偽りだらけの花は、王様の執着に気付かない。

葛葉

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第二章

第14話

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「この度はお招き、ありがとうございます。シャーロット陛下、ティルスディア殿下」
 ティルスディアがルーディアにお茶会の招待状を送ってから10日後、茶会が開かれた。
「ああ、こちらこそ今日はよろしく頼む」
「ルーディア様のお話、楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いしますね」
 社交辞令も交えて挨拶すれば、王宮の料理人たちが腕を振るったお菓子やケーキがテーブルに並ぶ。
「早速だが、サマギルム島のトゥロワ山が噴火したのは数百年前で、今は活動していないと報告は受けているが、火山は活動していないと温泉は湧かないとも聞いている。先日私たちはカロイアス領主邸で温泉を楽しませてもらったが、本当に休火山なのか?」
「いえ、今は活火山に変わり始めている時期です。噴火するかどうかはまだわかりませんが、場合によっては活火山として扱っても問題ないかと」
 お茶や菓子を楽しみながら、ルーディアが自分の研究結果を熱心に語ってくるのを、ティルスディアも興味深げに聞く。
「では、噴火が起きる前兆があれば、群島を含めた島民を非難させなければいけませんね」
「そうだな。その際は王都で受け入れるようこちらでも手配しておこう」
「ありがとうございます」
 それから、トゥロワ山を含めたシャルスリア王国内の主だった火山の活動状況を踏まえた研究結果の報告を聞いた。
「ふむ、確かに興味深いな。ひとまずトゥロワ山については、学者達の意見を交えながら、国として対策をしていこう」
「はいっ、ありがとうございます! シャーロット陛下」
 ホッとしたようなルーディアは、ちらりとティルスディアを見る。
 静かにシャーロットの横で話を聞いている姿は、凛としながらも何処か陰りがあるようで、ルーディアはズキリと胸を痛める。
 いくらティルスディアがいても、シャーロットが同席するとなれば、政治的な話になる。ティルスディアにはそこに口出す権利はない。
「ティル、どうした?」
 シャーロットが心配そうにティルスディアを見る。
 思ったよりもシャーロットが荒れなかったことにホッとしつつ、ティルスディアはにこりと微笑む。
「いえ、話を聞けば聞くほど火山は恐ろしい反面、資源としては魅力的なものと思っておりました」
「ああ、ティルの首飾りのサファイアは、サマギルム島で産出されたものだったな」
 シャーロットの手がティルスディアの首飾りに触れる。
「はい。陛下からの贈り物の中でもお気に入りですから、今回のお話はとても勉強になります」
「ティルは勤勉だな」
 2人きりならキスしたいくらいだ。
 仲睦まじい国王夫妻の様子に、ルーディアは内心荒れる。
 2人で話していた時の、ティルスディアの無邪気な笑みが、忘れられない。
「ティルスディア様」
 メイド長のマールがティルスディアのそばに来て耳打ちする。
 マールからの報告にティルスディアは小さく溜息をついた。
「申し訳ありません、陛下、ルーディア様。少々所用が出来ました」
「火急か?」
「はい。どうやら陛下にお渡しした書類に不備があったとかで。申し訳ありません、わたくしの不手際です」
「いや、私の方でも確認を怠ったということだ。わかった。また後で報告に来てくれ」
「かしこまりました」
 ティルスディアがマールと共に退席する。
 残ったシャーロットとルーディアの間に奇妙な沈黙が落ちる。
「すまないね、こちらの事情で呼んでおきながら」
「い、いえ! その、こちらこそ……。まさか陛下達に興味を持っていただけるなんて、恐縮です……」
 言いながら、ルーディアはティルスディアが去っていった方をチラチラと見る。
「……ティルが気になるか?」
