押し付ける。その瞬間、顔を顰めた。強烈な異臭が鼻腔を刺激したのだ。この匂いを俺は知ってる。正月とか親戚の集まりで漂うあの匂いだった。
「…酒くせぇ」
そう呟く。ふと部室を見渡せば、床には缶ジュースのようなものが転がっていた。
見たことないデザインだ。周りに色々と書かれているが全て外国語で、何の飲み物か一目じゃ分からない。
しかしこの状況から察するに、あれは酒だろう。
すると三浦はようやく俺を認識したようだった。朦朧とした目つきでニヤリと笑う。
「んん?んだよコータかよぉ」
「三浦……酒飲んだのかよ。大会前に何考えてんだ」
自分の目が血走っていくのを感じた。
ふざけるなと怒鳴りたかった。俺たちは未成年だ。飲酒が発覚したらどうなるのか。想像できないほど馬鹿じゃないはずだ。ましてや学校の看板を背負って出場する全国大会前に、後輩に暴行までして。
親友がこんな愚行を犯したショックと怒りで、頭に血がのぼっていく。
すると、三浦は「ギャハハ!」と笑い始める。
「あああぁ?おれぇ?なに考えてるかってぇ?おれはぁ、おひめさまとぉ、えっちすることしか考えてませーん!」
「…は?」
「くやしいだろ!?なぁ!?おうじさま!!おひめさまは、おれがいいってさ!!もう大会なんてどうでもいい!!おれはぁ、おひめさまと幸せになりまーす!!ギャハハ!!」
三浦は不快な声で笑い続ける。
俺は絶句した。
絶句すると同時に、怒りが限界を超えていた。
…コイツ、今『大会なんてどうでもいい』と言ったのか…?
頭の中でブチッと何かが切れる音がした。三浦と過ごした日々がバラバラと音を立てて崩れ落ちていく。
「…先輩、だめ」
すると右腕をぐっと掴まれた。そしてハッと我に返った。俺は手を振り上げていて、無意識に三浦を殴ろうとしていたようだ。
すると、外から「どうしました?」と男の低い声が聞こえた。振り返れば、入り口には守衛の男性が立っていた。この騒ぎに不審に思い、駆けつけてきたんだろう。彼は部室の中の様子を見て、言葉を失っていた。
「先輩の綺麗な手を汚さないで」
湊は俺の腕を引き寄せる。
俺は困惑した。先程までガクガクと震えていた湊はどこに行ったんだろう。俺の手に頬擦りをする湊は、どこか愉快な様子で、恍惚とした表情をしていた。
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