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第6話
ルークリッドとミーティアが出会って四年。
ある晴れた穏やかな午後。
ふたりは、婚約した日から月一回のペースで顔を合わせていて、今日は逢瀬の日だった。
「ルークリッド様の魔法属性は、“植物”なんですよね?」
ミーティアの魔法の属性が分かったと、王宮から連絡があり、ちょうどいいからとルークリッドも一緒に聞くことになったのだ。
「そうだよ。王族はこの系統が多いらしいんだけどね」
言いながら、ルークリッドは花瓶に挿してあった花のつぼみを一輪手に取る。
彼が魔法言語を呟くと、つぼみは瞬く間に花を咲かせた。
「はわわ! すごいです、すごいです! ルークリッド様」
ミーティアはパチパチと手を叩きながら喜ぶ。
満面の笑みに、ルークリッドの心臓がドクリと、ざわめく。
「っ、はい。どうぞ」
手に持っていた花を、ミーティアに渡す。
ミーティアは頬を赤く染めて、もじもじと下を向いてからそっとその花を受け取った。
「ありがとうございます……」
蚊の鳴くようなささやかな声だけれど、嫌がっていないのがわかると、途端に胸が温かくなった。
「ミーティア嬢の魔法属性は“水”か。水は植物にとって大事なものだ。僕たちもきっとそうなる」
「え?」
ミーティアが驚いたようにパチパチと目を瞬かせる。
それから、しゅんと俯いた。
「で、でも、わたくしの魔力量は、ルークリッド様に比べたら全然……」
ルークリッドの魔力は、城の敷地内の植物を全て種から育てて枯らしてもまだ有り余る。けれど、ミーティアの魔力は、大人の男の人の握りこぶしくらいの水の玉を作るのが精いっぱいだ。
あまりの力量差に、魔法を扱う部署から、ふたりの婚約に疑念を持つ者が現れるくらいだ。
悲しげなミーティアの表情を見ると、ルークリッドも悲しくなる。
彼女を元気づけたい、そう思っても、すぐには思いつかなかった。
「あ、あの。わたくし、もう帰りますね!」
ミーティアも気まずくなったのか、迎えの馬車を呼ぼうとメイドに声をかける。
焦ったルークリッドは、とっさにミーティアの腕を掴んだ。
「待って! その、魔力量は変えられない。でも、僕とミーティア嬢はずっと一緒だよ」
だって、ふたりは婚約者同士。
いつか必ず結婚する。そこに気持ちがあるかどうかは別として。
(いや、僕は、彼女が――ミーティアが好きだ)
それは、確かな自覚だった。
この四年。大きな変化はない。
ただ平和に、子供らしく、一緒に過ごしていた。
その中で、彼女が公爵令嬢としても、王子の婚約者としても、とても努力をしていたのを知っている。
可愛いだけじゃない。純粋にルークリッドを慕ってくれているのも、一年くらい前からルークリッドを見る目が変わっているのにも気づいた。
(大丈夫、僕の恋は、きっと上手くいく)
そう確信できるほど、積み重ねてきた時間は、穏やかで、それでいて大切なものだった。
「一緒、ですか?」
「そう。だって僕らはいつか結婚して、夫婦になる。政略結婚だけど、僕は、ミーティア嬢がいい」
嘘偽りない本心からの言葉だった。
どんなに可愛くて、綺麗な女の子よりも、誰よりも頑張り屋さんで、本が大好きで、ルークリッドを大切にしてくれる、彼女がいい。
「だから、“ルーク”って呼んで?」
今まで、両親くらいしか呼ばなかった愛称を、彼女に伝える。
「“ルーク”……さま……?」
敬称もいらなかったけれど、それだと誰かに聞かれた時に、彼女が困ってしまうだろう。
そこはぐっと堪えて、微笑んだ。
「うん、だから、これからもよろしくね“ミア”」
初めて、彼女を愛称で呼んだ。
温かくて、それでいて胸が締め付けられるようで、何ものにも代えがたい、大切な名前。
名前を呼ばれた彼女は、頬をリンゴみたいに真っ赤にして、ボロボロと泣きながら、大きく頷いた。
「はい、ルーク様!」
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