「えっ!?」
 私のを強調するシャーロットの表情から感情は読めない。
 ルーディアはおどおどとしながらも小さく頷いた。
「とても、美しい方ですね。噂はガリア公国でも聞いていましたが、とても庶子とは思えません……」
「ティルはキャロー領前領主の遠縁にあたる娘だが、身寄りがなくてね。けれどあの美しさと聡明さに、私はひと目で心を奪われたんだ」
 当たらずとも遠からず。ティルスディアとの馴れ初めを聞かれた場合に作った話だ。
 当然、ティルスディアとも口裏を合わせているので、今のところボロは出ていない。
「キャロー領前領主様、ですか……?」
 ルーディアの顔が、一瞬青褪める。
「ああ。君は、カロイアス夫妻の養子だそうだな。出身は……ロクドナ帝国か?」 
 ルーディアの容姿はロクドナ帝国でよく見る栗色の髪と緑の瞳を持っている。
「はい……。母が、ロクドナ帝国の人で、幼い頃に両親を亡くし、当時母が世話になっていた夫妻に引き取られました」
 隠したところで既に調べはついているのだろう、とルーディアは素直に答える。
「カロイアス領主夫妻はとても人柄が良いと、王都でも評判だ。その2人が育てた君は優秀だと、夫妻に自慢されたよ。実際、さっきの論文は見事だった。あれは、ガリア公国だけでなくロクドナにも足を運んだのか?」
 ルーディアは頷く。
「はい。ロクドナ帝国の東に、オーギュゼート山があり、そこは活火山で1年ほど前に噴火が起きていて、今でもマグマが流れ続けています。周辺の領は立ち入り禁止になっていますが、研究の為に何度か近くまで」
「そんな危険なところまで行くのか。だが、そうなると許可が必要だろう」
「ええ。ですが、留学先のガリア公国に伝手がありまして、幸運にも許可がいただけました」
 スラスラと事実だけを述べるも、ルーディアは若干不安になる。
「それは、いい伝手を持ったな。これだけ素晴らしい論文が書けるなら、王宮に仕官することも可能だろう」
「お褒めにあずかり光栄です、シャーロット陛下」
 口ではそう言いながらも、不安は拭えない。
 サマギルム島でティルスディアと話した際に、シャーロットは火山に興味はなさそうだと言っていたからだ。
 しかし、会話していると意外にも造詣が深いことが分かる。
 もちろん、トゥロワ山が噴火すれば、数百名足らずの島民が生活の場を失ってしまうから、国として対策を立てるためにある程度調べたりはしているのだろう。
 シャーロットとルーディアは同い年だが、ルーディアにとって得体の知れなさを感じる。
 彼の人となりをよく知らないというのもあるかもしれないが、王とはそういうものなのだろうか、と考える。
 そんな彼が唯一迎えた側室であるティルスディア。
 彼女はいまだに子供を産んでいない。いずれ実家に帰されるかもしれないという噂は、時々貴族たちの間で聞こえてくる。
 ちらりとティルスディアがいなくなった方を見る。帰ってくる気配はない。
「私ばかり話を聞くのは申し訳ないな。君から聞きたいことはあるか? 今日の話は有意義だった。褒美に少しくらいは便宜を図ろう」
 シャーロットは王らしく言えば、ルーディアは少し悩んでから口を開く。
「あの、では、ひとつだけ……」
 シャーロットは黙って促す。
「王弟のサファルティア殿下は、病気療養中というのは、本当でしょうか?」
「サファルティア? ああ、間違いない。あの子は身体があまり丈夫じゃなくてね。今も奥の離宮で臥せっている。サファルティアがどうかしたのか?」
 ルーディアは「えっと……」と言葉を紡ぐ。
「その、サマギルム島の温泉で療養されては、と思いまして……。先日の陛下とティルスディア様は、新婚旅行に来たと伺っていますが、サファルティア殿下も湯治に来ればもしかしたら、と……」
「確かに、サマギルム島の温泉にそんな効能の湯があったな。わかった。サファルティアにも勧めておこう」
「ありがとうございます」
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