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第5話
「初めまして、僕は、ルークリッド・ユルグ・リーラント。あなたがミーティア・アウル・ローランド公爵令嬢、ですね?」
ミーティアとの婚約が決まったのは、ルークリッド十歳、ミーティアが八歳の時だった。
「は、初めまして。ローランド公爵家のミーティア、と申します。ルークリッド様」
宰相のローランド家にたまたまルークリッドと年齢の釣り合う娘がいた。
宰相家との繋がりを強固にするためにも、ちょうどいい。
そんな大人の思惑しかない、ごく普通の政略結婚をする。
そんなありふれた、出会い。
「ミーティア嬢、よろしければ庭園を案内しましょう」
王子として、未来の国王として、厳しく育てられたルークリッドにとって、婚約は仕事の一環だった。
周りからは、ただ嫌われないように。それだけを口酸っぱく言われて、その通りにした。
「は、はい。よろしくお願いします」
ミーティアも、年相応の緊張した表情を浮かべながら、けれどどこか戸惑ったようにルークリッドを見る。
「どうしたの?」
ミーティアの視線が、王宮の図書室に向いていた。
「図書室が気になるの?」
聞けば、ミーティアは恥ずかしそうに「本が好きなんです」と言った。
別に不思議なことでも、恥ずかしがるようなことでもない。
この年齢の子供なら、物語や絵本に興味を持つ子も一定数いる。
「なら、庭園は今度にして、図書室に行きましょうか」
そう提案すれば、ミーティアは嬉しそうにはにかんだ。
図書室に案内すると、彼女は瞳をキラキラさせながら、自分の背よりも高い本棚を眺める。
「すごいすごい! こんなに本がいっぱいあるなんて!」
「君は王妃候補だから、これからは好きな時にここを使うといい」
「はい、ありがとうございます!」
そう言うと、ルークリッドを置いて、彼女はパタパタと駆けて行ってしまう。
置いて行かれたルークリッドは、ぽかんとしてしまう。
驚いたのはそれだけではない。
なんと、ミーティアは八歳の娘が読むにしては難しすぎる王国史を真っ先に手に取って、真剣に読み始めた。
(え? え?)
ルークリッドは自分がどういう状況に置かれているのか、まったくわからなかった。
少なくとも、彼女にとってルークリッドは意識するほどの相手ではない、と言われたようなものだ。
本来なら怒る場面なのだろうが、それは大人げない気がして、言葉を呑みこんだ。
代わりに出たのは、小さな笑い声だった。
「ふ、ふふ……そんなに真剣に王国史を読む女の子なんて、初めて見たよ」
ミーティアはその言葉にハッとした。
「え、あ……も、申し訳ありません! わたくし、なんてはしたないことを……っ!」
サーっと顔を青ざめるミーティア。
これはお叱りどころでは済まない、と自覚しているのだろう。
だけど、ルークリッドは不思議と怒る気がなかった。
ただ、ちょっと変わった女の子で、とても可愛らしいと思ったのだ。
「気にしなくていいよ。僕も、王国史を読むのは好きなんだ。だから、一緒に読もう」
そう言ってミーティアの横に座ると、ふたりはくすくすと笑い始めた。
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