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第3話
――まただ。
「ミーティア・アウル・ローランド公爵令嬢。たった今、私は君との婚約を破棄する!」
ルークリッドの意識が浮上すると、既視感を覚える場面に、背中に嫌な汗が伝う。
「それは、ルーク様の本心、ということでよろしいでしょうか」
ミーティアの声音も、言葉も、初めて聞いたものじゃない。
「もちろん、本心だとも」
そして、自分の口が勝手に動くのも。
「そうですか」
ミーティアは小さく俯いた。
「では、最後にもう一度だけ、わがままを言ってもよいでしょうか」
なんだろう。何かがおかしいと思うのに……。
「ルーク、わたし、お腹すいちゃった……」
ヘルの声がすると、すべての意識が泥に沈んでいく。
そして――。
「愛しております、ルーク様」
愛の言葉と共に与えられる衝撃。
「なっ……!?」
何度も経験している。
(何度も……?)
おかしい。死ぬような体験は、たった一度しか味わえないはずだ。
それこそ、生き返りでもしない限り。
(生き、返る……?)
そんなこと、起こり得るのだろうか。
普通なら、あり得ないはずだ。
魔法でも、人間を生き返らせるなんて神の御業はできない。
ふと、途切れそうになる意識の端に、ミーティアの涙が見えた。
(ああ、もしも生き返るなら、今度こそ――)
そこで、ルークリッドの意識が途切れた。
***
「ルーク、ルーク!」
ルークリッドは、愛称を呼ばれてはっとする。
すぐそばには、一年ほど前に王宮で保護した、ヘルティアナという名の少女がいた。
そのことにホッと安堵する。
「すまない、少しぼーっとしていた」
「んもう! 今夜はわたしとの婚約発表の日でしょう? しっかりして!」
彼女に叱られ、そうだったと気を取り直す。
そして、ヘルと共に広間へ行き、ミーティアを見つける。
(ああ、今夜も変わらず美しい……)
誰もが見惚れる美少女――いや、もう幼さはだいぶ抜けているから、美女と呼ぶ方が正しいのだろうか。
彼女を視界に移した瞬間、胸に湧き上がる気持ち――否、それを抑えつけるかのように肉が腐ったようなにおいと、底なしの沼のように絡みつく何かに、意識が沈んでいく。
「ミーティア・アウル・ローランド公爵令嬢。たった今、私は君との婚約を破棄する!」
気が付くと、ルークリッドは、ミーティアに決して投げてはいけない言葉を、叩きつけていた。
「それは、ルーク様の本心、ということでよろしいでしょうか」
ミーティアからは表情が読めない。
(違う、違うんだ!)
そう言いたいのに、喉が締め付けられるように苦しい。
「もちろん、本心だとも」
嘘だ。そんなこと、ミーティアとの婚約破棄なんて、戦争に行く前にも考えたことなんてなかった。
「そうですか」
諦めたようなミーティアの言葉に、絶望する。
「では、最後にもう一度だけ、わがままを言ってもよいでしょうか」
その言葉で、彼女が何をしようとしているのか、気付いた。
「ルーク、わたし、お腹すいちゃった……」
だけど、すぐ横にいたヘルの言葉で、またもや身体と口が勝手に動く。
それから――。
「愛しております、ルーク様」
もう何度目かわからない衝撃が、胸に走った。
「なっ……!?」
倒れる身体。確かに痛い。
だけど、それ以上にミーティアの涙を見るのが辛かった。
(すまない。すまない――“ミア”。何度も……何度も……)
せめて、彼女の痛みの少しでも分かち合えたら、良かったのに。
そう思いながら、最後の力でミーティアを見る。
やはり、泣いていた。だけど、気になったのはそれだけじゃない。
その後ろにある、花瓶に生けてある白い薔薇とローズマリーが僅かに光り輝く。
(あの光は……?)
なにもわからないまま、ルークリッドの意識が途切れた。
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